「ギャラリー凄いね」

「そらぁ、準決勝やからな。ビックリしたか?」

「ちょっとだけ。去年もこんなところでテニスしたの?」

「まぁな」




全国大会準決勝。

蔵たち四天宝寺中は準々決勝をストレートで勝ち
本日、決勝へと駒を進める闘いへとやってきたのだ。





「ホンマに、こっちで見んでえぇんか?」


「今日は離れて見とく」




コートに出る前のバックヤードで、レギュラーメンバーがコール待ちをしていた。
其処に私も居たのだ。




「なるべく、俺らん所に居ってて欲しかったんやけど」


「え?何で?」




心配そうな声で私に蔵は言う。





「今日は銀がシングルスやからな・・・波動球食らった人間が自分トコ飛んできたら危ないやん」


「いや、さすがにそれは」



さん。出来たら、四天宝寺のベンチ席に居ってください・・・ほんに、飛んでくることもあるんで」




「マジ?」

「おう。銀の言う事は確かやで・・・関西大会で、銀の波動球食ろうて怪我人出たくらいやからな」





ホントにこいつら中学生か?と私は思わず心の中で
ツッコミを入れた。






「分かった、分かったから。四天宝寺のベンチ席に居るから。・・・これでいい?」


「おう。俺すぐ試合やから、しっかり見ててな


「うん・・・が、頑張ってね」





私は顔を俯かせながら、蔵にそう言う。

ふと、向こうが何も喋らないから私はゆっくりと顔を上げる。






「く、蔵?」



「当たり前やん・・・決勝の舞台に、をちゃんと連れていったる。せやから、片時も目ぇ離したらアカンで」



「・・・ぅ、ぅん」




蔵はやるぞっていう顔をして私に言う。



試合前の蔵の顔ってホントカッコイイ。

目に何か宿ったみたいに、ギラギラと輝いて
表情も引き締まって、背中を見るとすごくそれが大きく見えてしまう。

コレが四天宝寺テニス部の部長の姿なんだと・・・改めて思う。





「ちゅうわけやから」


「え・・・・・・んっ!?」




「あ」

「いやぁん」


「お前らなぁ」


「遠山は見んな。子供が見るモンやない」


「ちょっ!?何で!?!財前、手ぇ邪魔や!!見えへん!!」





いきなり腕を引っ張られ・・・・・・皆の前で・・・キス、してきた。


数秒で離れ、彼が私を見る。






「待っててや。俺の女神さん」


「・・・・・・こっのぉお・・・さっさと行け変態!!!」


「ちょっ、痛い、痛いって






あまりの恥ずかしさに、私は彼を思いっきり叩く。
蔵は笑いながらそれを受け止める。

もう、せっかくかっこいいって見直したのに台無しじゃない!!!







「蔵リーン、行くでぇ〜」




「おう、今行くわ」





すると、外から学校名をコールされ全員がバックヤードの出入り口に立つ。
コールされた途端、外に待機している部員がお決まりの四天宝寺コールをする。




「ほな、応援よろしくな


「もうしないで帰ろうかしら」


「それはアカン」


「嘘よ。・・・・・・・・・・・・・・頑張ってね」


「あぁ。ほな」


「く、蔵・・・っ!」





離れようとした蔵を私は呼ぶ。

私の声に、彼は振り返る。
















「行ってらっしゃい」





「行ってきます」






笑顔で彼を送り出すと、彼は私の顔を見て、出入り口のほうに振り返り手を上に上げ振りながら
バックヤードから、コートへと出て行くのだった。


その背中が本当にカッコよくて、思わず惚れ直してしまいそうだった。

























四天宝寺対青春学園の試合は、現在ダブルス1の千歳と光のコンビが
青学部長の手塚と、乾との闘いまで来ていた。


此処までの成績。

正直、此処で勝ってシングルス1の金ちゃんまで繋げたいところ。
だってウチの勝ち星はシングルス3で最初に闘った蔵だけ。

四天宝寺名物のお笑いダブルスの小春ちゃんやユウジのコンビも
青学のダブルスに負け

銀さんの波動球も・・・相手を負傷させ続けるも
先に悲鳴をあげたのは、波動球を打ち続けた銀さんの腕で棄権。


そして現在、ダブルス1の試合。

此処で勝たなければ・・・蔵たち3年生は終わってしまうし・・・彼との約束も。





、大丈夫か?」


「え?・・・あぁ、うん」




隣に座っている蔵が、私に声を掛ける。
私は何とか平常心を装い、彼に返事をする。


ベンチに手を置いて、コートに視線を移す。
千歳のあの力を持ってしても・・・青学の手塚には勝てないの?


千歳は、自分の過去を乗り越えて・・・此処に居るのに。

千歳だけじゃない・・・みんな、みんな・・・。


こんなところで足踏みしちゃったら・・・・・・また、また―――。







「!!・・・えっ?」


、手が震えとる」




すると、ベンチに置いていた私の手に蔵が包帯を巻いた
自分の左手を重ね、掴んだ。






「蔵」


「分かってる。でも、まだ諦めたらアカンねん。俺もな正直怖いわ・・・また此処で終わるっちゅうのはな」


「・・・ゴメン」


「何で、自分が謝んねん。俺らの力不足でもあるし、青学サンの力が俺らよりも上なだけかもしれん」








『ゲームセット!ウォンバイ・・・青学。6−1!!』



すると、青学勝利のコールが鳴り響いた。


会場がどっと沸きあがり、闘いが終わった。


私と蔵はベンチから動かず、コートを見る。
お互い、手を握ったまま。







「決勝の舞台で闘う、蔵が見てみたかった」


「せやなぁ〜・・・俺もに見せてあげたかったわ。・・・スマンな」




蔵は苦しそうな表情で私に言う。
私は彼の言葉を耳に入れ、首を横に振った。






「あぁ、コレでアレが妄想で終わってもうたわ。せっかくえぇ考えやったのに」


「まぁ次ってことで」


「え?つ、次って何?」


「高校が残ってるじゃない。高校で一番になったら・・・また考えてあげる」


「マジ!・・・うーん、それでもえぇなぁ。ってそれで勝たれへんかったらどないすんねん!」


「大学?」


「お嬢様、道のりが徐々に険しなってきてる気ぃすんねんけど」


「そう簡単に私を婚約者に迎えようとするのは大きな間違いよ。
箱入り娘ですからね、それくらいの試練は乗り越えてもらわないと」


家のお嬢様をお嫁に迎えるっちゅうのは大変やな。まぁそれくらいの試練ないとオモロないわな」




そう言って私と蔵は笑った。


彼等の夏は終わってしまったけど、私と彼の人生が終わったわけじゃない。
まだまだこれから一緒に歩んでいく道があるんだから・・・終わりじゃないのよね。





「お前らいつまで手ぇ繋いでんねん」


「「うわっ!?」」




すると、後ろからちょっと落ち込み気味のユウジが私達の間に入る。
後ろにはもちろん小春ちゃん。

ユウジの突然の登場で私と蔵の手が離れた。




「おあつ〜いお話中のところ申し訳ないんやけど・・・蔵リン、金ちゃんが暴れだしたで」


「は?・・・あー・・・越前クンと試合出来んくて駄々こねてんやろあの小猿。ったくしゃーないなぁ、此処居ってな」


「ぅ、ぅん」



そう言って蔵は私の隣から離れ、大声を出し
試合できず駄々をこねる金ちゃんの元へと駆ける。

ふと、私のポケットに入れていた携帯がバイブレーションで着信を伝える。
私は急いで取り出し、ディスプレイに表示された名前すら見ないまま電話に出る。

多分、お父さんかお母さんかな?









「もしもし?」




















『番号は変えてなかったんだな、お前』










「・・・っ!!」






電話に出た途端、私は固まった。

聞き覚えのある声・・・・・・アイツだ。

心臓が、酷く鼓動する。






「何の用?」




出た言葉が震えているのに気がついた。
向こうもそれを言ってくるのかと思った。







『四天宝寺に居たのか、お前』






だが、返ってきた言葉が予想していた言葉とは別のもので驚いた。
アイツなら・・・鼻で笑ってそう言いそうなのに。








「私が、何処に居ようと・・・アンタにとっては今更じゃない。用がないなら、切るわよ」


『待て。久々に話がしたい。・・・会場の外に居る、来い』


「もうアンタとは何も話すこと」


『いいから来い。いいな』


「ちょっ・・・ぁ・・・・・・・・・切りやがった」







相変わらず一方的だ。

何処で見て私に電話を掛けてきたのか分からないが
行かなければ、アイツの事・・・何をするか分かったもんじゃない。

私はため息を零し、席を立つ。




ちゃん・・・どないしたん?」

「電話、誰からや?えらい剣幕な表情しとるでお前」



「ちょっとね。・・・ごめん、人と会ってくる。蔵にはそう伝えて・・・すぐ戻ってくるから」


「おう」

「ウチらも多分しばらくは此処に居らなアカンかもしれんから、大丈夫やで。行ってきぃ」


「ありがとう」



そう2人に伝え、私はベンチ席を離れバックヤードへと入り
外へ抜ける道を見つける。




私も、もう・・・アイツとの過去とさよならしなきゃ。


いつまでも足踏みなんかしてられない。


もう、もう・・・こんなことで泣くのは嫌。
私が泣くだけで、蔵が苦しそうな顔をするから。


だから・・・だから――――。








「ちゃんと、向き合うのよ。・・・昔の、私と」






笑って、自分の過去を話せるようになりたい。


そのためにも・・・今、こんなところで足踏みなんかしてられない。
彼と・・・蔵とずっと、ずっと一緒に居たいから。

































「アレ?は?」



金ちゃんと越前クンの1球勝負を見届け
宿泊先のホテルに帰る準備をしとる最中、俺はが居らんことに気づいた。




「ホンマや。アイツ何処行きよった?」


ちゃんなら、人と会う言うて行ったっきり戻ってきてないで」


「人と?」



小春の口から、そんな言葉が零れた。

多分俺がの側を離れた直後なんやろうと思た。
でもそれやったらえらい遅い。




「迷てんのとちゃうんかアイツ?」


「いや、もう何回も此処来てるし迷うはずないで」


「携帯は?」


「掛けてみるわ」




ユウジの声に俺は携帯を取り出し、に電話を掛ける。


が――――。







『お客様がお掛けになった電話は、現在電源を切ってるか・・・電波の届かないところに』






「アカン。のヤツ、電源切ってるわ」





電話を掛けるも、はどうやら電源を切っとるみたいや。




「さっきは電話出て・・・人から呼び出された言うて、会場離れてったで」


「え?そうなん?」


「なぁ小春」
「せやなぁ」



小春とユウジの会話は多分嘘やない。


ホンマに何してんねん、






「まぁええわ。俺探してくるから・・・お前ら帰る準備しとけ」


「せやったら俺も行くわ。白石一人やったら見つけにくいやろ」


「あ、ワイもねーちゃん探す!!」


「謙也、金ちゃん・・・助かるわ。ほなちょっと行ってくる」






そう言って俺と謙也と金ちゃんの3人で戻ってけぇへん
探す事にした。





ーっ、何処やー?」


「ねーちゃぁーん」


「ホンマ・・・アイツ、何処居んねん」





会場中を探しているも、の姿が見当たらない。
もし、帰ったとしても俺の携帯に電話かメールは入れてくれる。

それやけど、その二つが行われてないっちゅうことは・・・まだ会場に居るわけや。






「あー!!ねーちゃん、居ったで!!」



「え?何処や!?」



「あっちや!!」




すると、金ちゃんがを見つけたと騒ぐ。
俺と謙也は金ちゃんの指差した方向を見る。







「ホンマや・・・アイツ、何つっ立ってんねん」





金ちゃんの指差した場所を見ると、が一人立ち尽くしとった。
表情も何や、めっちゃ険しい。






「おーい、っ」


「ん?待て謙也・・・誰か居る」






謙也がを呼ぼうとした声を俺は止めた。

木の陰でよぉ見えけど、に近づく影を俺は見つけた。
此処からやと見えんと思い、俺らは顔を見合わせに気づかれんよう近くに寄る。



少し近づき・・・の表情も少し近いし、話し声も聞こえる距離まで近づいた。


表情が、いつもと違ぅて・・・ホンマに、険しいし苦しそうや。









「(アイツ何してんねん)」

「(知らん。でも人と会うって言うてたんやろ?誰と会うんや?)」




それが気になって仕方ない。


が東京来て、人に会う言うたら・・・・謙也のイトコか、立海に居る幼馴染の子だけや。
俺の知ってる範囲は其処までや。

他に誰が居るいうねん。









「久しぶりね」







ふと、今まで黙り込んどったが喋りだす。

どうやら呼び出した人物に言うてんねんやろうな。
久しぶりっちゅうことは・・・会うのは久々ってことか?

いや、話すんが久々?


そう俺が一人で考えこんどると・・・――――。



















「1年ぶりか・・・お前とこうやって面と向かって話すのはな」










え?




聞き覚えのある声に、俺は心臓が酷く高鳴った。




今まで見えへんかった木の陰から、人物が
肉眼でも見える位置まで歩いてきた。



アレは・・・間違いない―――。








「そうね・・・久しぶりよね」








































「跡部」





「お前が、四天宝寺に居るとは驚いたぜ






氷帝学園テニス部部長・・・跡部クンや。



身長の高い跡部クンをは見上げる。
その瞬間、の表情が険しかったのが少し柔らかくなったような気がした。



アカン・・・何や、心臓がうるさいし・・・痛い。


ズキズキと痛みを伴って・・・。






「いきなり居なくなるから心配したぜ」


「フッ今更じゃない?・・・そんなこと言って」


「バカ言え。家族共々、急にあの家から居なくなったんだ・・・心配して当然だ」


「どうせ、アンタが直接あの家に見に行ったわけでもないくせに」


「あぁそうだ、お前の言うとおりだ。・・・だが、心配して当然だろうが・・・お前は」









































「俺の婚約者だったんだからよ」



「・・・・・・」










跡部クンの言葉に、俺の心臓は大きな音を立てた。

同時に、胸を締め付けられ
頭ん中が真っ白になっていった。






「おい、白石・・・どういうことや。とあの氷帝の跡部が婚約って」


「・・・し、知らん」


「は?」


「俺・・・知らんねん。が婚約しとったことも、相手が跡部クンちゅうのも」





何も知らん。


が氷帝に居ったときのこととか。

俺と会う前に何があったとか。

何で凄いとこのお嬢様が四天宝寺のような府立中に来たのかとか。



そして、2人が・・・婚約関係を結んどったと思われることなんて。






「俺・・・知らんかった」


「白石」




あまりにも衝撃的な事実を知ってしもて
冷静にモノを見ることも出来なければ、判断する事も出来ん。




俺、今・・・悪い夢でも見てるんか?


それとも、コレは・・・現実、なんか?




なぁ、・・・――――。



























ホンマに”俺だけ“が自分の目に映ってたんか?






Reflected
(彼女の目に映ってたのは、俺?それとも・・・?)


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