あの後、俺は学校に一旦戻り
家に帰るため、自転車をゆっくり漕いでた。
いつもの帰り道。
何や、妙に寂しく感じる。
それもそうや・・・後ろに・・・・・・、居らんのやから。
居っても、居らんでも変わらんはずや。
居らんときは、送り迎えやからなは。
居っても、居らんでも・・・気持ちは同じはずなんに、何でこんなにも
寂しい気持ちになるんかは・・・よぉ、分からん。
――――いや・・・・・。
「分かってんねんなぁ。アイツが此処から居らんくなるんとちゃうんかって思たら・・・寂しくもなるわ」
もし、3日後・・・からの連絡で、最悪の事態になってしもた場合。
もう・・・アイツが、俺の後ろに乗る事はなくなる。
もう・・・アイツと一緒に、お好み焼き食べに行く事もなくなる。
もう・・・アイツと、他愛もない話する事もなくなる。
もう・・・もう・・・――――。
後ろから・・・・のぬくもりすら感じれんくなる。
「寂しいどころか・・・・・・悲しすぎるわ、そんなん」
自転車漕ぎながら、呟いた。
さっき泣いたせいで、目ぇ痛いわ。
学校で顔洗ってきたけどやっぱり目が沁みて、痛くてたまらんわ。
目が沁みて痛いし・・・心かて・・・同じように、痛いわ。
「とにかく、帰ったら寝るか。昨日の疲れもあることやし」
俺はそう言いながら、ペダルを思いっきり踏み込もうとしよった。
ふと、ポケットに入れてた携帯が鳴る。
「か!?」と思いながら、俺は携帯に出る・・・来たのは、メールやった。
中を開けると・・・・・・、やのぅて・・・手塚クンやった。
まぁからメール・・・なんて、期待はしてへん。
ちょこっとは、しとったけどな・・・来る事は、確実にないって分かってた。
とにかく、手塚クンから届いたメールの内容を俺は見る。
思わず笑みが零れた。
何やかんやで、メンバー思いやんな・・・あの部長さんも。
急遽、家に帰る事を止め
俺は自転車を学校へとUターンさせ、其処からペダルを思いっきり踏み込んだ。
「もしもし、謙也か?あぁ・・・ちょっと、頼みたいことあんねん。他のメンバーにも
連絡して、今すぐ学校に集合してくれへんか?あぁ、大至急や・・・頼むで」
『次!お願いします!!』
『僕も、お願いします!!』
「すまないな、白石」
「えぇて。でも何やかんや言うても自分やっぱり手ぇ出してるやん。ほんま部員思いのえぇ部長さんやな」
手塚クンのメールには
『1・2年が練習をしたいと言ってきた。協力してくれないか?』との内容やった。
俺はすぐさま謙也に連絡をし、他のメンバーを集め
青学の1・2年生の特訓相手になってもらうようにした。
俺と手塚クンはコートの外で、特訓の風景を見ながら会話をする。
「でも手塚クンも結構苦労してんねんな」
「それはお互い様じゃないのか、白石」
「ハハハ・・・せやな」
部長は部長で、まぁそれなりに大変やっちゅうこっちゃ。
手塚クンの一言に俺は思わず笑い・・・・・・すぐさま表情を戻す。
「なぁ、手塚クン。急な質問してもえぇか?」
「何だ?別に構わないが」
「おおきに。あんな・・・・・・好きな子と、離れる気持ちって・・・どんな気持ちなん?」
「白石?」
ホンマに急すぎる質問飛ばしたなぁ俺。
でも、彼なら・・・何か、俺にいい何かをくれるって思て、この言葉を零した。
「今、俺・・・好きな子が、俺の側から離れようしてんねん。止めたいんやけど、止められんような気ぃしてな・・・」
「・・・・・・・・」
「ごめんな、こんな話してもうて。でも・・・どうしたらえぇんか、俺・・・分からんくて」
頭の中、わやくちゃになりすぎて・・・整理がつかへん。
どれが正解とか・・・今の俺には答えが導き出せへんのや。
どうすれば・・・が、何処へも行かんと・・・ずっと、俺の側に居れるんやろうかって・・・。
考えるのは・・・そればっかりや。
「個人的意見だが・・・・・・俺なら止める。何が何でも、俺なら・・・・・・・・止める」
「手塚クン」
「俺は・・・俺は、止めれなかった。気づけなかった。
止めれなかったことに、気づいてやれなかったことに、俺自身後悔ばかりしている」
「自分も、ツライな」
彼は、もう既に自分の好きな人が側に居らんことで
何が悪いかと、問い詰めて・・・自分自身を責め続けてる。
これが・・・離れる辛さなんやな。
離れて・・・別れてしまう、辛さなんかな。
「そういうお前こそ、ツラいんじゃないのか。何もしてやれない歯がゆさに」
「ハハ、やっぱ経験しとる男はちゃうねんな」
「聞いたのか俺の話を」
「不二クンからな」
「そうか」
「もう、時間がないねん。どうしてやればえぇんかって、探してる暇ないねん。
のんびりしてる暇すらないねん。アイツと一緒に居れん未来とか・・・・・・俺は耐え切れんし、嫌や」
正直、合同練習すら投げ出してもよかったくらいや。
でもそれが出来ひんかったんは、が・・・俺の背中を押したからや。
自分の心配せんと、俺の心配ばっかりして・・・結局は
が俺の背中をポンッと押したから・・・今、こうやって・・・此処に、俺は居る。
何で、引き寄せる事を拒んで・・・アイツは俺の背中を押したんかな?
引き寄せて・・・また、逃げる事も・・・出来たはずなんや。
何で、拒んだんや・・・・・・。
何で、俺の背中押したんや、お前。
「きっと・・・・・・最後まで、せなアカン事なんやろうなきっと。
自分のことよりも・・・俺自身に・・・しっかりせぇって・・・・」
「白石?」
「あーあ・・・・こんなんやったら、お役目全うせぇって・・・叱られてまうわ、アイツに」
「・・・・そうか・・・」
「あー!手ぇ出すなって言ったのに〜」
「やっぱり心配になったんだね、手塚」
俺と手塚クンが会話をしていると、不二クンたちがこちらにやって来た。
別にコソコソするつもりはなかったんやけど
手塚クンが「手を出すな」って言うてたことやしな。
言いだしっぺが、先に約束破りよるから・・・結構ウケるわ。
俺はクスクスと笑みを浮かべる。
「白石」
「何や、手塚クン?」
すると、手塚クンが俺を呼んだ。
俺は笑うのを止め、彼を見る。
「さっきの話だが・・・・・・人の意見を聞くよりも、まず自分がどうしたいかを決めるべきだと思う」
「え?」
自分が・・・どう、したいか?
「俺は気づいてやれず、そして出来ずに後悔している。後悔する前に自分がどうしたいかを・・・決めるべきだ」
「俺自身が、どうしたいか」
「それからはお前次第だ、白石」
「手塚クン」
「以上だ。後はお前が決めることだ・・・俺はもう何も言うことはない」
そう言うて、彼はメンバーと共に去っていきよった。
俺自身がどうしたいかを・・・決めるべき。
どうしたいって・・・・・・・そんなん・・・・・・・決まってるやろ。
「とずっと居りたいわ。これからも、ずっと・・・ずっと・・・」
せや。
俺はとずっと、一緒に居りたいねん。
それだけは、絶対に変わることのない気持ちや。
俺自身後悔する前に。
気づいてやれずが居なくなる前に。
「もう、気持ち譲らんことや」
このまま、のペースに流されてしまえば
きっと、アイツ・・・俺の前から何も言わんといなくなる可能性が高い。
いや、居なくなってもおかしくないわ。
もう、のペースに巻き込まれたらアカン。
俺の気持ちが・・・どんどん、彼女の気持ちに巻き込まれて消えていってまう。
もう、一歩も俺は・・・引いたらアカン。譲ったらアカン。
此処で、離したら・・・・・・ずっと、後悔しっぱなしや。
あの手を・・・俺は離したない。
あのぬくもりを・・・俺は手放したない。
あの声を・・・・・・―――――。
『蔵・・・好きだよ』
もう二度と闇の中で見失いたないねん!
せっかく、陽の当たるところに出てきたんやから
また闇の中に行ってしもたら・・・あの、ぬくもりも・・・全部、戻ってけぇへん。
そんなん、嫌すぎる。
俺はポケットに入れた携帯を出し、両手で握り締めおでこに付けた。
まるで願掛けをするように・・・・・・。
「神さん、神さん頼みます。どうか・・・どうか・・・を闇ん中に戻さんといてください。
俺の側に居らせてください。もうが悲しむのは嫌やねん・・・・ホンマ、ホンマ・・・頼みますっ」
何度も、何度も願った。
そのたびに、携帯につけた・・・あの緑色の蝶のストラップが揺れてた。
蝶はまるで、遠く離れた彼女を呼んでいるようで・・・切なく、夏の夕暮れに揺れとった。
Calling〜揺れて呼ぶ蝶〜
(君を呼んで揺れている、僕の心の蝶々。早く、はやく、君よ戻ってきて)