、大丈夫か?」



「うん・・・平気。大丈夫」






次の日の朝。

俺とは、京都のの別荘を後にして
京都駅から、すぐさま新大阪へと向かう新幹線へと乗り込んだ。


新幹線はスゴイ速さで、京都から俺達を離し
大阪へと向かい走る。



めっちゃ朝早くに出てきたから、眠いんかが俺の肩に
頭を乗せ目を閉じとった。


でも朝やから、あんま人も居らんし
誰も見てへんやろう、と思いながら俺は静かにの右手を
綺麗に巻いた自分の包帯の左手で握り締めた。








「堪忍な。こない朝早くに」


「いいって。ワガママ言ったの・・・私だから。蔵は、謝らないで」






は目を閉じながら、優しく俺に言う。









「練習の方が、蔵は・・・大事だから」



「自分かて俺には大事や。青学さんとの合同練習なかったら・・・・・・」













何処へでも攫っていってたわ。






アホやな・・・もう少しいい日にできひんかったんか俺。

あと少し早ければ・・・いや、遅ければ
見つかるまで・・・俺らの存在が、見つかるまで・・・この手を離さんと、何処へでもの事
攫っていけたんに・・・ホンマに詰めの甘い男なんやな俺。










「すっぽかそうなんて、考えないでよ蔵」



「・・・わ、分かってる」



「アンタはまだ部長なんだから・・・最後までお役目全うしなさい」



「俺の心配するよりか、自分の心配したらどうや?俺・・・ホンマは、合同練習どころとちゃうねんぞ。
俺の・・・・・・いや、俺と自分の未来が・・・掛かってんねんから」



「蔵と・・・私の未来?」






俺の言葉に、が肩から頭を離し俺を見る。
見つめるの表情は、目を見開かせ驚いている表情だった。








「あぁそうや、俺と自分の未来や。今でこそ、こうやって一緒に居れるけど・・・もし、もしやで?
が・・・東京に行ったりしたら・・・・・・俺、どうなるん?ずっと一緒に居る言うたやん
自分悲しませたりせぇへん言うたやん。約束・・・したやんか―――」































「一緒の高校行こうって、俺に約束してくれたやん。また花見しようって・・・約束、したやろ」




「蔵」












何のために、あの約束を交わしたん?


とずっと、もっと繋がっていたいためや。

せやから、あの約束したんや。



好きでもなんでもなかったら・・・俺、約束なんかせぇへん。



の事が、好きで・・・好きで・・・好きで・・・・・・。














「大好きやから・・・離れたないねん。愛してるから・・・離したくないねん。一緒に未来、歩いていこうって思てんねん。
俺の心配なんかせんといて。まるでこの会話が最後みたいに聞こえるやんか・・・・やめれやそんなん」




「・・・そう、だね・・・ゴメンね、蔵」



っ」






俺はを引き寄せ抱きしめた。


抱きしめたときのの体、めっちゃ震えてた。
分かってる・・・俺も怖いけど、お前が誰よりも怖いって分かってる。





神さん・・・どうやったら、俺の事守ってやれるん?


ちゅうか、何でこんな残酷なことするん?


ずっと側に居ることがそんなにイケナイことなんか?









・・・っ、、頼む・・・行くな・・・行かんといてくれ・・・っ」



「蔵・・・く、ら・・・っ」






たった、1日の逃避行。




逃げたいのに、逃げる事の出来ない運命に・・・俺と彼女は、ただ、翻弄される・・・だけやった。















あっという間に、新幹線は新大阪駅に着いてもうた。


新幹線から降りて、ホームに立つ俺と
互いの手はもちろん握ったまま・・・俺らは降りてきた。



ふと周囲を見渡す。
やっぱり朝やから・・・あんまり人居らへんわ。


少ない人が行き交い、ホームにアナウンスだけが響く。
もう少し時間が経てば、気温が増して・・・周囲からの雑音が酷くなる。




別の駅からやって来た新幹線が通り過ぎ・・・・・生温かい風と共に去って行った。



少しずつ風が止んで・・・・・・少しずつ、ホームから人が消えて・・・・・。
















「俺らだけやな、此処に残ったんは」


「そうね」










俺との2人っきりだけになった。




まだ、手は・・・握ったまま。










「家まで、送ろか?」


「うぅん、いいよ此処で。一人で帰れるから」


「せやけど・・・何や、俺・・・こないなことしてもうたから・・・自分のご両親に申し訳ないねん。
俺直接謝りに行った方がえぇんとちゃうんか?」






の言葉に、俺は行動を起こした。

せやから、行動を起こした俺がのお父ちゃんとお母ちゃんに
謝りに行った方がえぇような気ぃしてきた。


いくら1日とはいえ・・・・・・アカンこと、したんやから。

謝りに行くのが筋っちゅうもんやで。






「大丈夫・・・蔵は謝らなくていいよ。最初に言い出したの、私なんだし」


「でも、


「大丈夫よ、ホント大丈夫だから。それに蔵、合同練習あるんでしょ?お家帰って、準備しなきゃ」


「お前また、俺の心配しよって。すんなって言うたやんかさっき」


「アンタがまだ部長だから言ってるの。別に心配はしてないわよ、せっかく組んだ合同練習なんだから
すっぽかしたらそれこそメンバーにも迷惑かかるし、渡邉監督の顔に泥を塗るつもり?」







の言葉に、俺は黙り込んだ。


言い返せんとかやのぅて・・・結局は俺の心配してるが居るっちゅうのが腹立たしい。

むしろ何の言葉で返したらえぇんか・・・それすら、今の俺には考えつかへん。


こないな状況で冷静なが・・・憎たらしい。







「ねぇ蔵」


「何や?」






ふと、が俺を呼ぶ。






















「抱きしめて。私のこと」


「え?」






彼女の口から出てきた言葉に、俺は目を見開かせた。








「ほら、今から練習行くんでしょ?私が寂しくなるじゃない、だから抱きしめて」





「何よ、出来ないっていうの?自分からはしてくるクセに、私が言うと出来ないの?」


「そ、そういうワケとちゃうねんけど」








滅多に言わへんやんか、自分から「抱きしめて欲しい」とか。


あからさまに何かあるやろってしかコッチとしては思わへんで。

俺が不安になって当然やんか。







「蔵・・・そんな顔しないで」








そう言いながら、は俺の頬に触れる。
目の前の彼女は・・・とても優しい笑顔や。その笑顔ですら・・・俺は不安や。


胸がキリキリと締め付けながら音を立てとる。



痛い。



胸の痛みを堪えながら、俺はゆっくりを抱きしめた。
も俺に抱きしめられたのか、背中に手を回し、抱き返してくれた。








「蔵の胸の音・・・凄く、痛い音がする」



「自分がヘンなこと言うたから、不安になってんねんアホ」



「そっか・・・・・・ゴメンね」



「謝るくらいやったら・・・こんなこと、言いなや」







「抱きしめて」って言われるくらいなら、手ぇ離してくれた方が・・・まだマシやで。

胸の痛みも・・・こない酷ぉなかったはずや。






「痛いの、蔵?」


「痛いわ。ものごっつ痛い。自分と離れるって思たら・・・・・・痛すぎて・・・涙も出てけぇへんわ」


「私も・・・痛いよ、苦しいよ・・・蔵」










の声に、俺は彼女を強く抱きしめた。


背中に回ってきてる手も、俺の背中に爪痕が残るくらい・・・強く握られとった。


このまま――時が止まればえぇのに。













「3日だけ」


「ぇ?」







ふと、腕の中に収まっとるが言う。








「3日だけ・・・・・・待ってて欲しいの」



?」







何を、何を言うてんのやコイツ。






「どういう意味やそれ」



「3日だけ。お願い・・・待ってて」



「何言うてんねん、。3日って・・・待っててって・・・何なん?」



「何も聞かないで」



「何も聞かないでとか言いなや!3日も・・・3日も、何すんねん?!なぁ、、答えてくれや・・・っ!」



「お願い!!」







俺が強くに問い詰めると、彼女は抱きしめあった体を離し、顔を伏せとった。







「3日だけ・・・・・・待って」



「そんな、っ。待ってって言われても・・・自分にそんな余裕ことないくらい分かってるやんか。
何で・・・なんで今更そんな事言うねん。おかしいやろ?・・・理由言わんと、俺かて納得せぇへんわ」



「理由は・・・・・・言え、ない」



!」



「お願いだから!!3日だけ待って!私を・・・私を信じて!!」







腕を強く掴み、涙を零すに俺は・・・何も言えへんかった。


ただ、口から零れてきよった言葉たちは――――。










「3日だけ・・・待てばえぇんか?」









その言葉やった。


信じてって言うんなら、今の俺にはの事を信じることしか出来ひん。


俺がどう足掻いて、抵抗したところで・・・お嬢様のお家事情なんて、変わるはずないねんから。







「3日、俺は・・・待てばえぇんやな」



「・・・ぅ、ん・・・」



「その言葉、信じてえぇんか?」



「信じて・・・ほしい」



「・・・分かった・・・3日だけ・・・の事信じて待っとく」






俺がそう言うと、は「ありがとう」とだけ言うて顔を上げた。


顔を上げたときの彼女の表情は、涙を流しながらも少し安堵に満ちた顔やった。
惚れた弱味や・・・こんなん。


結局は、惚れた弱味で・・・俺自身が折れるんやから。








「3日後・・・必ず連絡くれ。えぇな?それまで、俺・・・自分に一切の連絡入れたりせぇへんから」



「・・・うん・・・」



「ほな、俺行くわ。練習、あるからな」



「うん。頑張ってね」



「あぁ。自分も気ぃつけて帰りや、送ってやれんですまん」



「気にしないで。一人でも帰れるし、迎え呼ぶって言う手段もあるから」



「そうか。じゃあ・・・行くわ」






そう言うて、俺はから離れ
自分の家に向かう地下鉄のホームの階段へと歩みを進める。












「蔵っ!」









ふと、大きな声でに呼ばれ振り返る。













「行ってらっしゃい」










が俺にそう言うた。



普段見せることのない、満面の笑顔で・・・俺に「行ってらっしゃい」って。


胸の中がざわついたけど・・・不安になったけど、それを俺は隠して――――。
















「行ってくるわ」









と、だけ答え・・・階段を下りた。





3日間・・・俺は彼女を信じて、待てばえぇ。

せやけど多分、この3日間は・・・眠れん日を過ごすことになるかもしれへんわ。



不安だらけすぎて、きっと・・・夜も眠れんはずやから。































「・・・・・・もう、いいのか?」


ちゃん」





蔵が行った後、タイミングよく・・・彼の降りて行った階段とは
別方向の階段から・・・お父さんとお母さんが、上がってきた。

多分、今さっきまでのやりとり・・・少し聞かれたのかも。


後ろで私に話し掛ける2人に、ため息が零れた。






「行こっか」


「大丈夫なのか?白石君は?」


「大丈夫だよ。待っててって言ったから」






お父さんが私に話しかけてくる。


大丈夫・・・蔵が信じて、待っててくれるなら・・・大丈夫。







「本当に、いいのか?」


「今なら、引き返せたって」


「大丈夫だって。平気だよ、だから―――」






















『まもなく新大阪発、東京駅行きが参ります。お乗りのお客様は黄色い線の内側までお下がりください』






















「行こう、東京に」











何処に行くかも告げずに、ごめんなさい。


でも、あの言葉は本当だよ。




『信じて、待って』って・・・本当なんだよ。




だから、お願い・・・信じて、待ってて・・・。


アナタが信じてさえ、居てくれたら・・・・・・私はもう、何も言う事はないから。









Believe3日間の離別
(3日間だけ、信じて待ってて・・・・だから、さようなら)

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