「はぁ?が早退?」
部活中。
小春とユウジのアホコンビが俺の所に来た。
彼等の口から出てきた言葉に俺は驚きを隠せんかった。
「蔵リン、ケンカしたんとちゃうん?」
「アホォ。そんな短時間でケンカなんか出来るか」
「じゃあ何で、急に帰ったりしたんや?お前と何かあったとしか思えんわ」
「ケンカもしてへんし、今日は一緒に帰る予定だったわ。早退とか・・・聞いてへんで」
帰るなら、俺にいつもメールか電話くらい寄越してくれるはずや。
それだというのに・・・何故今日に限って?
「でも、・・・何や様子おかしかったなぁ」
「え?」
「せやせや!」
「ど、どういうことや」
ふとユウジが言葉を零した。
俺はそれを見逃さず拾い、話題を水面下に置いた。
「担任に呼ばれて、帰ってきた後や・・・様子おかしなったんわ」
「呼び出し・・・ま、まさかっ!」
「へーんな妄想しぃなや蔵リン。別にちゃんの服が乱れてるとかそんなんなかったで」
「いや、先生が生徒呼び出すとか・・・滅多なことやないかぎり、せぇへんやん。・・・何があったんや」
のことを考え始めると
色々勘ぐってしまい、キリがない。
・・・ホンマ、アイツどないしたんや。
いつもなら、俺に頼ってきてくれるんに・・・何で今日に限って。
「とにかく、伝えることは伝えたで」
「後はお前らの問題や。俺ら巻き込むなや」
「そないなことせぇへん。まぁ礼は言うとくわ、ありがとうな」
そう2人に礼を言った。
しかし、ホンマに・・・何があったんや?
「白石」
「おぉ、千歳。珍しいなお前が部活に顔出すっちゅうのは」
すると、俺の背後から声が聞こえ振り返ると
千歳のヤツがそこに立っとった。
でもその表情はいつもの明るさはなく、何やら少し思いつめたような表情やった。
「な、何やお前・・・辛気臭い顔して」
「昼、と偶然町で逢ったとよ」
「何やて?」
千歳の口から零れた言葉に、俺の心臓が酷く高鳴った。
急に学校抜け出したかと思たら・・・千歳と逢ってた?
う、浮気!?・・・いやいや、千歳の表情はそないな風には見えへん。
「・・・何か、進路んことで担任の先生にヘンなこと言われたらしか」
「ヘンなこと?」
「白石達と仲良ぉするのはよかばってん、無理して同じ学校ば選ばんでよか。
いつかは離れなちゃあらん。いつまでも仲良しごっこは続かんぞ・・・って。それ言われて相当ショック受けとったごたか」
「・・・・・・・・・」
千歳の言葉に、の表情が目に浮かんできた。
せや、俺はアイツと約束した。
同じ高校、一緒に行こうやって・・・。
はその後、自分のお母ちゃんと色々話し合ったらしい。
でものお母ちゃんは笑顔で俺と同じ高校行くこと承諾してくれた。
せやけど、どうやらの成績と行こうとしてる学校の偏差値がどうしても
不釣合いと思たのクラス担任がそう言うたんやろ。
「の成績やけん、しゃんなかかんしれん。担任がそぎゃん風に言うとはね」
「あぁ。それやったら・・・が学校を早退した理由が分かったわ」
「、不安なんよ。白石と離れるのが」
「え?」
千歳の言葉に俺は目を見開かせ、彼を見た。
「なーんかねぇ・・・の話、聞いとっと・・・白石と離れるんが恋しかように思えてきたとよ。
白石と離れてしまったらどうしよう・・・って。はずーっとそればっかり考えとったように思えた。
表情からしてまぁそぎゃんこつは一目瞭然やったけどね」
「俺と・・・離れる」
偽りの関係を続ける俺と離れるのがイヤ?
俺はただ、アイツの忘れたいもの忘れさせる存在のだけのヤツや。
それやっちゅうのに・・・何でそないなこと。
「白石?」
「あぁ・・・すまん、千歳。それ言うために来たんか?」
「おぉ、一応な。あ、それと」
「何や?何かまだあるんか?」
ようやくが早退した理由が分かったのに、何やらまだ
千歳は話題を持っとった。
「からは、白石には言うなって言われたばってんが・・・どうも気になったけん、一応言うとくね」
「俺に言うなって・・・・・・何やねん」
「うん、実は――――」
―――――ピンポーン!
『はい、どちら様でございましょうか?』
「夜分遅くにすんません、白石です」
『あぁ白石様。少々お待ちください』
部活が終わり、俺はすぐさまの家に来た。
インターフォンを押して、応対を終えると扉が開き、運転手さんが俺を出迎えた。
「、居りますか?」
「はい、お部屋でお勉強なさってると思います」
「そうですか。逢ってもえぇですか?」
「はい。あとでお部屋にお茶をお持ちしましょうか?」
「あぁ、いえ。えぇですわ、すぐ用事済んだら帰るんで」
「左様でございますか、では」と運転手さんが会釈をして
俺はその横を通りに抜け、の部屋へと向かい、扉を叩く。
『はい?』
「、俺や」
『蔵?・・・ちょっと待ってて』
ノックをして、俺が来たと伝えると
彼女はすぐさま扉の方にやって来た。足音で分かるわ。
ドアが開く音がして、扉が開く。
「どうしたの、急に?」
「ちょっと、な。入ってもえぇか?」
「いいわよ、はい」
扉を少し開けてもらい、俺は中に入る。
中に入ったのが分かると、は扉を閉めた。
扉の閉まる音がして、俺はバッグを床に置いた。
「どうしたの?あ、今日ゴメンね・・・一緒に帰る予定だったのに、先に帰っちゃって。
も、もしかして・・・それで怒ってる?連絡とかも入れてなかったから・・・ホント、ゴメン。今度からは」
「高校・・・進路変更しても、かまへんで」
「え?」
俺はに背を向けて、そう言った。
昼間、千歳の話聞いて・・・もしかしたら俺が縛り付けてるせいで
がこないに苦しい思いしてると思たら・・・情けなくなってきた。
本当は離れたくないし、離したくもない。
多分かて、そっちの方が安心する。
せやけど――――。
「自分がツライ思いするくらいやったら・・・俺と一緒の高校、行かんほうがえぇねん」
「く、蔵」
「ごめんな。俺が花見ん時・・・ヘンなこと言うたから・・・のこと、苦しめとったわ。ホント・・・スマン」
「・・・・・・」
「離れてても・・・俺、毎日連絡するし。迎えにかて行くわ・・・せやから、担任の先生には」
俺が振り返り、の顔を見ようとした瞬間
頬に酷い痛みが走った。
に俺は初めて、頬をぶたれた。
頭はたかれたり、物投げられてぶつけられたりしたことはあった。
それはスキンシップみたいなもんやったから。
せやけど、マジで・・・本気で、叩かれたのは初めてやった。
「アンタ・・・自分で言った事、覚えてないの?」
「え?」
「私に離れるな何だのかんだの言って・・・担任の先生に進路のこと言われたからって今更何怖気づいてんのよ!!」
「でも・・・俺が同じ学校行こう言うたからがツライ思い」
「それでもいいって望んだのは私なの!ツライ思いしたって構わないって!!蔵と一緒に居れるならそれでいいって」
「」
目の前のは、顔を伏せ泣き出し
俺の胸を叩く。
「でも、怖いわよ!いつか、皆離れていくって分かってても怖いに決まってるじゃない!!
千歳も、小春ちゃんも、ユウジも、謙也も銀さんも、健二郎も・・・みんな・・・みんな・・・っ。蔵だって・・・離れていく。
怖くて何が悪いのよ。不安で何が悪いのよ・・・!!怖いし、不安だけど・・・・・・近くに居れるだけで・・・・・・いいの。
忘れられたって構わない、忘れてくれたって構わない。近くに・・・近くに居るだけで・・・」
「もうえぇ!」
泣きじゃくるを見て、俺は彼女を引き寄せ抱きしめた。
「近くに居るだけやアカン、側に居ってくれ。は、だけは俺の側に居って欲しい」
「く、ら」
「千歳から話し聞いて・・・俺がお前のこと縛り付けてるせいやって思てた。苦しい思いしてるんは俺のせいやって。
正直、担任の先生が何やねん・・・成績が何やねん。と一緒に居って・・・何が悪いねん。って」
泣いているを見ていると、本音が口から零れ落ちる。
あぁ、そうや。
正直、全部邪魔やった・・・の担任の先生の言葉も、成績も、何もかも。
俺の側にが居らんようなる・・・それだけは嫌やった。
でも、苦しんでるの表情が目に浮かんだとき
「俺のせいでコイツ苦しんでる」って思た。
それやったら、我慢して・・・離れ離れになって・・・生活していけばえぇねん。
連絡手段くらい、いくらでもある。
部活に余裕あるときは、と一緒に帰ったったらえぇねん。
考えればいくらでも方法見つかった。
でも・・・。
「離れるんは嫌や、マジで嫌や。やっぱり、俺・・・、離しとぉない。同じ高校行こう。
近くでなんてそんなのアカン・・・側やないと俺は嫌や。は俺の隣に居ればえぇんや」
やっぱり、離れるんだけは・・・・・・嫌や。
の家来る前、色々考えた。
離れてからの生活とか考えた。
そしたら、急に目の前が灰色になった。
色が分からんよぉなった。
空も、道も、町の風景も、人の肌の色や服の色・・・そして――――。
「来年、2人で桜見よう・・・言うたやん。2人で同じ高校合格して、桜見ようって・・・京都遊び行こう言うたやん」
桜の花びらの色さえも、淡く寂しい雪のように見えた。
頬を染める、の表情ですら・・・分からん。
「さっきの言葉、全部ナシや。離れんといてくれ、・・・俺から離れんといてくれ」
「蔵」
「お前が不安やったら俺、いつでもずっと側に居る。苦しいとき、俺ずっとの側に居る。
苦しいときや不安なときだけやない・・・楽しい時も、嬉しい時も、ずっとずっと・・・ずっと・・・」
「の側に居りたいねん」
お前が誰に何か言われてんやったら、俺が守ったる。
本物の恋人やないけど・・・好きな子、守るんは男の義務や。
好きな子、守って・・・何が悪いねん!
好きな子、放ったらかしなんかできるかいな。
俺の判断は間違えてない。
いや、此処で間違えたらアカンねん。
此処で俺が間違った判断してしまえば・・・はもう―――俺の側に戻ってけぇへんねん。
「頼む。頼むから」
「蔵っ・・・・・・ありがとう。ごめんなさい」
「謝るのは俺の方や。堪忍な・・・ツライ思いさせてしもて」
ようやく体を離し、の顔を見る。
彼女の目からは涙が零れ、頬を伝っていた。
「私・・・わたし、蔵と同じ学校・・行っちゃいけないって言われてるような気がして・・・それで、それで・・・っ」
「何言うてんねん。学校に生徒選ぶ権利ないで・・・まぁ学力では選ばれてるけどな。
最初っから・・・そないなこと考えたらアカン。俺と同じ高校、行ったらアカンって誰が決めたんや?誰も言うてないで。
一緒の高校・・・行こう、。俺の側にずっと居って」
「ぅん」
そう言って俺はの涙を舌で拭い、滑るように唇を重ねた。
「先生にはどう、言えばいいのかな?」
「やっぱりこの学校行きますって言うとけばえぇねん。自分の意思曲げたらアカンで」
「・・・・・・頑張ってみる」
「おぅ。俺と同じスクールライフ味わうんやったら頑張り」
俺が笑うと、も安堵の表情を浮かべ・・・・・・笑った。
あぁもうホンマ・・・やっぱり手離さんくて正解や。
この笑顔、絶対俺だけのモンやからな。
他の奴等に譲る気なんか毛頭ないわ。
「それとな」
「何?」
「・・・・・いや、スマン。何でもないわ」
「言いかけといて、途中で止めないでよ。何かあるんなら言いなさい」
にもう一つ、聞きたいことがあった。
それは千歳から、進路の話とは別に聞いた・・・・・話。
『が?』
『あぁ。白石との関係が嘘って言うのと・・・本当はお嬢様じゃなかって・・・そぎゃんこつば言いよったばい』
『・・・・・・そう、か』
『何でそぎゃんこつば言ったとか分からん。ばってん、時々の考えてるこつが分からんけんが・・・白石やったら
よぉ知っとっとど?だけん、言うたと。・・・には白石に言うなって釘刺されたけん・・・出来んなら(出来るなら)
には内緒にしてもらっててもよかね?』
『あぁ。分かったわ・・・ホンマ、ありがとうな千歳』
『よかよ』
「ホンマ、何でもないねん。気にせんといて」
「変なの。でも、蔵に話せて良かった・・・これで担任に物言いできる準備が出来たわ」
「お嬢様毒舌かましたれ。俺と一緒の学校行くんやろ?」
「もう迷わないわ。蔵と同じ学校行く・・・それが一番いいのよね?」
「当たり前や」
話そう思たけど、やっぱり話したら何や関係崩れそうやから
やめておこう。
きっと、進路んことで不安になりすぎて
そないなこと思たんやな・・・・・・きっと。
「担任に謝られた」
「はぁ?」
「ブッ!担任に何さらした」
2日後。
俺と謙也の前でが突如そないな事言うて来た。
先日、は欠席をした。
理由を聞いたら「ちょっとお母さんが休めって言うから」との事。
学校復帰したが俺たちに開口一番そう言うた。
「いや、学校来てすぐに担任に呼び出されて・・・すっごい勢いで謝ってきた。
もう、私がせっかく決意表明して担任に進路のことで食ってかかろうと思ったのに・・・何よ。
手のひらを返したようにコロッと謝って」
「お嬢様に恐れをなしたんやできっと」
「でも良かったやん。コレで進路変更ナシで俺と同じ高校行けるな。やっぱ俺らの愛の力やな」
「あのバカどうにかできない?」
「無理やな。お前の事に関したら末期やで。医者もお手上げ状態や」
「頑張れ医者の息子!」
「俺はコイツの面倒見るのもイヤになってきたわ」
「コラーそっちだけで会話しぃーなや。謙也ぁ、は俺のやぞ」
「はいはい。ほな2人でイチャイチャしとけ」
そう言うと謙也は教室の中に戻っていきよった。
その場には俺とが残る。
「でも、ホンマ・・・自分んトコの担任に何があったんや?」
「多分お母さんの仕業。学校に電話したみたい」
「のお母ちゃんが?」
2人っきりになると、はため息を零しながら担任の謝罪の真相を話し始める。
「2日前、進路のことで私と蔵の揉めてた声が聞こえてたらしくて・・・それで」
「ほな、昨日欠席したのは」
「多分お母さんが担任の先生に何か言ったんだと思う。今日出際にお母さんが」
『釘刺しておいたからもうちゃんが心配することないわよ。ウチの娘を悩ませる種は
排除しておかないと、ちゃんが困るからね。ウチで決めたことを
とやかく言われる筋合いは無いから心配しなくてもいいわよ。・・・・・・さぁ学校行ってらっしゃい』
「って笑顔でそう言ってきた」
恐るべし毒舌娘の母。
ホンマ、親子やで・・・この2人。
と、俺は心の中でそう思た。・・・完璧に家のお方々を
敵に回したらこうなるんやなぁと、思たと同時に
を困らせたりなんかしたらアカンなと、俺はそう決意したのだった。
「ほな、頑張って同じ高校に入学しような。せっかく自分んトコのお母ちゃんも手助けしてくれたんやから」
「・・・ぅ、ぅん」
俺がそう言うとは顔を少し赤らめて頷いた。
まだ俺たちは偽りの恋人を続ける。
首に下がった星のネックレスが外れたとき、関係は終わってしまう。
終わらせないためにも・・・俺は必死に
自分の気持ちを押し殺し・・・彼女に愛を注ごう。
たとえ、ずっと・・・結ばれんくても。
俺らの行く未来。
結ばれんくても・・・・・・お前が俺の側に居ってくれるだけで
俺の未来はきっと色づいてるはずやで。
Future〜色づく世界へ〜
(お前が側に居らんかったら、未来ずっと灰色のままやから側に居ってくれ。そして俺に色鮮やかな世界を見せてくれ)