君と出逢って、偽りの関係を結んだ。


でも俺の中での気持ちは君を想うばかり。


想いが溢れそうになるけれど

何とか抑え込んで、偽りの中に隠した愛を君に注ぐ。



夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が終わり・・・・・そして――――。








「うわぁ〜・・・綺麗だね」

「もう満開やな。テレビでもそう言うとったし」

「そうだね」





春が来た。


お互い春休みの宿題をさっさと済ませ
今日は俺の部活もオフ。

「お花見デートでもしようや」ってことで
俺はを誘って万博記念公園に来た。




「東京のよりも凄いやろ?」

「いやいや、コレは東京も負けてないわよ。東京も綺麗なところは綺麗だし」

「ほな、今度めっちゃ綺麗なところ連れて行ったるわ。絶対東京よりも大阪のほうがえぇって思うで」

「へぇ〜楽しみ」





そう言いながら二人で桜並木を歩いた。

ふと、風が吹いて
桜が一斉に舞い上がり、俺は思わず目を伏せた。


薄っすらと目を開けると、が遠くに見えた。
俺は思わずハッとし、手を指し伸ばした。




「アカン、行くな!」


「え?」


「あっ・・・




気がつくと、は目の前におった。
しかも俺・・・コイツの手ぇ握ってる。

何や・・・夢やったか。
俺はため息を零した。




「蔵?・・・どうしたの?」


「おぉ・・・いや、なんでもないわ。ちょぉ変な幻覚見たんや・・・せやけど、幻覚やから気にせんでくれ」


「う、うん」





俺は目を擦った。

ホンマ、嫌な幻覚やで。

桜が吹雪く中で、急に凄いスピードでが俺の側から離れていく。
そう思うとゾッとして・・・おぞましかった。


でも、あれはやったんか?


ロングヘアーの黒の色素が抜けた髪。


今のは肩までしか髪がない。
もしかして、昔――――。





「なぁ、

「何?」

「自分、前・・・髪の毛ロングやった?」

「え?」



俺がそう問いかけるとは目を大きく見開かせ驚いていた。




「もしかして、当たってるん?」

「まぁ、そうね。・・・こっちに来る前にばっさり切った」

「へぇ〜」

「何で急に聞くの?」

「ん、何でもないわ。あ、ホレあっちのほうがぎょうさん咲いてるわ行こうや」

「あっ、ちょっ引っ張らないでよ」




さっき掴んだ手を俺はそのまま握り、桜が咲き続ける
桜並木の万博記念公園を歩いた。





「あー・・・俺ら、今年受験やなぁ」

「そうね」

「ホンマ、進路調査票と睨めっこはもうえぇわ。見るだけでテンション下がる」

「仕方ないでしょ、受験生なんだから」

「せやな」




ふと、そんな話になる。

そう、4月・・・俺らはもう3年に進級。
来年の冬には高校受験。

中学校生活も今年で仕舞いかと思うと何や寂しいもの感じるわ。





は、何処の高校行くか決めてるか?」

「こっちの高校事情はよく知らないから・・・先生と、お母さんと話し合いながら決めようかって言ってる」

「あ、せやったら俺と同じ高校行こうや」

「え?」



俺はの手を握り、彼女の前に出る。





「その方がえぇやん。もし、来年までそのネックレス外されへんで・・・高校離れてしまったらどないするん?
俺が側に居ったから今まで上手くやっていけたんやろ?」

「そう、だけど。・・・高校まで引っ張るの、嫌じゃない?」

「何言うてん。もうすぐ1年やで、自分とこんな関係続けて。今更嫌もへったくれもないわ」




正直なところ、片時も離れたくない。

いや、離したくないが正確な答えや。


学校が離れてしまえば、その分・・・距離が伸びてまう。

いくら、毎日何かしらの手段で逢おうと思えど
1年も側に居った感覚を取り除くのは無理や。


なら、いっそ――――。




「せやから、高校一緒のほうがえぇやろ?俺の方が他の男よりもうまーくフォローできるし、浮気もせんと
の事守ったれるしな。ホラ見てみぃ、完璧(パーフェクト)や」




俺がお前を束縛したる。


約束、したやろ?


忘れたい事忘れるまで・・・つまり、そのネックレス外れるまで
俺はお前の側に居るって。


お前が離れるんなら・・・俺はお前を離さへんで。

お前が来るな言うても・・・俺はお前を側を離れるつもりない。



お前が・・・が、そのネックレス・・・外すまで―――。






「勝手に俺から離れるなんて、許さへんぞ。外すまで俺、何処までもの側に居るからな」


「・・・蔵」


「ちゅーわけやから・・・新学期、進路調査票を俺に出しぃ・・・第一希望は俺と同じ高校や、えぇな?
いや、この際第三希望まで同じにしといたほうがえぇな。んんーっ、それがえぇな」


「・・・ホント、関西人ってヘンなの」


「何や?そのヘンな関西人にお願い事したんは何処のお嬢様や?ん、言うてみぃ?」


「さぁ、何処のお嬢様かしらね」





少し、曇っていたの表情が明るくなった気がした。

きっとこうしたほうがえぇねん・・・お前のためにも、そして俺のためにも。





「なぁ、


「今度は何?」


「また、来年・・・桜、2人で見に来ような」


「高校合格したらね」


「完璧(パーフェクト)に行けるって、俺らの愛の力で見事合格できるわ。な、えぇやろ?」





俺がそう言うと、は―――。




「そうね」



と、優しく言うてくれた。




「あ、せやったら・・・京都行こうや。ホレ、卒業旅行も兼ねて」


「京都にわざわざ花見に行くの?」


「あっちのほうが風情あってえぇやん。ムードも最高やで、俺が案内したるわ」


「京都だったら、ウチ別荘あるよ。泊りがけで行く?」


「お、えぇなぁ〜。お忍び旅行みたいで何やドキドキするな」


「ムード考えろエロ関西人」


「こらすんませんでした」






来年も、また2人で・・・桜、見れたらえぇな。


たとえ偽りの関係でも・・・俺、えぇねん。
お前の側に居れる、ただそれだけでもえぇねや。


今年の夏・・・全国行って、優勝できたら・・・ちゃんと俺の本当の気持ち言うわ。


もし、もしも・・・それ言えんくても、俺とお前の関係続けばえぇねん。
偽りでも、恋人ごっこでもえぇ。



俺はお前の側に居れるだけで――――幸せや。






















ーっ」

「ん?ああ、蔵」


新学期。
3年に進級した俺達は、始業式が始まる体育館に向かっていた。

が、は体育館とはまったく逆の方向に向かっている。
俺はそんな逆方向に向かう彼女の元に駆けた。




「ホンマ、始業式出らんのか?」

「当たり前よ。校長の話でいちいちコケる式なんて聞いた事ないわ。出る気も失せる」

「まぁ、お嬢様には四天宝寺スタイルちゅうか、大阪スタイルはちょっと付いていけん次元やな」



はふて腐れながら、俺に文句を言う。



「しっかし・・・ホンマ、俺が嫌なんは今年のクラスのことや」

「へ?・・・あぁ、仕方ないんじゃない?」


の次は、今度は俺が文句を言う。

そう、2年は俺とは偶然?にも同じクラスやった。
3年も「同じクラス〜」と俺は願ってたはずやのに
蓋を開けてみたら・・・まぁびっくり。



「仕方ないわけないやろ!・・・・・・何で?何で俺、2組で自分8組?・・・しかも8組、小春のアホとユウジのバカが居るやんか」



俺が2組で、が8組。


何コレ・・・神さん、残酷すぎや。
何でこんなにクラス離したん?

せめて、せめて1組とか3組とか・・・こう俺の教室に近い場所にしてほしかったわ。


それなのに、何でめっちゃ離れた8組なんや!?



「いいじゃん、そっち謙也が居るんだから」

「イヤやあんなスピードバカ。相手にするだけで疲れるわ」

「まぁ1年辛抱しなさい。私はあの2人と楽しくやるから」

「何か遭ったらいつでも言いや。ウザイと思たら好きなだけどつけ・・・俺が許したる」

「分かった。・・・・・・ねぇ、まだその包帯してるの?」



ふと、が俺の左腕に巻かれた包帯を見る。



「去年からずーっと気になってたんだけど、怪我してるの?」

「いや、なんちゅーか・・・これにはふかーい事情があんねん」

「どんな事情よ?」

「それはなぁ」



の言葉に俺は思わず黙ってしまった。



ホンマ、これだけはどうしても・・・たとえ相手がでも
教える事は出来ん・・・約束、やからな。

一度したことは、守らなアカンし
たとえ・・・無理矢理押し付けられたものだとしても・・・な。







「本当に、怪我とかじゃないよね?」

心配してくれてるん?」

「ち、違っ・・・そんなんじゃないわよ!」



そう言ってはそっぽを向いた。
俺はそんな彼女の姿を見て、笑みを浮かべた。





「ホラ始業式始まるわよ、行きなさい」

「はーい。今日自分迎えか?」

「うぅん」

「ほな、ニケツやな。あ、帰りお好み焼き食べて帰ろうや」

「それはいいけど。その腕でチャリこぐつもり?」

「当たり前やん!そんな酷いものとちゃうし、平気や。ほな、帰り行こうな」

「はいはい」



帰りはニケツで帰る約束を交わして、俺は体育館へと向かう。

何や今年も同じように過ごせそうや。
















始業式をサボり、私は保健室に居た。

保健室の先生に理由を話すと
「まぁ〜さんはしゃあないね」と笑顔で返し
私が居座る事を許可してくれた。担任の先生にはもちろん
「お腹が痛い」と言って此処に来た。


ベッドに寝転がり天井を見上げると、ポケットから
バイブで私に何かを知らせた。

私は手を入れ、すぐさま携帯を見る。

電話だ・・・そう思い私は出た。




「もしもし?」

、久しぶり。元気にしてる?』





電話の相手は、友人のだった。

私はベッドから起き上がった。



「久しぶり。私、元気だよ・・そっちは?」

『元気も元気。結構立海も楽しいわよ・・・も立海に来ればよかったのに』



は氷帝の友達じゃない。

そう、彼女は1年のときから立海大付属中に在籍しているのだ。




、氷帝だったよね?お金持ち校はいかがですか?』

「あー・・・・・・私、今氷帝じゃないんだ」

『え?アレ?・・・でも6年生のとき、氷帝に行くって言ってなかった?』

「うん。でも、今大阪にいる」

『は?!』




私の発言に、電話元のは大きな声を上げて驚いた。

まぁ無理もない。
確かに私は小学校卒業する前、彼女に「氷帝学園に行く事になった」と告げたのだから。



『また、何で大阪?てか、何処中?』

「四天宝寺」

『あー・・・確か去年、テニスの全国大会の準決勝でウチと対戦した学校でしょ?』

「そうなの?知らない」




そういえば、蔵が前回優勝校って言ってたな。
それは立海のことを指していたんだと、今更ながら思った。





『相変わらずサバサバ性格健在だね。その毒舌で関西人メッタ切りしてるんじゃないでしょうね?』

「まぁ〜・・・かなり、してるとは思うよ」

『だったら元気じゃない。おーちゃん安心しちゃった』

「そうね。私もが元気で嬉しいよ」



懐かしい友達との会話に思わず心が和らぐ。




さん、ちょぉ出てくるけどえぇか?」

「あ、はい。どうぞ」


すると保健室の先生が
用事で外に出ると言って私に一言残し、その場を去った。



『何?・・・あれ?そういえば、今日始業式とかじゃないの?』

「おサボり中。出る気無いから」

『意外。、昔そんなこと言わなかったのに』

「いや、普通なら出るよ。ただ、この学校の始業式というか式自体可笑しいから出たくないだけ」




当たり前よ。

何でいちいち校長のボケに
生徒全員がコケなきゃいけないのかが分からない。

それを始め聞かされたとき「絶対始業式とか出てやんない」と心に誓ったのだ。






『まぁ大阪でも上手くやってんだね、

だって、神奈川でも上手くやってるじゃない」

『もう、大分経つね・・・・・・園、離れて』

「・・・・・・・・・・・・」




の言葉に、私は黙り込んだ。






「いつだっけ、離れたの?」

、幼稚園入る前じゃなかった?私、小学校入る前だったし』

「そっか・・・もう、そんなに経つんだ」






ふと、私の脳裏に蔵の顔が過ぎった。

アイツがお母さんから貰ったって言ってた・・・幼稚園のときの写真。
そうか、あそこが・・・私の始まりだったんだ。


新しい、私としての始まり。






「今でもね」


『ん?』


「時々、寒いときがあるの。体中寒くて、震えるときがあるの」





「そのときは怖いから・・・お父さんとお母さんに、抱きしめてもらってるんだ。
それでもね・・・・・・寒いの」



過去を打ち消そうとしても、それは凄く無理な事。

私の心の中に酷い爪跡として残ってしまったものは
きっとずっと・・・癒えることはない。




は、私達よりも・・・ずっと、寂しい思いしてる。あの園にいる子達はみんな、そうだよ』

「・・・・・・そうだね。ごめん、何かしんみりした。せっかく3年に上がったのに、ゴメン」

『いいって。過去を少し振り返ることは良い事だよ・・・まぁウチらの場合、ちょっと重いけど』

「アハハ、そうね」




私は笑いを零すと、電話元のもクスクスと笑った。






『ねぇ、時間出来たら・・・遊ぼう。あ、私が行ったほうがいい?』

「いいよ、私が行く。そっちに行く機会とかあったら、連絡するわ」

『うんそうして。じゃあ、切るね・・・また連絡する』

「うん・・・じゃあね」






そう言って、との電話を切断した。
私は携帯を閉じ、ベッドに置いて・・・自分もベッドに沈み、天井を見上げる。


そうか・・・あそこを離れて、今の家に来て・・・もう、大分経つ。

普通どおり、あの家の娘を私・・・・・・・・・演じてるんだ。






「ホント、何処行っても私嘘だらけじゃない」





あの家で、娘を演じて。

蔵との関係で、偽りの恋人演じて。



私の人生嘘ばっかり。



本当の自分が時々見えなくなる・・・・・・そう、だから寒いの。

寒くて、震えて・・・怖くなってしまうの。


春の温かい日差しが、窓から部屋へと降り注ぎ
目がゆっくりと閉じていく。




あ、私・・・もう一つ、嘘ついてた。





「蔵に、話してないね・・・本当の事」





彼に、本当の私という存在を話していなかった。

いや、話してしまえば・・・今度こそ、ネックレス外す外さない抜きで離れそう。
本気で私はそれを恐れている。

彼が離れて行ってしまえば・・・もう私は――――。




























「・・・・・・・・・・・・」


「んっ・・・く、ら?」


「おはようさん」



ふと、目を覚ました。
目を薄っすらと開けると、蔵が私の顔を見ている。



「アレ?・・私、寝てた?」

「おう、気持ちよさそうに寝とったで。まぁしゃあないな、春眠暁を覚えずっちゅうやつやろうし」

「・・・今何時?」

「昼過ぎ。もう何処のクラスも終わってるで・・・カバン、自分のクラスから持ってきたわ」

「ありがと」



起きようとしたが、未だ眠くて起きる気力がない。


ふと、体が温かい。




「・・・何で上着」




体に、蔵の制服の上着がかけてあった。




「お?・・・あぁ、何や自分うなされてたで」

「え?」

「寒い寒い言うて。そらぁベッドに入らんと、そのまま寝てたら寒いっちゅうねん。俺の温もり付きやで・・・温かかったやろ?」




そっか・・・寒いって言ってたんだ、私。

私は蔵の制服の上着を握る。
お日様の匂いがしみこんだ黒の上着。
少し中から匂ってくる・・・蔵の優しい匂い。



「もう大分温かいのに、何寒い言うてんねんや?とか思たわ。何や、ヘンな夢でも見てたんやろ?」

「・・・・・・そうね、そうかもしれない」




夢は見ていない。

ただ、思い出しただけ・・・あの日のことを。

寒くて、凍える・・・あの日のことを。





「寒いんやったら貸しとこか?あ、それよりもジャージのほうがえぇか?そっちのほうが温かいで」

「いい。もう大丈夫だから・・・ありがとう」



そう言って私は蔵に制服の上着を返した。
それを受け取った彼は上着を着た。




「ほな、ご褒美」

「は?」

「上着貸したご褒美。抱きしめるだけでえぇからさせてくれ」

「・・・ったく」



こういうところ、蔵ってちゃっかりしてるわよね。
それで何度私、ご褒美と称して色々させられたことか。




「はい、どーぞ」

「へへ。おおきに」



私が少し両手を広げると、蔵はまるで仔犬のように
嬉しそうに私を抱きしめた。




「んんーっ、えぇ匂いするわ」

「シャンプーの匂いとか言わないでね。ムード台無し」

「ちゃうちゃう。お天道さんの優しい匂いや・・・みたいに、優しくて温かい匂いや」




優しくて温かい・・・・・・か。


私は思わず彼の背に手を回し、握った。




?」


「ゴメン・・・少し、寒いの。抱きしめてて」


「えぇで。抱きしめるんはいつでも大歓迎や」




私はそう言うと蔵は少し強く抱きしめた。

鼻を掠める、彼の匂いとお日様の匂い。
それだけで、少し・・・・・・寒気がなくなる。

でも、完全には無くならない。

私がこの世に生きている限り・・・この寒さはずっと取り除けない。








「何?」


「好きや。めっちゃ好きや」


「・・・うん。私もだよ」






もう嘘を付き続けるのは慣れた。

でも、貴方に言う言葉は本物だよ。

関係は嘘でも・・・私の口から零れる言葉は本物だからね。




温かい零れ日が降り注ぐ4月。



私と彼・・・偽りの関係がもうすぐ1年を迎えようとしていた。


学年を一つ重ねても、私は未だに彼に嘘をつき続ける。

そう、本当の事を知られる恐怖に脅えながら。



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(嘘の先にあるのは幸せか残酷な真実か)

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