「蔵。オーダー間違ぉてんで。財前が組んだ通りにちゃんと書け」


「え?・・・あ、あぁ・・・すまん・・・健二郎」




青学さんとの合同練習前。

部室で皆がワイワイ騒いでる中、俺と副部長の健二郎は
彼らとの合同練習、試合形式の練習で財前が組んだオーダー表を書いてる最中やった。

健二郎の声で、俺は慌ててオーダー表のミスを消しゴムで消して
書き直した。







アレから・・・新大阪駅からと別れて、俺は家に戻った。



家に帰ったら、お母ちゃんが平然としとった。
普通やったら怒るはずって思たんやけど「謙也くんの家に皆でお泊りするなら早よ言いなさい」って
たったそれだけで済んだ。


多分、謙也が上手い事ごまかしてくれたんやろうと思い
俺は来て早々、謙也に礼を言うた。







『すまんな、謙也。上手い事ごまかしてくれて』


『別にええけど・・・そのシケた面どないかせぇ白石』


『え?』


『昨日、俺と千歳と金ちゃんと別れた後。と何があったか聞かんけど、今は練習に集中しぃや。
お前まだ部長なんやから・・・しゃきっとしとき』


『・・・分かってる』


『分かってるんやったら、シケた面やめれ』






来て早々、謙也から言われて思わず苦笑い。


俺どんだけ不安やねんって話や。


さっきも、健二郎に「オーダー間違ぉてる」って言われて、意識どっかに行ってた証拠や。



しっかりせな。
こんなことやからから・・・・・・から・・・・・・――――。











----------ペキッ。











「蔵・・・しっかりせぇ」


「・・・・・・すまん」







シャーペンの芯が折れた。

折れたと同時に、健二郎から言われた。







「具合でも悪いんか、お前?」


「ちゃう」


「ほんなら、しっかりせぇ。さっきから間違えすぎや。いつものお前ならこないちっちゃいミスせぇへんやろ。
四天宝寺の聖書が聞いて飽きれんで?」


「すまん。新しく書き直すわ」






そう言うて、俺は書き間違えたオーダー表をくしゃくしゃに丸め
新しいのを出しに、オーダー表を締まった引き出しに向かい、新しいの取り出した。





しっかりせぇ、蔵ノ介。


から待っててくれって言われたんやろ。
せやったら、信じて待っとけ。

信じて・・・彼女の事を信じて、待ってればえぇねん。



信じて・・・3日間、信じて待てば・・・・・・。
























青学さんとの合同練習が始まった・・・・・が、事態は思わぬ事になってもうた。


どうやら、向こうさんのオーダーが中々決まりきってへんみたいやった。
そらぁ、1年と2年だけで試合組むよぉ手塚くんから
前もって言われとったし、それで何とか組むようしてみた。


せやけど、何や青学さんの桃城クンも海堂クンも焦ってるみたいで中々決まりきってへんみたいや。






「これ、ウチらの練習試合のオーダー表や。そっちのメンバーは?」


「え?・・・あっ・・・・えーっと・・・」





俺がオーダー表を出すと、桃城クンは焦った表情を見せた。


この表情からすると、手塚クン・・・昨日言うたな。
焦って当然やと思うわ。



青学さんのオーダーが決まりきらんせいか、練習は中断。
メンバーは全員解散となった。











このまま帰ってもつまらんと思い、俺は不二クンに付いていく事にした。

まぁ昨日は相手できひんかったからなぁ、今日は
少しでも話し相手にはなってやらなアカンな。





「ごめんね、白石。せっかくオーダー組んでたんだろ?」


「まぁ俺ら3年が組んでたわけとちゃうけど、財前がふて腐れてたわ」


「財前くんにはすまないって言ってて。多分手塚もそういうだろうから」


「ありがとう。それ伝えたら財前も機嫌よぉなると思うで」







大阪の町を歩きながら、先ほどの練習のことを話す。

ふと、ポケットから携帯を出して・・・開く、でもすぐ閉じて・・・ポケットに締まった。



メールか、電話・・・来るわけないわ。


俺自身連絡入れへん言うたし
多分、俺のこと気ぃつこても連絡してけぇへんやろ。




でも、何や気になって思わず携帯を見てしまう自分がおる。






「あれ?桃?」

「ホンマや、桃城クンやんか」





すると、桃城クンがえらい勢いで出てきて
どっかに走り去っていきよった。

数秒後、建物内から乾クンが出てきた。





「桃のヤツ・・・・乾も苦労が耐えないな」


「実勢に任せるというのも、結構神経を使う」


「何や、自分らで話ややこしくしてへんか?」


「そうかもね」





青学の3年生の行動を伺ってると
自分らで話ややこしくしてるよぉな気ぃするわ。

まぁ見てて何や微笑ましいで。



軽く三人で笑い・・・・俺は、またポケットに入れた携帯を開く。




メールも、電話も、ない。



そして無言で閉じて・・・ため息を零す。








「そういえば白石」


「ん?何や、乾クン」






急に乾クンに声を掛けられ、俺は慌ててポケットに携帯を入れ
彼の声に応えた。






「昨日、太秦に居なかったか?」


「え?」


「あぁ。・・・・ほら、一昨日僕が逢った・・・君の彼女と一緒に、昨日太秦に居たよね?」


「あ・・・あぁ、そういえば・・・」





ふと言われ、思い出す。


せや、昨日・・・と嵐山行った後、太秦行ったんや。
まさか其処にこの2人が居ったとは思わんかったわ。





「何や、自分ら居ったん?声掛けてくれてもえぇんかったんやで」



「人の恋路を邪魔するのは趣味じゃない」



「乾にしては正当な意見だね」



「ホンマやな」



「どういう意味だそれは」






不二クンの言葉に、思わず笑う。

そうか・・・アレはもう、昨日の記憶になってしまったんか。
思い出したら・・・笑うのがすぐ止んだ。








「白石、どうしたの?」



「・・・あぁ、何でもないわ」



「さっきからやたら携帯を見てる回数が多いが・・・何かあったのか?」



「え?」







乾クンが指差す方向が、俺の手元。

目線を落とすと・・・手に握られた俺の携帯電話。
さっきポケットに戻したはずなんに・・・何で、また出してんねん俺。


気にしすぎや。




連絡入れへんって・・・俺言うたやんか。

かて、待っててくれって・・・俺に言うたやろ。








「彼女と何かあったの?」



「・・・何でもないわ、ゴメンな」






不二クンが心配そうな表情で俺に言う。

俺は言葉を濁して、彼の表情に対してウソを零した。




何もない・・・って言うたら、多分ウソになる。


別にケンカとか・・・そんなんとちゃうねんけど――――――。









「心配しすぎなんかな・・・・・・俺」







「白石?」



「ゴメンな。ちょっと俺、家に一旦帰るわ」



「あ、あぁ。今のお前のその表情からしてそうした方が良さそうだろう」



「せやな。ほな」






そう言うて俺は踵を返し、家へと足を進めた。







頭冷やさんと・・・俺、ホンマにアカン。


一旦家帰って、頭冷やしたほうがえぇんや。




あんまり気持ち引きずりすぎたままやと・・・かえって、誰かに迷惑かけるだけや。

迷惑かけっぱなしで、もし・・・3日後、がそんなこと知ったら――――。
















『聞いたわよ。あんた、異常行動起こしてまわりに迷惑かけたみたいじゃない。何やってんの?』







怒られて。







『まだ部長なんだから、しっかりしなさいよ。そんなんじゃ光や金ちゃんが心配するでしょ?まったくもう』







飽きれ返られて。







『アンタどんだけ心配性なの?しっかりしなさいよ、アンタいくつ?幼稚園児じゃないんだから』








毒舌ひどぉて。







『ほんっとに、完璧主義者が聞いて呆れる。私が側に居ないだけでそんなに不安なの?』







棘あっても、さり気なく優しくて。







『まったく・・・本当に・・・』











































『私が側に居なきゃダメみたいね。側にいるから、安心しなさい』











「・・・・・・・・・側に居ってくれ・・・っ」












人目を忍んで、俺は目を手で隠し・・・・・・泣いた。



お前が側に居れば、俺は安心できんねん。

お前が側に居らんかったら、俺は不安でたまらん。





3日なんて・・・時間、いらんはずやろ?


何でこんな時間必要あんねん。


お前が今すぐに消えていってしまいそうなんに・・・何でそういうこと言うて、俺の側離れるん?





このまま、お前がどっかに行ってしまいそうで怖いんや。





側に居って・・・俺の手ぇ、ちゃんと握っててくれ。









「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」








頼む、ちゃんと戻ってきてくれ。


信じて待つ、待ってるから・・・・・・何も言わんと、居なくなるのだけはやめてくれ。





俺はまだ、お前と「サヨナラ」なんてしたないんや。






Uneasiness離別してもなお
(君が此処に居ないだけで、不安ばかり。お願い、無言の「サヨナラ」だけはしないで)
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