「ほな、今日の練習は此処まで。お疲れさん」

「お前たちも早く宿に帰って休んでくれ。明日は休みだからって気を抜き過ぎないように!」




『はい!』






ようやく練習試合1日目終了。


明日はいよいよとのデートや。
そのために俺、今日はめっちゃ張り切ったしなぁ〜と
俺は部室で着替えながらにそう思た。




「ほな、俺先に出るで。最後出るヤツは鍵掛けるんやで」


「分かったわ」




早めに着替えを終えて
俺は荷物を持ち早々に部室を立ち去る事にした。

部室を出ると、自然と顔が綻ぶ。

制服のポケットに忍ばせた携帯をおもむろに見る。


今すぐにでもに電話したい気分や。
どこに行くとか決めてへんからなぁ〜・・・今電話してもえぇかなぁ?とか

色々考えて、電話に出たときのの声聞いただけで
俺マジでヤバイで。



リングも・・・めっちゃ喜んでくれたし。



明日は何買て喜ばせたろうかなぁとか、頭ん中部活終わったら
完全オフモード、とのデートの事で頭がいっぱいになっとった。






「やぁ、白石」


「おぉ、不二クンやんか。練習、面白かったで」


「こちらこそ」




すると、青学の天才・不二周助クンとバッタリ遭遇。
相変わらずニコニコしとるけど、ホンマは顔に似合わず腹ん中、何考えてるか
よぉ分からん子やからなぁ。

まぁ今は別にそないな事、気にするような仲ちゃうから
気軽にしとる。







「アレ?青学さんは、宿に行くんとちゃうん?」


「うん。まだ皆着替え終わってないからね、僕が先に出てきたんだ」


「へぇそうなんや」


「ところで、白石。明日は休みだけど、予定入ってる?せっかくだし、散策したいとか考えてるんだけど」


「あぁ、ゴメンな〜。俺、明日用事あんねん」





用事っちゅうか、デートやけどな。





「もしかして、デート・・・とか?」


「え!?・・・あぁ、そ、それは・・・っ」




さ、さすが天才や。てか何で分かったん?!

お、俺そんなに単純に見えてるか?
むしろ部活中めっちゃ真面目にしとったで・・・気づかれんよう。




「やっぱり。道理で、君の気合の入りようが違ってたからね・・・何かあるとは思ってたけど」


「ホンマ、自分スゴイな。敵わんで」


「デートか。まぁ君みたいな子に、彼女が居てもおかしくはないよね」


「どういう意味やねんそれ」





俺の言葉に、不二クンはクスクスと笑みを浮かべとった。

やっぱり俺ってそういう事になると
単純にできてるんかなぁ・・・とかそう思てしもた。





「どんな子?」


「一言で言えば、毒舌。せやけど、ホンマはめっちゃ寂しがり屋さん。寂しさを毒舌でカバーしとる感じや。
去年とか、ホンマ無表情やったから毒舌飛んでくるだけで心折れそうになったわ」


「へぇ。今も表情ないの?」


「いいや。今は泣いたり怒ったり笑ったり・・・喜怒哀楽、まるでちっちゃい子供みたいや。
ホンマ、寂しがりやから・・・すぐマイナス方向に気持ち走んねん。アクティブか思たら、実はネガティブで。
いっぺん泣き出したらそらもぉ、止まらん。でも、優しい子や・・・温かい、人の心よぉ分かるえぇ子やで」






去年、出逢った頃はホンマに表情がなかった。


冷たい冬の氷みたいに、全部の表情を凍らせとった。


でも、俺と恋人ごっこみたいな関係始めて
の表情は次第にオモテに出始めた・・・蓋開けたら、ホンマ不二クンに言うた通り。



毒舌で、寂しがり屋で、泣き虫で・・・せやけど、優しくてあったかい。




に抱きしめられるだけで、俺の胸が鼓動する。

と体を重ねるだけで、俺の全てで愛してあげたいと望む。




初めて、俺の全部を理解してくれた・・・やから、色々と俺はに対して欲しがりになる。






「白石。顔・・・綻んでるよ」


「おっと!・・・いやぁ〜すまんすまん。何や色々思い出しとったら、ついな。ゴメンな不二クン」




不二クンの言葉に、俺は思わず顔を綻ばせとったらしい。

いかんいかん。
俺、何してんねん・・・人様の前で。
メンバーに惚気るならえぇけど、まったく今までの関係も知らん
他人様巻き込んでどないすんねん。


と自分の心に言い聞かせ、深呼吸。






「それほどまで、君が惚れこんでる証拠だよ白石」


「メンバーからもよぉ言われるわ。”ラブラブ過ぎて目が痛いわ“ってな」


「フフフ。・・・でも、君が惚れこんでて、彼女も君の事好きならさ」































「離れたとき、怖いよね。そういう関係ってさ」




「え?・・・ふ、不二クン?」



突然、不二クンが真面目な事を言い出した。
今まで何や、普通に俺の話聞いとったけど・・・急にその場の空気が真剣になった。



「お互いがお互い、好き過ぎるなら尚更辛いと思うんだ・・・僕はね。目の前でそういうの見てるし」


「え?・・・ど、どういう?」


「気づいてないだろうけど・・・手塚、7月に1年のときから付き合ってる彼女と別れたんだ。
正確には、彼女から別れを切り出された・・・って所かな」


「手塚クンが?」




初耳や。

あの冷静沈着とされた手塚クンに彼女が居ったとか。
それに、今年の7月に別れたとか。




「エライ、シビアな話やな」


「まぁ、僕も聞いた話だからね。手塚は本当に彼女の事が好きだったし、彼女も手塚の事が好きだった。
だけど、彼女には病気って言うのがあったから・・・手塚に迷惑を掛けたくない一身で、その決断に出たんだと僕は思うんだ。
自分が手塚に心配かけて、足を引っ張るんじゃないかって」


「何や、辛いな手塚クンも」


「あぁやって冷静にしてるけど、テニスで目線を逸らしているだけなんだ。きっと手塚の心は
ずーっと遠く空の向こうの、どこに居るかも分からない彼女のほうを向いてると思うんだけどね」


「自分もよぉ見てるな仲間のこと。俺やったら、離れようしたら・・・きっと説得すると思うわ。
多分手塚クンかて、同じことするやろうなぁ」


「きっと、手塚も説得しただろうと思うよ。だからだよ、白石・・・好き過ぎるほど、離れていこうとする時
とても辛い思いをするんだ。その選択が君でも、そして彼女であったとしても」





離すか、離さんかは・・・俺次第か、次第かっちゅうわけか。


ちょっと、惚気すぎたな俺。



、お嬢様やから・・・いつ俺のところ離れていくか分からへん。
でもは俺から絶対離れたない言うてくれた。










『蔵と・・・蔵と別れるなんて、私絶対に嫌。確かに、私・・・いっぱい傷ついた。でも、それをちゃんと
癒してくれたのは・・・蔵だもん。蔵は・・・蔵は、こんな私でも好きで居てくれるって言ってくれた。
私・・・ゃだ・・・蔵と、蔵と・・・別れるなんて・・・絶対に嫌!!』









あの時に感じた思いや、涙は全部・・・ホンマもん。

俺もあの時はもうダメか思た。
せやけど、は俺を抱きしめて・・・めいいっぱい抱きしめて、離れたくない別れたくない言うてくれた。


せやから、俺も―――――。













「蔵」



!?」

「あれ?白石の知り合い?」




すると、制服姿のが俺と不二クンの後ろに立っとった。

ちゅうか何でコイツ、此処おんねん?!

はゆっくりと俺達の元に歩み寄ってきた。





「お前・・・何してん?」

「何って・・・図書室に本を返しに行ってたの。貸し出し期限が今日までだったから」

「ビビったで、いきなり居るから」

「私は幽霊か何かか」

「俺の愛しい背後霊?」

「じゃ帰る」

「待てって!冗談やんかっ」




「プッ・・・フフフフフフ」



「「え?」」



俺とがいつもどおりなやりとりをしとると
不二クンの笑い声が聞こえてきた。

し、しもた・・・不二クンの存在忘れとったわ。




「白石・・・その子かい?」


「え?・・・あぁ、せや。この子や」


「ふぅーん、そっか。仲良くしなきゃだよ、じゃあ僕は行くね」


「おん、また明後日な!」



軽く不二クンにのこと紹介(?)して
不二クンは青学の皆さんと一緒に宿へと戻っていきよった。



「誰?」


「え?・・・あぁ、ほれ俺が全国の準決勝で対戦した青学の不二クンや」


「あぁ・・・あの人。意外と優しそうな人ね」




に不二クンの事を話すと、はどうやら彼を理解できたらしい。
そら全国を生で見とったからな・・・分かって当然か。






「あ、自分迎えは?」

「急いで来たから、帰りは電車で帰ろうと思って」

「ほな後ろに乗っけたるわ、ホレ」

「い、いいよ・・・電車で帰る」

「えぇから。学校なくて、ニケツしてないから寂しいねん。ホラ、乗って」

「も、もぅ・・・無理矢理なんだから」




そう言いつつも、ちゃぁんと乗ってるから其処がの可愛いトコやな。

後ろにが乗った事を確認して
俺も乗り、ペダルをこいでを家まで送る道を走る。

後ろで、いつものようにが俺にしがみついて・・・身を寄せとる。


もう、これも日常茶飯事的になってきたな。



ふと、さっき不二クンと話してた事を思い出した。





もし、もしも・・・が俺から離れるような事になったら



ニケツももう出来んくなるんやろうなぁ、とか


一緒にお好み焼き食べに行かれへんのやろうなぁ、とか


デートにも行かれへんのやろうなぁ、とか



色々、楽しかった事が全部消え失せていってしもた。




俺がバカ言うて、怒られる事も


俺が好き言うて、恥ずかしそうにされる事も


俺が、俺が―――――。





「なぁ、


「ん?どうしたの蔵?」


























「お前、どこにも行ったりせぇへんよな?急に居なくなったりとかせぇへんよな?」





「蔵」










俺が側に居って言うても、お前ちゃんと俺の側に居ってくれるよな?



ホンマはそれを恐れてる、自分がおんねん。



が離れていってしもたら、俺にはテニスしか残ってへん。
前はそれでもよかった・・・せやけど、今はテニスもあって、も居る。

それがもう1年と半分続けば当たり前の生活になってくる。

が側に居って、当然の生活が今まで続いてたんやから
急に居らんくなったりしたら・・・多分俺・・・・・・。












、側に居らんくなったら・・・気が狂いそうで死にそうや。せやから、俺の側、離れんといてな・・・頼むわ」



「蔵・・・・・・ぅん」




俺がそう言うと、は俺の背中にきつく抱き付いてきた。
ちょっと背中にあったかいもの感じる。



、泣いてるんかな?


そう思たら、俺はチャリを止めた。

急に俺がチャリを止めるからの力が一気に抜け
俺はの腕をスルリと抜けて、チャリをしっかり止めて――――。







「泣かんでえぇて


「・・・・・・っ」





後ろに座る、を抱きしめた。


俺が抱きしめると、は背中に手を回して抱き付いてきた。
腕の中に収まった彼女はやっぱり小さくて・・・愛しい。

声を押し殺して、泣くを俺は優しく宥める。





「ゴメンゴメン・・・ヘンなこと言うたな。別にが嫌いになったとちゃうねん。
ただな・・・少し不安になっただけや。大丈夫・・・俺のこと絶対に離したりせぇへんから。
もう大丈夫やで・・・すまんかったな




俺がそう言うとは何も言わず首を横に振る。


声を押し殺して泣くを、俺は優しく宥める。

ホンマ・・・これやから、手放したくないねん・・・離れたく、ないねん。



強がってて、でもホンマはめっちゃ弱い女の子。
せやから・・・守ってあげたなんねん。

こうやって・・・俺にだけ、弱い部分見せてくれるから・・・俺にだけ、全部曝け出してくれるから。









「蔵ぁ」


「離したりせぇへんよ、絶対に」


「・・・っ」






俺はの頬を包み込んで、目から零れる涙を舌で拭い
そのまま優しく唇を重ねた。





ある夏の夕暮れ。

蝉がまだ少しせわしく鳴く、夕暮れ。




口の中に含んだ、しょっぱい味と甘い味。

それらは全部、俺の知ってる君が持つ魅力の一つ。

余すことなく、君の全部を俺に見せて・・・これからも、そう・・・ずっと。




でも、俺はまだ知らんかった。

明日彼女の口から零れる言葉を聞くまでは。



同じ未来を歩めると、信じとったから。




書き始めの未来のページ
(俺のページにはお前との未来が描かれてる・・・はずやった)


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