『白石君、関西大会優勝おめでとうー!』
「あっ・・・・・ど、どうもおおきに」
玄関先で、お父さんとお母さんがクラッカーを割り
やってきた蔵を出迎えた。
蔵はかなり驚いた表情で二人を見ている。
私はというと、お父さんとお母さんの後ろで
盛大なため息を零していた。
「よし!今日はお祝いだ!!」
「そうですね、アナタ。お食事は何がいいかしら?和食がいいかしら?」
「いやいや、此処はフレンチだろ!」
「でも、中華でもよろしいんじゃないでしょうか?」
「な・・・なぁ、何かあったん?」
「あぁ・・・いや、ちょっと」
盛り上がる2人の後ろを私と蔵は歩く。
あまりにもハイテンションな2人を見て、蔵は小声で私に問いかけてきた。
もう話すのも面倒ですが・・・とりあえず蔵が来る数分前に遡ってもらうとしましょう。
「お、お願いだから2人ともやめてって!」
「いいじゃないちゃん。ホラ、白石君呼んで」
「そうだぞ、。めでたいことなんだから、ホラ白石君呼びなさい」
「呼ばなくていいってば!!」
夜、梅田で買い物をして帰ってきた私に
いつもより早く帰ってきたお父さんとお母さんが
「今日は何処に行ってたの?」と聞かれ、私はそこで
「蔵がテニスの関西大会決勝だったから観に行ってた」とバカ正直に
答えてしまったばかりに、お父さんとお母さんが盛り上がり始めた。
「せっかく関西大会優勝したんだ、お祝いしてあげようじゃないか」
「蔵も自分の家でお祝いしてるからいいの!(してるかどうか知らないけど)」
「じゃあ今日じゃなくてもいいから、明日部活のメンバー皆さん連れてウチに呼んでちょうだい。
祝賀会をしましょう」
「しなくていいってば!それに、まだ全国大会優勝したわけじゃないんだよ。
まだ関西大会優勝だよ、祝賀会とかは全国優勝してからすればいいでしょ!」
関西大会優勝という言葉で、2人がしきりに
「白石君をウチに呼んでお祝いをしよう!」とか言い出したから、さぁ大変。
私は今日は頑張ったのだからゆっくりさせようというので
気を遣って、わざわざ車で帰ってきたし
来月には全国大会が控えているのだ・・・そんなに無理はさせたくない。
何としてでもココは阻止せねば!
「とーにーかーく!今日は蔵をゆっくりさせて!!終わったあとなんだから、ゆっくりさせなきゃ」
「でも、ちゃん」
「、せっかく白石君とお付き合いしてるんだからお祝いしてあげたほうがいいだろ?
お前がお祝いしてあげたほうが、彼も喜ぶと思うぞ」
「お母さんも、お父さんが昔スポーツしてたときは頑張った後お祝いしてあげたのよ」
「そうだぞ。お父さんもお母さんからお祝いしてもらって嬉しかったぞ」
「やだ、もうアナタったら!恥ずかしいじゃないですか!」
「事実だから仕方ないだろ、嬉しかったよあの時は〜・・・」
2人は二人の世界に入り始めた。
はい、そこでイチャついててください。
私は盛大にため息を零して
「な、何となかった」と心の中で呟いた。
「失礼します。・・・白石様が参りましたが、いかがなさいますか?」
「えぇえ!?」
あのバカ、何来てんのよ!!!
空気読みなさいよ!!!
「アラ!ちょうど良かったじゃない!!」
「よし、魁!白石君をお出迎えしなさい」
「かしこまりました」
「えっ、あーーーちょっ、と」
魁さんを止めようとしたら、お父さんの声を聞くなり
すぐさま玄関先にスタスタと向かい
私の声すら届かなくなってしまった。
「お母さん、お出迎えしてきますね〜」
「じゃあお父さんも行こう」
「やめてってば2人ともっ!!」
何処からともなく、小さなクラッカーを持ち出し
2人は玄関先に向かう。
そして、冒頭に戻ってください。
「せっかく止めたのに・・・・・・空気読みなさいよ」
「えぇえ!?そんなん知らんわ。俺のせいにせんといてなぁ〜」
まぁそんなの蔵のせいじゃないわ。
この状況で空気読めっていうのが無理な話よね。
「ていうか、アンタ・・・何でウチに来てるの?お家でお祝いしてたんじゃないの?」
ふと疑問に思った。
普通なら家で家族揃って関西大会優勝のお祝いを
しているのかと思ったのだが、どうして彼がこんな時間に
私の家に来ているのか分からなかった。
「あー・・・逃げてきた」
「は?」
逃げてきた?
何で?
「な、何で?」
「姉貴の友達も丁度来ててな・・・皆でやろう言うことなって。やってたまではえぇねんけど」
「ど?」
「姉貴の友達が俺にえらい質問攻めしてくるから、嫌なって。前、自分に言うたけど、俺逆ナン嫌いって。
せやから、そういう気分になってな・・・テンション下がったんや。オカンには適当に『謙也ん家行ってくるわ』って言って出てきたわ」
あーそういえば、前そんなこと言ってた。
蔵は女の人とかによく声掛けられたりするって。
普通の男の子なら逆ナンされて有頂天にはなるのだが
蔵は珍しくその逆。「あんまりえぇ気分はせん」とそれを毛嫌いしている。
そりゃあ、こんだけ美少年だったら誰でも声掛けたくなるわよ。
でも、小さい頃からそういうことが日常茶飯事とかだったら逆に嫌にもなるか。
「まぁ」
「何?」
「一番の目的はに逢いに来たんや。連絡してから来よう思たんやけどビックリさせよう思て。
まぁ流石に出迎えにはこっちがビックリしたんやけどな」
「ご、ゴメン」
「えぇて。お祝いしてもろて、嫌な気分はせぇへんし・・・それに」
すると、蔵が歩む動きを止めた。
私も同じように止まると、蔵の整った顔が近づいてきた。
思わず心臓が大きく動く。
「メールで俺言うたやろ?」
「え?」
「何や、忘れたん?・・・一番最後に俺書いたはずやで」
「ぁ」
そう言われ私は思い出す。
そうだ、確か・・・メールの最後、蔵はこう書いてた。
【優勝おめでとう】と言って欲しい・・・・・・と。
「え?い、今言うの!?」
「うーん、ホンマなら電話で言うてもらう予定やったけど・・・俺此処に来たし。出来たら、今言うてほしいなぁ〜・・・・・・アカンのん?」
ちょっと甘えた声で蔵は私に
「優勝おめでとう」と言って欲しいとせがんできた。
たまに口から零れるその甘えた声に思わずドキッとしてしまう。
「えっ・・・や、そうじゃ・・・なぃ、けど・・・」
「なら今言うて」
「か、顔近いし・・・言いづらいわよ」
「ちょこっと言うだけやん。ホーラ、早よう言うてや・・・蔵ノ介クン、B型さんで短気やから待ちきれへんねんで」
言いたいけど・・・顔近い。
、しっかりして!
ちょこっと言うだけなのに・・・何を躊躇っているの!!
当たり前よ・・・好きな人だもん。
外見の関係上恋人のフリだけど、私の気持ちは彼を好きな気持ちで溢れてる。
表向き、フリでも・・・心が邪魔して、思うように口から言葉が出ない。
「ゆ・・・優勝・・・・・・っ」
「ん?聞こえへん・・・ちゃんと俺に聞こえるように」
こんの・・・っ!
私が小声で言うとさらに調子に乗ってきた。
顔近いからちゃんと聞こえるでしょうが!!
本気で今すぐこの顔殴ってやろうかしら・・・昼のキス分と一緒に。
「・・・ゅ、ゅうしょう・・・お、・・・おめ」
「はい、頑張って頑張って」
「・・・・・・優勝、おめで」
目を閉じて、蔵の顔を見ずに言おうとして
ふと、目を開けて横に視線を移すと―――――。
「っ!?!?」
「あっ」
「見つかっちゃった」
扉を少し開けて、こちらを見ているお父さんとお母さんの姿が目に飛び込んできた。
2人の姿を見つけた瞬間――――。
「も、もう!!!見ないでよ!!」
思わず扉を押して、二人を中に押しやる。
「だ、だって2人がいつまで経ってもこないんですもの」
「何してるんだろうなぁ〜って思って、覗いてたら」
「覗かないでよ!!」
すいません、今すぐ死にたい。
蔵にはイジメ?られるわ
お父さんとお母さんにこんなところを目撃されるわ
恥ずかしさはもう頂点に達したのだった。
「あー・・・アカン、もう食べられへん」
「いや、別に無理して食べなくて良かったのに」
「出されたもんはちゃんと食べなアカンやん。これ常識やで」
「知ってるわよそんなことくらい」
食事が終わり、私の部屋に来た。
蔵は私の部屋に来るなり、ベッドにダイブしそのまま寝転がる。
一方の私はというと、勉強机の椅子に座り、蔵を見る。
「消化剤持ってこようか?」
「んー、大丈夫や。あと少ししたら普通になる」
「さすが関西人の胃袋は違うわね」
「伊達に学校の食いだおれ丼食うてへんで。お好み焼きとご飯は一緒やし」
「あー・・・侑士も同じ事言ってたなぁ」
「侑士?・・・あぁ、謙也の従兄弟か」
そう言いながら蔵は体を起こした。
「そいつで思い出したけど、氷帝も全国行くんやってな・・・謙也が言うてたわ」
「うん。帰ってるとき電話あった」
「ふぅーん。なぁ、・・・全国大会、もちろん来てくれるやろ?あ、俺らの応援でやで!
氷帝なんか応援したら俺泣くわ〜」
蔵の言葉で私は黙った。
「?」
「ゴメン・・・私、全国大会は観に行けないの」
「・・・そ、そうか。何や、悪いこと聞いたなスマン」
「うぅん」
私の言葉に、蔵は少し残念そうな声を出した。
ゴメン・・・本当はアイツに逢うんじゃないかって
それが不安で・・・アイツに逢ってしまえば、今までの蔵への想いが
掻き消されて行ってしまうんじゃないかと思って・・・・・・。
「行けない代わりに・・・はい」
「え?・・・何?」
私は椅子から立ち上がり、綺麗に包装された小さな紙袋を蔵の前に出した。
「関西大会優勝の記念」
「プレゼント?・・・うわっ、めっちゃ嬉しいわ。何やろ?」
それを受け取るなり、蔵は嬉しそうに
紙袋を開け、袋を振った。
彼の手のひらに乗ったのは、緑色系で編みこまれたミサンガ。
「うわっ、ミサンガやん。めっちゃカッコエェ!貰ろてもえぇの?」
「関西大会優勝記念って言ったでしょ。いらないなら返して」
「イヤや。貰ろたもん勝ちや、返さへん」
「なら、どうぞ」
「おう、おおきに」
蔵は嬉しそうにまじまじと私が上げたミサンガを見る。
「でも何で自分、俺の好きな色知ってたん?」
「え?」
「俺、緑系・・・特に、ホレ、このいっちばん割合占めてる明るい緑・・・若草色ちゅうの?
この色俺好きやねん。何で知ってたん?誰からか聞いたん?」
「え?あぁ、いや・・・何となく。蔵、緑系の色好きかなぁ〜って思って」
「偶然なん?へぇ〜凄いなぁ、。やっぱり俺ら運命で繋がってんのとちゃう?」
その言葉に、私は思わずドキッとした。
でも、鼓動はしなかった。
そうね・・・出来たら、ちゃんとした運命で繋がっていたかったわ。
フリじゃなくて・・・ちゃんと、恋人っていう関係で
そう言ってほしかったな。
「腕につけてもえぇ?」
「テニスするとき邪魔だからやめなさい。携帯につけたら?」
「お、それえぇな。ほな携帯に付けとくわ・・・ホンマありがとう、。んー何、願掛けよ?」
「全国制覇でしょうが此処は」
「せやったな」
そう言いながら蔵は貰ったミサンガを
携帯のストラップとして結んだ。
「出来たわ。ホンマありがとう、」
「どういたしまして」
「あ〜・・・でも、足りひんもんがあるなぁ」
「え、何・・・って、きゃっ!?」
突然「足りないもの」と称して、私の腕を引っ張り
蔵は自分の元へと引き寄せた。
「く、蔵?」
「まだから【優勝おめでとう】って貰ろてない。もうそれだけが足りひんねん」
まだ引っ張るかそのネタ。
でも、本人からのお願いだし。此処は・・・しなきゃ、ダメよね。
私はベッドに座っている蔵の足の間に
自分の膝を立てて、彼の肩に手を置いて、少し目線を高く蔵を見下ろす。
「お、立場いつもとちゃうな。何やドキドキするわ」
「うっさい。少し黙りなさい、言えないでしょうが」
「あ、はい」
私は少し呼吸をして――――。
「・・・優勝・・・おめでとう・・・」
「んんーっ、絶頂!・・・やっぱから言うて貰ろた方ががえぇわ」
満足したのか蔵は嬉しそうに笑う。
私もつられて、笑みを浮かべた。
「あ。なぁもう一個えぇ?」
「何?」
「この体勢や・・・チューしてほしいなぁ〜」
「は!?ちょっ、や、やだ!」
出ました、白石蔵ノ介・・・・・調子に乗り出しました。
ホント私が少し油断すると調子に乗り出すから大変。
「調子に乗んな!離してっ」
「イヤや。なぁ〜チューしてぇな」
「イヤよ!もう充分でしょう!!」
プレゼントも上げたし、ちゃんと言われたとおり【優勝おめでとう】も言った。
それだというのに、何ワガママ言ってるの!?
私は蔵の体から離れようとするも
腰をがっちりホールドされてしまい、身動きが取れない。
いや、此処で腕ほどかれたら私そのまま頭床にぶつける。
「なぁ、して・・・チュー」
「イヤ」
「ストレートで勝ったんやで?してくれてもえぇやん」
「話無理矢理、繋げないで。ストレート勝ちは関係ないでしょうが」
「せやったら離さへん。が俺にチューしてくれるまで、離さへん」
このヤロウ・・・・・・本気で今までの分、その綺麗な顔に
痣残るくらい、ぶん殴ってやろうかしら。
でも、精一杯頑張ったのよね。
私はため息を零した。
「分かったわよ」
「え!?ホンマに!!」
「目、閉じて」
「嘘やったらイヤやから、目ぇ開けとく」
「や、やだ!目閉じてよ・・・恥ずかしい」
「えぇやん。もう2人っきりなんやから・・・恥ずかしがることないとちゃう?」
正論を並べられてしまい私はもう恥ずかしさで
今すぐにでも死に急げる感じだった。
「〜っ」
「顔めっちゃ赤い。可愛えぇ」
「う、うるさい!ムード考えろ関西人」
「はーい」
蔵はそう返事して、じっと私を見上げる。
彼に私自身キスをするのは2度目。
あれ以来だ・・・彼にキスをするのは。
あの時はお礼と称して、何の感情もなくやってのけたが
今ははっきり「好き」と意識しているのであの時とはまったく違う。
届かないのなんて分かってる。
気持ちが通じないなんて分かってる。
それでも・・・今、少しでも繋がっていられるのであれば―――。
私は自分の唇を、彼の唇と重ねた。
少し触れて、すぐに離れたが。
「ほな、俺からも自分が頑張ったお返しや」
左手で私の頭を引き寄せ、再び唇が重なった。
私がするよりも、軽くじゃない・・・熱く、深いキス。
体中の力が全部抜け落ちて、体を全部彼に委ね・・・ベッドに沈む。
ベッドに沈むと、形勢逆転。
私が下になり、蔵が上に。
「好きや、」
「・・・私も、好きよ蔵」
そう2人で囁きあって、体を重ねた。
偽りの言葉に秘めた、本当の気持ち。
きっとアナタは・・・気づかない。
そう、ずっと・・・・・ずっと。
本当の私のことも・・・・・・きっと、気づかないだろう。
「楽しかったですね、アナタ」
「そうだな。写真も増えた・・・こんな嬉しそうなの顔は久々だ」
「そうですね。・・・・・・もう、随分経ちますね」
「あぁ」
「でも、ちゃんは今でも私たちのこと」
「今はよそう。あの子は今、充分幸せでいるよきっと。私たちもいるし、あの子には白石君がいる。
それできっとあの子は幸せだよ」
「・・・・・・そうだと、いいんですけど」
Secret
(2人の関係を知らない彼女の両親、そして彼は彼女の秘密をまだ知らない)