『何で言わなかったの?』

『言う必要がなかったから言わなかったんだ』

『・・・別に気にしてないから言えばよかったのよ』

『お前の迷惑になることはしねぇよ。だから言う必要はないと俺が判断したんだ』












『お前は俺の婚約者だ』


























「あー、腹立つ。で、聞いてくれる?」

「さっきから聞いとるわアホォ」



蔵と付き合って早いもので1ヶ月が経った。
体も、まぁ・・・うん、それなりに重ねるようになったし
周りからどうみても【恋人同士】に見られていて
私の忘れたい気持ちだけのために蔵と一緒に居るとは思われていなかった。

そして、ある日の事。
私は蔵の部活仲間であり、東京にいた時の学校
氷帝学園での友人、忍足侑士の従兄弟である忍足謙也に愚痴を零していた。






「お前ら・・・まだケンカしとんのか?」

「アイツが素直に謝るまで、私絶対謝らない。つか私悪くないし」

「ホンマ、お嬢様は何処までも我がままやねんな」





そう、私と蔵は現在ケンカ真っ只中。
クラスが一緒かつ席が隣というので、顔を合わせるどころか
同じ空気すら私は吸いたくない。

それで謙也のクラスに逃げ込んできたのだ。





「ちゅうか、聞くの忘れとったけど・・・・お前ら、何でケンカしてん?」

「は?」




すると、謙也がそんな事を尋ねてきた。
あぁそういえばとりあえず愚痴るだけ謙也に愚痴って
ケンカの理由を話していなかった。



「この前・・・蔵と一緒に帰ってて」











『お腹すいた』

『ん?、腹減ったん?お昼食べたやろ?』

『食べたけど、アンタ待ってる時間が暇だったから勉強してたらお腹すいたの』

『あ、すまんすまん。せやったら飯食って帰る?美味しいお好み焼き屋の店、俺知ってんねん』

『でも』

『本場のお好み焼き、食うたことないやろ?』

『・・・ぅん』

『せやったら、食ってみるのもえぇで。な、行こうや・・・俺も正直腹減ってん』

『じゃ、じゃあ』








「ラブラブチャリンコニケツの行く果てがお好み焼き屋か・・・オモロイな」

「前者は余計なお世話。仕方ないでしょ、お腹すいてたんだもん」



蔵と帰る前、本当にお腹がすいていた。
でも家まで我慢できるかどうか微妙なところだった。

多分聞いてないと思ってボソッと呟いたが
蔵が見事にそれを拾い上げてしまい、2人でお好み焼き屋さんに行くのだった。



「それとケンカと何の関係があんねん?」

「最後まで聞きなさいよ。んで、とりあえず蔵が美味しいお店連れて行ってくれて」

















『何食う?』

『色々あって迷う・・・うーん』

『クーちゃん決まったら呼んでなー』

『おう!分かったわおっちゃん』







「アイツ、行きつけの店に連れて行ったのか・・・お店の人から”クーちゃん“って呼ばれてた」

「あぁ。妹からもアイツそう呼ばれとるで」



初めて、【蔵ノ介】、【蔵】という呼び方以外の呼び方を
聞いて思わず心の中で笑ってしまった。
まるで猫につけるような名前みたいだったからだ。





『うん、決まった』

『おっしゃ。おっちゃーん!!』

『あいよ。何にする?・・・クーちゃんいつものかい?』

『おう、豚玉な。は?』

『(クーちゃんってウケるんだけど)モチチーズで』

『あいよ。豚玉とモチチーズやね・・・すぐ持ってくるな』




2人分のお好み焼きを注文して
お店の人が引いた瞬間――――。




『よぉ、オモロイ組み合わせのモノ食えるな』

『は?・・・そ、そうなの?だって美味しそうだったし』

『アカンで、。まずはな、王道の豚玉で行かなアカンって・・・いきなり脇道逸れてどないするん?』

『脇道って・・・別にいいじゃない。私がそれ美味しそうだったから注文したんだし』

『せやけど、いきなり・・・モチチーズって』

『言いたい事あるならはっきり言いなさいよ、蔵』

『俺的にアカンな。伸びるものばっかりやん・・・納豆とちゃうねんから』

『納豆みたいにネバネバしてるわけじゃないんだから。ただ伸びるだけよ?それに必要以上に
お好み焼きの味殺して、お餅もチーズも入れないって』

『やっぱりアカン。豚玉が美味い』

『自分の好み押し付けないでよ。迷惑』

『押し付けてないわ。ただ、それがえぇ言うてるだけや』

『ただの押し付けよそんなの。人の好みにケチつけないで』

『押し付けてない言うてるやんか。ホンマ、お嬢様は我がままなんやから』

『そこでそれ持ち上げるのやめてくれる?何かある事に”お嬢様ネタ“持ってこないで。それも迷惑』

『別に持ち上げてないやん。ただ、自分が我がままやー言うてるんです。
世間知らずが









「最後の一言でカチンって来て、机叩いて立ち上がって帰ってやった」

「お前ら・・・何かちっちゃいことでケンカしてんな」



そうね、我ながら本当に小さい事でケンカしてるって思った。
でも、好みにケチつけないで欲しいし、お嬢様だからって世間知らずと思われたくない。
それなりに世間様渡り歩いてるわよ・・・貿易商の娘って言うのもあるし
何かと知っておかなければいけないことだってある。




「もう、それ言われて口も聞いてない」

「ホンマ・・・お前ら、オモロイカップルやな。お好み焼きの種でケンカするとか有り得へんぞ」






謙也の言葉に私は止まった。

カップル・・・か。
そうか、やっぱり周囲の人にはそう見えてるんだ。

多分お好み焼き屋のおじさんからもそんな風に見えてたんだろうなぁ。

私がただ、アイツの事を忘れるために一緒に居てくれてるだけなのに。
ただ・・・・・・それだけのことで、恋人ごっこしてるだけなのに。






「おい、どなんしたん?」

「え?・・・あ、いや・・・何でもない。とにかく、蔵が謝るまで私絶対謝らないわ」

「それはえぇけど。・・・・まぁ本人も悪いとは思てるけどなぁ」

「は?」





謙也の言葉に、私は素っ頓狂な声を上げた。
悪いと思ってる?・・・嘘ばっかり。
ふて腐れた表情で私の隣に座ってる人間がそんなはずないわよ。




「アイツ、今めっちゃボーッとしてんねん。この前も小春とユウジがめっちゃ冷やかしてボール当てよったわ」

「ボーッとって・・・ていうか、小春ちゃんとユウジもボール当てるとか・・・低レベル」




「いつもやねん、あの2人は」と謙也は付け加えて、更に話を進める。



「なんちゅうか心此処にあらずってヤツで・・・ボーっとしてるわ。そうかと思たら、何や頭引っ掻き回して
”あーー完璧(パーフェクト)に謝る言葉が見つからん!!“とか言うとったで」

「謝る、言葉・・・って」



思わず心臓が動いた。
だって、アレだけ人の好みにケチつけて、挙句腹の立つことを
言いまくったヤツが今更なんで・・・・・・。






「謝ったらどうや?」

「・・・・・・私、悪くないもん」

「せやけど、自分も何や酷い事言うたんやろ?」

「・・・・・・・・・」

「お前ら2人とも両成敗や。どっちが謝ってもそう大差はないと思うで・・・俺から言わせてみればな」




謙也の言葉は確かにという部分がある。
蔵も悪いが・・・私も、悪かったりする。

だったら、謝るべき?

いや、謝らなきゃいけないのよね。
どうせ私が謝っても、蔵が謝ってもそう大差はないというのなら。







「今回は折れるわ。・・・アイツよく何処に行くか知ってる?教室、出て行ったのは見てるの」

「おぉ、お嬢様がご決断やな。・・・白石やったら、保健室によぉ行くで。薬品くすねてるんとちゃうか?ていう噂があるけどな」

「薬剤師の息子で毒草バカだからね。そう思われても仕方ないわよ・・・ありがと、謙也」

「どーいたしまして。あ、この借りはいずれしてもらうで」

「そうね。何か良いのでも考えといて」

「おう」







そう言って、私は大分慣れ始めた校舎を一人歩き
彼が行ってそうだと思われる保健室へと足を運ぶのだった。

とにかく「ゴメン」って謝ればいいのよね。

だが、私は・・・謝ったりするのがどうも苦手だった。

蔵と初めて会ってしばらくして、彼に酷い事を言ってしまった。
そのときに彼に「ゴメン」と謝ったのだが
その後、口から言葉が上手く出てこず、ただ頷くだけしかしなかった。



あの時の蔵は、凄く優しく私の頭を叩いて「えぇて」と言ってくれた。

ホント、こういうときの口下手だけはどうにかしたいけど
染み付いてしまった性格は中々変えようにも変えられないということくらい私は知っている。


とにかく謝ろう・・・後は、何とかなるようになる。


と自分に言い聞かせながら、保健室に近づいてきた。



保健室の扉が微かに開いていた。
私はとりあえず深呼吸をして、それを開けようとした。







『付き合うてください!』





はい?



瞬間、耳を疑うような声が聞こえてきた。
もちろん、私じゃないわよ。・・・女の子の声。

私は気になり、微かに開いてる扉の隙間から中を覗いた。



其処には蔵と・・・知らない女の子。




蔵は薬品棚の前に居て、その後ろに女の子がいた。






『1年の頃から、白石君の事・・・好きやった。あの・・・私と、付き合うてください!』






蔵はよく告白される。
学校の生徒もそうだが、テニスの大会とかでの関西の他校の生徒からも
告白された事が何度かあると私に話してくれた。


そらぁ、見逃すわけないでしょ・・・・・・神様が生み出した完璧すぎるほどの人間。

放っておかないのが、おかしい。

蔵も・・・アイツも、同じだ。





『あー・・・ゴメンな。俺、もう彼女おんねん』

『え?あ、あのっ・・・だ、誰ですのん?』





蔵は苦笑いを浮かべながら、女の子にそう言う。
すると、女の子はどうやら蔵の彼女が誰なのか気になったらしい。

「はーい、私ですけど」なんて言って出て行けるほど私度胸ないし
ましてや、目の敵にされるのが当たり前。


別に、それも・・・もう、慣れたことだから・・・気にしてない。


言うなら言えばいい・・・どうせ、ケンカしてるんだもん・・・言えば
私を見返す絶好のチャンスよ。と心の中で思っていた。







『ゴメンな。それは言えへんねや』





え?

蔵の口から出てきた言葉に、私は耳を疑った。






『迷惑かけとぉないし、俺が喋ったら・・・アイツが嫌な思いするかもしれへんし。せやから、言えへんねん。ゴメンな』





蔵がそう言うと、目の前の女の子は泣きながら
こっちに向かってくる。

や、ヤバッ!

私は慌てて、保健室から少し離れて
あたかも今、其処に現れたように見せかける。

すると、女の子は泣きながら保健室を出て
私の肩にぶつかった。



「あっ」

「!!」



思わず声が出た。
瞬間、女の子と目が合い・・・彼女は風のように去っていった。


まぁ、こういうの・・・慣れてるし、気にしてない。
でも相手の女の子・・・可愛かったな、なんて思ってしまった。


私はため息を零して、保健室に入る。
すると、私の視線に気づいたのかこちらを見て・・・目を見開かせて、すぐさま顔を背けた。

背けたくなるのはこっちよ。
告白されてるところまでバッチリ見ちゃってるんだから。




「ぃ、今さっきの・・・・・・見てたんか?」

「・・・・・・そうね、イヤでも目や耳に入ってきた」



嘘をつくのは微妙に苦手。
だから、私は蔵が告白されたところを見ていたと答えた。

そこからは沈黙。

謝るのよ、
ちょっと「ゴメン」って言えば、後は自然と空気が何とかしてくれる。

私は手で握りこぶしを作って、閉じていた口を少し開き――――。









「「ゴメン」」




「え?」

「なっ?!・・・・・・被るとか、有り得へん」



口を開いたが、出てきた言葉は同じ・・・しかも被った。
私は思わず目を見開き驚いた表情をし、一方の蔵は肩を落としていた。



「な、何が言いたいのよ」

「あーーもうせっかく、パーフェクトに仲直りしよう思たんに・・・・・・何で被るん?」

「し、知らないわよそんなの!」



蔵の言葉に私は思わず怒りの声を上げてしまった。
タイミングが重なっただけなのに、何で此処まで言われなきゃいけないの?

すると、蔵は咳払いをして――――。






「この前は・・・その、俺・・・言い、過ぎた。・・・スマン」

「わ、私だって・・・・・・ゴメン」

「また・・・食いに行こうや、お好み焼き。・・・の頼んだヤツ、食べてみたいし」

「ぅ・・・ぅん」

「ほな、そん時は・・・・・・お好み焼き焼いて、俺に食べさせてな」

「ぅん」

「よっしゃ!ほな、近いうちにまた行こう。一人で食うのは寂しゅうてかなわんわ」






蔵はそう言いながら私に近づいて、笑いながらそう言った。
「ホント単純」って思ったけど、ギクシャクして過ごすよりか・・・全然マシ。

話さないだけで、凄く・・・不安だったから。






「せやけど・・・今さっきのアレ、見られてたっちゅーのはアカンかったわ」

「アレ?・・・あぁ、告白の?」




仲直りを終え、私が保健室の先生の椅子に座ると、蔵は薬品棚に体を預けた。
彼は非常にマズそうな顔をしている。




「別にいいよ。気にしてないから」

「え?・・・いや、せやけど・・・俺、告白されてねんで?普通なら気にするやろ?」

「普通ならね。・・・・・・普通じゃない生活送ってたから」

?」




あんな場面・・・何度も遭遇した。

だから、正直慣れてる。
慣らされてしまったのかしら・・・・・・アイツのせいで。






「ねぇ」

「な、何なん?」

「何で、相手の子に私の名前言わなかったの?ケンカしてたし、言えばよかったじゃん」







思わず私は彼にそれを問う。
すると、蔵は平然とした顔をして・・・・・・。





「言うたら自分に一番被害来る分かってるやろ?そんな言えるわけないやん」

「でも・・・っ、言ってもよかったのに」

「アホォ、言えるかいな。大事な彼女やねんぞ・・・自分の傷ついたところなんか見たくないわ」

「・・・・・・・・・」




大事な・・・彼女。

アイツも、そうだ・・・私を婚約者扱いしてたから
告白されても・・・私の名前、絶対に言わなかったんだ。




「・・・そっ、か」


・・・どないしたん?俺、何か悪いこと言うたか!?」






蔵の言葉に私は思わず涙が零れ
笑いながら顔を伏せて泣いてしまった。

慌てて、蔵は私に駆け寄り
頬を包んで顔を覗きこんできた。






「スマン・・・やっぱ早よう謝ってれば」

「ち、違ぅ・・・違うの」

「え?・・・せやったら、何で?」

「嫌な、事・・・思い出しちゃって・・・・・・ゴメン・・・すぐ、泣き止むから・・・」



すぐ泣き止むなんて言ってはみたけど
一度思い出してしまったことで、泣いてすぐ泣き止んだ事なんて
私は一度たりともない。

腕で溢れる涙を拭うも、決壊したダムのように
流れ落ちてくる。




「ゴメン・・・ホント、ゴメン・・・」

「謝らんでえぇって。そんな、嫌な事思い出して泣くなや・・・泣かんといて、



そう言いながら、蔵は私を抱きしめた。
いつもなら、泣き止むのに・・・・・・抱きしめてもらったら泣き止んでくれるのに
涙が止まらない。








『 お 前 は 俺 の 婚 約 者 だ 』







消えて・・・消えてよ。

もうアンタは私の婚約者じゃないでしょ。

婚約者じゃないのに・・・どうして、消えてくれないのよ。


どうしてよ・・・どうして、消えてくれないの!









「く、らっ・・・も、もぅ・・・ゃだっ・・・」





蔵に名前を呼ばれ、彼を見る。
でも、涙で視界が歪み・・・言いたい言葉が出てこない。





「慰めたろか?」

「・・・蔵」





瞼に彼の唇が触れ、目じりを拭われる。





「嫌な事、忘れるまで・・・今、めっちゃ自分のこと愛してあげたいわ」

「・・・く、らっ・・・」

「アカン?」



そう問いかけられ、私は首を横に振る。

お願い・・・頭の中の思いを・・・消して。
多分、貴方じゃなきゃ・・・きっと消えない。




「でもな・・・学校じゃ、ちょっと無理や」

「ぇっ?・・・ゃだ。・・・消して・・・今すぐ、今すぐして。じゃなきゃ、じゃなきゃっ!」




また思い出して、泣き続けてしまう。


首を横に振って、今すぐにでもしてほしいと
泣いて縋ると、彼は私を抱きしめた。
先ほどとは比べ物にならないくらい・・・キツく、強く。





、よぉ聞いてな。・・・・・自分の一番えぇ顔を・・・こないなところで、見られるわけにはいかんねん。
の可愛えぇ顔を知っててえぇんは、俺だけや。声も、顔も、全部・・・・・・見てもえぇのは俺だけや」


「蔵」


「せやから、今は我慢してくれ。その代わり・・・・・・今日、何べんでもしよ。自分の嫌な事、消えるまで・・・・・俺が側に居るから」


「・・・ゎ、分かった。・・・でもっ」


「ん、何?」




今、それが出来ないというのなら――――。








「キス、して。たくさん・・・キス、して」


「・・・えぇよ。唇が腫れるまでしたるわ」






満足そうな彼の声が聞こえて、キスの雨がたくさん降ってきた。


チャイムが校内に鳴り響いても、それは止むことなく続けられた。
息が出来ないほど、唇を重ねて
本当に唇が腫れてしまうほど・・・熱いキスが繰り返された。



恋人ごっこのはずなのに

私、どんどん貴方なしじゃ生きていけなくなってきてるの。

アイツを忘れるための人だったのに

どうして、こんなにも・・・私・・・貴方を必要としてるの?





Need?
(私には、貴方が必要なの?)

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