東京に着て、2日目。


私はとあるカフェテラスで一人本を読んでいた。









「ねーねー、お嬢さん。今からお茶しない?」


「お茶なら充分してるわよ、


「もーノリ悪いわね、






其処に現れたのは、立海大付属中に通う幼馴染の
立海の女子生徒の制服を身に纏って、私の元に来た。

私は読んでいた本を閉じて、彼女は私の目の前に座る。


店員さんがやってきて彼女に飲み物を尋ねる。
「じゃあアイスコーヒー」と彼女が言うと、店員さんはすぐさま下がった。





「悪いね。わざわざ神奈川から」

「大丈夫よ。神奈川からこっちなんて対して距離変わんない。まぁ流石に神奈川から大阪は距離離れすぎてるけど」

「アハハハ・・・だね」






他愛もない話から始まると、頼んでいたアイスコーヒーが現れ
はすぐさまそれを口に含む。




「しかし・・・何でまた大阪になんか?」


「え?」


「だって、氷帝に居てもよかったじゃない。頭良いし・・・私立からいきなり公立、しかも府立の学校に通うなんて」


「あー・・・えーっとね、実は」




の質問に私は少し躊躇いながらも
ため息を零して、口を開いた。






「婚約者に婚約破棄された」


「えぇえ!?う、嘘!・・・あ、そういえば氷帝に通う理由ってそれがあるって言ってたね」


「うん。去年の4月に婚約破棄された」


「ちょっ、よくもまぁ淡々と話せるわねそういう事」





「私無理だわ」と言いながらは再びアイスコーヒーを口に含む。
私もアイスティーを含んで、喉の潤いと緊張で火照った体を冷やした。




「でも、それと大阪への転校って関係あるの?」

「・・・・・・私、婚約者のこと好きだったから」

「あ。・・・・・・それなら離れたくもなるわね。好きな相手が近くに居ると余計ツライよね」

「うん」





それを忘れるため、私は東京を離れ、大阪に引っ越した。

何もかも忘れるために・・・アイツのことを忘れるために、行ったはずだった。






「でも、ホント・・・人って怖いね。忘れようと思っても忘れること出来ないんだから」







忘れることができなかった。

未練があったからだ・・・好きといえず、アイツから離れた私。

ちゃんと気持ちを伝えきっていたら、こんなツライ思いもしなくて済んだのだと
何度も何度も自分自身に後悔の念を打ちつけた。






「でも」


「ん?」


「もう、今・・・婚約者への未練、全然ないんだ」


「え?・・・え、それって・・・まさか。向こうで彼氏出来たとか?!」


「あー・・・彼氏って言うか・・・何ていうか」




私の一言に、は驚きの声をあげる。

しかし、この関係を言うと確実に引かれること間違いないだろう。





「え?でも付き合ってるんでしょ」

「恋人のフリしてるの。ていうか、私が向こうとそういう約束したの」

「・・・・・・お嬢様の考えてることが段々分からなくなってきた」

「引くと思ったから言いたくなかったのよ。でも・・・私、今結構本気」

「え?・・・つ、つまり・・・マジでその彼氏のフリをしてる子が好きになっちゃったの?」





の言葉に私は一つ頷いた。


そう、もう私は・・・本気で蔵のことが好きになってしまったのだ。

だけど――――。








「私が本気で彼に”好き“って言ったところで、それが本当なんて分かるわけないのよ。
今までもずーっと好きだよって言い続けてるんだもん・・・本当の気持ちなんて、アイツには伝わりっこないのよ」







今更、私が本当の気持ちを言ったところで、関係が続くはずない。

そう、私と蔵は偽りの関係を続けているんだ。
だからこそ・・・その関係に甘えて、今でも彼のことを密かに想い続ける。


気持ちが伝わらなくてもいい。

偽りの愛でもいい。








「私はね、それだけで幸せなの。アイツが・・・側にいてくれるだけでもう充分だから」





「それに・・・初めてだった。私を怒ってくれたのは・・・アイツが初めてだった。
今までお父さんにもお母さんにも、怒られたことないのに・・・アイツが初めて私を怒ってくれた」


「え?」


「私ね・・・この生活して、お金があったら・・・ホント、婚約者の気持ちも買えたって思ってたの。
うぅん、もっともっとたくさんあったら・・・婚約者の気持ちですら動かせたんだって・・・だけど―――」








蔵は違った。












『お金で何でも買えると思うなや。人の気持ちなんて、お金で買えるもんやない』











分かってた。
分かってたけど・・・そう思うしか、あの時は方法がなかった。

お金さえあれば、たくさんのお金さえあれば・・・って。





「気持ちはお金じゃ買えない。愛も・・・そうなんだって。・・・自分でも分かってたんだけど
こういう生活してると・・・おかしくなっちゃうもんだね」

「そっか。じゃあ・・・その子がのこと一番分かってくれてるんだね」

「さぁ、どうだろ。・・・まだアイツに私、自分のことちゃんと話したことないから」






自分の生い立ちを私は未だに彼に話せていない。


いや、話してしまえばきっと――――。








「本気で彼が離れていきそうで・・・怖いの。もう、私・・・彼が居ないと生きていけない」



「惚れ込み過ぎてる、かな?」

「いいんじゃない。分かってもらえなくても、この世から突然居なくなるよりか全然マシ」

?」






途端、の表情が苦しくなった。







「そういえば、も・・・確か、付き合ってる彼氏が居るって。えーっと名前、龍二くん?」

「アイツ、去年交通事故で亡くなったの」

「え?」






の言葉に私の胸が急に締め付けられた。
思わず私は顔を伏せる。





「ゴ、ゴメン。そんなこと知らなくて」

「あー、いいって。知らなくて当然よ・・・ホント、突然居なくなっちゃったんだから」





この子は、私よりももっとツライ。

私の想ってたヤツは生きているけど・・・もうの想っている人は・・・この世に居ない。
大違いの世界に、の好きな人は逝ってしまった。

彼女の想いに比べたら私のなんて・・・ちっぽけすぎる。







「でも・・・私、今ちゃんと彼氏いるよ」


「早っ。ちょっと、私のしょんぼり返して」


「まー最後までちゃんの話を聞きなさい。彼氏は彼氏でも期限付きの彼氏さん。来年の卒業までのお付き合いっていう
そういう条件で、今の彼氏とは付き合ってるの。言い出したのは私じゃないわ・・・向こうよ。
ホント、それだけで嬉しかった・・・誰かが側に居ないよりか、ずーっとマシだから」


「何か・・・ホント、私達似すぎ。関係上違うけど」


「彼氏は偽りか・・・本物じゃないっていうのがおかしな話よ」






そう言って私とはクスクスと笑った。


いつか、ちゃんと胸張って・・・彼氏って・・・私の大好きな人って
言える日が来れば・・・いいな。






「あっ、ちょっとゴメン電話出るね」

「うんいいよ」



すると、突然がポケットに入っていた携帯を
取り出し電話に出る。






「もしもし?・・・うん、何?・・・え?今・・・東京。アンタ部活は?」





どうやら渦中の期限付きの恋人さんかな?
口調からしてそんな感じがする。





「今から戻っても大分かかるよ?は?・・・も、もう!分かった分かったわよ!今から戻るから。
其処に居なかったら雅治、承知しないからね!・・・うん、じゃあ。後でね」




会話を終えると、はカバンを持ち上げた。




「ゴメン・・・彼氏が戻ってこいってうるさいから行くね」

「まさはるくん?新しい彼氏の名前」

「そう。名前もカッコイイし、見た目イケメン・・・ホント腹立つわあの男。何食べたらあぁなるのかしら?」



まぁ蔵もそんな感じよね。

名前、白石蔵ノ介って古風な感じだけど、見た目相当イケメン・・・・・・って何張り合ってんの私!?
やだやだ・・・の彼氏と張り合っちゃダメじゃない!!





「あ、今度の想い人の写真見せてね」

「じゃあも期限付きの彼氏くんの写真見せてよ」

「あー・・・どうだろ?アイツ撮らせてくれるかな?まぁ頑張ってみるよ、じゃあね!」

「うん」





そう言ってはテラスを後にして行った。
一方、残された私は伝票を持ち、の分の飲み物の会計を済ませ其処を後にした。



人通りの多いところを通りながら
「あ、携帯」と気づいてバックの中から出すと、不在着信と伝言が入っていた。

すぐさま開いて、不在着信を見ると・・・・・・蔵からだった。
もしかして伝言も?と思いながら、伝言メッセージ一覧をあけると―――。






「此処も蔵からだ」





ホント、昨日も夜少し電話したのに。
と思ったのだが、私は立ち止まり伝言メッセージを開ける。







『あぁ、俺や。電話に出らんと何してるん?あ、もしかして幼馴染と再会中か?
それやったら俺、お邪魔やな。今、何してるんやろうな〜とか思て電話してみたわ。
けど幼馴染と逢うてんねんなら楽しくやりぃ。ほなまた夜電話するわ・・・ちゅうか、の声聞きたい。
せやから、たまには自分からも電話してな』





聞きたいって・・・昨日も電話したじゃん。

と思わず心の中ツッコミを入れる。





でも――――。


これが本物じゃないなんて・・・最初から分かってる。



だからこそ、好きって言えない。



本当に「好き」って伝えれない。



だから、偽りの関係で甘んじてる自分が居る。



きっと、いつかは崩れてしまうだろう関係に
私は甘えている・・・・・でも、それでもいいの。


その日が来るまで・・・今は――――。







「まったく、しょうがない奴ね。今日くらい私から掛けてやろうかしら」






お願い神様。

どうか、彼の側に私を居させてください。























−その頃、大阪−




「おい、白石。携帯なっとるで」

「ん、メールやな。・・・・・・おぉ!」



部活終わり、ロッカーで皆で着替えとる中。
椅子の上に置いた俺の携帯がバイブでメールが届いた事を知らせた。

俺は制服に着替えながら、それを手に取る。
誰や?と思いながら見ると、相手はもちろん―――。





から愛のメールや。羨ましいやろ?」



「あーお前らウザイわ」

「なーワイもねーちゃんとメールしたい」

「アカンで金ちゃん。白石の毒手で死にたいか?」

「い、いやや」




周りの声は置いといて!

俺は少し浮かれながら受信ボックスに入ったメールを見る。






20**/04/** 18:45
From:
Title:無題
--------------------------------

伝言聞いた。
昨日も電話したでしょ?
電話代が勿体無いじゃない。
少しは我慢すること覚えたらどう?
仕方が無いから今日くらい私から
掛けてあげる。
掛けても良い時間言って。
それくらいに電話するから。

--------------END----------------






「おぉ、棘半分愛半分の内容やな」

「ていうかお前、昨日も電話したんか?」


「見んなアホ!!」




いつの間にか俺の周りに
謙也とユウジがふっ付いて、携帯を覗き込んでいた。

俺はそれを振り払い、携帯を閉じる。





「えぇやろ別に。離れてんねんから毎日電話して当然や」


「別にあと3日したら帰ってくんねんから。ちょっとくらい我慢したらどうや白石」


「我慢するもせんも俺の勝手や。人の恋愛に(フリやけど)ケチつけんな」


「それやから、お前の目にはまだキラキラが見えへんっちゅうんじゃ」





ユウジの言葉に俺はムカッとする。

またその話か。





「あー・・・聞いたでぇ。蔵リン・・・何でキラキラ見えへんのか。近いんやって?」

「らしいなぁ。しゃあないねん、近いから分からへんのは」


「えぇ加減にせぇよお前ら。何が近いっちゅうんじゃ。別にハートでもえぇやろ。
可愛いでもなことには変わりないねんから」


「でも、遠山が見える。それ・・・・悔しないんですか、白石部長?」


「うっ・・・そ、それは・・・」






光の発言に俺は言葉を失った。


た、確かに・・・千歳が見えるんならまだ分かる。
でもや!でも・・・金ちゃんに見えるっちゅうのは・・・おかしい!









「ワイ、ねーちゃんのこと・・・逢うた時からキラキラして見えてたで。ハート、見たことないわ」









嘘やん!




金ちゃんの発言に俺の心・・・100万のダメージ。





「おー、白石にえぇ追い討ちやで金ちゃん」

「お前だけやで白石。のことキラキラして見えんのは」

「まぁしゃーないねん。蔵リン、近いねんから」

「そーですね。近いからしゃあないですわ」






そう言って全員が笑う。


あー・・・そうか。

そうですか。






「あったまきたわ。ホンマお前らえぇ加減にせぇよ!」




「やばっ」

「白石がキレた」




堪忍袋の緒が切れた。

最初言われるだけならまだしも
此処まで言われ続けると・・・温厚な俺でも流石にキレるわ!!!





「人が何も言えんことエェ事に・・・お前ら、好き勝手言いよって。覚悟できてんやろうな?」



「し、白石落ち着け!」

「死人出すな。新人戦前やぞ・・・金ちゃん試合、近いねんぞ」

「とりあえず落ち着いてください白石部長」

「ど、毒手はいやや」


「って何で皆、ウチの後ろに隠れるんよ!?」






俺が両手関節を鳴らしながら近づくと
謙也、ユウジ、光、金ちゃんは小春の後ろに身を隠した。





「退けや、小春。それともお前からシバいたろか?」


「ど、退くのはえぇけど・・・気ぃついてもらってないちゃんが一番かわいそうと思わへんのん?」


「へ?」




小春の言葉に、俺はふと正気に返る。


かわいそう?


何で?・・・何でがかわいそうなんや?






「何で・・・が、そうなんねん」


「キラキラとハートは全然ちゃうやで蔵リン。女の子は・・・此処一つの違いで」
「小春それ以上言うたらアカン。それはもう本人に気づかせな」
「あー・・・せやけど。何や、見ててもどかしいわ」
「それが試練や。白石、コレは乗り越えなアカン試練やで」







謙也が俺にそう言う。


試練?・・・乗り越えなアカン試練って・・・ハートとキラキラが?



アカン・・・ますます分からんくなってきた。



ハートとキラキラの違いで・・・それで何でがかわいそうなんや?

コレが乗り越えなアカン試練って何や?







「あーーもう!!答えは何や?!・・・もう頭ん中わやくちゃや!答え教えろ!!」

「アカン!自分で考えろ!」

「自分で考えても分からへんから聞いてんねん!」

「それは蔵リン自身が考えて、答え出さなアカンねん。ウチらが教えたところで何もならんのよ」

「・・・あーもう、知らん!胸クソ悪いわ!」

「白石!」
「蔵リン!」





俺はカバンを持って、気持ちをモヤつかせたまま部室を後にした。








チャリ置き場まで歩きながら、携帯を開く。

画像フォルダを開いて、其処に収めた画像を一枚開ける。



の写真。



写真部の奴にちょっとコネ使こうて撮ってもろた。
隠し撮りやからな・・・バレたらアカンからこっそり持ってる。



画面に映ったは、自然に笑っている表情。
きっと周りに誰も居らんかったから、こないに普通に笑ってねん。




「何やねん、あいつ等」






ふと、その画像のを見つめ俺は呟く。



可愛えぇから可愛えぇ言うんや。


それの何処が悪いねん・・・ハートに見えててもえぇやん。
それがなんやから。



それが・・・・・・・・、なんや。











『気ぃついてもらってないちゃんが一番かわいそうと思わへんのん?』








がかわいそうなワケないやろ!

そらぁ、俺とこういう関係してたら
イヤなこともあるやろうし・・・せやけど、はイヤなことはイヤってはっきり言う。

かわいそうなこと・・・一度もしてない。
アイツは俺の側に居ると・・・時々棘あるけど、幸せそうにすんねん。

イヤやったら・・・アイツはとっくの昔にネックレス、外して
俺とこういう関係終わってるわ。





ハートはアカンのか?

どうしても、キラキラやないとダメなんか?




見えてない俺は・・・・・・最低な男なんか?






「・・・あーーもう、あいつ等のせいや。ホンマ明日シバいたろ」





チャリ置き場に着いて、俺は自分の自転車の前に立ってそう言う。




とにかく今日はから電話貰えるねん。
その楽しみを糧に、今から家帰ってさっさといろんなこと済ませよ。





「とにかくメールの返信や。時間は・・・せやなぁ・・・9時くらいが完璧(パーフェクト)やな」




チャリに乗る前、俺は
何時ごろ電話してもえぇで・・・というメールを送り、自転車に跨り、家へと直行した。






だが、この電話一本が
明日俺をどん底へと突き落とした電話だとは知るよしもなかった。






Wars?
(ちょっとしたケンカの始まりの前触れ)

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