『四天宝寺?・・・俺の従兄弟、其処居るで』
「え、マジ?」
『あぁ、何やったら俺からも言うとこうか』
「助かる。余計なこと喋るなよ」
『分かってる。・・・・・・なぁ、』
「ん?」
『まだ、あのネックレス持ってたりしてるんやないやろうな?』
「・・・はぁ〜」
先日、東京にいる関西人の友人から電話がかかってきた。
「元気にしてるか〜?」とかいう名目で掛けてきたらしい。
そこで学校の話があり、そして・・・・・・私の首に提げてるネックレスの話をしてきた。
彼もこのネックレスが何なのか知っている。
咄嗟に「うん、捨てた」と淡白に答えたが
実のところ捨てるどころか、がっちり首に提げてます。
バレたとき、飽きられるなぁコイツは。とか電話を切った後そんなことを思ってしまった。
「なーに、浮かへん顔してん?」
「蔵」
すると、クラスメイトで隣の席にいる白石蔵ノ介が笑顔で現れた。
向こうが自由に呼べというので、蔵と私は呼んでいる。
相も変わらず左手には綺麗に巻かれた包帯。
本当にこの包帯だけが謎過ぎる。
「別に。考え事」
「うぉ〜・・・相変わらず淡白な性格やな。あ、・・・此処の問題教えてほしいんやけど」
「一問に付き千円」
「ちょっ!?金取るんか!?」
「ギブ・アンド・テイクっていう言葉知ってる、蔵ノ介くん?一ページだったら五千円ね」
「高っ!関西人でもケチるの、お前はそのケチを上回るな」
「褒めてんの?もういい、教える気分じゃなくなった」
そう言って私は席を立ち上がる。
「え?何処行くん?もしかして怒った?」
「違うわよ。人に会いに行くの。東京にいる友達の従兄弟がこの学校に通ってるって言うから会いに行くの」
振り返りながら蔵にそう言う。
すると、蔵も後ろをふっ付いてきた。
「何?勉強教えないよ」
「ちゃう。何か気になるし。付いて行ってもえぇかなぁって」
蔵は平然と「連れてけ」というオーラを出してた。
まぁまだ慣れない校内だし、蔵を連れて行ったほうが無難といえば無難。
「好きにすれば」
「おおきに」
そう言って、蔵を連れて・・・アイツの従兄弟とやらに会いに行くことにした。
「お、謙也やんか」
「白石。・・・ちゅーことは、お前が」
「アンタが忍足謙也。似てないわね・・・余計なフェロモン流してるところは似てるけど」
「ほっとけ!あのアホと一緒にすんなや!」
そう、私の友人は・・・・・・氷帝学園3年忍足侑士。
そして目の前にいる、この忍足謙也は彼の従兄弟だ。
顔や髪色、肌の色と似ていないが
余計なフェロモンが流れているところは血筋争えんというやつか。
「え?の会いたい人って・・・謙也なん?」
「まぁ、そんなとこ。顔知らないから分からなかったけど。蔵が付いてきて分かった」
「俺の東京の従兄弟がコイツに色々教えたってて、昨日電話で言われただけや」
「ふぅーん。そうなんや」
「たったそれだけ。もしかして、あんまり聞きたくないけど・・・あんた、テニス部?」
私は彼を見て真っ先にそれを聞いた。
すると、謙也は――――。
「あぁ。【浪速のスピードスター】って言われてるんや。ちなみにお前の後ろに居る其処の男もテニス部やで」
「は?」
私は思わず蔵のほうに振り返る。
すると、蔵はきょとんとした表情を浮かべていた。
私は引きつらせながら、彼に尋ねる。
「く、蔵・・・アンタも・・・テニス部?」
「あぁ、せやけど。俺ちなみに部長やねんで」
「更に言うならコイツの通り名【四天宝寺の聖書(バイブル)】」
私の問いに、蔵は平然と答えた。
そして謙也が補足をする。
何でこうなるのよ。
せっかく・・・せっかく、離れられたかと思ったのに
結局・・・私、こういう関連のヤツと離れられないってこと?
頭痛くなってきた。
「ん?、どなんしたん?顔色悪いで?」
「保健室やったらあっちやぞ」
「いや、いい。放っといて・・・あんた達には関係ないことだから」
最悪だ。
また”テニス部関係“の人間と絡むなんて
誰が想像した?誰も想像してないし、私だって・・・アイツから、離れようと思って
頑張って知恵絞って出した答えだったのに。
ダメだ・・・泣きそう。
私は思わず顔を伏せて、蔵の服の袖を掴んだ
「?」
「お、屋上とか・・・何処か分かる?」
「屋上やったら、そこの階段ずーっと上まで行ったらすぐやで。普段から開けっ放しにされてるから出入り自由や」
「ぁ、ありがとう」
「えっ、ちょっ・・・っ!」
そう言って私は慌てて、階段を一番上まで上がっていった。
ドアノブに手をかけ、回して押すと
扉は開き、青々とした空が広がっていた。
風が強く吹いてる。
此処なら・・・・・・誰も、見てない。
「・・・・・っぅ・・・ふっ・・・・・・うっ・・・・・はぁ・・・うぅ・・・」
溜め込んでいた涙を全て出した。
思わず視界に、首にさがっているネックレスが見えた。
私は思わずそれを握り、膝をコンクリートの上に付け――――泣いた。
分かってる・・・・・・分かってるよ。
もうアンタが私のこと見てくれないって。
分かってるけど・・・・・・捨て切れない。
本当は・・・・・・好きって、言えなかった私が一番いけないって。
分かってる・・・・・・―――――。
「うっ・・・・・ひっく・・・・・・ううっ・・・・・・」
もう、アンタの目には・・・・・・私が映ってないことくらい。
魁さんの運転を断り、私は地下鉄で帰ろうと
駅までフラフラ歩いていた。
ダメだ、目が腫れぼったい。
「もう、泣きすぎた。今度から泣くの控えよ・・・・・・てか、私何未練がましく泣いてるのよ」
泣くくらいだったら、さっさと忘れて
ネックレスも捨てればいいのに・・・・・・捨てきれてないのが、現実だ。
「はぁ〜。・・・・・・・・・・・・此処どこ?」
気づいたらネオン眩しい繁華街。
駅から程遠くなってしまった。
ていうか、駅自体何処か分からないんですが。
「最悪。この歳になって迷子とか・・・やっぱ、魁さんの運転断るんじゃなかった」
今頃になって運転を断ったことを後悔してもしょうがない。
こうなりゃ、分かるところまで行って・・・其処から魁さんに迎えに来てもらおう。
そう思いながら、とりあえず私はフラフラと歩いていた。
「なぁなぁ、お嬢ちゃん。可愛えぇなぁ」
すると、如何にも援交目的で鼻息荒いおっさんが近づいてきた。
うわっ、こういうのって何処行っても同じなんだ。
「制服からやと、四天宝寺の生徒さんやなぁ。えぇべっぴんさんやね」
「それだけの言葉で引っかかると思ったら大間違えですよ、オジサマ」
「あら?大阪の子とちゃうの?へぇ〜何処の子なん?普通の喋り方やから東京の子かぁ?」
あー・・・ウザイ。
ホント何処行っても同じような感じで笑えるけど、正直今こんなおっさん相手してる暇ない。
「急いでるんで、失礼します」
「あー、待ちぃて!これでオジさんとイイことしない?」
するとおっさんは、手で四の指文字を作った。
4万か。
「安っ。・・・せめて10万以上は出してよ。今時の子供がそれだけで納得すると思う?」
「えー・・・オジさんもコレがいっぱいいっぱいなんやって」
「残念ながら、私の体・・・10万以上じゃないと受け付けないの。出直してきてね、オ・ジ・サ・マ」
そう言って私がおっさんを切り抜けようとした瞬間、強く腕をつかまれた。
「ちょっ!?」
「お嬢ちゃんみたいなべっぴんさん、滅多におらへんねん!ホラ、すぐやから行くで」
「は、離してっ!!」
気持ち悪い手で触るな!
むしろ、警察呼ぶぞ!!
なんて言えるわけなく、そして男女との力の差は歴然。
私の体はグイグイとおっさんに引っ張られていく。
やだ・・・・・・やだ・・・・・・誰か・・・誰か―――――。
「はい、ストーップ。俺の彼女に何してんおっちゃん」
「イテテテテテ」
「く、蔵っ」
間に割り入るように蔵がやってきて
オッサンの手を包帯の巻かれた左手で強く握り、私の手が離れた。
私の手が離れるのが分かると
蔵が今度は自分の空いている右手で私の手を握り、自分の背後に隠す。
「人の彼女に、何手ぇ出してん。オマワリ呼ぶで」
「ヒッ・・・!」
蔵がそう言い放つと、おっさんはどこかにヒョロヒョロと走り去っていった。
「く、蔵・・・ありが」
「何してんねん自分。俺が見てたから良かったようなもんやで」
「見てた・・・って」
蔵の右手が私の右手を掴んでいまだ離さない。
「昼間から様子おかしいと思て、フラフラしながら帰るし・・・気になって後ろから見てたんや。まぁ正確には付けてたんやけどな。
運転手さんも呼ばんと・・・何してん、。挙句、あんなおっちゃんの言葉に乗って」
「・・・・・・・・」
「今度から気ぃつけや。家まで送ったるから・・・行くで」
蔵の言葉に、私は彼の手を今度は両手で掴んだ。
足を動かそうとしていた蔵の動きを私は止めたのだ。
「?どないした?・・・怖かったんか?」
「100万出すから、私のこと抱いて」
「はい?え・・・今、何て言うた?」
自分で何を言ってるのか分かってる。
でも、もう・・・・・・忘れる方法が見つからない。
ならいっそ、抱かれて・・・・・・忘れたい。
あんな親父に抱かれるのは真っ平ゴメンだけど
蔵だったら・・・・・・。
「お金ならいくらでも出してあげる。私を――――」
「抱いて。メチャクチャに抱いて」
「おまっ・・・本気か?」
本気かもしれない。
でも、抱かれて・・・忘れれるなら
壊れるまで、 抱 イ テ 。
Progress!
(動き出す関係。驚愕を口にした無糖な姫君)