日差し照りつける日。
そう、もう本格的な夏がそこまでやってきていた。
そして・・・――――。
---------PRRRRRRR・・・・!!
「もしもし、蔵?」
『っ、やったで!関西大会優勝、全国の切符2年連続ゲットや!!』
「凄い。おめでとう蔵」
『おおきに』
彼の熱い闘いが始まっていた。
地区予選、府大会を今年も順当に勝ち進み
そして本日が、関西大会決勝戦。
電話元の彼の声は、本当に嬉しそうな声だった。
「ゴメン、観にいけなくて」
『えぇて。自分から去年貰たミサンガあるし・・・それに全国はが応援しに来てくれるんやろ?そう思たら全然平気や』
本来なら、去年同様
関西大会の決勝戦は観に行く予定だったのだが
お父さんとお母さんが海外に夫婦水入らずで旅行に行くというので
私は関西国際空港に二人を見送りに行ったのだ。
「とにかくおめでとう」
『おう!・・・あ、今から逢いに行ってもえぇか?ていうか、今にめっちゃ逢いたい』
「汗臭い体で来ないで。一旦家に帰りなさい」
『え〜・・・に今すぐ逢いたいねん。今から行きたい』
「来るな。家に戻って」
『に逢いたい。に逢って俺のこの嬉しさとかすぐ伝えたいねん』
「ダメ、帰ってから来なさい」
『じゃあの家の風呂に入るから、行ってもえぇか?』
「何でそうなるのよ。荷物も置いて、お風呂にも入って、ご飯食べてから来なさい」
どうやら電話元の蔵は、すぐさま私に逢いたいと駄々をこね始めた。
そりゃあ私だって今すぐ逢いたいわよ。
ただ、やっぱり・・・何も準備してないし
女子としては、汗の混じった体で抱きつかれても困る。
ウチのお風呂使っても良いけど・・・此処はやっぱり一度家に帰すべきだ。
そうじゃなきゃ、蔵の家族が心配する。
『今はアカンのん?』
「今はダメ。一旦ウチに帰れ」
『・・・がそう言うなら・・・そうするわ』
「素直でよろしい。来る頃になったら電話して・・・ウチ、今日から今お手伝いさんたち
お休みしてもらってて誰もいないから」
『女の子一人、あのでっかい家に!?そら、アカン!!ほな、すぐ帰って超ダッシュでそっち行くわ!!』
「あっ、別に気にしなくて・・・・・・って、切れた」
言葉を続けようとしたら、電話が切れた。
確かに、魁さんをはじめ・・・お手伝いさんたちにお休みをさせ
私一人家に居るけれど、別に不便でも何でもないし・・・むしろ、誰も居ないから案外快適だったり。
だが、どうやらそれが蔵には危険と思ったらしく
私の言葉を聞かずに電話を切った。
私はため息を零し、机の上に携帯を置く。
そういえば去年は、お父さんとお母さんとお祝いしたんだっけ?
それで私は彼にミサンガをあげたんだった。
私の上げたミサンガは今も、彼の携帯にぶら下がり
緑の線を描きながらブラブラと揺れている。
私はあのミサンガにどれだけの思いを詰め込んだか、彼は知らない。
「全国大会制覇」っていうありきたりすぎる想いを言ったけど
本当は「私を本気で好きになって」とミサンガに込めた。
今もそれを見るたびに・・・早く切れて、早く切れて・・・と
何度も願うけれど、案外紐は何十と結ばれてて、切れる気配がまったく見られない。
このままじゃ・・・彼が離れていくのは目に見えている。
いくら同じ高校に進むといえど
ネックレスの事忘れ・・・彼が私を離れていくかもしれない。
そう思うと気持ちが焦る。
「言わなきゃ・・・分からない事も、ある」
言わなきゃ、きっと・・・ずっと、このまま。
信じてもらえないかもしれない。
いや・・・そうでなくてもいい。
もし、そうだとしても・・・・・・今までどおり割り切って付き合えば良い。
ずっと胸に仕舞いこむよりも
外に気持ちを出してあげた方が・・・少しはラクになれそう。
気持ちを出してあげれば・・・・・・ネックレスだって無くたって・・・大丈夫。
「捨てる口実が出来たから・・・いいよね」
私は首に下がった、アイツから貰った星のネックレスを持ち上げる。
もう1年・・・私はこの子を首に下げている。
最初は捨てるタイミングを逃した・・・そしてコレは
私と蔵との関係が繋がるきっかけを作ってくれた。
もし、私の考えてる事が成功しようが、失敗しようが
このネックレスは捨てよう。
告げるだけで・・・もう、充分。
まぁきっと、失敗に終わりそうな感じではあるけれど。
それでもいい。
心の中で、彼を想い続ければ・・・・・・まだラク。
想いを告げずに、誰かに取られてしまうよりかは全然マシ。
「頑張れ、私」
そう自分に言い聞かせ、私は彼がウチに来るほんの数時間前
そんな決意をしていた。
「まだ電話切って、2時間しか経ってないわよ」
「せーやーかーら!女の子一人にしたら危ない!!風呂だけ入って来た。
お母ちゃんたちご馳走作ってくれたけど、何や姉貴がまた飲んで酔っ払いそうな勢いやったから出てきたわ」
電話を切って2時間後。
蔵が私の家にやって来た。
どうやらお風呂には入ってきてくれたみたい。
ただ、ある意味去年と同様逃げてきた事には変わりないらしい。
「あ、んち行く言うたら・・・お母ちゃんがホレ。今日の夕飯、重箱に入れてくれたわ。
まぁ作って余ったやつなんやけどな。二人で食べれって」
「え?・・・あっ、いいのに別に」
すると蔵は風呂敷に包まれた重箱を私に渡した。
「えぇて。お嬢様がお料理できるんは分かってるけど、ウチの味も覚えとき。将来ウチにお嫁さんとして来るかもしれんからな」
「なっ!?・・・バ、バカな事言わないで!!」
重箱を受け取りながら私は彼にそう言い放った。
お、お嫁さんって・・・っ。
本物の恋人でもないのに、そんなこと・・・・・・。
「?・・・・・・どないしたん?」
「え?・・あぁ、うぅん。何でもないの・・・入って」
「おう。お邪魔します」
私は彼を家の中に招き入れた。
ふと、思った。
そうだ・・・・失敗したら
コレはもう恋人でも何でもなくなる。
最初っから本物じゃないから・・・仕方ない事。
だけど・・・心のどこかで、私を好きであって欲しいと願う。
振り向かせたくて、一杯ワガママした。
本気で彼を好きになってしまったから。
偽りとしてではなく、本気で。
だからこそ・・・色々困らせたり、ワガママ言ったり・・・ケンカしたりで翻弄した。
私に・・・私だけに振り向いて欲しかったから。
「そういえば、自分のお父ちゃんとお母ちゃん・・・いつまで旅行なん?」
自分の心と会話をしていると
蔵が私の後ろでそう言い出した。
私は気持ちを隠して、平然を装う。
「来週には帰って来るよ。お手伝いさんたちもそれと同じくらいに」
「ふぅーん。せやったら此処、一人なん?」
「そうよ。・・・何?」
「いや・・・・・・んー・・・・・・やっぱえぇわ」
蔵から貰った重箱を、食事をするテーブルにおいて彼を見る。
何か言いたそうな顔をしている。
「何かあるなら言いなさいよ。この前もそれでやっぱりいいで片付けたじゃない」
「えぇの!ホレ、部屋行こうや。自分の部屋でゆっくり話しよ」
そう言って蔵は私の手を握り、我が物顔で家の中を歩く。
私の家なんですけど・・・と言いたかったが
本当に蔵はズルイ。
言いかけた言葉をすぐに飲み込むから。
結局聞けずじまいなことが何回かあった。
やっぱり、【本物】じゃないから言えないことなのかな・・・ってそう思ってしまう。
部屋に付いて、蔵は相変わらず私のベッドに腰掛けた。
「結局早く来てしもたけど・・・夕飯まで時間あるなぁ」
「大会のこととか話せばいいでしょ。まぁ聞かなくても、嬉しそうな顔見れば一目瞭然よね」
「おう!ホンマ、今年も全国行けてよかったわぁ〜・・・行けんかったらどないしよとか思た」
「そうよね。蔵たち3年生は最後だからね」
「有終の美は飾りたいやんか。コレで全国制覇できたら完璧(パーフェクト)やで」
「頑張ってね。応援、行くから」
「あぁ、絶対来てな!俺、試合出して貰た時は全力で頑張るわ。勝利の花は自分に捧げる・・・なーんてな」
「クサッ。今時そんなこと言う人居ないわよ」
「其処は”うん、ありがとう“とか喜んでくれや〜っ。蔵ノ介クンヘコみますわぁ」
彼はそう言いながらベッドに横倒れをした。
私が彼を見ると、目線があって――――笑う。
笑い終わると、蔵はベッドから体を起こして
すぐさま私の元に来て、腕を引っ張り抱きしめた。
「・・・・・・好きや」
「・・・・・・・・・」
その言葉に、私は黙った。
いつもなら「私も好き」って私は返す。
だが、今はそれをしなった。
そんな私を不審に思ったのか
蔵は体を放して、私を見る。
「?・・・どないしたん?」
蔵に問いかけられ、私はゆっくり顔を上げ――――。
「私も好き」
「おぉ、いつもみたいに言うてくれへんからビックリし」
「本気で好きなの」
「え?」
「本気で、本気で・・・貴方が好きなの、蔵」
私の口から零れた言葉に、蔵は驚きを隠せず
目を大きく見開かせて私を見ていた。
そうよね、驚くわよね。
今まで、偽ってて・・・今更本気で好きって言っても・・・驚くだけよね。
「こんな事今更言っても、信じてもらえないかもしれない。でも、本気で貴方が好きなの。
嘘偽り一切なく・・・正真正銘、私は・・・貴方が好きなの」
「」
「バカみたいでしょ?私から言い出しといてさ・・・結局、私・・・蔵のこと好きになってるんだから。
忘れたいものを忘れさせてくれるだけの人だったのに・・・・・・本気で、貴方のこと好きになって」
「もう、貴方ナシじゃ・・・生きていけないって思うくらいになっちゃったんだから」
涙が溢れ、頬を伝い零れる。
分かってる。
きっと、返ってくる言葉は「ごめんな」って。
でも、伝えずに誰かに取られるくらいなら
いっそ想いを伝えて、ラクになった方が良い。
伝えずに取られた辛さは誰よりも知っている。
だからこそ、今度こそ・・・伝えて、断られたとしても・・・ラクになれると思う。
伝えきれなかった傷ついた心を引きずるよりも
伝えて、少し痛む心を引きずって生きる方がずっとマシ。
「ゴメン・・・やっぱり迷惑よね。ていうか、マジで今更好きとか信じれないでしょ。ゴメン・・・ゴメンね、蔵」
「・・・・・・・・・」
「蔵?」
涙を拭いながら、私は彼を見上げる。
真剣な面持ちで私を見ているのかと思ったが
何やら顔を横に背け、口元を包帯の巻かれた左手で押さえていた。
「蔵?」
「アカン・・・俺、カッコ悪いわ」
「え?」
蔵の口から零れた言葉に、私は疑問の声を出した。
何が「カッコ悪い」ことなんだろうか?
「ちゅうか、反則。・・・・・・せっかく、全国制覇して俺・・・言うつもりやったのに」
「え?・・・そ、それって・・・っ」
横に背けていた顔が私を見る。
真っ直ぐに私を見つめる焦げ茶色の瞳。
それだけで今にも吸い込まれそうなくらいだった。
「俺も、好きや。嘘やないで、マジで言うてんねん。・・・本気で自分のこと好きなんや、」
「・・・く、ら」
「女の子に告白させるとか、ホンマカッコ悪いし・・・完璧(パーフェクト)な俺の計画が台無しや。
全国制覇して・・・メンバー居る前で、言う予定やったのに。それで・・・恋人ごっこの関係、終わらせるつもりやったのに」
「ゎ、私のせい!?」
「おう、自分のせいや。ほんま、どないしてくれんねん・・・お嬢様」
途端、彼の手が私の頬を包み顔が近づいてくる。
「俺の計画、全部台無しや。・・・・・・覚悟、できてんねやろ?」
「え?」
「俺の完璧(パーフェクト)な計画台無しにした罪は重いで。
俺の気持ち、ぜーんぶ自分の言葉一つに持っていかれたし、オイシイ場面全部な。独り占めはアカンなぁ・・・」
「く、蔵っ」
「自分の全部で、俺に返してもらうで。・・・そう、一生かかってでも返してもらうからな・・・せやから」
「好きや、ホンマ・・・好きやで・・・」
「蔵っ・・・私・・・っ」
言葉を零そうとしたら、唇を彼の唇で塞がれてしまい
そのまま、床にゆっくり倒され・・・・・・彼に愛されるのだった。
Real
(今此処に本物の愛が見えた)