部屋のベッドに寝転がり、天井を見る。
腹立たしくて、仕方なかった。
いや、何が腹立たしいって言うたら・・・のヤツが
何で東京に行ったのかっちゅうのや。
最初っから行くんやったら、あんなことせんでも
よかったんとちゃうんか?とか思てた。
何で今頃になって、東京に行く必要あんねん。
「・・・・・・のアホ」
俺は天井を見るのをやめ、寝返りをうち、横を向く。
約束・・・なのためにしたん?
最初から、東京行くつもりやったら・・・せんでもえぇやんか。
ちゅうか何でそないなこと俺に言うてくれへんかったん?
まぁそれは、俺が止めると思たから言わんかっただけかもしれんへん。
せやけど、一言くらい・・・何か、言うてくれてもよかったはずや。
「何考えてんねん、あのお嬢様」
が帰ってきてから、俺の胸の中はムシャクシャしっぱなし。
約束した・・・はず。
絶対、離れんって離さんって・・・俺はに約束した。
3日待って・・・その待った、代償が・・・こない結末とか。
「ホンマ、有り得へんわ」
そう呟いて、俺は涙を零した。
さっきも俺部室で泣いたはずなんに・・・なんでこないにも涙溢れて止まらんのやろ?
当たり前やん。
のこと、好きで・・・ほんまに、好きで・・・・・・信じてたんやから。
裏切られた気持ちは、そう簡単には・・・返されへんねん。
一度取って捲ってしまったカードを、もう一度戻すなんてできんのや。
「結局は・・・俺・・・・・・のこと・・・・・好きでおられんかったんか・・・・・っ」
俺は普通の人。
せやけど、はめちゃくちゃお金持ちなお嬢様。
住んでる世界が、最初から違いすぎたんや。
俺がアイツの事好きになるなんて・・・お門違いもえぇとこや。
アイツの世界には、アイツの居る世界に似合うた人が、アイツの事好きになった方がよかったんや。
俺が・・・・・俺が、好きにならんでも――――――。
『私は・・・蔵が・・・・・大好き、だから・・・離れんじゃ、ないわよ。離れたら・・・承知しないんだからね!』
「・・・っ」
ごめん、なんて言われへんよな。
謝っても、俺お前に酷いこと言うたよな。
でも、でも・・・住む世界違くても・・・俺、お前の事好きでおりたい。
もっと、もっと・・・側に、居たいんや。
そう考え付いた途端、俺は体を起こし袖で涙を拭いた。
やっぱり・・・俺・・・の側に居りたい。
「でも・・・・・どないせぇっちゅうねん。あんな酷い言い方して・・・、泣かして・・・」
側に居たいのに、夕方の事が多分まだアイツの心響いてる。
このままやったら・・・マジで、東京に行ってまう。
アイツは俺にきっと、何か伝えるために・・・来たんや。
それなのに、俺ときたら・・・我を失って、怒鳴ってしもた。
あんな怒り方したら・・・、東京にホンマ・・・・・行ってまう。
「もう、強行手段しかないな」
思わず苦笑い。
俺はベッドから起き上がって離れ、部屋を出た。
こうなりゃ直接、の家に行くしかない・・・四の五の言うてるヒマあったら
行動起こした方が勝ちや。
「お母ちゃん、ちょっと出てくるわ!」
「あ、クーちゃん待って!」
家を少しばかり出ると、お母ちゃんに告げるとすぐさま呼び止められた。
あぁもう!こないな時に面倒な事とちゃうやろうなぁ・・・とか思ってしもた。
「何やの?俺、今急いでんねん」
「急ぐのえぇけど・・・電話やで」
「誰?」
「ちゃんのお母ちゃんから」
「のお母ちゃん?」
お母ちゃんの手には、電話の受話器。
しかも相手は、のお母ちゃん。
何でまた、のお母ちゃんが俺の家に電話なんか掛けてきてんねん。
「早く出なさい」と言わんばかりに、お母ちゃんは俺に受話器を渡す。
俺はそれを受け取り、耳に当てた。
「もしもし?」
『あ、もしもし?白石君、ごめんなさいね夜分遅くに』
「い、いえ大丈夫です」
電話の向こうから聞こえてきたのは、相変わらず若々しいのお母ちゃんの声やった。
『そう言ってくれてよかったわ。あ、ちゃんとはもう逢った?』
「え・・・あ・・・・・・はい」
逢った・・・んで、逢って早々ケンカした。
ケンカして・・・思いっきり、傷つけた・・・とか言えるわけない。
『どうしたの?ちゃんと逢って、話をしたんじゃないの?』
「あ・・・い、いえ・・・あの・・・・・・・すんません」
『え?』
これ以上嘘とかつかれへん。
俺は正直に、夕方起こってしまった事をのお母ちゃんに話した。
もちろん、のお父ちゃんから「別れてくれ」言われる覚悟で。
『そう、そんな事が』
「ほんますんません。俺も冷静にの話、聞いてあげればよかったんやって・・・思て。
あんな言い方はないって・・・今さらなんですけど・・・ホンマに、悪いことしたって・・・」
『白石君、そんなに謝らないで』
「でも・・・っ」
『ちゃんを東京に連れ出したのは私達だし、私達の願いを聞いてあの子は自分で行くって決めたのよ』
「え?」
のお母ちゃんの言葉に、俺は驚いた。
・・・自分で行くって言うたんやなかったんか。
『白石君・・・今から話すことは、3日間・・・ちゃんに何があったのかを話すからよく聞いてね』
「はい」
『それから、この話を聞いて――――』
『あの子の気持ちを、分かってあげてね。あの子はあの子なりに、貴方の事を大切に想っているから』
そう言われ、しばらく俺はのお母ちゃんの話に耳を貸した。
終わったのは1時間ちょっとで
すぐさま電話が終わると、俺はの家に向かった。
駅に向かう途中、走りながら思た。
アイツは俺を裏切るとかそんなんために黙って行ったんやない。
ちゃんと話すつもりで、ちゃんと俺に言うつもりで行ったんや。
「待っててや・・・」
今度はちゃんと、俺・・・お前の話に耳傾ける。
お前の声、ちゃんと聞く。
俺のこと、大切に想ってくれてたんや・・・せやったら、俺もちゃんとお前の事大切やって伝える。
せやから、俺行くまで・・・早まったまねとかせんといて。
神さん・・・これが最後のチャンスかもしれん。
でも、どうかこのチャンスだけは逃がさんといてください。
ちゃんとした未来、歩めるんやったら・・・せめて、アイツを繋ぎとめる力をください。
最初で、最後のチャンス。
もう、二度と離さんよう・・・この想い、君に届け。
Last Chance
(最後のチャンス。胸に届いた声、この想い今君に届けに行きます)