『3日後、関西大会決勝戦やねん。暇やったら見に来てな』




家族と食事に出掛けてて
部屋に放置していた携帯電話の伝言を聞いた。

蔵から伝言が入っていたのだ。

府大会を順当に勝ち進み、関西大会まで行き

ついには関西大会決勝戦。


つまり、全国大会への切符を手にする戦いというわけ。


私は机の卓上カレンダーを見る。
3日後は・・・暇。






「・・・行こうかなぁ」




そう呟いて、私は部屋を出てキッチンへと走るのだった。








−3日後−


「では、お嬢様。お帰りの際はまたご連絡ください」

「すいません、ありがとうございます」



そう言って太陽が激しく照りつける外へと出た。


3日後、私は関西大会決勝が行われている会場にやって来た。
手にもたれた紙袋にあるものを入れて。

会場は小春ちゃんに教えてもらった。
蔵に教えてと聞くと何やらアイツ、調子に乗りそうだから
此処は敢えて小春ちゃんに聞いた。


「蔵には内緒にしてて」と小春ちゃんにメールをすると
「もちろんやで。いきなりちゃん現れたら、蔵リン驚くでぇ〜」と返ってきた。






しかし――――。




「しまった。何処のコートでやってるのか聞くの忘れてた」


思いがけないミス。


会場に来たまでは良かったものの
何処のコートで決勝戦が行われているのか分からない。

自分とした事が・・・東京でのクセが抜けてないな。

慣れた場所とかに行くと、その後の事をまったく考えていない。
そういえばこういう行動起こして、侑士に何度あの低音域の声で怒られた事か。
(あの音域で怒られると正直怖いのよね)。





「なぁ、一人〜?」


「え?」



突然声を掛けられ、振り返る。
すると・・・・・・知らない制服の人、3人。

言っておくが関西地方の学校の制服なんて覚えちゃいない。
むしろ、何処中?とか聞きたくなる。

決勝見に来るくらいだから、多分ウチの学校に負けた・・・そんなところだろう。





「君、めっちゃ可愛えぇね。私服やけど、中学生?」

「なーなー、何処中?」

「今日確か大阪の四天宝寺と京都の東寺院やろ?あー分かった!自分、東寺院の生徒やろ?
何や大人しそうやもんなぁ」




残念ながら前者です。
私はため息を零し、目の前の3人を見る。



「私、四天宝寺の生徒ですけど」


「あら?自分、コッチの子とちゃうの?」
「標準語やし、越してきたとか?」
「へぇ〜身なり綺麗やのに、四天宝寺なんや。俺も四天宝寺行こうかなぁ」




関西の人って・・・マジで礼儀知らないの?

ワンクッション置くとかしないの?


蔵みたいなちょっとかっこいい人から声かけられるならまだしも
こんな小物みたいなのを相手にするのは疲れる。

いや、蔵とか相手にするのだけでも時々疲れはするんだけど
まぁ好きな相手だし、嫌ではない。


って私、何言ってるの!?




「あのー、決勝何処でやってるか知りませんか?」


「おぉ。今さっきシングルス3終わたところで・・・休憩挟んで、次シングルス2やろ?」
「四天宝寺・・・確か白石とちゃう?アイツ強いよな」
「ホンマ、隙ないでアイツ」



人の話聞いてる?

そりゃあ有力な情報感謝しますけど
私が聞いてるのは対戦カードじゃなくて、場所!




「ほな、俺らと行こうや。案内するで」

「え?・・・いや、別に場所さえ教えてくれれば」

「えぇて。ホラ、行こうや」

「あの、結構ですから」

「早よう行かな、試合始まるで。ホ〜ラ、行こうや」





と男子生徒一人が私の手を握り、グイグイと引っ張っていく。

しかも、何やら・・・・・・完璧にコートとは逆方向。

やっぱり、小春ちゃんかユウジか、謙也か銀さんか健二郎か光あたりに迎えに
来てもらえばよかったかもと思ってしまった。




「おー、お嬢さんやんかぁ〜」


「あ、わ、渡邉監督!!」




すると、其処に相変わらず風来坊みたいな格好をした
四天宝寺テニス部若き名将(とどっかの誰かが言ってた)渡邉オサム監督が現れた。



「わ、渡邉って」

「し、四天宝寺の監督とちゃう?」




渡邉監督の顔を見るなり、私の手を握っていた手が離れる。
私はすぐさま渡邉監督の背後に隠れる。




「・・・ほぉーん。なるほどなぁ〜」



渡邉監督は私の脅えようと、目の前の男子生徒を見て
すぐさま納得をし――――。




「ウチの大事な学校の生徒で俺の姪っ子ちゃんに何か用か?」



すると渡邉監督が口から出任せ(後者)を言い始めた
親戚だとしても、やだ・・・こんなオジさん
カッコいいけど、あまりにも奔放すぎるからやだ。



「え?!い、いや・・・場所が分からないって言うてたんで」
「教えてあげよう思もて・・・なぁ!」
「せやせや」


「の割りに、コートとは逆方向行くみたいな感じやったけど?ホンマか?」

「100%嘘です」



渡邉監督は私に問いかけると、私はすぐさま違うと答えた。
目の前の男子生徒たちは顔が真っ青になる。



「自分等、確かウチと対戦した奈良の法隆中やろ?学校側に電話したろか?
お宅の生徒さんがウチの生徒に不埒な行為を仕掛けて行って、無理矢理――」

『す、すんませんでしたぁ!!』




渡邉監督の言葉も聞かず、男子生徒3人は逃げ足早く去って行った。
私はホッとため息を零した。





「お嬢さん、可愛えぇんやから気ぃつけなアカンで」

「助けていただいて感謝しますが、その発言控えたほうがいいですよ監督。ロリコンと思われます」

「あら?そうか?・・・まぁ安心しぃ、白石の彼女なんやから手は出さん」

「むしろ出したら犯罪ですから」

「ホンマきっついな、お嬢さん」



渡邉監督はケラケラと笑いながらそう答えた。

何故渡邉監督が此処をフラフラしていたのかというと
「競馬の中継がコート内やと、電波妨害で聞こえへんねん」とのこと。
相変わらずというかなんと言うか。

今からベンチに戻るというので、一緒に付いて行く事にした。




「んで、白石の応援か?」

「えぇ、まぁ」

「健気やなぁ〜お嬢さん。大好きな彼氏の応援とは」




渡邉監督に言われ、少し胸が軋む。


確かに、彼のこと・・・少し前ではあるが好きだと
自分自身、やっと自覚した。

だけど、自覚したところで想いが届くはずない。

今でもそう・・・蔵とは【恋人ごっこ】のくくりで居るのだから。


周囲から「恋人・彼氏彼女」と見られていても
当の本人達は「恋人ごっこ」をしているのだ。


本物じゃない・・・気持ちは、本物でも
外見・・・嘘の関係をしているのだから。





「お嬢さん、どないした?」


「あ、いえ。・・・それで試合は?」


「おう。めっちゃ順調や、この調子やと・・・白石が勝てば、全国行けるで」


「そうですか」


「白石は、何が何でも勝つで。いやアイツなら勝つな」




突然、渡邉監督が自信満々に蔵の勝利を確信していた。




「アイツはな・・・皆の見てへんところで、努力してんねん」

「え?」

「知ってると思うけど、アイツ部長って」

「はい。でも2年で部長は少し早いかと」

「何や・・・アイツ、一番勝ちたそうな表情しとったからな」

「え?」




か、勝ちたそうな表情?

時々この監督の言ってることがよく分からなかったりする。




「勝負に対する想いちゅうか、他のヤツとは何や違うモノを感じてな。コイツにいっちょ
部長させてみるかって思もてな。2年やのに、めっちゃしっかりしてるし・・・上級生にも引けを取らん言うか。
まぁその分な、アイツにもプレッシャー言うのもあると思うんや。俺の指名とはいえ上級生差し置いて、部長になったからな。
風当たり悪いとは思てるはずや・・・スポーツの世界は上下関係厳しいからな」






何だかんだで、この人・・・ちゃんと見てる。


私は部活をしている蔵のこと・・・よく知らない。

いつもニコニコして、時々怒ったり、それでも優しかったり。
たまに私に甘えてきたり・・・・・・。

私は普段の彼を知ってる。
だけど、部活を、テニスをしている彼は知らない。





「せやから、その分・・・努力はしてる。ホンマ、努力とかそういうので
此処まで駆け上がってきた奴やで白石は。皆から聖書(バイブル)言われてるけど、それなりに
努力も色んなもんも積み重ねてきてる奴や・・・それが白石蔵ノ介や」

「そうなんですね」

「大事にしたってな。多分、アイツが一番ゆっくり出来るんはお嬢さんの隣やと思うし」

「・・・・・・はい」





蔵がゆっくり出来るのが・・・私か。


それが偽りでも、少し嬉しかった。






「オサムちゃん、何処行って・・・・・って、
なっ!?


「おぉ、ナイスタイミングやな」
「蔵」



すると、後ろから聞きなれた声に私と渡邉監督は振り返る。
其処にはジャージ姿の蔵が現れた。

が、私と監督の姿を見るなり
凄まじい速さでこちらに来て、私の腕を引っ張る。




「俺の彼女に手ぇ出さんといてや、オサムちゃん」

「く、蔵っ!失礼よ!!」




どうやら、監督が私をたぶらかしてるとか勘違いしてる?

蔵の行動に監督は少し驚くも
すぐさま笑みを浮かべる。




「何や、口説いてるの分かってたか?」

「オマワリ呼ぶでオサムちゃん」

「冗談やって。冗談に乗れんお前に一コケシやろか?」

「いらんわ、アホ!行くで、

「え?・・・あぁ、うん」



少し不機嫌な蔵に手を引かれ、私はその場を後にする。
首を後ろに向け、監督を見ると笑顔だ。

私は首を前に少し下ろすと、小さく手を振って見送ったのだった。

















「ホンマ、オサムちゃんに何もされてへんか?」

「されてないってば。逆に助けてもらったの渡邉監督には」



試合会場から少し近い場所のベンチで
私と蔵は隣り合わせに座る。

未だ蔵の不安が取り除けないのか
私は今さっきの事を話したのだった。




「納得した?」

「はい」

「後で監督に謝りなさいよ。私を助けてくれたんだから」

「はい。・・・って何で俺に連絡せぇへんかったん?俺、試合まだやったから迎えに行ったのに」

「・・・・・・ビックリさせようと思って」

「え?」





私の言葉に、蔵が驚きの声を上げた。



「ビックリさせようと思ったの!・・・・・・だから、アンタには言わなかったの」


「そ、そうなんや・・・何や、嬉しいな。ん?自分それ何持ってん?」



すると、私が持っていたあるものに蔵が気づいた。
私は紙袋に入れていたタッパのあるものを出した。




「はい」


「え?何?」


「差し入れ」


「開けてもえぇ?」


「どうぞ」



そう言って蔵はタッパの蓋を開けた。




「うわっ、レモンの蜂蜜漬けや!貰ろてえぇのん?」

「どうぞ。アンタからの伝言で3日前から漬け込んでたの。もしかしたら染みてないレモンもあるかもしれないから、それは勘弁してね」



そうあるものとはレモンの蜂蜜漬け。
スポーツの体にはいいものと昔教わった。

輪切りのレモンがたっぷりの蜂蜜の海で染み込み
切り出したときプカプカと浮いていたものが、既に沈殿して
黄色がオレンジ色に変色していた。



「めっちゃ嬉しいわ、おおきに」

「どういたしまして。皆で食べてね」

「アカン、コレは俺が全部貰う」

「ちょっ!?何枚あると思ってるのよ!?皆で食べるように漬け込んできたのよ」



タッパに入ったレモンの蜂蜜漬けを
一人で食べると言い出した蔵に私はすぐさま反論した。




「イヤや。コレは誰にもやらん・・・の手作りは俺だけのモンや」

「手作りって、切って漬け込むだけなのに・・・って今食うな!」



私が言葉を言う前に、蔵は
タッパの中に入っているレモンの蜂蜜漬けを一枚取り出し食べた。




「んんーっ・・・めっちゃ美味い!」

「・・・もぅ」



子供みたいにはしゃぐ蔵を見て思わず笑みが零れた。




コレが偽りだと誰が思うだろうか?

何処からどう見ても、恋人・・・仲睦まじい彼氏彼女に見える。


でも、本当は偽りの関係。
ただの【恋人ごっこ】。


それでも、この気持ちは・・・・・・本物。


私は、彼の事が好き・・・大好き。






「あ、ホラ・・・口、蜂蜜ついてる。もう子供じゃないんだから見っとも無いでしょ」


「お、ホンマや。こんなん舐めればえぇって」


「アンタの舌がキリン並みに長かったらの話でしょうが。もう拭いてあげる」




私はバックの中からハンカチを出して
蔵の口元に付いた蜂蜜を拭う。




「なぁ」

「何?」

「ワザとなん?」

「え?何が?」



蔵の言葉に、私は疑問の声を飛ばした。
瞬間、手を握られる。




「えっ?・・・く、蔵?」


「あんな・・・無自覚っちゅうのが一番アカンねんで」


「は?・・・ぇ」




手を握られたまま、私の唇に蔵の唇が触れた。

甘くて少しすっぱい味がする。


数秒で、その唇が私から離れた。
離れた途端、蔵は笑みを浮かべ――――。






「ごちそうさん。コレ貰ろて行くで。あ、俺の試合もうすぐやから来てな!コートはすぐ其処やから・・・ほな!」





そう言って嬉しそうにコートへと戻っていった。

私は思わず自分の唇に触れる。
やだ・・・・・まだ、熱い。

しかも口の中が凄くレモンの蜂蜜漬けの味で
まるで飴を舐めているような感覚。




「・・・殴ればよかったわ」



私は顔を赤らめ、バックを持って
試合会場へと走ったのだった。









観客席から下を見れば、ベンチ近くには
四天宝寺のテニス部の部員の威勢のいい応援が聞こえてくる。

すると、観客席から振り返る影。
そしてこちらにやってくる。




「謙也」

「何や、お前来てたんか?」



やってきたのは謙也だった。



「アンタ、試合は?」

「俺は補欠っちゅう名の出番ナシや。まぁ府大会に出たからえぇねんけどな。何や白石の応援か?」

「応援という名の差し入れをしに来たの」





謙也の言葉を借りて、私は笑みを浮かべた。
その言葉を使われたのか謙也は渋そうな顔をする。





「差し入れっちゅう割りには、なーんも持ってへんやん」

「今から試合するヤツに全部取られた。レモンの蜂蜜漬け作ってきたんだけど、蔵に全部取られちゃった」

「アイツ・・・俺らに渡さん気やな。後でシバく」

「ご自由にしてください」





私からの差し入れを独り占めした蔵に対し
謙也は蔵にケンカを売るつもりだろう・・・多分蔵もそのケンカを買うだろう。

何せ「俺が全部貰う」って言ってたくらいなので。






「そういえば、。自分、白石の試合見るんは初めてやったろ?」


「うん。府大会は私来てないから」


「丁度良かったやん。白石、府大会はシングルス1やったから試合してへんねん。
多分今日のアイツ相当気合い入ってるで」


「そりゃあね。府大会で試合してないんじゃ」


「それもやけど・・・・・・自分が観に来てるから、アイツやる気満々や」


「え?」






謙也の言葉に私は小さく驚いた。

私が来てるだけで・・・どうして?




「何や、いつもとオーラちゃうような気ぃするわ。自分居るからやろな〜」

「私一人居るだけで?私よりも部員の応援のほうがいいじゃない」

「アホォ。男としては、好きな子に応援して欲しいっちゅう願いがあんねん。ロマンないなぁ〜

「余計なお世話よ」




でも、少し嬉しかった・・・うぅん、凄く嬉しい。


私が居るだけで、あれだけ張りきれるって言うのは
単純って言ういい方すればダメだけどそれでも・・・嬉しい。




「こっち来るか?そっちの方が観やすいで、白石とも距離近いし」


「うぅん、いい。此処からで」


「恥ずかしいんか?」


此処から突き落としてやろうか?


「か、堪忍してくれ。ほな、そこでじっくりご覧くださいお嬢様」


「えぇ、ありがとうございます」




そう言って謙也は再びベンチ近くの観客席に戻った。



会場内に、試合開始のコールがかかり
対戦カードと選手名が会場内に響き渡る。






「・・・・・・・・・頑張って」





コールの声に遮られるように
私は小さく、そう呟いた。


きっと、聞こえるはずのない声だけど・・・彼に届けと思いながら。




















「謙也ぁ〜。お前、俺のと何話してたん?」


試合開始直後、謙也がベンチ近くの観客席を離れ
ゲート近くに居ると何やら話していた。

戻ってきたヤツを俺はベンチ席の上から見上げる。



「なーんも話してないわ。こっちの方がえぇでって誘いに行っただけや」

「の割りには何や長かったな?他に何話した?」

「しぃて言えば」

「言えば・・・何やねん?」




すると謙也は一拍置いて―――。




が来てるおかげでお前がものごっつやる気満々やって言うてきた」


「おぉ、ありがとう・・・って何言うてんねんアホォ!」




思わずノリツッコミをしてしもた。

いやいや、此処はするところや・・・ってちゃう!!




「余計な事を言いなや。呆れられたらどないすんねん」


「呆れてへんかったで、のヤツ」


「え?」



謙也の言葉に俺は驚いた。

いや、いつものなら「バーカ」とか「アホでしょ、アンタ」とか
そういう棘のある言葉を言うてくるはずやのに。




「何やちょっと嬉しそうな顔しとったで」



嬉しそうな顔・・・か。

それは、本物か・・・偽者かなんて、謙也や俺すら分からんけど
それでもえぇ・・・何や、俺まで嬉しいわ。



「そうか。ほな、俺マジで気合い入れなアカンな」


「おう!勝ったもん勝ちやで白石!」


「当たり前や!」



そう言うと、会場内に試合のコールが鳴り響く。
俺はラケットを握り、コート上に足を進める。








『・・・・・・・・・頑張って』



ふと、らしき声が聞こえ
俺は立ち止まり振り返る。


ゲート近く、一点に突き刺さってくる視線。


あれは、や。



俺のこと、見てくれてるんか?

俺に、その視線飛ばしてるんか?



せやったら――――。






「目ぇ、絶対離すなや。一秒でも逸らしたらアカンで。俺の完璧(パーフェクト)テニス、よぉ観とけや」






そう呟いて、俺は試合に向かうのだった。























「いかがでしたか、関西大会は?」

「えぇ。四天宝寺は無事に、全国の切符を手にしました」

「それはおめでとうございます」



私は蔵の試合が終わる前に
魁さんを呼び、表彰式も見ずに家に帰る車の中にいた。



「白石様は本日試合には?」

「えぇ、最後のシングルス2で。ストレートで勝ちました」

「ほぉ、それは素晴らしい事ですね。きっとお嬢様が応援に来てくださったので
白石様は一生懸命試合をなさったのでしょう」

「・・・そうですね」



魁さんと話をしていると、バックに入れていた携帯がバイブで何かを知らせる。
着信だ。私はすぐさま出る。





「もしもし?」

『大阪代表枠おめでとさん』

「侑士」



電話の相手は侑士だった。

相変わらずの低音域が耳に響いてくる。




「もうそっちに連絡行ったの?」

『あぁ。俺らも全国への切符手に入れたんや。その知らせも兼ねて自分に連絡したわ』

「わざわざどうも」



少し気だるそうに侑士は電話元で
私と会話をする。




『まぁ本題はこっからや』

「え?」









『自分、全国大会来るんか?』






「・・・・・・・・・」





侑士の言葉に私は黙った。

氷帝が全国への切符を手にし、そして四天宝寺も全国への切符を持っている。
きっと全国大会だ・・・蔵がレギュラーで出る事は間違いない。
でも、あそこに行ってしまえば――――。




「うぅん、行かない」

『言う思たわ。せっかく四天宝寺も出るんやから来たらえぇやん』

「行かない。・・・・・・ねぇ、侑士」

『何や?』

「アイツ・・・・・・元気?」




私はふと元婚約者のアイツを出した。
すると電話元の侑士はため息を零し――――。




『ウザイぐらいに元気や』

「そっか。それ聞けただけでいいわ、元気なら何よりよ」

『まだ未練持ってんのかお前。もう終わった事や、忘れろ』



未練?

もうそんなものちっともないわ。


忘れろ?

もうとっくの昔に忘れてる。



だって、もう私にはアイツ以上に想ってしまった人がいるんだから。

たとえ、関係が本物じゃなくても。




「そうね、出来る限りこっちでその努力はしてる」

『ならえぇわ。ほな、また連絡するわ』

「うん。侑士も元気でやりなさい」

『言われんくてもそうしてる・・・ほなな』




そう言って通話を切断した。
私も通話を切り、携帯を閉じようとしたら
メールが飛んできていた。

電話に付きっ切りになると、メールが来たことすら分からない。
私は受信ボックスに入ったメールを開く。





「あ、蔵」



飛ばしてきたのはもちろん蔵。



20**/07/**
From:蔵
Title:寂しいわぁ〜(´□`)
-------------------------

何で先に帰るん?
しかも俺になーんも言わんと。
せっかくチャリンコでニケツして帰ろう思たのに。
でも、試合に来てくれただけで嬉しいわ。
おおきに!
それから、始まる前自分の声が聞こえてきたんよ。
もしかして、俺にエール送ってくれた?
それやったらめっちゃ嬉しいねんけどな〜(笑)
俺な、自分居ったから、ストレートで勝てたんやで。
いや、ホンマやで!!嘘とか言わんといてな!
また後で連絡する。
そん時ちゃんと俺に言うてな。

「優勝おめでとう」って

------------END-------------





その文面を見て思わず顔が赤くなる。

聞こえてた?・・・いや、だって聞こえるはずないじゃん!!
本当に小さくだよ。呟いた程度だよ?

それなのに・・・・・・それなのに・・・・・・。





お嬢様?・・・お顔が赤いですが、どうかなさいましたか?」


「へ!?・・・あぁ、いや、何でもないです。すいません」



バックミラーで魁さんが私の表情を伺う。
やだ・・・私顔赤くなってる!?

でも、なんだか嬉しい。







だけど―――それ、嘘だよね?


恋人ごっこの延長よね、コレも。
私の声・・・聞こえたとか、きっと嘘だよね。


分かってるよ。


私が貴方の事を何度想っても、届くはずないことくらい。


だけど、それが偽りでも嬉しい。



嘘でもいい・・・そう想ってくれるだけで、私は本当に幸せよ。




「魁さん、梅田に寄ってください」

「え?・・・あ、かしこまりました」



だからね、私も気づかれないように貴方の事、精一杯愛してあげる。
偽りの愛だと想われてもいい・・・私にとってそれを受け止めてもらう事が幸せだから。





絡まるRedthread
(繋がっているはずなのに、どこか絡まる2人の糸)

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