「やーやー、諸君!元気かいな〜?」



「あ、白石や」

・・・お前、やっぱり学校に来てたんか?」


「ま、まぁね」




放課後。

私は蔵に手を引かれ、テニス部にやって来た。
迎えを待ってる時間がつまらないと言ったら
「ほな、しばらくテニス部おりーよ」っていうので
ご機嫌な蔵の手に引かれ私はやって来た。




ちゃん、何やえらい疲れた顔してんなぁ」

「え?・・・あぁ・・・だ、大丈夫だから」





すると、小春ちゃんが私の異変?に気づいたのか
心配そうな面持ちでやって来る。


実際、大丈夫どころの問題じゃない。


昼休み終了間際
蔵に見事に手篭めにされて
そっから・・・5時間目終了まで・・・空き教室で。

6時間目こそは出なければと思っていたのだが
足腰が立たず。

「保健室行くか?」と蔵に言われ、私は「加減しろアホ!」と言い放ち
結局蔵に抱っこされて保健室へ。

そこで1時間ほど寝てしまい・・・2時間連続で授業をサボってしまった。

教室に戻ろうとしたら
蔵が「カバン。の教室から持って来たで」とニコニコして言うから
コイツは最初っから、私を午後の授業に出さない気満々だったなと思った。

ぶっちゃけ一人で歩くのがツライ。

だから、手を引かれやってきたのだ。





「お前ら、結局仲直りしたんか?」

「おう!見てみ、この通りや」




謙也の言葉に、蔵は握っている私との手を誇らしげに見せる。




「ホンマ、お前らよく分からんカップルやな」

「ケンカしたかと思たら」

「すぐ仲直りするんやから〜」

「2人とも仲えぇんですか?悪いんですか?」



「俺らは仲えぇねん。なぁ、

「できたら、今すぐアンタの恋人やめたい」

「いやや〜、そんなこと言わんといてぇな

「ふっつくな」



体・・・・特に腰辺りが痛いんだからふっつかないでよ。

と、言ってやりたいがまぁこんなところで言ってしまえば
何を理由に授業をサボったのか、小春ちゃんやユウジにバレてしまう。

私のイメージが崩壊していくからやめておこう。





、ほな・・ベンチ座っとき。あ、大丈夫か?」

「平気よ」

「俺が連れて行ったる」

「いいって・・・歩けるわよ」

「遠慮しぃなや・・・ホラ」




体の事を心配してるのか
蔵は私をコート近いベンチに連れて行く。

そしてゆっくり、私はベンチに腰掛けた・・・・・・あぁ、座るのツライ。





「ちょっと、やりすぎたか?」


「ちょっとどころじゃないわね。私の体の状態見て分かんない?」


「す、すまん。せやかて」


「少しくらい加減してよ。アンタと私、性別も違えば体格だって違うんだから」


「は、はぃ」


「ホラ、部長さん。練習あるんでしょ、行きなさいよ・・・迎えくるまで此処にいるから」


「お、おう。ほな、そこ居ってや」




少しお説教をすると、蔵はしょんぼりとした顔をするけど
私が怒ってないという声を出すと、彼はすぐさま明るくなる。

単純というか、なんと言うか・・・ホント不思議。






「おサボりは蔵リンの仕業やろ?」

「あ、小春ちゃん」



すると、小春ちゃんが私のところにやって来た。
どうやら彼にはお見通しのようだ。



「2時間もちゃんが授業サボるなんて有りえへんからなぁ〜」

「アイツに見事に丸め込まれたわよ」

「やっぱりそうやったんか。ホンマ、蔵リン・・・ちゃんのことなると見境なくなるなぁ〜」

「・・・・・・・・・」




だって、恋人のフリしてるんだもん。

心配して当然よ。

でも、引っ掛かった。













『ネックレスだけは外さんといてくれ』












その言葉を思い出し、首に下げてるネックレスを持ち上げた。


蔵の言葉に、私はドキッとした。

フリをしてるだけなのに・・・どうして、それを言ったのか。

小さなことでケンカをしてるのは
私と彼にとっては日常茶飯事・・・こういうケンカは今までだって
何回でもしてきた・・・と思う。

いつもならネックレスの話題もせず
ただ「ゴメン」とか「スマン」とか「堪忍してや」とかで
必死こいて謝る彼の姿なのだが

今回だけは・・・『ネックレスだけは外さんといてくれ』だった。

私にバカだのアホだの言われても構わないと言ってた。
でも、その代わり・・・このネックレスだけは外さないで欲しいと言ってきたのだ。


いつもと様子が違ってたことに
私は戸惑いもしたし、一瞬心臓が跳ねた。

まだ恋人のフリの関係を続けて欲しいと彼はそう言ってるのと同じだからだ。



何故・・・どうして?


問いかける前に、酷く愛されたから・・・結局言えずじまいになってしまった。





ちゃん?・・・どないしたん?」


「え?・・・あぁ、いや、別に」



考え込んでいた私を心配してか、小春ちゃんが声を掛けてきた。
私は「別に」と言葉を濁した。






「ねぇ、2時間も授業サボっちゃったけど・・・親に連絡とか行かないよね?」


「ん?大丈夫やで・・・ウチがうまーく担当の先生に言うとったから」


「変なこと言ってないわよね、小春ちゃん?」


「お腹痛くてトイレから出てこれませんねんって言うとったわ」


「小春ちゃん!もうちょっとマシな言い訳してよ!!頼りにしてたのに、殴るわよ!」


「あ〜ん、堪忍してやちゃん」






私は握りこぶしを作り、小春ちゃんの叩きやすそうな頭を一発殴ろうとした瞬間―――。




「きゃっ?!」

「危ないで、ちゃん!!」





腰の痛みのことを忘れた私は体全体に力が入らず
そのまま地面に倒れそうになる。

が、何とか小春ちゃんが支えてくれて地面に倒れるのを防いでくれた。





「もう、無理したらアカンやん」

「ゴメン・・・ありがとう、小春ちゃん」

「これでどつくのナシな」

「そ、それとこれとは・・・!」





「小春!何してんねん、お前」




「いやぁ〜ん、蔵リン登場」




すると、蔵が慌てた表情をして
私と小春ちゃんの元にやって来た。

小春ちゃんは私をちゃんとベンチに座らせ、すぐさま離れる。

一方の蔵はというと、ちょっと怒った表情をしてた。




「何してたんや、お前」

「なーんもしてへんわ。ほな、ウチちょっと」



蔵の睨みに、小春ちゃんはそそくさとその場から退散。
途端、蔵のため息が聞こえる。







「小春に何もされてないか?」

「別に。ちょっと話してただけ」

「ホンマか?」

「当たり前よ。何かされてたら叫んでます」

「そうか。・・・なら、えぇわ。小春に支えられてたから、心臓止まるか思たわ」

「オーバーよ。ちょっとこけそうになったのを小春ちゃんに支えてもらっただけ。
誰かさんのおかげで腰が痛くて、足に力が入らないんです」

「あ・・・す、すんません」






まぁこれ以上このネタで彼を咎めても仕方がない。
私はため息を零した。

一方の蔵は、私の隣に立ち、コートを見る。

私はそんな彼を見て――――。







「ねぇ」


「ん、何や?」


「あの、さ」


「ん?・・・どないしたん、?」




いつまで経っても本題に入らない私の言葉に
蔵がコートに向けていた顔を私にと向ける。



聞かなきゃ。


聞かなきゃ・・・いけない。




「あのね」


「おう」




どうして・・・どうして、あんなこと言ったの?



どうして、今頃になって・・・あんなこと、言ったの?




「その・・・えーっと」


「早よ言うてや。何か欲しいもんでもあるんか?」


「そ、そうじゃなくて」


「せやったら何や?」




優しく問いかけられる声に、私の言葉が尻すぼみをしてる。

聞かなきゃいけないことよ。
かなり重要。






「あのね、蔵・・・っ!」


「ん?」



















何でネックレス外さないでって言ったの?






























あー!!!ねーちゃんやぁああ!!!




「き、金ちゃん」

「大きな声出しなや、金ちゃん」


途端、授業終わりで部活にやって来た金ちゃんが
私の姿を見るなり、凄まじい速さでこちらにやってきた。



「やっぱり、ねーちゃんやったんやな。昼休み、ねーちゃん見つけたんやで!!」

「そ、そうなんだ」



金ちゃん・・・も、もう少しタイミング考えてから来て。

なんて言っても彼にそんなこと通じるわけない。
とりあえずハイテンションな彼のペースに巻き込まれておこう。



「コラ、金ちゃん。早よう着替えて来い」

「えー・・・ねーちゃんと話ししたいねん」

「着替えが先や。それとも・・・・・・」

「わぁぁあ、分かったわ!!着替える、着替えてきますー!!」



蔵の左手の包帯・・・金ちゃん曰く「毒手」を恐れてか
彼はそそくさと部室に走って行った。




「んで?」


「え?」


・・・何やさっき、言いかけたやろ?・・・何なん?」


「あっ・・・」




話題を元に戻され、私は焦るも――――。







「ゴメン。何でもなかった」

「?・・・そうか」

「うん。大したことじゃないの、気にしないで」

「そやったら・・・えぇねんけど」






「なんでもない」と言葉を濁し、話題を終わらせた。

本当は聞きたいよ。
どうして、ネックレスを外さないでくれって言ったのか。
凄く気になって仕方がないの。

だってようするに
恋人のフリ・・・続けて欲しいって言ってるようなもの。

ホントはさっさとこんなもの外して
私の本当の気持ち伝えればすむはずなのに
関係を崩したくないがため・・・ずっとネックレスを付け続けてる。

その関係を続けて欲しいって・・・どういうこと?


そうか!私はアイツの魔よけか!
だって蔵、モテるもんね・・・彼女のフリしてる人いないと
逆ナンされることあるし・・・そうよ。


きっと・・・・・・そうなんだ。


やっぱり、私・・・蔵の、一番に・・・なれないんだ。


蔵の本物の彼女に・・・なれないんだな、とそう解釈するしか道はなかった。














ようやく迎えが来て
校門前、蔵と謙也、そして金ちゃんが見送りに来た。




「ほな・・・また、夜電話するわ」

「もういいって」

「白石・・・休ませたれよ。昨日の今日で疲れてんねんから」

「ちょっとはねーちゃんの事考えーよ、白石」


に言われるだけならまだしも、何でお前らに言われなアカンねん」





私の毒舌攻撃だけではなく
謙也や金ちゃんも私の肩を持ち、蔵にそう言い放った。

その光景を見て私は思わず笑みを浮かべる。




「そういうわけだから蔵・・・今日は我慢して」

「・・・はい」

「素直でよろしい・・・ウフフ」





お嬢様、そろそろ」

「あ、すいません」



魁さんがそういうと、私は返事をして
開きっぱなしのドアから、後部座席へと入り
窓を開ける。


窓を覗き込むように、蔵、謙也、金ちゃんが顔を見せる。





「ほな、また明日な」

「うん」


「また明日からの毒舌炸裂か〜・・・まぁもう1年にもなるし慣れたわ」

「うるさいわよ、謙也」


「ねーちゃん!」

「何、金ちゃん」





















「あのお話、明日絶対!続きしてな」



「え?」





金ちゃんが楽しげにそう言う。

金ちゃんの言う・・・「あのお話」に私の心臓は突然跳ねた。
そして蔵と謙也を見る。
2人は不思議そうな顔をして私を見ている。




「き、金ちゃん・・・ダメよ。此処でそれ言っちゃ」

「あっ・・・せやったな。ごめんなねーちゃん」



「何や?2人で何の話してるん?」

「金ちゃん・・・隠し事しとると、白石の毒手食らうで〜」



「うぇええ〜!い、イヤや毒手〜」



謙也の言葉に、金ちゃんが焦り始める。
私は思わず顔を乗り出し――――。






「あっ、あのね・・・金ちゃんに聞かせてる私の作り話なの。だから、蔵や謙也に聞かせられるほど
まだその・・・出来上がってないから・・・金ちゃんに、聞いてもらってるだけなの」





金ちゃんのフォローに回り、私は何とかその場を取り繕う。

あの話は・・・あの話は・・・・・・金ちゃんにしか多分、聞かせることが出来ない話だから。

謙也はおろか・・・蔵には絶対に話せない。







「へぇ〜・・・そうなんや」

「ほな。出来たら一番に彼氏の俺に聞かせたってな

「ぅ、うん・・・そうね。考えとくわ。・・・じゃあ帰るね」

「おう。また明日」

「うん。・・・・・・魁さん、お願いします」

「かしこまりました」




ようやく別れを告げ、私は車を発進させてもらい
家へと向かう。

焦って上がった体温が徐々に落ち着いて、元の体温に戻る。









お嬢様」

「はい?」



しばらく車を走らせてもらっていると
魁さんが、バックミラー越し私に問いかけてきた。


「盗み聞きしたわけではないんですが・・・・・・遠山様に聞かせているお話とは?
気になっているとはいえ・・・不躾なことをお尋ねして申し訳ございません」

「あぁ・・・あれですか?・・・アレはですね」
































「ちっちゃい女の子の話?」


「そ、それ以上のことは言えん!ねーちゃんとの約束や!!ワイ以外の誰にも話したらアカン言われてんねん」



あまりにもが金ちゃんに聞かせている話の内容が気になり
俺は包帯を解くフリをして、金ちゃんを脅す。

分かったのは「ちっちゃい女の子の話」だけ。

それ以外はから口止めされとるらしい。
それだけじゃ分からんのに・・・。




「ど、毒手直してぇな白石〜っ」

「白石、直したれ」

「はいはい。・・・ホンマに教えれんのか、金ちゃん?」

「ねーちゃんと約束したんや。約束は破ったらアカンねん・・・それくらい白石かて分かるやろ?」

「・・・・・・ま、まぁ」






金ちゃんの言葉に、俺は何も言えんくなった。

本人と約束したのであれば・・・これ以上問い詰めても
金ちゃんは多分喋らんやろう。

むしろ、尋問したら金ちゃんが明日にでも
に泣きついて、またケンカしての逆戻りになってまう。


あー・・・アカン、アカン。
せっかく仲直りしたんに、また逆戻りしてどないすんねん!

それやったら、まぁしゃあないな。







「ちっちゃい女の子の話なぁ〜」

そんなもん作ってたんか?」

「多分な。まだ製作途中言うから・・・出来上がったら聞かせてくれるはずや。そやろ、金ちゃん?」

「え?・・・ぅ、うん」

「それまでしっかり聞いときや。たまにはアドバイスもしたれ・・・えぇな?」

「ゎ、分かったわ」

「よっしゃ。ほな、練習戻るか」

「せやな」

「ぉ、おう」






多分、出来てからのお楽しみやろな。

ちっちゃい女の子の話か・・・どんな話やろ?
きっとえぇ話なんやろうなぁ〜・・・の性格に似合わず。

って、にそんなこと言うたら聞かせてもらえそうにないから・・・言わんとこ。



























「よろしいのですか?そのようなお話をされて」

「金ちゃんに自分以外の人に絶対教えないでって口止めはしておいたので、約束は守るはずですよ」




私は目線を過ぎ行く大阪の街を見る。

私が金ちゃんに話しているのは・・・「小さな女の子の話」。
ただ、その話は・・・とても悲しくて、寂しい話。

おおまかな内容を魁さんに話すと
かの人は驚きながら、私にそう言うのだった。





「いいんですよ・・・昔のことなんで」

「しかし、お嬢様」

「金ちゃんのことですから、多分喋らないと思いますし・・・それに、彼はコレを本当の話だなんて、思いませんよ」

「・・・そうだと、いいんですが」

「大丈夫ですよ、魁さん。気にしすぎです」

「はい」






そう言って私は魁さんを安心させた。


小さな女の子の話。



悲しくて、寂しい・・・・・・本当の話。



でも、それが真実なんて誰も知りはしない。



ごめんね、蔵。
また私、貴方に嘘付いちゃったね。

物語はもう出来てるの・・・ただ、それを貴方に話すことは一度もないの。


ごめんね。


この話をしてしまえば、貴方がきっと離れてしまいそうだから
私はまた・・・嘘を重ねなきゃ。



話すわけにはいかない。










「小さな女の子の話」という名の――――私の生い立ちを。







Reconciliation....
(ようやく元の私達に戻った。それでも私はまだ彼に嘘を付き続ける)
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