複雑な気持ちになってきた。


アイツを忘れたいが為、蔵と恋人ごっこして
キスもして、体も重ねて・・・そう、恋人にとっては
当たり前のようなことを2人で続けた。


私の中から・・・かなりの割合を占めていた
アイツが消えてきた・・・その代わり、増えてきたものがある。




それは――――。











「あれ?、今日眼鏡なん?」



朝、教室で課題をしていると
朝練を終えた蔵がカバンを置いて私に向かって言う。




「うん。朝起きたら目が痛くて・・・コンタクトじゃないの」

「ふぅーん。何や、秀才って感じがするな」

「ゴメン、元から頭良いんだけど」

「うわ、自分で言うか普通」



私がいつもどおりに言い放つと
蔵は苦笑いを浮かべながら私を見た。




「でも、眼鏡なも新鮮でえぇな」

「え?」

「可愛えぇちゅうことや」




苦笑いから一転。
優しい笑みを浮かべて言う蔵に
私は思わず顔を背けた。




「ぉ、煽てても何も出ないわよ」

「お!何かくれるつもりやったん?の愛か?」

「違うわよ、バカ」



そう言うと、HRを告げるチャイムが鳴り響く。


私は思わず首から提げている星のネックレスを掴んだ。







最近の私はおかしい。


いや、おかしくなったのは・・・ほんの数日前。


蔵とたくさん、体を重ねあったあの日。
あの日から私はおかしくなった。


アイツのことを思い出して、泣きじゃくる私を
蔵は慰めるという意味で、たくさん・・・たくさん、体を重ねあった。

それこそ、私が気絶しちゃうくらいまで。




でも、あの時・・・アイツのことなんか、ちっとも思い出さなかった。




私の体の上で、たくさんの愛を、言葉を注いでくれた
蔵のことしか考えていなかった。


何度も、何度も体を重ねて

何度も何度も、好きと囁いてくれた。



本当に、飽きるほど・・・・・・「好きや」って。






『俺も、好きや』





最後に囁かれた言葉に、私は幸せでたまらなかった。

それが、きっと・・・・・・上辺だけの言葉だったとしても。

そう・・・・・・作りモノの・・・言葉だとしても。








〜・・・・・ボーっとすんな」


「え?」



我に返り顔を上げる。

しまった、もうHR始まってたんだった。






「お、今日は何や眼鏡か?秀才美女が際立ってるなぁ〜」


「は、はぁ」



此処は注意するはずの担任が
何やら、私の眼鏡姿に変なことを言い出してきた。

担任の言葉にクラスの何人かがこちらを向く。
しかも、男子。

眼鏡姿は見られるのは慣れてないから
正直見ないで欲しい。




「先生ぇ〜・・・それロリコン発言とちゃうますかぁ?」

「やかましい、白石。黙っとけ・・・ロリコンちゃうわアホォ」





すると、隣に座っている蔵が
担任に向かってそう言うと、皆がクスクスと笑い出す。

「続けるで。もちゃんと聞いとけ」と最後に私の名前を付け加えられ
担任は話を続けた。
私はため息を零して、机を見た。

途端、横から何か飛んできた。
小さく折りたたまれた紙・・・その上には綺麗な字で「読め」と書いてあった。


横を見ると、蔵が指で自分の机を差す。
ようするに「それを読め」という意味だろう。


私は折りたたまれた紙を開いて、中を見る。






『ナイスフォローやったろ?でもボーっとするなんてらしくないで。
何かあるんやったらいつでも俺に言いや。自分の恋人さんなんやから』






私の・・・恋人。



分かってる・・・恋人でも・・・・・・それはフリだって。

フリだけど・・・どうして彼は此処まで私を心配してくれるのだろう。

私だって、恋人のフリ・・・恋人ごっこしてる。
でも、心のどこかで・・・それが楽しいと思っていた。

いや、なんだか・・・・・・「ごっこ」じゃなくなってきた。



ただ、アイツを忘れるためだけの・・・存在なのに。

ただ、アイツを忘れたいだけの・・・関係なのに。



私の中で・・・何か、変わろうとしていた。




















「ねぇ、蔵知らない?」

次の日、私は食堂に居た。もちろん昼食は済ませた。
食堂に私が姿を現したのは、其処に
テニス部のメンバーが固まって食事をしているからだ。


「蔵リン?・・・見てないなぁ〜」

「お前と飯食ってたのとちゃうんか?此処には来てないで」



小春ちゃんとユウジがそう答える。

昼休みになり姿を見ていない。いや、昼食も取らずにアイツは何処かに行った。

「何処行くの?」と私が問いかけたら「野暮用」とだけ答え
彼はそれ以降姿を見ていない。




「保健室には行ったんか?」

「行った。けど居なかった」



謙也の言葉に私はすぐさま返した。

そういつもなら保健室に居るはずなのだが
その保健室にも居ない。まったく何処行ったのよあのアホ。



「でも、珍しいですね」

「え?何が?」



すると、1個下の財前光が堂々と2年の輪の中に鎮座して
私に言葉を投げてきた。




先輩が、白石部長探してるなんて」


「え?」


「あー・・・確かに。そういえば」


「そうやね。いつもやったら逆やろう」




光の言葉で、全員が話し始める。


確かに、言われてみれば
自分でも気づかなかったが、何で私・・・蔵のこと、探してるんだろ?





「白石に何か用でもあるんか?」


「え?・・・・・・ぅ、ぅん。ちょっと」


「あーもうお前らラブラブしすぎや。まぁ俺と小春の愛には勝てへんやろうけどな」


「誰もアンタと張り合ってないわよ、もーほーユウジ」



「何やと!?」とユウジが食って掛かろうとしたが
残念ながら私には痛くも痒くもない。むしろ、ユウジに勝つ自信すらある。





「あ、せやったら・・・屋上は?蔵リン、たまーに猫みたいに日向ぼっこしてる時あるで」




小春ちゃんの言葉で、屋上という場所が出てきた。
確かに今日は天気が良いし、それには絶好の場所ではある。





「うん、じゃあ行ってみる。ごめん食べてる邪魔して」


「えぇて。また分からん事あったらおいでや〜」


「うん。じゃあね」



そう皆に別れを告げ、私はいそいそと食堂を後にし
屋上へと向かうのだった。


向かう最中、先ほどの光の言葉が蘇ってきた。






先輩が、白石部長探してるなんて』





確かに、いつもどこかフラフラしちゃう私を探しに来るのが蔵だった。

だけど、今は立場逆転。
普通なら気にせず教室で待っていれば良い。

だって同じクラスだし、席隣だし・・・気にする事はないはず。


だけど、何故か・・・・・・不安だった、不安でたまらなかった。


側にいないだけで、何でこんなに――――?






「こうなりゃ・・・開口一番で馬鹿だのアホだのって並べてやる」





気づいたら屋上一歩前。
扉を開けようとする寸前だった。

とにかく此処にいたら開口一番で、いろんなことを言うつもりだ。
そして困らせてやる、苛め抜いてやると心の中で決めていた。

うーん、一番良い案としてはしばらくニケツ禁止ね。
きっと蔵のことだ「アカン!それだけは堪忍してくれ!俺の楽しみ減るやんか」とか言うに違いない。
うんそうだ、それにしよう。


蔵への罰ゲーム(?)が決まったところで
私は外へ抜ける扉のノブを掴んで、回しゆっくりと開けた。











『あんな、せやから無理やねん。俺、彼女居るから』





ふと、扉を開ける手が止まった。
私は思わず扉を少し開けて、外を見る。


其処には――――。







『それでもえぇんです。お願いします!』

『いや、あんな・・・それもそれでどうかと思うで。そういうの自分が一番辛いって分かってるやろ?』





またしても、蔵への告白シーンに遭遇。

だが、何やら前回と違う。


もしかして・・・・・・女の子の方が二股かけて欲しいとか思ってるんじゃ?





『でも、私・・・ホンマに、白石先輩のこと好きなんです!』

『いや、うん・・・気持ちは分かんねんけど、俺彼女居るから。ホンマ無理やって』

『せやから、あの私遊びでもえぇんです!お願いします!!』

『それやったら尚更無理や。俺、彼女とはマジで付き合うてるから・・・浮気とか俺したないし。
好きな子居るのに、浮気とか男として最低やろ?自分やったら、どうする許せるか?』

『そ、それは・・・・・・っ』





蔵は正論を並べて、逆に女の子を諭そうとしていた。



何か、おかしい。
胸が痛い・・・・・・むしゃくしゃする。

前も同じ事あったのに、どうして?



どうして、今日に限ってこんなにイライラするの?


たかが、告白じゃない・・・蔵には迷惑だけど
私にとっては・・・当たり前の事だったじゃない・・・そんなの、日常茶飯事だったじゃない。



何で、何でこんなに・・・・・・イライラするの?






『でも・・・でもっ・・・・・・っ』


『あ。・・・あー・・・しもた』





仕舞いには女の子が泣き出してしまった。
どうやら諭そうとしたものの失敗に終わったみたいだ。

蔵は大変不味そうな表情を浮かべていた。





『ゴメン、ゴメンな。でも、俺やのぅても自分にちゃんと似合った男はぎょうさん居るから』

『嫌です!白石先輩やないと私、嫌です!』






女の子は泣きじゃくりながら、蔵に言う。
蔵は申し訳なさそうな顔をして、彼女を説得する。





やめて・・・そんな顔、しないで。


他の子の前で・・・・・・そんな顔、しないでよ。


ちゃんと・・・ダメなら、突き放しなさいよ。



ちゃんと・・・ちゃんと・・・・・・―――――。





「もう・・・嫌っ」




そう言って私は屋上に続く扉から手を離し
そのまま階段を駆け下りた。

扉が大きくバタン!と閉まる音がして
すぐさま私を追いかける足音が聞こえたけど
そんなこともお構い無しに私は駆け下りた。

そのとき蔵の声が「っ!」って言って呼んだけど
もう彼の声で足を止めておくほど・・・今の私にはそんな余裕もなかった。







階段を勢いよく駆け下りて、曲がろうとした途端
誰かとぶつかった。



「・・・っ、ご、ごめんなさ」

「おぉ、何ややんか。白石見つかったか?」

「謙、也・・・それに、皆」



ぶつかった相手はどうやら謙也だった。
謙也の横には、メンバーが揃っていた・・・あ、そっかさっき皆食堂で。




「ん?どないしたお前?」

ちゃん、泣いてるん?蔵リンと何かあったん?」

「え?」




小春ちゃんの言葉に私は頬を拭う。
手には涙の粒が付いていた。

あれ?私・・・・・・泣いて、た?




「・・・っ!待ちぃ!!」


「!!」


「白石っ!?」




すると、私を追ってきたのか
蔵が思いっきり声を出して私を呼ぶ。

その場に居た全員が蔵を見る。





「ど、退いて!!」


「お、おい!?」
ちゃん!?」
「白石、どうなってるんや!?」

「話は後や!・・・、待てって!!」





メンバーの間をすり抜け、私は走った。
もちろん、後ろから同じような足音が聞こえる。

でも、捕まるのなんて時間の問題。

だって、向こうはテニス部。
体力だったら自信あるに決まってる・・・だけど、私だって意地がある。

こんな・・・こんな、醜い気持ち・・・・・・見られたくない!





しばらく走って、人気の少ない所に出た。
私の体力も限界で走るスピードが落ちた瞬間―――。




・・・、待てって!」

「いやっ!!離して、離してってば!!」




手を握られ、動きが止まった。

でも、私は精一杯抵抗する。
やめて・・・見ないで、私を見ないで・・・!!




、落ち着きぃ!」


「やだっ・・・いやっ・・・離して、離してよ!!」


っ!!」



暴れる私を蔵は抱きしめた。
しかもその腕から伝わってくる力は・・・・・・強い。

やめて・・・そんな、強く抱きしめないで。


私は走りながら泣いていた涙が、この瞬間一気に流れ出る。






「離すかいな。・・・・・・大事な彼女やぞ、離さへん」


「だっ・・・だったら、ちゃんと言いなさいよ・・・・・・っ」


「え?」


「ちゃんと言ってよ!ちゃんと突き放しなさいよ!!あんな風な言い方じゃ漬け込まれるだけなのよ!!
アンタ私の恋人なんでしょ!!だったらちゃんとしなさいよ!フリしててもちゃんとして!じゃなきゃ、じゃなきゃ意味ないじゃない!!」


「・・・・・・







もう自分で何言ってる分からない。

いつもならちゃんと冷静になれるのに


どうして、こんなに・・・・・・こんなに・・・――――。









「ちゃんと、私だけ見て・・・私だけを見て・・・・・・・どっかに行くなんて許さないんだから」









彼のこと、
好きになってしまったのだろう。

遊び?そうね・・・酷い言い方すればそうだった。
だって恋人ごっこだもん、そうじゃない。「遊び」のくくりと変わらない。

でも、もう・・・私の中で、アイツへの気持ちは・・・・・・ない。

代わりに増えていったのは・・・・・・蔵への気持ち。



他愛もない話をして、時々ケンカして、手を繋いで

自転車で二人乗りして、キスをして、体を重ねて――――。




偽りの「 好 き 」を交し合っているとしても。








「ちゃんと私だけ・・・見なさいょ・・・・・・ちゃんと見て・・・ちゃんと・・・ちゃんと」


「もう、えぇから。分かってる」







私の言葉を遮るように、蔵が自分の言葉を重ねた。

頬に触れてくる優しくて大きな手。
ゆっくり上げられた顔に、目に飛び込んでくる優しい彼の表情。







「俺はいっつもしか見てへんで。ちゃんとの事見てる・・・見てなかったら、追いかけたりせぇへんやろ?」


「・・・・・・ぅ、ぅん」


「俺の目にはしかないで。他の子やない・・・しか映ってへん。俺が好きなんは自分や・・・やないと俺は嫌や」


「く、ら」


「せやから・・・自分も俺から目、離さんといてな。さっきかて、謙也たちに泣き寄ってホンマ気分悪かったで」


「・・・ぅん、ゴメン」


「コレでおあいこや。・・・・・・大丈夫、俺はが好きやから離したりせぇへんよ」









そう言って蔵は今度は優しく私を抱きしめてくれた。


私はホッとしたのか、体中の力が全部抜けて
全てを彼に委ねたくなる。





「アレな・・・ホンマはに知られんと、片付けたかったんや。この前みたいに、俺自分に泣かれるんのはイヤやから」

「蔵」

「せやから、”野暮用“言うて教室出たんや。でも、まさか探しに来るなんて思いもせぇへんかったわ。
ホンマ、ホンマゴメンな・・・



どうして彼がそれだけを言って教室を出たのかようやく分かった。

この前みたいに、私に泣かれるのではないかと心配しての事だった。


ホント、私の方が馬鹿じゃない。







「あ、ネックレスは付いてるか?結構走ったから取れてるとかあるし」

「え?・・・・・あぁ、大丈夫ちゃんと付いてる。ホラ」






私がネックレスを見せると、蔵は―――。






「チェーンがほっそいからなぁ・・・この際やし、ぶっ太いのに変えたらえぇんとちゃう?」

「重くなるから嫌。コレでいいの」

「突然”切れた!“とか言うのナシな。ネックレス外すときはちゃんと俺に言うんやで」

「うん」





突然切れる事を心配したのか、蔵がそう言ってきた。


お生憎とブランド物なのでそう簡単に壊れはしないの。と言ってやりたかったが
言わなかった。いや・・・・・・言わずにいよう。






アイツへの気持ち・・・もう、此処にはない。

その代わり、貴方への気持ちが溢れ出てるの。


でも、私に・・・そんな事言う度胸はない。
だって彼を巻き込んだのは私が原因・・・その私が彼に本気で「好き」と
言ったところで・・・信じてもらえるはずない。



だから・・・・・・このネックレスは、外さない。





まだ貴方との関係を、終わらせたくないの。






ずっと、好きのままでいさせて。

ずっと、恋人のフリでもいい・・・貴方の側にいさせて。





もう、私・・・・・・貴方ナシじゃ生きていけない。




FalseReal
(気持ちは本物。でも離れたくないから偽りの関係を続ける)
inserted by FC2 system

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル