朝、目が覚めて起きた。
腰に死ぬほどの激痛が走る。
思わずベッドに潜って、唸る。
そうだ、昨日・・・私、蔵と・・・・・・。
そう思って、私はもう一度寝返りをする。
腰の激痛に耐え切れず、またしても唸り声を上げるのだった。
「本当に、大丈夫?ちゃん」
「うん。ちょっと、お腹痛いだけだから・・・心配しないで」
蔵に言われたとおり、私は学校を休んだ。
中々起きてこない私を心配して
お母さんが部屋にやってきた。
正直、ベッドから起きたくないほど・・・・・・腰が痛い。
「腰が痛いから学校を休ませて欲しい」なんて絶対に言えないので
「お腹が痛いの。今日休んじゃダメ?」とお母さんに尋ねたところ
お母さんは怒りもせずにっこりと微笑んで「体が堪えたのね、いいわよ」と言ってくれた。
「お母さんまで、休まなくていいのに」
「娘がお腹痛いって言うのよ。母親が休まなくてどうするの?」
「で、でも・・・っ」
「いいのよ。ちゃんは心配しなくても、お仕事持ってきてるから」
そう言って、お母さんは私の頭を撫でてくれた。
そして「何かあったら呼んでね」と言って、私の部屋を出て行く。
私は枕の横に置いた、携帯を取り・・・・・・電話をかける。
『はいはーい、。調子はどない?』
相手はもちろん蔵。
向こうの声に、私はちょっとイラッとした。
「よくもまぁ平然と居れるわね、エロ関西人」
『酷いで。・・・んで、今日は休めるんか?』
「お腹痛いって言ったら、休ませてもらえた」
『腰痛い言えばえぇのに』
「言えるわけないでしょ!その・・・アンタと・・・・・・」
昨日のことを思い出し、私は思わず顔が赤くなった。
初めての事。
どうすればいいのか分からない私に、彼は優しくしてくれた。
それを思い出すだけで、ゆでダコ状態になる。
『?・・・どないしたん?』
「なっ、何でもないわよ!・・・私、授業でないんだからノート取っててよね」
『分かってる。あ、せや・・・今日、そっちに行くわ』
「は?・・・アンタ、部活は?」
蔵の言葉に私は思わず驚いた。
テニス部が、部活サボって何しに来るって言うのよ!
『今日は自由参加の日やから、お見舞い』
「自由参加?まぁいいわ、最初にそう言いなさいよ。ビックリするでしょうが」
『あれ?そうなん?』
「アンタ、一応部長でしょ。部長が部活サボって、人の家に来るとか何考えてんのよ・・・って思ったの」
『そらぁ、すんませんでした。じゃあ、前もって言うとくな。月曜日は部活オフやから、帰りは一緒に帰ろうな』
「あー・・・はいはい」
そう言いながら、私は蔵と会話を続ける。
『せやけど・・・何や、隣が寂しいわ』
「は?私が居ないだけでしょ?・・・いいじゃない別に。私が転校してきた前だと思えばいい話でしょ」
『うーん・・・でも、やっぱりがおったほうがえぇ。をずーっと見てるのが俺は好きなんやって』
「・・・・・な、何言ってんのよ」
蔵の言葉に、私の心臓が動いた。
私を見てるとか・・・ヘンなこと言いだした彼に
思わず私は携帯を握る手が強くなる。
『今の言葉、ちょっとドキッとしたんとちゃう?』
「か、からかったの!?」
『お、ホンマにドキッとした?・・・そうかそうか。そんなら』
「いっぺん死んで来いエロ関西人」
からかわれたのを知り、私は携帯の通話を切断した。
そして携帯を元の場所、枕の隣に置き
ベッドに身を沈める。
「・・・・・・痛い」
そう、ボソッと呟き私は再び眠りに就いた。
気づいたら大分寝てた。
置時計を見ると、昼を過ぎてるどころかもう夕方近い。
体をゆっくりベッドから起き上がらせると
腰の痛みも大分癒え、何とか歩けそう。
「・・・・・・お腹すいた」
起きて早々この第一声は有り得ないが
朝も昼も食べていないのだから仕方がない。
毛布をめくり、ベッドから降りて歩き
とりあえず何かお腹に入れようと思い、自分の部屋を出ようとする。
『ホンマですか?』
『えぇ〜そうなんですよ』
『うわっ、コレメッチャ可愛いですね。貰ってもえぇですか?』
『確かそれは小学校2年生のときね。うーん、どうしましょう』
『其処を何とか!』
下からなにやら楽しげに話している声が聞こえてきた。
しかも、確実に・・・1匹、余計な声が聞こえてる。
私は階段を下りて、声のある・・・そう、リビングに向かうと――――。
「上まで丸聞こえなんだけど」
「あら!ちゃん、もういいの?」
「よ、おはよーさん」
「蔵・・・あんたねぇ」
お母さんと向かい合わせに座って
談笑している蔵を見て私は肩を落とした。
いや、本人が「来る」と言ってはいたが・・・まさか本当に来るとは。
「白石さんね・・・ちゃんが心配でお見舞いに来てくれたのよ」
「あ・・・はぁ」
お母さんが楽しそうな顔をして私に近づく。
私は横目で蔵を見ると、蔵は手をヒラヒラと振っていた。
私を欠席させた犯人が此処に居る・・・と言いたいが
流石に何をしたのかをお母さんに言うのは心苦しい。
私はため息を零しながら、蔵のところに行く。
視線に気づいたのか、蔵が私を見る。
「ちょっと来て」
「え?何なん?」
「いいから来る!」
「あ、はぃ」
私がそう言うと、蔵は大人しく立ち上がり
スポーツバッグを持ち上げる。
「あ、せやった!・・・コレ、ホンマに貰ってえぇんですか?」
すると、蔵が何かを思い出したかのようにお母さんに言う。
お母さんは蔵の言葉に笑みを浮かべて――――。
「どうぞどうぞ。随分前のものですけど」
「そうですか。なら、おおきに」
会話を終えると、蔵はすぐさま私のところに来た。
「何の話?」
「ん?・・・ちょっとな」
気になって聞いてはみたが
やっぱり教えてもらえるワケない。
深く追求しても絶対教えてもらえないと思い、私はこれ以上聞かなかった。
蔵を部屋に連れて行き、ドアを閉めた途端―――。
「・・・・・コラ、でかい図体で抱きつくな」
「えぇやん。もう此処は誰も見てへんねんから・・・イチャイチャしたかて、かまへんやろ」
蔵が後ろから抱き付いてきた。
コイツ・・・猫か?
猫だとしても、デカイ猫だな。
デカくて迷惑すぎる猫だな。
「それ、パジャマなん?・・・あ、えーっとネグリジェやろ?」
「そうだよ。お母さんが勝手に買ってきたの、着てあげないと悪いでしょ」
「ふーん。むっちゃ可愛ぇえな」
「あ、服のこと言ってるの?」
「ちゃう・・・のこと。ネグリジェ着てるが可愛ぇえってこと」
「あ・・・ありがと」
耳元でそう言われ、思わず体の体温が上がる。
あまりそういうことを言われたことがないので
私は思わず顔が赤くなる。
ていうか、今時ネグリジェ着て寝る子も居ないだろう。
正直この格好で現れたから笑われると思ったのだが
別の反応が返ってきたので驚いた。
私はそっと蔵の腕に触れる。
「腰、痛たない?」
「もう大丈夫」
「ほなら、明日は学校来れるな」
「ぅん」
優しく語りかけられる言葉に、私はゆっくりと答える。
「・・・アカン」
「は?・・・ちょっ?!」
瞬間、私は蔵から抱き上げられ
ベッドに戻された。と、同時に腰をベッドにぶつける。
あまりの痛さに、声も出ない。
「いっ・・・蔵、何す・・・んっ?!」
蔵に一発「バカ!」と言葉を浴びせようとしたら
唇をふさがれた・・・・・・もちろん、蔵自身の唇で。
舌が私の口の中で暴れまわっている。
蔵の舌の感触が自分の舌に触れるたびに、体が
ビクッと動いて、震える。
絡めるだけで、頭の天辺から溶かされていく。
暴れるのが終わると、唇が離れていく。
「んぅ・・・はぁ・・・あ・・・」
「スマン。ちょっと抑えきれへんかったわ・・・堪忍な」
そう言いながら、蔵は私の肩に顔を埋めた。
「い、いきなりの・・・キスは、やめて。次したらマジで殴るから」
「唐突なキスもえぇやん。は嫌いなん?」
「そうじゃなくて・・・・・準備も出来てないのに、しないでって言ってるの」
「さよか。・・・・・、えぇ匂いするな」
「そ、そう?」
「シャンプー何使こうてるん?」
「は?」
途端、蔵がおかしなことを聞いてきた。
え?・・・シャ、シャンプー?
あの、髪の毛を洗うシャンプーよね?
まぁそれしか思い当たらないし。
「まぁ、・・・・・・女性用シャンプー」
「当たり前やん、そんなん。メーカー・・・銘柄、何処の使こてるん?」
「えーっと・・・・・・って、何で言わなきゃいけないのよ」
「えぇ匂いするから。シャンプーかなぁ〜思もて・・・ボディーソープじゃこないな匂いないし」
「お前は犬か。・・・・・・まぁ、今度教えてあげる」
「ほな、その時は一緒に風呂入ろうな」
「ふざけるな変態」
そう言い放つと、蔵の体がゆっくりと私から離れた。
左手がそっと私の頬に触れる。
「明日、学校来てな」
「そりゃあ行くわよ」
「皆に紹介したるわ」
「うん・・・・・って、は?・・・み、皆って?」
蔵の言葉に私は目を見開かせた。
み、皆って・・・・・・誰?
「テニス部の皆。部長の俺の彼女やーって、皆に自慢すんねん」
「ちょっ、や・・・ヤダ!ていうか、自慢しなくていい!!」
「アカン。悪い虫ついたらどないすんねん!」
「別に付きゃしないわよ!しなくていい!!」
「あーかーん。どうしても嫌言うなら・・・・・・コレ、ばら撒くで」
すると、蔵が制服の胸ポケットから何か出した。
写真?
私は体を起こし、近づいて見た。
「ちょっ!?なんで持ってるのよ!!!」
「さっきのお母ちゃんから貰ろた。可愛ええなぁ〜・・・コレいくつのとき?」
「そうね、確か幼稚園児・・・って言わすな!」
「おぉ、ナイスノリツッコミ」
蔵の手に持たれていたのは、私の幼稚園児のときの写真。
そういえば・・・さっき、二人がみていた冊子は・・・・・・アルバム。
しかも、幼稚園から小学校低学年までを収めた・・・それ専用のアルバムだった。
「や、やだ!返して!!」
「じゃあ、テニス部の皆にのこと自慢してええ?」
「うっ・・・ゃ」
「嫌言うたら、ばら撒く。俺、テニス部もそうやけど・・・新聞部にも所属してんねんで。
お嬢様の意外なる麗しき過去!とか見出し記事になるなぁ」
「なっ!?」
こんの・・・関西人っ。
究極の選択。
彼女自慢をさせるか。
それとも
昔の写真をいい笑いのネタにされるか。
答えは今すぐに死にたい。
もう恥ずかしすぎることばっかりだ。
何で私こんなヤツに心許したんだろうと
後悔するも時既に遅し・・・・・・か。
「ゎ、分かったわよ」
「ん?どっち?」
「彼女自慢したいなら、勝手にして。その代わり私の迷惑にならない程度にしなさいよ。
ある事ない事言ってみなさい、その綺麗な顔ぶっ飛ばすから」
「き、肝に銘じておきます」
「なら、写真返して」
これでようやく緊張から開放されると思い
私はため息を零しながら、手を出して
蔵に写真を返してという。
「誰が返す言うてん」
「は?」
蔵の言葉に、私は盛大に驚いた。
「だ、だって・・・自慢して、いいって・・・私、言った」
「おぉ、聞いとったで。せやけど、俺は一言も了承してくれたら写真を返すとは言うてへんで」
蔵はにやっと笑みを浮かべて、私を見ていた。
は、嵌められた・・・・・・!!!!
「こっんの・・・エロ関西人が!」
「おぉ、お嬢様ご乱心や」
私は蔵めがけ枕を投げつけた。
でも、蔵は笑いながらひょいとそれを交わした。
こんなヤツに私・・・どうして、気を許しちゃったのかしら?
「蔵のバカ!お前なんか嫌いだ!!」
「俺は大好きやで、」
「死ね!」
「ぐはっ?!」
枕が蔵の顔面に辺り、ベッドから落ちた。
でも、やっぱり
彼だったら・・・という気持ちが生まれたことは、黙っておこう。
言い出したら最後、多分調子に乗ると思うから。
Like?
(好き?でも、一緒に居て心は落ち着く)