あくる朝、親族の集まりは相変わらず殺伐としてて
私はその話を聞き流していた。
仕事上の話もそうだが、家族間での話。
やはり兄弟が多くて、家柄自体の規模が大きいと話す事も大体が殺伐。
まるで自分が昼ドラの中に居るような気分にもなる(大分失礼な話だが)。
ふと、ポケットの中に入れた携帯に手を伸ばすと
何か違和感を感じた。
急いで取り出すと、ストラップが付いていない。
心臓が酷いぐらいに鼓動して、締めつけらるほど痛みを伴ってきた。
探しに行かなきゃ。アレは蔵が・・・私にくれた、此処で私を守ってくれる御守りだから。
「ちょっと、トイレに行ってくる」
「気をつけてね」
トイレに行くといって、私は部屋を出た。
自分が居る部屋や、その周り・・・そしてさっき通った廊下。
屋敷の調度品は派手なものばかりだから、あのストラップは余計目立つし、見つかるはずなのに。
「ない・・・蔵がくれたストラップ・・・どうして・・・」
あのストラップは唯一、私を彼に繋ぎとめてくれるものだった。
アレさえあれば私はこの家の中で毅然とした態度で入れる、気丈に振舞いお嬢様を演じれる。
アレが・・・アレがないと・・・・・・っ。
「おい、捨て子。探し物はコレか?」
「え?」
目の前から声を掛けられ、顔を上げると昨日私に言いがかりをつけてきた2人。
そして1人の手には・・・ゆらゆらと揺れる、ピンク色の蝶のストラップ。
私はすぐさまそれを奪い返しにいく。
「か、返して!」
「コイツ、捨て子のクセにこんなもの持ってやがるぜ。ホラよ」
「はいキャーッチ。へぇ、これ京都のお店のじゃね?こんな品の良い柄、京都にしかねぇって」
「返してってば!」
2人はストラップでキャッチボールをし、私の手に戻さないようにしていた。
ジャンプしてストラップを奪い返そうにも身長が届かず、手元に戻すことが出来ない。
「なら、返してやるよ。捨て子は捨て子らしく、捨てられたもん拾ってこいよ!」
「あっ!」
そう言われ、ストラップが宙を舞い窓の外へ放り出された。
私は必死に追いかけて掴もうとするも、あとわずか届かず窓の外に落ちて
庭の小さな池に落ちた。
落ちた場所が分かれば、あとは手探りでしかないが探すしかない。
私は急いで庭に出て小さな池の中に身を投じ、ストラップを探した。
今が夏だから、池の水は冷たく感じた。
しかし着ている制服が夏物だから、水に触れたらしみこむスピードは早く、そして濡れていく。
それに池の水が手入れされていないのか、コケが多くて
白と灰色の四天宝寺の制服には目立ったようにそれが付着していった。
だけど、今はそんなことを気にしている暇は無い。
ストラップを探さないと・・・大切な人が、私の為にくれた・・・大切なモノ。
「アハハハハ!ホラホラ探せよ」
「捨て子ー。やっぱりお前にはそういうのがお似合いだな」
「捨て子の分際で、俺らと同じになろうと思うなってーの」
「お前は所詮捨て子なんだから、金持ちなんて無理無理」
恥ずかしい思いをしてるって分かってる。
言い返したいけど、焦る思いからか言葉が出てこない。
このままじゃ・・・このままじゃ・・・お父さんにもお母さんにも迷惑をかけてしまう。
そして・・・蔵の側に、帰れなくなってしまう。
色んな焦る思いからか目から涙がじわりと浮かんでくる。
「ちゃん、何してるの!?」
すると、私が戻ってくるのが遅いのかお母さんが探しに来た。
ストラップを探す動作が止まり、顔を背けてしまう。
体中が震え上がり、心臓が耳に聞こえるほど鼓動している。
「ちゃん、其処は汚いから出てきなさい」
「で・・・でも・・・大切な、ストラップが・・・」
「え?」
泣きそうな、震える声でお母さんに訴えると
何かが分かったのか、お母さんはストラップを懸命に探す私を
見ていた男の子二人の前に立ち、頬を強く引っ叩いた。
あまりの光景に私は驚き、また叩かれた二人も驚いていた。
「か、佳代子(の母の名前)おばさん」
「ウチの娘に何をしたの?」
「べ、別に僕らは」
「聞こえてたわよ、ウチの娘を捨て子捨て子ってバカにしている声。
あの子は捨て子じゃないわ、私の娘よ・・・他人の貴方達がとやかくウチの子供に文句をつけないで頂戴。
は貴方達と違って生まれも育ちも違うわ。でもね、その分・・・貴方達よりも人の痛みの分かる子よ。
そんな我が子を傷つけられたらどれほど親としては悔しくて、腹立たしいか分かりなさい」
お母さんがそういうと、2人は何も言わずその場を去って行った。
後姿しかお母さんの様子は見れなかったけど
こんな風に怒ったのを見たのは多分、初めてだと思った。
「ちゃん」
「ぉ、母さん」
お母さんが振り返り、私を見る。その表情はとても心配そうに見ていた。
その顔を見た私は何も言えず泣いた。
お母さんはすぐさま池の中に入ってきて、私を抱きしめ
「ごめんね、ツラかったね」と抱きしめながら引き上げてくれた。
ストラップはお家のお手伝いさんたちに見つけてもらうことになり
すぐに私の手元に帰ってきた。
「よっぽど・・・大切だったのね、蝶々のストラップ」
「え?」
お母さんとお風呂に入り、髪の毛を梳かしてもらっているとき
そんな事を聞かれた。
「白石君から買ってもらったの?」
「ぅ、ぅん」
「ホント、ちゃんは白石君の事大好きなのね」
そう言われ、私は頷くしかなかった。
「じゃあ、貴方達二人を引き裂くのは難しい話かしら」
「え?」
「本当はね。ちゃんには東京の学校に通って欲しかったの。でも、それを思っているのは
お母さんやお父さんじゃなくて、お爺様なのよ」
「お爺様、が?」
髪の毛を梳くのを終えたお母さんが私の顔を見て「お爺様と会ってもらえる?」との言葉に
私は少し考えるも、一つ頷いたのだった。
飛び立った蝶が止まった先は
(蝶が飛び立ち、羽を休めていた場所。それは私に「逢いたい」と願っていた人だった)