『やるよ』
『え?』
『持ってろ』
『いや、だけど』
『持ってろ。俺が外せって言うまで外すな・・・いいな』
外してないよ。
アンタから貰った星のネックレス。
銀色の大きな星と、金色の小さな星が空洞のネックレス。
本当は外そうと思ったけど
タイミングを逃して、いまだ・・・私の首には、アンタから貰ったネックレスが輝いていた。
大阪に来て2週間が経った。
だからって言って、学校に慣れたわけではない。
むしろ慣れるわけない・・・・・・関西の学校なんて。
言語自体が違う。
話がもうワケ分からない。
あともう少し時間が欲しいくらいだ。
「おはようさん」
「え?・・・あ、あぁ・・・お、おはよう」
教室に入ろうとすると
ドア前で、隣の席にいる白石蔵ノ介という男子が挨拶をしてきた。
私は少し焦りながらも挨拶を返した。
相変わらず彼の左手には綺麗に巻かれた包帯。
気になって「それ、怪我してるんですか?」と彼に問いかけると
「ん〜・・・それはちょっと言えへんねや。やっぱり気になる?」と言うから
これ以上深くツッコミを入れるつもりも無かったから
「話したくないなら、別にいいです」と丁寧に断った。
「ん?・・・どなんしたん?」
「え?・・・あぁ、別に」
彼に問われたが、私は「別に」と言葉を切り返し
教室内に入り、自分の席に座る。
もちろん白石君も自分の席に座り・・・なぜか私のほうを見る。
「なぁ」
「何ですか?」
「同い年なんやから、フツーにタメ語で喋ろうや」
「じゃあ何?」
「切り替え早っ。・・・さん、って言ったら礼儀正しいなぁ。なぁ」
いきなり呼び捨て?
ホント礼儀っていうの知らないの関西人って。
ワンクッション置くとか・・・そういうのしないの?
と、心の中でツッコミを入れるも彼は話を続ける。
「昨日の小テスト、どうやった?」
「え?・・・・・・あぁ。うん、普通」
「普通!?あれ普通なん!?・・・俺結構空欄したんやけど、普通に解けたん?」
「普通だから普通。でも、私も自信ないよ・・・1個だけ」
わたしそう言うと「へぇ〜」と彼は言う。
普通と答えたが、ぶっちゃけ簡単。
ちゃんと授業さえ受けていれば解ける問題だった。
あの問題を結構空欄は有りえない・・・むしろ、論外。
「・・・東京から引っ越してきた言うてたけど、何処の学校おったん?」
「え?」
白石君の言葉に、私は固まった。
だが、ものの数秒で脳は答えを導いた。
「普通の私立だけど」
「ふぅーん。でも、勉強できそ。なぁ今度俺に勉強教えて」
「白石君勉強できるでしょ・・・別に教えなくても良くない?」
「えぇやん。な、約束な」
関西人相手にすると・・・こんなに体力いるの?
本場はやっぱり違う・・・ということ?
いや、アイツが無駄に落ち着いてただけ?
そうとしか言いようがない。
「どなんしたん?」
「いや、別に」
「なぁ、この前からずっと気になってたんやけど」
「首のネックレス、可愛えぇな。何処で買ぉたん?」
彼に首のネックレスを指摘された瞬間、思わず私はネックレスを握った。
「お星さん、2つ付いてて可愛えぇな。・・・・・?」
「ど、何処でもいいでしょ。人のプライベートに首突っ込まないで」
ふと、我に返る。
しまった・・・私、何言ってるんだろ。
別に褒めてもらってるのに、何私言ってるの?
「ゴ、ゴメンな。そういうの分からんやったから・・・ホンマ、ゴメン」
白石君は申し訳なさそうに謝る。
私はいまだネックレスを握ったまま首を横に振った。
いい加減、外さなきゃいけないのに
今でもずっと首から提(さ)げてるアイツから貰ったネックレス。
ブランドだからとか、そういうのじゃない。
捨てるのがもったいないとか、そういうのでもない。
捨てたくても、捨てれないのよ。
それ以降、白石君は私に話しかけてこなかった。
気を遣ってくれているのかどうか分からない。
ホント、関西人って・・・不思議な人種。
でも、あんな言い方した私が一番悪い。
彼にはまったく悪気がないんだから。
私から・・・・・・謝るしかないのよね此処は。
HR(ホームルーム)が終わると同時に
皆が立ち上がり、帰る準備やら部活に向かう準備と人それぞれの行動が見える。
もちろん、白石君もスポーツバックの中に
教科書や色んなものを綺麗に入れる。
私も慌ててカバンの中にノートや筆箱を入れるも
白石君はバッグを担いで、部活に向かう。
ようやく全部カバンの中に入れ終わり
白石君の後を追い――――。
「お?」
「行くの・・・早いんだけど」
私は何とか彼の制服の裾を握って動きを止めた。
引っ張られたのが分かったのか彼は振り返る。
ていうか、歩くの早いし。
「どなんしたん?」
「ご、ごめん・・・なさい」
「え?」
「あ、朝・・・・・・その、別に・・・・・・怒ってるとか、そういうのじゃなくて・・・あの・・・・・・とにかく、ごめんなさい」
精一杯出てきた言葉がコレとは
自分でもホント情けない。
むしろ、口下手というか説明不足なこの性格どうにかしたい。
いや、その前に表情がないっていうのも。
「え?・・・何?・・・それ、言うために・・・俺、引き止めたん?」
白石君は少し驚いた声で私に言う。
私はというと口を開くと、どんな言葉が出るのか分からなかったから
もう頷くしかなかった。
すると、頭をポンポンと軽く叩かれた。
あまりに突然のことで頭を上げると、白石君は笑っていた。
「アレは俺が悪いんよ。の気ぃ知らんと、無鉄砲に言うた俺が悪い。自分が気分悪くして当然や」
「いや、でも・・・ごめんなさい」
「謝らんといて。もう気にしてへんから・・・な」
そう言ってまた頭をポンポンと叩かれた。
まるで私は子ども扱いされた気分。
目の前の白石君はいまだ笑いながら私の頭を軽く叩く。
私はそんな手を軽く振り払う。
「や、やめて。あんまりそういうのしないで白石君」
「え?これ親とかにされたことない?・・・ちゅうか、白石君って余所余所しいやん。
俺、のことちゃんと呼んでるんやから・・・も俺のこと蔵ノ介とか、下の名前で呼んだって」
「じゃあ蔵でいいね。はい決定」
「相変わらず切り替え早いし、拒否権ナシかいな。まぁ、えぇか」
納得したのか、白石君・・・いや、蔵は笑った。
ホント、関西人って不思議な人種だ。
「あ、俺今から部活あるんやけど観に来る?」
「え?・・・あぁ。!・・・・・・ちょっと、ゴメン」
ふと、ポケットに忍ばせていた携帯がバイブで何かを伝えてきた。
電話だ。私は携帯を開き、すぐさま出た。
「もしもし?・・・・・・分かった」
電話は数秒で終わらせ、携帯を閉じた。
「ほな、行こか」
「ゴメン、迎えが来た」
「は?」
私の言葉に、蔵は目を見開かせ驚いていた。
「お、お迎えって・・・、コレなん?」
「うん」
「お迎えに上がりました、お嬢様」
四天宝寺中校門前に、黒塗りのベンツ。
後部座席の前に、ウチで長年運転手をする魁さんがスーツを着こなして立っていた。
蔵はおろか、下校中の生徒全員が物珍しい視線を飛ばしていた。
「あ、白石や」
「ホンマや、白石や」
「謙也、ユウジ」
「・・・誰?」
「俺の部活仲間や」
すると、其処に蔵の部活仲間というメンバーが現れた。
もちろん、彼等もこれが珍しいのだろう。かなりジロジロ見ているし
私もかなり見られている。
まぁ別にこういうの慣れっ子だし気にしてない。
「じゃ、蔵・・・私帰る」
「お、おう。気ぃつけてな」
蔵に挨拶をすると、魁さんが扉を開けて私は乗り込み閉めた。
魁さんはドアを閉めると蔵たちのほうを見て一礼をして、運転席に座った。
「窓、開けましょうか?」
魁さんにそう言われたが、私は――――。
「いい。行って」
窓も開けずに、車を発進させた。
「窓も開けんと挨拶ナシで、行くとか。誰なん、あの子?」
謙也が俺に尋ねてきた。
さらに謙也の言葉にユウジが言う。
「四天宝寺に黒塗りベンツでお迎えの運転手付き。今までにないパターンやで・・・ホンマに、どんだけ?」
「っちゅーう、2週間前東京から転校してきた子。席が俺隣やから仲良くしてんねん」
「ってめっちゃ有名な貿易会社とちゃう?」
「え?!マジで?!」
「うわっ!?それやったら運転手付きお迎え分かるかもー」
でも、どうしてそんなお嬢様が大阪に・・・しかもわざわざ四天宝寺に転校なんか?と思った。
「でも、白石」
「なんや?」
今度はユウジが俺の肩に腕を回してきた。
「えろぉー・・・仲えぇ感じやな・・・あの子と」
「え?・・・あぁ、まぁ。クラスメイトやし」
「それだけとちゃうやろお前」
すると、今度は反対のほうから謙也が肩に腕を回す。
二人の顔はかなりニヤついてる。
「可愛えぇもんな、あの子」
「玉の輿狙ろとるやろ?」
「アホォ!何言うてんねや!そんなん関係ないわ!・・・何か、放っとけんちゅーか・・・なんちゅーか」
目が離せない。
少しでも自分の視線を彼女から逸らしてしまえば
彼女は何処か、遠いところにでも行ってしまいそうで。
いつも授業中、ふと横目で見る彼女は
窓の外・・・空をじっと眺めている。
時々、そんな彼女の姿に思わず魅入ってしまうときがある。
何を考えているのか。
何を思っているのか。
何を見ているのか。
彼女の目には、どんな世界が広がっているのか・・・・・・時々知りたいと思う。
知りたいと触れた代償が、彼女の苦しそうな顔やった。
もう、二度とあんな顔見とぉないな。
「白石?」
「!・・・とにかく、玉の輿とか関係あらへん!部活行くで」
謙也とユウジの腕を振り解いて、テニスコートへと向かう。
でも、彼女の話をされただけで
こう胸が熱いのは何なんやろ?
俺、もしかして病気?!・・・・・・なわけないな。
Hunch?
(嵐の予感?それとも恋の予感?)