「はい?え?・・・今、何て言うた?」
俺は困惑しとった。
目の前に居る、東京から転校してきたクラスメイトに。
「お金ならいくらでも出してあげる。私を――――」
「抱いて。メチャクチャに抱いて」
「おまっ・・・本気か?」
無表情で放たれたその言葉に、俺はしばらく考えることをせんかった。
「婚約破棄って・・・どういうこと」
中学2年のある日、それは突然だった。
学校から家に帰ると
お父さんとお母さんが肩を落としていた。
理由を聞くと、婚約破棄。
私には、婚約者が居た。
しかも相手は超金持ちの御曹司様。
もちろん、ウチもそこそこ名前の知れてる貿易商。
政略結婚だと分かって私も承諾した。
婚約者の居る学校にも無理矢理通わされた。
だけど、向こうも分かってたのか嫌な顔一つもしなかった。
しかし最近・・・婚約者の様子がおかしいと思ったら・・・これだったとは。
「婚約破棄をされたが・・・会社の契約は通常通り結んだままにしておくと言われたよ。
向こうが突然言い出したことだからな。非を感じているんだろう」
「だったら、よかったじゃない。それで」
「でも、ちゃん・・・貴女の・・・貴女の将来が」
お母さんは泣きそうな顔で私を抱きしめた。
お母さんは何よりも私の幸せを考えてくれた。
最初、婚約のことにも反対していたが
私が(元)婚約者と学校で仲良くやっていると聞くと
嬉しそうにしていた。
「いいよ、お母さん。仕方のないことだから」
「でもっ」
「じゃあ、一つ・・・私から我がまま・・・言っていい?」
「何だ?」
私がそう言うと、お母さんは私から離れた。
そしてお父さんも私の顔を見る。
「どっか遠くの学校に転校したい」
「」
「ちゃん」
婚約してないのであれば、もう此処に居る必要もない。
アイツの側にはもう私じゃない、他の子が居る。
だから、私は此処に居る必要ないんだ。
「沖縄とか、九州とか・・・・・・あ、大阪がいいかも。ねぇ、大阪に引っ越そう。一度でいいから関西に住んでみたかったんだ」
「、本当にいいのか?」
「大阪の学校にはこっちのお友達が居ないのよ?」
「うん。いいよ・・・こっちに居るよりか・・・・・・全然マシ」
ツライ思いをしながら学校に通うよりか
遠くに引っ越して、何もかも忘れて新しい友達を作ればいい。
それならいっそ・・・アイツの姿すら見えない場所に・・・・・行きたい。
関東じゃきっと思い出してしまう。
なら、いっそ・・・離れたほうがいい。
それに、大阪に行ってみたいと思っていたところだし
この際大阪に移住してもいいと、思ったこともある。
「アナタ。ちゃんが言うなら」
「そうだな。・・・、もう一度聞くぞ。・・・・・・本当にいいんだな」
お父さんが真剣な表情で私に問いかけ、私は微笑みながら――――。
「うん、いいよ」
そう答えた。
もういい、何もかも忘れよう。
忘れて、新しい生活をしよう。
数週間後、私たち家族は大阪に移り住み
私は大阪の四天宝寺中学に転入することになった。
「(転入テストってあんなに簡単でいいのか?)」
転校初日。
私は担任の先生の後ろを歩きながらそう思った。
転入するには、転入テストは出てくる。
それなりの学力を知っておかなければならないだろう。
しかし、私はそのテストをものの30分で解き終わった。
むしろ赤子の手を捻るほど・・・・・・簡単。
もちろん、先生達は驚いた。
オール満点・・・学校始まって以来のことなのか、なんなのかよく分からないが
もう「いやぁ〜、君に逆らったら後が怖いなぁ〜」とか言ってた。
「(そう言うくらいならテストの問題、少し難しくしなさいよ)」
最近の学力低下は此処にあり!って感じの問題ばかりだった。
あまりの問題の簡単さに私は言葉を失い、最初の5分は動けなかった。
「あ、教室此処やから」
「え?・・・あぁ、はい」
担任の先生に促され、私も一緒に部屋の中に入る。
うるさかった教室内が一気に静まり返り
ヒソヒソと話し声が聞こえる。
関西人は本当にお喋りが多いな。・・・・と心の中で呟いてみた。
「えー・・・今日からこのクラスに転入してきた、さん。東京から引っ越してきたばっかりで
分からんことだらけやからまぁよろしくしたって」
まぁ、はやめて。
担任ならちゃんとしろ。
って、いちいち私なにツッコミ入れてるのよ。
「ほな、さん」
「あ、はい。・・・です、よろしくお願いします」
私は一礼をすると、拍手が起こった。
まぁこれはお決まりなことよね。
「ほなー・・・は窓側の一番後ろな。今日いる教科書は全部机の中に入れといたから」
「あ、はい」
そう言って私は担任に言われたとおりに
窓側の一番後ろの席に向かう。
椅子を引いて、席に座る。
と、横から視線を感じたので横を見る。
左手に包帯を巻いてて
ニコニコと私を見ている男子。
しかも、包帯は、左手下半分指先の第二関節まで丁寧に巻かれていた
顔は完全に美少年の部類に入る。左手の包帯を除けばだが・・・・。
「あの・・・何か?」
「うぅん、何でもないわ。俺、白石蔵ノ介・・・お隣さんやから、困ったことあったら何でも聞いたってな」
「ど、どうも」
そう言って彼は前を向いた。
私は横目で彼を見て、すぐに机を見て・・・窓の外を見た。
空は青々としてた。
東京の空も、こんなになってるのかな。
「(って、バカだな。もう此処東京じゃないし・・・・・忘れよう)」
忘れよう。
忘れなきゃ。
婚約のことも、向こうでの学校のことも
アイツとの思い出も――――昔のことなんだって。
Forget?
(忘れられる?此処に来て私は、全てを忘れれる?)