嵐山を出て、私と蔵は太秦に向かって
相変わらず京都観光を楽しんでいた。


そのとき、蔵は片時も私の手を離そうとしなかった。


何処行くにも、蔵の手はしっかりと私の手を握っていた。



それが痛いなんて、思わない。
いや、痛くても・・・離さないでほしいと思ってしまった。





離れたくない、離さないで。



心の中で、ずっと・・・その握られた手から蔵に伝わればいいなんて思ってしまっていた。




日が暮れて、蔵に「別荘があるから其処まで行こう。今日は其処に泊まろう」と
言うと「ホンマ、お嬢様別荘とかお持ちなんやな。流石や」なんて嫌味なのか何なのか
よく分からないことを言った。


私と蔵はバスに乗り込み、別荘へと向かう。


バスの席に座り、私は窓側の席に座り外の過ぎ行く風景を見る。



蔵と、二人乗りしてるときの速さとは違う・・・こんなに風景が早く過ぎ去って行くなんて。




そう考えた瞬間ため息が零れた。








「ため息してんと、幸せ逃げんで?」


「蔵」





ため息を零すと、蔵が隣で私にそう言ってきた。
その言葉に思わず笑みが零れた。


笑うと、視線を感じる。

隣を見ると、蔵が私をジッと見つめている。







「どうしたの?」



「いや・・・別に。あ、せや・・・に渡すもんがあんねん」




私に?


すると、蔵は自分のズボンのポケットから
小さな和風の紙の袋を出して、私に差し出した。

ふと、握られた手が緩められた。

私はその手を少しの間だけ離し、袋を受け取った。




「何?」


「開けてみ」




蔵にそう言われ、私は紙の袋を開けて
手のひらに振り落とすと、其処に落ちてきたのは・・・――――。









ピンク色の・・・蝶々のストラップ。





さっき、嵐山で・・・私がほしいと思っていた・・・あの、ストラップ。





「蔵・・・コレ」


にプレゼント。何や、嵐山でえらいこのストラップの事気になってたみたいやし
もしかしたら欲しいんかなぁ〜とか思て。それに・・・ホレ、俺もお揃い」




すると、彼の手にも同じような・・・鮮やかな緑色をした蝶のストラップ・・・。


バスが揺れるたびに彼の手に持たれたストラップが揺れる。


私は思わず顔を伏せた。





?」





右の小指に光るピンキーリング。


手に握られた、私が欲しがってた蝶のストラップ。




やだ・・・やだ・・・。


これが最後なんて・・・最後なんて、思いたくない・・・っ。




目頭が熱くなり、思わず
涙が零れそうになる。いや、もう零れている。


だけど、私が泣いたりしたら・・・蔵が・・・蔵が・・・。







ふと、頭に手を当てられ、引き寄せられた。

耳に響いてくる・・・蔵の胸の鼓動。







「何泣いてん・・・泣く事ないやろ」



「違っ・・泣いてな・・・っ」



「目から零れてるの何なん?自分の涙やろ?・・・何で泣くん。泣かんといてや」



「違う・・・だから・・・私、泣いてなんか・・・っ」






頑張って強がってみせているけれど
それが蔵の前では、もう意味を成さない。

昔の私は、こんなに弱虫じゃなかった。
もっと、もっと・・・強い子だった・・・強い子を・・・”演じれていた“。



それなのに・・・今じゃこんなに・・・・・・。





脆くなっていた。




弱くなっていた。








たった一人・・・大好きな



蔵と離れるのが辛くて・・・涙が止まらない。






止まって。


止まってよ!


これ以上、涙を流して・・・蔵を、困らせたくない・・・悲しませ、たくない。





でも、私の思いとは裏腹に・・・涙は止まろうとしない。





・・・、泣かんといて。自分に泣かれたら・・・俺、辛いねん。
せやから頼む、泣かんといて。・・・俺が、俺が絶対守ったるから・・・っ」




蔵の声が少し震えているように聞こえた。

泣いている私を必死で慰めようとする蔵の言葉や、手のぬくもりに
零れる涙は止まる所を知らず、雨粒のように手の甲に零れ落ち
頬をゆっくりと伝った。


手に握られた・・・ピンク色の蝶に、涙が零れていくと
驚いて飛び立ってしまうんじゃないかと思い、逃げられないように
離れていかないようにしっかりと握り締めた。


その手の上には包帯で巻かれた蔵の左手が私の手を握り締めていたのだった。














「へぇ、此処なん?の家の別荘」

「そうだよ。時々来る程度で、最近じゃ使ってなかったけど・・・手入れは定期的にされてるみたい」



バスを降りて、ようやく別荘に着いた。


景観を崩さず、日本風の縁側のある
ちょっとオシャレな和風の家。


京都には確かに同じような別荘が3つほどあるが
旅行程度でしか訪れないし、最近は使った記憶も無い。

だが、定期的には家の使用人たちが手入れをしてるとか
そんな話を聞いた覚えがある。



家の中に入り、電気をつけると
中は綺麗にされていた。

蔵が窓側に近づき、閉め切られたカーテンを広げる。





「お!、こっち来て見てみ」




蔵に呼ばれた私はいそいそと
窓側にと足を運んだ。







「ほら・・・見てみ、綺麗やろ?」







指を差された先に広がっていたのは、手入れされた庭に
並んだ・・・ひまわりの花。



使用人の人が夕方に水を撒いていったと思われる
水滴が、ひまわりの花弁を、草を濡らし
夏の夕暮れとなんだかいい具合に合っていた。






「ひまわり、綺麗やな」


「此処・・・そっか。よく、来てた別荘だった」


「え?そうなん?」


「うん」



私は、カーテンの裾を掴み
庭に咲いているひまわりをみていた。





「小さい頃、よく連れてきてもらってた。私がひまわりのお家に行きたいって言って。
お父さんもお母さんもその時は場所は教えてくれなかったの”秘密のお家“って言ってね。
ひまわりがたくさん咲いた”秘密のお家“って・・・」


「秘密のお家か。・・・何や、結構お嬢様昔はメルヘンちっくな子やったんやなぁ」


「う、うるさいわね!小さい頃は女の子は誰だって、そういう事を
吹き込まれたりして信じたりするのよ!」





何となく、蔵の言葉に私は恥ずかしくなり
私は彼の側から離れた。






「あー、ゴメンって」


「し、知らん!お前なんか・・・」


「可愛えぇこっちゃ・・・もそういう時期があったんやなぁとか」


「知らない」


「もう機嫌直してぇな





私がそういってそっぽを向くと
蔵は私を背後から抱きしめてくれた。


耳元に、蔵の吐息が吹きかかる。







「な、何よ・・・離れなさいよ」



「離さへんで」



「離れてってば」



「今日は離れんし、離さんって約束したやんか



「それと、今さっきのじゃ話が違うの。今は離れて」




























「好きや」






思いがけない、蔵の言葉に心臓が跳ねた。

しかも思いっきり。

自分自身・・・呼吸が一瞬止まりそうなくらい。






「バッ、バカ・・・こんなんで、機嫌とろうたって・・・そうは」



「好きや。・・・ホンマに、好きなんやの事」






後ろから抱きしめられて
耳に、蔵の低い声が響いてくる。

そのたびに、耳が赤くなって
体中が痺れてしまい、腰が砕け落ちそうになってしまう。





「好きや」



「や、やだ・・・やめて蔵」






-ドクン、ドクン-






・・・めっちゃ好きや」


「蔵・・・やだってば・・・っ」






-ドクン、ドクン-





























「 愛 し て る 」











酷いまでに、心臓が、跳ねた。



抱きしめられた体が離れ
私の体は蔵のほうへと向けられた。

顔を上げると

蔵の真剣な、焦げ茶色の眼差しが私を見ている。



あぁもう、それだけで・・・私は苦しいというのに。








「絶対に・・・離れんように・・・したるわ」


「蔵」


「お前は・・・俺が守ったるから」


「・・・ぅん・・・」






そう言われ、唇を重ね
体を床へと押し倒されて・・・愛を、注がれた。





ああ、神様。

この残酷な一日を、永遠に止めることは出来ませんか?





未来なんていらない。


今があればそれでいい。




だって、私には彼が・・・彼だけが必要なんだから。




未来なんていらないから


どうか、時間を止めてください。






時間よ止まれ未来なんて、いらない
(今、彼と生きるというページがあればそれでいい。)
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