何とか間に合った。




の家に着いた俺は真っ先にがまだ居ることを尋ねた。

メイドさん達は「まだお部屋に居られますけど」と驚いた表情で答えてくれた。
俺の願いが神さんに届いたんやな、と思いながら急いでの部屋に向かった。


すると、アイツは手に大荷物を持って如何にも今から
「東京に戻ります」という装いだった。




ホンマ、ギリギリセーフ・・・と我ながらこのタイミング、褒めたいくらいやった。






「蔵・・・何で・・・」



「何でって・・・もちろん大事な大事な彼女を引き止めに来たに決まっとるやろ」



「引き止めに来たって」



「立ち話もなんやし、部屋入って話そうや。入るで」



「あっ、ちょっと!?」








俺は自分が入るのと一緒にの体を
無理やり部屋の中に戻し扉を閉めた。


そして俺は扉の前で背を向けたまま立つ。





それはつまり、がこの部屋から出ないようにするため。





俺が扉の所に居ったらは出られへん。
男女の力の差は歴然としてるし、アイツが俺に力で
勝てへんのは、自身もよぉ分かってる。







「ど、退いて蔵」



「嫌や」



「私、東京に帰るの。それにアンタ、自分から言ったじゃない・・・私達、離れたほうがいいって。
住む世界が違うってそう言ったのは・・・アンタの方なんだから。だから私は、私の住む世界に帰るだけよ」










確かに、数時間前。
俺はに離れたほうがいい、住む世界がちゃうと言って・・・彼女を突き放した。

せやけど、のお母ちゃんの話を聞いて俺は酷く後悔した。


此処に向かう途中、何度も心の中で自分の事責めた。






何であんな事言うてしまったんやろうって。



何でコイツを傷つけるような事言ったんやろうって。






俺との約束を、守るために・・・は、は――――――。










「東京戻って、また無理してお嬢様演じるつもりかお前?」



「!!」



「それでえぇんか?それで自分、幸せなんか?」



「どうしようと、私の勝手じゃない。のお爺様だって、私を実の孫のように受け入れてくれた。
アンタに・・・とやかく言われる筋合いはもうないんだから」







は苦しそうな表情で俺を見ていた。


多分、東京行って円満に事は解決してきたに違いない。
せやけど・・・向こうに戻ったかて、大阪で空いた穴を埋めることなんて、コイツには無理や。


気丈に振る舞って、エェ子演じて、また・・・笑顔が消えていく。



そんなの姿を想像しただけで、恐ろしいくらいにゾッとした。







「退いて。私は東京に戻るの」



「アカン」



「お願い退いて。あんな事言ったアンタの顔、見たくもないんだから」












苦しそうな表情をして、その目は俺を蔑んでいた。



をこない風にさせたんは他の誰でもない・・・俺自身。








「アンタ・・・いっつもそうよ。怒ったかと思ったら、何か思い立ったようにすぐ謝ってきて。
都合が良すぎるのよ、いつもいつもいつも。私の気持ち、最初から考えたことあるの?」







「もううんざりなの・・・アンタのワガママも、何もかも全部。
だから退いて・・・私は東京に戻る。アンタに振り回されるくらいなら、お嬢様演じてたほうが何十倍ってマシよ」









言葉は震えた声で言い放たれた。




ホンマは、そうやってお嬢様演じるのキツイって自身よぉ分かってる。

上手く周囲に自分の気持ち悟られんようしてる姿を、俺は一番分かってる。





心の中で「タスケテ」って泣いてる、コイツを・・・俺は――――――。









「もういいでしょ。退いて」



「アカン」



「アンタにはもううんざりだって言ってんのよ!いい加減にしないと警察呼ぶわよ!」



「呼べへんクセに、強がるトコはホンマ自分らしいわ。そうやって、東京でも無理して居ろうと思てんねやろ?」



「っ!?」







図星だったのか、は驚いた表情をしていた。
俺はゆっくりと扉の前から、のところへと足を進める。












「・・・蔵」







ようやく、の目の前に立った俺は名前を呼ぶ。
すると彼女は手に持ってたカバンを地に落とした。


そっと頬に触れると、堪えていたのか目から涙が零れ始める。



俺はその涙を、優しく親指で拭う。






「すまんかった」




「何で、今更謝るのよ。どんだけ、どんだけ私が苦しくて悔しい思いをしたかアンタ分かってんの?」




「これでも、分かってるつもりや。せやから、俺が悪かったって謝りに来たんや。
もし、のお母ちゃんから電話なかったら・・・お前の3日間、分かってあげれたかどうか分からんかったわ」



「お母さん、蔵に電話してきたの?」



「あぁ」






俺はゆっくり、先程のお母ちゃんから電話があったことを話し始める。

母親が何故俺に電話をしてきたのかは驚きのあまり
涙が止まった。







「ゴメンな。ちゃんとした理由知らんで、怒鳴ったりして。ツラかったんやな・・・俺の知らん3日間」



「蔵」







のお母ちゃんから聞いた話。


それは俺の知らん、の3日間やった。




1日の逃避行を許す代わり、3日間東京へ行く事を約束した。
代償としては日数的に割に合わんと思うけれど、本人が言い出した事や。

自分で言い出した落とし前はキッチリつける為に
割に合わん日数でも、はそれを良しとし、東京へと向かった。






其処で受けた、痛々しい視線。

捨て子と冷やかされ、惨めな思いをした日。



そして・・・――――――。











「約束、守るために・・・行ってたんやなお前」



「私・・・ゎ、たし」



「堪忍な。夕方、ちゃんと自分の話聞いてやれば良かったんや・・・ごめんな






俺はそう言ってを優しく抱きしめた。





裏切られたのかと思った。


約束を破られたのかと思った。



せやけど、それは俺が間違うてただけやった。




もう二度と手放さんようにした俺自身の行いが・・・コイツの3日間の傷に塩を塗ってしもた。







「ごめん、ごめんな



「蔵・・・っ、私もごめんなさい。訳も話さないで、東京に行って」



「えぇて。自分が俺を不安にさせまいとした事なんやろ?えぇでそんなん」







俺はの頭を優しく撫でながら、優しく言葉を投げる。



ふと、のお母ちゃんからの電話のことを思い出した。



























『多分ね。ちゃん・・・白石君に言いづらかったんだと思うの、東京に行く事』


「え?」


『だって、1日逃避行ごっこするくらいですもの。余程、貴方から離れたくなかったのよあの子は。
東京に行くって分かってからも、理由を話したら貴方を不安にさせるんじゃないかって・・・それだけが心配だったみたい』


「・・・・・・」


『でも、安心して。ちゃんは自分から東京には戻らないって主人にも、主人の父にも言ったから。
だからね、白石君』


「はい」


























『あの子を、末永く・・・よろしくお願いします』


















まるで、嫁入り前の娘を渡すかのような発言に
俺自身少し照れくさかったけど、あながち『末永く』という部分は間違えではない。


むしろ、『末永く』俺はこの毒舌でツンデレなお嬢様と付き合っていくつもりや。







「あ、せや。コレ渡しとかなな」


「え?」





俺はから体を離し、ポケットからあるモノを取り出し目の前に差し出す。








「持っとけ、俺のストラップ」


「え・・・で、でも、コレは蔵の」






に差し出したもの。

それは京都で買った、とお揃いの蝶々のストラップやった。







「お母さんから聞いたんなら分かってるでしょ?私、ちゃんと持ってる」



「せやけど汚れたんやろ。汚れたっちゅうか、汚されたんやろ?親戚のボンボン共に。
見つけてもらった時は紐もエライ汚れとったみたいやん」


「そう、だけど」


「なら俺の持っとけ。蝶々の所に、自分が持ってる蝶々引っ掛けとき」


「ぅ、ぅん」









そう言っては自分のを、俺が差し出したストラップに引っ掛けた。


付け終わると、まるでお互い会えた事を
喜んでいるかのようにピンクと緑の蝶々は、揺れていた。







「嬉しそうに揺れてんなぁ」



「そうなの?」



「おん。俺の緑の蝶々さん・・・自分が側に居らんかったから、ずーっと1人で寂しく揺れててな。
まるで・・・呼んどるみたいやった。そのピンク色の蝶々を、そして・・・自分をな」



「アンタ・・・相変わらず恥ずかしい事言うわね」



「其処は顔真っ赤にして俺の名前言うところやろ〜、蔵ノ介クンヘコむわ〜」



「無理無理。アンタの歯の浮くようなセリフ、毎度の事すぎてもう照れる通り越して呆れるレベルよ」








呆れながらもは嬉しそうに笑ってた。

それにつられて、俺も笑う。



そしてもう一度、を抱きしめた。








「もう、何処にも行かへんよな?」



「当たり前よ。私が居ないんじゃ、アンタがどうなるか分かったもんじゃないわ」



「お嬢様相変わらずの通常運転やな」



「そういう私に惚れたのは何処の健康オタクで毒草バカかしら?」



「自分かて変わらんやろ?そんな健康オタクで毒草バカに惚れたんは何処のお嬢様や?」








互いが互い、同じようなことを言うて目線がぶつかり・・・笑った。












「何?」



「おかえり。お疲れさん」



「・・・ただいま。ありがとう」







見つめあって、笑って。



口付けを交わす。




そして、空白の3日間を埋めるように

愛しい彼女の傷を癒すように

俺らは愛し合うのだった。






約束した未来へと続く道を
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