「じゃーん!俺の彼女や!」


次の日の放課後。
私はテニス部のコートに居た。

先日の約束どおり、私は四天宝寺テニス部の部員の前で
蔵の彼女として紹介された。


帰ろうとしたら思いっきり腕をつかまれ
「何処行くん?」と笑顔で止められた。
その笑顔に何かしらの恐怖を感じ、私は渋々此処に居る。



「ちゅうわけやから。お前等・・・手ぇ出すなや」

「いや、別に出せへんけど」

「黒塗りベンツやでアイツ」
「あぁ、この子が黒塗りベンツなんやね〜」

「は?」


謙也が呆れながら言う側で
おでこにヘアーバンドをした奴と眼鏡をかけたオカマ口調の奴が
私のことを指差しながら「黒塗りベンツ」と言う。




「あ、もしかして・・・ウチの車のこと言ってる?」

「そうや。流石ボンボンのお嬢様はちゃうねんなぁ〜」

「ボンボンやから家も豪華なん?」

「まぁ、そうじゃないの?よく分かんない」

「デカかったでー・・・洋風のお城っちゅう感じやったな」





二人の問いかけに、私が答えると
笑顔で蔵が会話に混ざってきた。





「え!?白石、お前・・・もう行ったんか!?」

「当たり前や。俺、の彼氏やもん。なー、

「人前でくっつかないで。みっともない、やめて」

「えぇやん、彼氏と彼女なんやから」

「それでもやめて」

「うわっ、冷たっ!白石、こんな女の何処がぇえの?小春のほうが数万倍えぇで」

「小春?」




ヘアーバンドの奴の言葉に私は思わず反応した。




「小春って・・・誰?」

「はいはーい、アチシよーん」

「貴方が・・・金色小春なの」

「え?何で、お前・・・小春の苗字知ってるん?」



謙也の言葉に私はすぐさま答えた。





「いや、去年の全国模試の順位でしか名前知らなかったんだけど・・・女かと思ってた」

「あら?じゃあ貴女がウチの上におった子ぉ?ホンマ頭良ぇんやね」

「いやいや。アレは、たまたま」

「ちょっ、ちょっと待って!俺らにも分かるよう説明してくれへん。次元が違いすぎる」




蔵にそう言われ、私はため息を零した。
正直去年のことだしあんまり私自身も覚えていないが。






「去年の全国模試で、金色小春の名前を見てただけ・・・ただ、それだけのことよ」

「あ、ちなみにこの子がウチに1点差で勝って、首位取ったんやけどね」

「え?」

「首位って」

「全国で、1番ちゅうことやろ。ホンマ、何やこのお嬢様」



彼の説明もあってか、全員が唖然としている。
別に普通に勉強してれば、全然取れる問題だったし
1点差と言っても、私がヘマっていれば彼が1位だったかもしれない。




「でも、驚きやね」

「え?」


すると、彼・・・・金色小春は私をまじまじと見る。
いや、そんな珍しい生き物じゃないわよ私。







「自分、去年まで氷帝におったんやろ?・・・覚えてるでー、学校名もちゃんと記されてたんやから」

「・・・あ」





彼の言葉でドキッとした。
しまった、やっぱり名前・・・出すんじゃなかった。

思い出したくないことを、自分で掘り返すとか・・・・・何やってんだろ、私。
思わず私は首から提げてるネックレスを握った。




「あー・・・せやから、侑士と仲良かったんか。同じ学校やないと関わりないもんな、あのアホと」

「え・・・えぇ」






謙也の言葉に、心臓が酷くうるさい。
自分でも次にどんな言葉が彼等の口から出てくるか予想できない。

手が震えて、バレないように見せるのがもう精一杯。

ダメだ・・・氷帝の名前を出されるだけで、こんなに動揺するなんて。







「氷帝かぁ。なぁ、氷帝って――」

「ストーップ。話はこれでしまいや、練習せぇ」

「っ!!」





瞬間、蔵が私の体を後ろから抱きしめ
話を中断させた。







「えー、まだ聞きたいことあんねん。邪魔すんなや、白石」

「アカン、練習せぇ。また今度な」

「ちぇっ。後で見とれ・・・負かしたる」

「聞こえとるで、ユウジ。返り討ちにしたるわ」






そう言って、部員がそれぞれの練習を始めた。
私はホッとしたのか、体の震えも治まり
体温が徐々に元に戻っていく。





「堪忍な」

「え?」






突然、蔵が私に謝ってきた。
いや、彼が謝ることは一切ないはずなのに
何故謝られているのか分からない。







「悪気があって言ってるわけやないねん。許したってな」

「わ、分かってる。別に私も怒ってるわけじゃないから、謝らないで」

「おう。・・・あ、自分今日迎えなん?」



すると今度は、迎えのことを話してきた。



「いや。魁さん、今日はお父さんの仕事の送り迎えだから・・・こっちには来れないの。
だから、地下鉄で帰ろうと思って」

「あ、せやったら。俺、チャリンコで乗っけて行くで。二ケツしよーや」

「は?何それ?」






蔵の口から出てきた言葉に
私は思わずポカーンとした表情で返した。
だが、私の言葉に驚いたのか蔵は目を見開かせて驚いていた。






「え?・・・二ケツ、知らんのん?」

「何それ?」

「あー・・・お嬢様には、危険すぎるもんやからなぁ。知らんで、当然か」

「はぁ?意味分かんない。自転車で何するのよ?」

「おぉ、チャリンコは分かったんか!・・・よーするに、二人乗り。普通はアカンで、オマワリに捕まるからな」






あぁ、二人乗りか。
確かに東京でもそういう人見たことある。
あと、それで警察に注意受けてる人も見たことある。

え?ちょっと待って・・・二人乗り、でウチに帰る?






「ちょっ!?遠すぎる!!いくらなんでも遠すぎるわよ!!」

「別にえぇやん。駅の1つや2つや3つや4つ・・・えぇ運動になるわ」

「部活で疲れてる体に、無理はさせられないわよ。いい、電車で帰るから」

「アーカーン。今日は俺が送ったる、俺のチャリの運転じゃご不満か?」






いや、別に不満とかそういうのじゃなくて。
疲れてる体に更に疲れさせたら、流石のテニス部所属の部長でも
明日の朝練響くわよって思いっきり、それを蔵にぶつけようとした。





「えぇやん。俺ら、恋人なんやし・・・好きな子とチャリで二人乗り、恋人の醍醐味やろ?」





笑顔でそう言われてしまい、言いたいことが全部吹っ飛んでいった。
そうだった・・・もう、友達じゃないんだよね。

私と蔵は・・・恋人同士、なんだよね。






「それに」

「?」

「うまーくフォローしたんやから、それなりのご褒美は貰わんとな。今回は二ケツでえぇけどな」

「なっ!?」





このヤロウ・・・人が下手に出てりゃ、いけしゃあしゃあと。





「わ、分かったわよ。二人乗りするから」

「ホンマ!?やったで!と二ケツ〜、もう俺嬉しすぎて死にそうや」



そう言って蔵は嬉しそうに私を抱きしめた。
部長が部活中にはしたない事するんじゃないわよ。って言いたかったけど
こういう子供みたいにはしゃぐ彼を見ていると
どうしても振り払う力が全部奪われていく。



「安全運転、しなさいよ」

「かしこまりました、お嬢様」




彼の優しさに触れるだけで、言いたい事も何もかも・・・掻き消されていく。
側に居るだけで・・・どうして、こんなにも。

















「俺の愛車や!ホイ、後ろ乗りぃ」



結局蔵の部活が終わるのを待ち、駐輪場まで一緒に行く。
蔵は自慢げに自分の乗ってきた自転車を私に見せた。




「・・・・・・どうやって乗るの?」

「え?其処から?!・・・、それ計算で言うてるんか?」

「計算で言えるほどの余裕はないわよバカ。本気で言ってるのよ」




私がそう言うと、彼は若干笑いを堪えている。
腹立つわね。




「笑うんだったら私、電車に乗って帰るわよ」

「あー堪忍、堪忍っ。普通に足揃えて座ってくれたらえぇんねや。椅子座るみたいにな」

「危なくない?後ろに倒れそう」

「あー、せやったらちょっと傾けるからそれで乗りぃ」





蔵がそう言いながら自転車を少し傾けた。
私はおそるおそる後ろの補助に乗っかった。
「補助のそれ掴んどき」と蔵に言われ、掴むと自転車が真っ直ぐを向く。






「おぉ、お嬢様ニケツ初乗り〜」

「やめて。そう言われると恥ずかしい」

「悪い悪い。ほな、俺の腰に手ぇ回し・・・普通に制服握ってたら振り落とされるからな」

「ぅ、ぅん」





もう言われるがまま、私は蔵の言うとおりにする。
うわっ、意外とガッチリしてる・・・とか思ってしまった(そりゃあテニスしてるくらいだからね)。




「えぇか?」

「ぅ、うん」

「怖かったら背中にくっついてえぇで。まぁ振り落とされんようにしとき」

「安全運転はしなさいよ」

「はーい。ほな、行くでー」




蔵が軽く返事をすると、ペダルを踏んで
自転車は勢いよく進み始める。瞬間、体が思いっきり振られ
後ろに行きそうになったが、何とか自分の力と蔵の腰に回した手で前に戻ってこれたが―――。






?どないしたん?」


「アンタの背中で鼻ぶつけた。思いっきり背骨に当たって痛いわよ」


「あらら。まぁ貴重な体験してると思もたらえぇやん」






でも、痛いことには変わらないんですけど。と言いたかったが
あまりの鼻の痛さと、怖くて片手すら離せない状態に私は今度こそ
振り落とされてなるものかと思い、蔵の背中に密着した。


しばらく何も話さず、蔵は自転車をこいで
私は彼の背中に密着して、ゆっくりと流れていく町の風景を見ていた。

何か、車で通るときの風景とは違うように見えていた。






「チャリもえぇやろ?」

「え?」




ふと、蔵が話しかけてきた。




「車や電車で通る時の風景とちゃうから、ある意味新鮮やろ?」

「・・・ぅん。いつも車だから、こんなのあんまりしたことない」

「お嬢様はそれだけ大事にされてんねや、えぇやん」

「・・・・・・・・・」





彼の言葉に、私は思わず黙った。
お嬢様だから・・・大事にされてる・・・か。






?」

「・・・ありがとう」

「へ?」

「ありがとうって言ってるの。こういうこと東京じゃ出来なかったし、氷帝にいるときはいつも送り迎えばっかりだったから」

「金持ちの学校はちゃうねんなぁ〜ホンマに」






そうね。
お金持ちの学校だからこそ・・・・無理矢理な事もあった。
嫌という気持ち、たくさんしてきた。

でも、大阪に来て・・・四天宝寺に転入して、そして―――。








「蔵」


「何なん?」


「好き」


「・・・知ってるわ、そんなん。俺も好きや」






彼に出会って、彼と”
恋人“という契りを交わした。




たとえ、それが・・・・・
偽りの愛という形だとしても。




ほんの少しだけ、頭のどこかから・・・アイツを忘れられればいい。
きっと完全には忘れる事なんて出来ない。
だけど、蔵が側に居てくれたら・・・・・・きっと、忘れられるはずだって、思いたい。



だけど、アイツの事を忘れてしまえば・・・・・・―――――。

















「よっしゃ!着いたで


蔵は宣言どおり、私を家まで送り届けた。
車だったら30分かかる距離を、多分1時間と半分?くらいかけて
私を家まで送り届けてくれた。

此処から彼の自宅までは相当遠いだろう。

私は補助席から降りて、蔵を見る。




「体大丈夫?」

「おう。練習よりか全然楽やで、こんなん」

「あんまり無理、しないでよ」

・・・俺のこと心配、してくれてるん?」



蔵が物珍しいものでも見る様な目線を私に飛ばしてきた。
ちょっとその視線に私はカチンと来る。



「当たり前でしょ。いくら部活してるからって、部活と自転車漕ぐのとじゃ違うんだから」

「あ、はい・・・すんません」



私の言葉に、蔵はすぐさま謝った。
ため息を零して、私は顔を横に背けた。



「ったく。気をつけて、帰ってね・・・送ってくれて、ありがとう」


「どーいたしまして。まぁ、いつでも言うてや・・・俺のチャリの後ろはの特等席っちゅーことで
だーれも乗せへんようにしとくから。また一緒に帰ろうな」


「・・・ぅ、うん」



私がそう返事すると、自転車の方向を変えて
蔵はペダルに足を置く。






「ほな、また明日な」

「うん。・・・あっ、あの・・・蔵」

「ん?な・・・」





蔵がペダルを踏み込む前、私は彼を呼び止め
精一杯背伸びをして、彼の唇に自分の唇を触れさせた。

ほんの数秒、触れて・・・私はすぐさま離れた。







「フォ、フォロー・・・・してくれたお礼と、送ってくれた・・・お礼って事で」


「へ?あっ・・・あ、あぁ」


「じゃ、じゃあ明日ね」


「お、おう・・・明日な」






蔵の顔すら見ず、私は急いで家の中に駆け込んでいった。


人生最大・・・初めて、自分から相手にキスしました。

こんなに恥ずかしいものなんだと、そして二度とするもんかと
私は心の中で呟いたのだった。




















唇が今でも熱い。
自分の指で触れるたびに、まだ熱が残っているように思えた。


チャリンコを凄いスピード出して
熱を冷ますも、さっきの事が脳裏に蘇ってきて逆効果。




「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・アカン、意味ないやん」



いつもどおりのスピードで帰ろう思たら
が背中にくっついたときのことを思い出して、さらに逆効果。




「何しても無駄っちゅう話かい」





そう、何をしても無駄やった。


が【氷帝学園】という学校の話題を出された瞬間から
何やおかしいと思い始めた。


首から提げてるあのネックレスを掴んで、手も・・・微妙に震えとった。


せやから元気付けるために、俺は「二人乗りして帰ろうや」と誘った。
まぁニケツを知らんというのはホンマに驚いたけどな。


せやけど、背中に感じたの体温に
俺の心拍数は上がりっぱなしで、平常心を保つのもいっぱいいっぱい。
本気で心の余裕がなくなっとった。




「さっきのキスは・・・マジ、ないで」




自転車を止めて俺は、顔を伏せた。
不意打ちやった。

まさか、キスしてくるなんて想像もせぇへんし・・・ましてや、あのや。
何を思もたか知らんけど、アレは・・・ないで。





「ホンマ・・・・・・俺、どんどん好きになっていくやんか」





ただ、が何かを忘れたい・・・その気持ちに俺は付け込んだだけ。
せやから、から俺はどう思われてるかよう分からん。

俺の一方通行なんやから、しゃあないねん。

しゃあないねんけど・・・・・・好きなんや・・・の事が。



でも、俺が好きな気持ち増やし続けても
にはきっと届かへん・・・・・アイツが忘れたい気持ちを忘れるまで。


俺の気持ちは、届かへんねや。


いや、が忘れられたとしても・・・・・・俺の気持ちは、伝わるはずない。


それでも――――。






『好き』




「俺も、好きや・・・・・・







お前をずっと好きでいたいんや。

お前とずっと繋がっていたいんや。


なぁ、あの『好き』は上辺なんか?それとも・・・本物なんか?





心に問いかけても、返事なんか返ってけぇへん。

おぉ、分かってるわそんなもん。

ただ、を思えば思うほど・・・触れ合った唇が熱くなるだけやった。




Heat
(君を考えるだけで心が、体が、そして唇が熱くなる)

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