8月。
全国大会の幕が切って落とされた。
私は蔵たちよりも先に東京へと向かった。
彼等は指定されたホテルに泊まって
私はというと、東京にある元々住んでいた家に戻ってきた。
其処には既に仕事で東京にきていた
お父さんとお母さんが居た。
「明日、白石君たち試合なの?」
「え?・・・そ、そうだけど」
メールで「明日、試合やで。応援に来てな!」と言われ
私が部屋で日焼け止めやら色々準備していると
お母さんが私の部屋に入ってきた。
「じゃあ、お母さんも行っていい?」
「え?」
「テニスの試合って言うの、観てみたいのよ!ねぇ、お母さんも白石君たちの試合観に行きたい」
「お、お母さん」
部屋に来るなり、何だろうと思ったら
どうやらお母さんも蔵たちの試合を観に行きたいと言い出してきたのだ。
「ねー、ちゃん・・・お母さんも行きたい」
「わ、私に言っても」
「じゃあお母さんも行っていい?」
「四天宝寺の応援ちょっと声とか大きいよ」
「大丈夫よ!お父さんのスポーツの応援の時もそりゃあもう大きかったから平気よ!」
私の腕を掴んで、お母さんは明るく言う。
まぁ本人が行きたいというのなら、私が断る権利はない。
「じゃ、じゃあ・・・明日、一緒に行こう」
「ホント!?・・・じゃあお母さんも明日に備えて準備してくるね!!」
私がそう言うと、お母さんは嬉しそうに部屋から出て行った。
スポーツ観戦は二人とも急がしすぎて、親子でしたことがない。
多分、初めて・・・かも。
「蔵、びっくりするかなぁ」
彼は私だけが来ると分かっているのだが、まさかウチのお母さんまで来るとは思わないだろう。
まぁ、いいか・・・彼には伝えず、当日驚いてもらおうと思い
私はカバンの中に色々と詰め込んでいた。
「へぇ〜此処が会場なのねぇ」
「そうだよ」
次の日、私はお母さんと一緒に試合会場に来た。
「今から行くから」と電話を入れたら「ほな、迎えに行くわ。出入り口んトコで待ってるで」と
蔵からそれが返ってきて、会場近くで魁さんに降ろしてもらい
お母さんは日傘を差して嬉しそうに歩いていた。
「おーい、ーっ!!」
「あ、蔵」
すると、私を呼ぶ声。
出入り口でジャージ姿の蔵が手を振って私を呼んで
私の元へと嬉しそうに駆け寄ってきた。
「えらい早かったな」
「うん。送ってもらったから」
「へぇー・・・。あれ?」
「白石君こんにちは」
「こんにちは。何や、のお母ちゃんも一緒に来たん?」
「テニスの試合観てみたいって言うから」
「ちゃんにふっ付いてきちゃいましたぁ〜。白石君は今日は試合するの?」
「えぇ。俺は今日ダブルスで・・・千歳千里っちゅうヤツとコンビ組んでするんですわ」
お母さんの登場にも蔵は焦ることなく、いつもどおりにそつなく
会話をこなす。ちょっと驚くの期待してたのに、残念だ。
「まぁそうなの!楽しみね。ねぇ、ちゃん」
「え?・・・あぁ、うん」
いきなり会話を振られ、私は慌てながらも答えた。
「ほな、こっちです案内しますわ」
「どうも。ホラちゃんも行きましょう」
「ぅ、うん」
お母さんは楽しそうに私の手を引っ張り、会場へと連れて行く。
私の手を引っ張る間も、お母さんは蔵と会話をする。
まぁお母さんにとってこういう場所は初めてなのは分かるけど
何だろう・・・ちょっと、変な気分がした。
「あ、メンバーの皆さん・・・お昼は済ませてあるの?」
「いや、まだですわ。試合が昼過ぎからなんで」
「じゃあ、これ」
「「!?」」
お母さんが蔵たちにお昼のことを尋ね、彼から「まだ」という
返答が返ってくるや否や、何処からともなく
風呂敷に包まれ何十にも重なった重箱が出てきた。
私はおろか、蔵もコレには驚く。
ど、何処にそんなもの持ってたのお母さん。
「おにぎり、たくさん作ってもらったから・・・部員の皆さんで食べて。あ、お茶も必要なら用意させるわ」
「い、いや・・・こ、これだけで充分ですわ。おおきに」
しかし、こんなもの・・・本気で何処に隠し持ってたのだろうか。
私ですら気づかなかった。車の中にはこんなもの何処にも無かったはず。
「あ、ねーちゃんや!!」
「金ちゃん」
すると、食べ物の匂いに釣られてか?金ちゃんが物凄いスピードでやってきた。
「ねーちゃん、応援に来てくれたん!」
「そうだよ」
「あー・・・でも、ワイ出ぇへんねん。せっかくねーちゃん来てくれたんに」
「まだ次があるから、そのときはしっかり観ておくわ」
「ホンマ!?・・・・・・隣に居るオバちゃん、誰?」
金ちゃんが私の隣に居るお母さんの顔を見て不思議そうな顔をする。
「コラ、金ちゃん失礼やで!・・・この人は、のお母ちゃんや」
「ねーちゃんのお母ちゃん?・・・へぇ、ねーちゃんと同じでめっちゃべっぴんさんやな!」
「アラ、この子良い子じゃないちゃん」
「え?あぁ、そうね」
美人さんと言われ、お母さんの気分が上がった。
そしてお母さんは金ちゃんを息子か何かを見る目で頭を撫でる。
「金ちゃん、コレ持って皆んトコ行きぃ。のお母ちゃんがおにぎり作ってきてくれたんや」
「おぉおお!!おにぎり!!ねーちゃんのお母ちゃんおおきに!!」
「どういたしまして。じゃあちゃん、お母さん先に行くわね」
「え?・・・場所、分かる?」
「あぁ、ええわ。金ちゃん、のお母ちゃん・・・俺らが居るトコ連れていき」
先に行くと言い出したお母さんに、私は心配の声を掛ける。
だが、すぐに蔵が金ちゃんにお母さんをメンバーが居る場所へ連れて行くよう言う。
「おう!分かったわ!!ねーちゃんのお母ちゃんこっちやで!!」
「ウフフ、元気な子ね。じゃあ先に行ってるわね〜」
そう言って金ちゃんは重箱を持ったお母さんを引っ張り
四天宝寺のベンチ席へと連れて行ったのだった。
「しっかし、驚いたで。自分のお母ちゃん連れてくるんやから」
「の、割りには普通に会話してたくせに」
お母さんと金ちゃんが居なくなると、蔵が私に話しかける。
驚いてる声を上げるが、会話してるときまったくそういう素振りが見えなかった。
「アレでも結構緊張してたわ。・・・ちゅうか、お嬢様ご機嫌ななめやな、どないしたん?」
「は?」
突然蔵がそんな事を言ってきた。
あれ?私そんな風に見える?
「別に、機嫌悪いわけじゃ」
「ふぅーん。何や、俺と自分のお母ちゃんが楽しそうに話してたの・・・ムスーッとした表情で
聞いとったから何でやろ?とか思たんやけど」
「は?・・・わ、私そんな顔してない!!」
「してたで〜。あ、もしかして・・・自分のお母ちゃんに嫉妬してる?俺取られたように思えたから?」
「ち、違うっ!」
蔵はニヤニヤしながら私にそう言う。
自分の母親に嫉妬してどうする私!
こういうのウチに来たらいつもじゃない!!
「顔真っ赤にして否定する時点で、嫉妬してた証拠やで」
「し、してないってば!」
「可愛えぇ。自分の母親に嫉妬とかめっちゃ可愛えぇわぁ。蔵ノ介クン、嬉しいなぁ」
「違うって言ってるでしょ!!私が嫉妬するわけないじゃない!!何で、なんでしなきゃ」
「俺のことめっちゃ好きやから・・・嫉妬、してくれたんやろ」
「!!」
そう言いながら、蔵は私を抱きしめた。
ちょっ、此処人通り一応あるところですけど!!!
通り過ぎていく人たちがチラチラとこちらを物珍しそうな
視線を送ってくる。
い、痛いわこの視線・・・っ。
「く、蔵・・・っ、皆見てるっ!は、離しなさい」
「皆には俺のモンやっちゅうアピールしてんねん。お嬢様、放っといたらすぐ他の男が声掛けて来よるからな。
関西代表四天宝寺中学の白石の彼女やっちゅうアピールしとかな。・・・あー、の髪の毛今日もえぇ匂いする」
「今すぐ離せシャンプーフェチ」
「イヤや。もうちょっとこうしてたい・・・・・・アカン?」
抱きしめられた体が離れ、彼は首を少し傾げながら
私に問いかけてきた。
私はため息を零し、彼を見上げる。
「もうすぐ試合でしょ?」
「ギリギリまでと一緒に居りたい」
「部長しっかりしなさい。ちゃんと皆の試合も見てなさいよ」
「そらちゃんとするで。でも始まるまでと居りたい」
「別にもう、フリじゃないのよ。私、ずっと蔵の側に居るじゃない」
「分かってるけど・・・それでも側に居りたいねん」
「聞き分けの出来ない子ね」
「え?」
そう呟いて、私は精一杯背伸びをして
彼の唇と自分の唇を軽く重ねた。
ほんの数秒・・・唇同士の軽いふれあい。
すぐさま背伸びの足を元に戻した。
「」
「ほら、行くわよ。キ、キス・・・してあげたんだから、言うこと聞き」
「あー!もうお嬢様可愛過ぎや!!もうそんなことしたら俺また惚れてまうやんか!!」
「ぁぁあ!!!ふっ付くな!!抱きしめるな!!私の恥ずかしさを返しなさいよこのテニスバカ!!」
私がちょっと隙を見せたら
蔵はすぐその隙に付け入り、調子に乗り始める。
キスをしてあげて、大人しくなるかと思ったがどうやら逆効果だったらしい。
私を思いっきり抱きしめる。
それを振りほどけないのは・・・惚れた弱味よね。
『ドンドンドドドン!四天宝寺!!ドンドンドドドン!四天宝寺ぃ!!!』
午後から試合が開始。
レギュラーメンバーはすぐさま相手を圧倒していく。
お母さんは楽しそうに私の隣で皆の試合を見ていた。
時々「わぁ、凄いショットね」とか「今のカッコいいわね。技なの?」とか
とにかく私に逐一問いかけてきていた。
私もそれに答えれる分だけ返して、試合を見る。
「次はシングルス?ダブルス?」
「確か・・・ダブルス1だったかな?」
「それやったら白石と千歳やで」
「ちゃんのダーリン、蔵リン登場やで。しっかり応援せな」
今日は補欠のユウジと試合が終わった小春ちゃんが私とお母さんの後ろでそう言う。
「ちょっ、こ、小春ちゃん!!」
だ、誰がダーリンだっ!!!
「ちゃん、だったら一生懸命応援しなきゃ!!白石君モテるんでしょ。
こういう会場でよく告白されるんでしょ、白石君?」
「お母さん、どこからそういう情報を持ってきたの?」
「白石君はウチの未来のお婿さんなんだから、ちゃんがしっかり彼女ってアピールしなきゃ!」
「話が発展しすぎてる!!」
私は大声を出して立ち上がる。
瞬間、誰もがこちらに視線を飛ばす。もちろん、コート上に居る蔵や千歳もこちらを見る。
(しかも千歳のヤツちょっと笑ってた。アイツ後でわき腹に一発グーパンチね)
あまりの恥ずかしさに私は小さく「す、すいません」と答え
すぐさま腰を下ろした。
「ウフフフ、白石君こっち見てくれたわね」
「お母さんっ」
「ホレ、試合始まるで」
「ダーリンの戦う姿はしっかり目に焼き付けておかなアカンで、ちゃん」
「だからダーリンじゃないって」
恋人ではあるけれど。
そう、恋人だよ・・・もう、嘘つきな恋人じゃないんだよ。
正真正銘・・・私、アナタの彼女なんだよね・・・蔵。
「いってらっしゃい・・・頑張ってね」
小さく呟くと、蔵が振り返り私を見る。
そして、笑って・・・口パクでこういったように思えた。
『当たり前やろ』
って。
「いやぁ〜えろぉすんませんなぁ〜。こないなことしてもろて」
「いやいや。ウチからのほんの激励です」
「皆さん、たくさん召し上がってくださいね」
『はい!!ありがとうございます!!』
夜。
ウチで何故か盛大な激励会が行われていた。
そう、お母さんが付いて着たのは此処に理由があった。
いつも私がお世話になってるのと、激励をと思い
かの人は試合が終わると、渡邉監督に「ウチで激励会をしましょう」と誘ったのだ。
もちろん、最初は監督も断ったらしいが
お母さんの押しに負けたのか、レギュラーメンバーだけでなく
応援に来ている部員全員をウチに呼んで、盛大かつうるさすぎる(此処まで言うと酷いな)激励会をしていた。
今日は見事に試合に勝った。
しかも相手を一歩も寄せ付けない闘いだった。
次も同じように頑張ってもらおう・・・だが、今日くらい楽しんでほしい。
そう思いながら、私はひっそりとその場から去り
自分の部屋へと戻っていくのだった。
「。・・・、何処行く」
「白石」
「お、何や千歳」
「ちょっとお願いがあっとだけど・・・・・・よかね?」
「何や?」
「その――――」
------------コンコン!
「はい、どな」
『ちゅわぁん〜・・・ウチと一緒に逃避行でもどない〜?』
「しないわよバカ。小春ちゃんの真似したつもりでもバレバレよ蔵」
「あら、バレてた?」
「アンタの物まねは低レベルすぎて分かるわ。ユウジの方がまだ区別しにくい」
「か、辛口なコメントおおきに」
突然部屋の扉がノックされ、私は返事をしようとした瞬間
外から明らかに鼻をつまんで出してる声が聞こえてきた。
私はすぐさま扉を開けると、其処には
鼻から手を離した蔵が立ってた。
「何してんの?早く戻りなさいよ」
「が居らんとつまらんからこっちに来た。部屋、入ってもえぇ?」
「はぁ〜・・・どうぞ」
どうせ拒否ったりなんかしたら、駄々こねそうと思い
私は素直に彼を部屋に招きいれ扉を閉めた。
「へぇー・・・此処が東京に居ったときのの部屋なんやなぁ。何や、向こう(大阪)の家と変わらんな」
「こっちの方が女の子らしいとか思ってた?」
「それ期待しとった。何や自分のお母ちゃんがピンクとかそういう色好きそうやし・・・部屋とかも
ちょこっとくらいピンク使てるのかなぁ〜とか思たんやけど」
「そうね、中学上がる頃そんな感じだった」
「え?マジなん?」
私は窓際に立ち、カーテンを少し開ける。
「ピンクもピンクで酷かったよ。部屋中ピンクだらけ。
机から、電気スタンド、タンス、鏡の淵、ベッドのシーツにカバー。カーテンもだったなぁ・・・ぜーんぶピンク尽くし」
「め、目が痛なるな」
「でしょ?だから、中学上がる前にぜーんぶ白とかに戻してもらった。派手にピンクした部屋よりも
こういう白とか、灰色とかのほうが落ち着くから。大阪の家もそんな感じ。
最初お母さん、あの部屋もピンクにしようとしてたんだから。
ホントあの人も駄々こね始めると手に負えないのよね。どっかの誰かさんと同じで」
「あれ?それ俺のこと言うてる?」
「他に誰が居るのよ、バカ」
私は笑いながら、カーテンを閉めようとする。
すると突然後ろから抱きしめられた。
「く、蔵?」
「昼間・・・ちゃんと聞こえとったで。ありがとうな」
「え?・・・あっ、そのっ」
途端、真剣な声で蔵が私に言う。
昼間のあの時・・・小さく呟いて、彼が口パクで「当たり前やろ」って返してくれた。
聞こえるはずない声が、彼には聞こえていたのかと思うと
嬉しくてたまらない。
「去年も・・・」
「ん?」
「去年も・・・頑張ってって、言ったんだよ。関西大会の決勝戦のとき」
「やっぱり。・・・の声、ちゃんと俺に聞こえとったで。去年も、今日も」
「ホ、ホント?」
「おぉ。せやから、今日のダブルス・・・6-0で勝てたんやで。自分の応援あったから俺、勝てたんや。
明日も・・・の応援あったら、俺・・・完璧(パーフェクト)に勝てる気する。そしてそのまま全国制覇や」
「明日も、行くね」
「おう。・・・必ず来てな」
そう言って彼は後ろから私を強く抱きしめてくる。
ふと、私は思い出した。
「ね、ねぇ」
「どないしたん、?」
「お願い・・・どうするの?去年、ホラ・・・・全国制覇したら、お願い事聞いて欲しいって」
そう。
彼が今年、全国制覇したらお願い事を聞いて欲しいと言ってたのを私は思い出した。
後ろから彼に抱きしめられながら、私は見上げそう言う。
「忘れとったわ。あー・・・どないしよ。もうお願い、叶えてもろたしなぁ」
「へ?」
すると、蔵は困ったような表情を浮かべていた。
お願いが叶ったって・・・一体彼は何を私に叶えてもらうつもりだったのだ?
「な、何を私に言うつもりだったの?」
「俺と本気で付き合うて欲しいって。ミサンガも貰たけど・・・アレに、俺・・・と離れんよう願掛けしたんや。
せやけどいつ叶うか分からんし、それやったらちょっと苦しなるけど・・・全国制覇して、本気の告白したら
やっぱりカッコえぇやろ?全国一のテニス部の部長が、ずーっと片想いしてた女の子に想いを告げるっちゅうのは
ムードとしても最高やし、シチュエーションとしても完璧(パーフェクト)やんか」
「何か、傷に塩塗られてる感があるんですが気のせいですか白石さん」
何だか、そこまで考えていたのだったら・・・私からの告白は申し訳ないように思えてきた。
あぁ、心の傷が沁(し)みて痛い。
「あ、すまん」
「そうよね、私からの告白は間違えなのよねー。あー心が痛い、痛い」
「ゴメン、ゴメンって。心の傷が沁みるんやったら俺が舐め、ゴフッ!?」
「死ね変態」
私は恥ずかしさの余り、振り返り彼の顔を掴んで言葉を遮った。
が、彼の顔を掴んだ私の手は簡単に剥がされ
彼の顔が私の首に埋もれ・・・噛みつかれた。
思わず「んっ」と声をあげた私。
其処をねっとりと蔵の舌が這う。
「決めた」
「えっ?」
瞬間、彼が何かを決意した。
首に埋まっていた顔が私を見る。
「俺のお嫁さん候補・・・分かりやーすく言えば、婚約者やな。それになってほしい」
「え?」
婚約・・・者。
ふと、胸が痛み出した。
いつもなら、そう・・・彼の口から零れる言葉は
私の心を熱く鼓動させるはずなのに、その言葉だけは痛みを伴い鼓動していた。
「指輪も込みな。・・・んで、ある程度お互いえぇ歳になったらゴールイン。完璧(パーフェクト)やと思わん?」
「・・・・・・・・」
「イヤ、か?」
何を考えているんだろう、私。
蔵が・・・私を裏切るわけないじゃない。
蔵と・・・アイツは、違う。
アイツは私を選んでくれなかった。
蔵は私を選んでくれた。
ずっと一緒に居てくれる約束もしてくれてる。
蔵はアイツとは、違う。
「全国制覇、出来たらね」
「え?マ、マジで。・・・マジで、全国制覇したら婚約者になってくれるん?」
「出来たらよ。できなかったらナシだから」
「よっしゃあ!俄然やる気出てきたわ。俺絶対全国制覇して、を俺のお嫁さんにする!!
それでめっちゃ幸せな家庭作んねん!!俺、とやったら絶対上手く行けそうな気ぃするわ」
「あのねー全国制覇したらの話よ。してもいないのに、勝手に妄想しないで」
「妄想は自由や。あー・・・でも出来ひんかったとき、その妄想が打ち砕かれるから痛いなぁ。
まぁそん時は、慰めたってな。去年、自分の言葉で俺助けられたから」
「そうね。思う存分泣けばいいよ・・・受け止めてあげるから」
「泣いた分だけ・・・・・・の体にも慰めてもらうわ」
「恋人やめていい?」
「アカンて!!」
そう言って、蔵と私は笑った。
笑ったら、少し静かになって、キスをした。
キスをしたら、何か蔵が止まらなくなって・・・「ちょっとだけ」って甘えてくるから
「じゃ、じゃあちょっと、だけ」と恥ずかしげに私は答えて
下で騒ぐ声を掻き消すほど、甘いふれあいをした。
もし、ね。
全国制覇できなくても・・・私、アナタだったら婚約者として迎えてもいい。
アナタはアイツと違うから。
ただし、そのときは約束して。
絶対に、私を裏切らないで・・・他の誰かを好きにならないで。
ずっと、ずっと・・・私だけを見つめていて。
もう、私・・・アナタに見放されてしまったら、きっと
空に浮かぶ星のように、流れて消えてしまいそうだから。
Shooting Star
(流れ星よ、この想い消えず・・・願いを叶えてたまえ)