突きつけられた現実に、俺はもう考えたくも無かった。





が氷帝に居ったのは知ってた。


ただ、どういった理由で氷帝から四天宝寺に来たのかは知らんかった。


彼女が氷帝の時に何があったのかも・・・俺は知らん。





そして・・・・・・。











に婚約者が居って・・・その相手が、跡部クンやったっていうのも。
















「婚約者は婚約者でも、元でしょ。それ忘れないで」


「フッ・・・そうだったな」


「平然とそうやって言いのけるアンタが私、嫌い」


「相変わらずだな。その性格だとあの家の行く末が不安だぜ」


「余計なお世話よ」






少し厳しい空気が漂いつつも、何や・・・俺の知らんを見てるような気ぃしてきた。




跡部クンと話すは・・・どこか嬉しそうに見える。




表情は四天宝寺に来たときみたいに、棘がぎょうさん付いてるみたいに
無表情に戻ってる感じがしてんねんけど・・・それでも何処か、アイツの表情が
嬉しそうに、俺には見える。







「何故四天宝寺に行った」



「アンタには関係ないでしょ」



「まだ根に持ってるのか」





























「俺が勝手に婚約破棄したことを」






「・・・・・・」








なん、やと?



跡部クンの言葉に俺は目を見開かせ驚いた。




「跡部のヤツならやりかねんやろうなぁ。・・・なぁ白石」


「そ、そうやな」




謙也に声を掛けられ、俺は何とか答える。

冷静で居りたいのに・・・それが上手くできひん。
心臓が酷く高鳴って、口から今にも飛び出そうや。






「別に」


「だったら何故氷帝に残らなかった。お前の成績だったら、府立に行くほどじゃないだろ。
こっち(氷帝)にさえ残っていれば、そのまま高等部に上がれた・・・万全の学習スペースだってある。
俺の理由がない限り、お前が氷帝を離れるわけないだろ」


「私が何処に行こうと勝手でしょ。アンタにいちいちとやかく言われる筋合いない。
今更婚約者ヅラしないで」



「だったら何故離れた。理由を話せ・・・じゃなきゃ納得いかねぇよ」



「うるさい。自分の胸に聞けば?」



「待て、



「離して!」





がその場を去ろうとすると、跡部クンがの腕を掴む。
だが、彼女はその手を振り払った。


振り払った途端、の表情が苦しくなる。



何で・・・何でお前、そんなカオすんねん。

婚約者ヅラすんな言うたんはお前やろ?
せやったらなんで・・・お前が、そんな苦しそうなカオすんねん。


おかしいやん・・・







「・・・すまなかった」


「どっちに対して言ってるのよ。婚約破棄したこと、今さっき腕をつかんだ事?」


「・・・両方だ。お前がどういった理由で氷帝を離れたなんてもう聞かねぇよ。言いたくなければ言わなくていい」


「そうしてくれた方が、助かるわ。・・・ねぇ跡部」


「何だ?」





会話が途切れることなく、2人は話を続ける。


俺はそんな2人を見ているだけで辛かった。



がめっちゃ遠くに感じる。

俺の知らんが其処居って・・・あの写真のを俺は見てるような気になった。



ロングヘアーを靡(なび)かせながら
桜が舞い散る場所で、冷たい表情を浮かべる・・・あのを。







「アンタ・・・いま、」

























「景吾!」







瞬間、跡部クンの背後から可愛らしい女の子の声がした。
俺らはすぐにそちらに目線を映す。

氷帝の制服来た、女の子や。

その子は跡部クンの元へと駆け寄る。




「景吾何処に行って・・・・・・あ、ご、ゴメン・・・お話し中だった?」


「いや・・・もう終わるところだ。どうした?」


「お迎えが来たから。ミカエルさんが”お坊ちゃまの携帯が繋がらないので“っていうから探しに来たの。
でも、ごめんなさい・・・話の邪魔して」


「気にするな。すぐに行く、先に車に行ってろ」


「うん。ミカエルさんにもそう伝えておくね・・・じゃあ車で待ってるよ」


「あぁ」



一通り、跡部クンがやってきた女の子と会話した。

でも何や・・・ん時の空気とちゃうような気ぃする。


とは殺伐としてて、それでも何処か柔らかさはあった。
せやけど、さっきの子とは・・・えらい違う。

しかもあの跡部クンが笑ろてた・・・えらい優しいカオして。






「・・・・・・すまない」


「・・・いいよ。・・・・・・良い子ね、あの子。アレがアンタの理由?」


「・・・・・・・・・」






と会話を戻すと
彼女はまるで見切ったかのように跡部クンに言い放つ言葉に
彼は黙り込んだ。

言い放たれたの声は・・・何処となく、切なく聞こえた。






「はぁ・・・・・・そっか。いいんじゃない、アンタには」


「悪い」


「今更謝らないでって言ってるでしょ。良い子みたいだし・・・・・大事にしなさいよ」


「あぁ。・・・・・・・・お前」


「ん、何?」


























「まだ、そのネックレスつけたのか」




「・・・っ!!」






ふと、跡部クンがが首から提げてるネックレスに気が付く。

何で?・・・なんで、跡部クン・・・そんなこと、知ってんねや?











「随分前に俺がお前にやったのを、まだ付けてたのか」


「・・・・・・・・・」








あのネックレスは・・・跡部クンからのプレゼント。


せやから・・・せやから、はあれを外されへんかった?

アレを外してしまえば・・・・・――――。


俺の思考がどんどん最悪な方向へと進んでいく。






「アンタがつけてろって言うから・・・外すタイミング逃したのよ」


「なら外せ」


「・・・・・・え?」





の言葉に、跡部クンはものの数秒で「外せ」と言い放つ。
その言葉には思わず驚きの声を上げた。





「なら外せばいい。もう俺はお前を縛り付けておく理由がない・・・それを外せば、お前だってラクになれるだろ」


「・・・・・・」


「外したければ外して捨てろ、付けておくならそのままでいい。似るなり焼くなり、好きにしろ」


「・・・そ、そう。分かったわ、ありがとう」





跡部クンの言葉に、はカオを俯かせながら言う。




「すまない、車を待たせてる。俺は行くぞ」


「勝手にすれば。もうアンタとは赤の他人なんだから」


「そうか。・・・気が向いたら電話しろ、話し相手くらいにはなってやるよ」


「そうね」


「じゃあな」




そう言って跡部クンはの元を去って行った。



今は、一人。

俺は今此処で出て行って・・・アイツを抱きしめるべきなんや。
せやけど・・・体が動かれへん。

何で?・・・何でや!

俺が今・・・アイツの傷ついた心救ったらな、アイツは・・・は―――。










「何や、やったんか」



「・・・侑士」



「髪の毛切って、制服違ごてるから誰か思たわ」






すると、の背後から・・・謙也のイトコが現れた。
俺はのところに行くタイミングを逃した。





「・・・跡部に会うたんか?」


「正確には呼び出された。アイツ、話がしたいって言うから」


「アホやな、自分。それでノコノコ現れるんはおめでたいことやで」


「あっちに住んでると自然と頭、おめでたいことになっちゃうのかしらね」





さっきまでの跡部クンとの会話と比べたら
彼との会話でのはまだ落ち着いてる。

さっきのは何や見てて、痛々しかった。

めっちゃ辛そうな顔してて・・・声も、震えとった。






「アイツ・・・幸せそうだった」


「は?」


「良い子ね・・・あの子」


「会うたんか」


「偶然此処に来た、が正確な返答。・・・・・・アイツのあの子を見る目が、とても優しかった。
あんな顔・・・私には一つもしてくれなかったのに」


「・・・・・・」





の言葉に、謙也のイトコは何も言わん。


何か言えや。って隠れてコソコソ聞いてる俺が言うのもなんやけど。





「人次第で・・・変わるものね」


「お前と跡部は似てんねん。お互い、求めてるもんが同じやっただけや」


「・・・・・・そうよね。求めるものが同じだと、やっぱり上手く行かないのよね。
あの子となら上手く行くから・・・婚約破棄したのよね」


・・・・・・お前、えぇ加減・・・・・・それ外せ」


「え?」





すると、彼はに言い放つ。







「ネックレスや。外して捨てろ」



「こ、コレは・・・」



「お前・・・そんなんやから、まだ未練持ってると思われてんねんぞ。
そんなに、跡部に好き言われへんで取られたんが嫌なんか?」









胸に刃が突き刺さった。



あのネックレスは・・・跡部クンがにあげたもんで

がアレを外されへんかったんは・・・・・・。
















ア イ ツ が ま だ 跡 部 ク ン の こ と 
好 き や か ら。











それで?


それで、外されへんのか?


俺が外して欲しい言う前に、外されへんかったんは
まだが跡部クンのこと・・・好きやから。








・・・外せ」


「・・・ぃ、いや」


「未練がましいぞお前」


「そう、思われたって・・・構わない!・・・だって、だってしょうがないじゃない!!」





彼の言葉に、は外すのを拒みネックレスを掴む。







「好きよ!好きだったわよ!!好きで何が悪いのよ!!だから忘れようとして必死に考えて
東京離れて大阪に行ったんじゃない!!アイツの事忘れられるって、思ったから」


「考え甘すぎや」


「分かってる・・・そんなこと・・・っ。だから外せなかったのよ、ネックレス。外したく・・・・・なかった。捨てたく・・・なかった」






声を荒げ、は胸の内のものを泣きながら全部吐き出す。


それを聞いて俺はほんに・・・苦しい。


息が、思うように出来ひん。



泣いてるを俺は見つめる。


アレはまだ・・・アイツが、跡部クンのこと好きやっちゅう涙。




何で?何でお前・・・泣いてんねん。

お前の涙・・・あんな男のために流す涙とちゃうやろ?
何で・・・何でや、







「もう、もう・・・アイツの目には私は映ってない。アイツの目はもう他の子が映ってる、私じゃない」



「泣くな。せやからネックレス捨てれ言うたし、忘れろって俺は言うたんや。
ホンマ・・・どうしてお前は此処まで未練がましく跡部の事好きでおんねん。どうせ跡部の事や。
ネックレス捨てれ言うたんやろ。せやったら思いっきり捨てたれ。焼却炉にでも放り込んで溶かしてもえぇし
海にでも投げ捨てて、流してしまえばえぇ。その方がえぇんや」



「・・・ぃ、いや」







「嫌!・・・絶対に、絶対に、ぃや」




はネックレスを外せと言われるも、拒む。


何で?外したらえぇやん。

俺のこと考えんでも、外したらえぇやん。


その方がラクになるって、分かるやろ?
頭のえぇ自分やったら分かるやろ?


何で、何で敢えて自分の首絞めてんねん。

何で辛い思い引きずって生きていこうしてんねん。



やめれ・・・やめれや、そんなん。




「はぁ・・・勝手にせぇ。それ付けて一生ズルズル未練引きずっとけ」


「ご忠告・・・ありがとう。・・・帰る。侑士・・・謙也に会ったら・・・私、先帰ったって伝えといてくれる?
これで皆の前に出たら・・・私・・・・・・」


「めんどくさ。・・・まぁえぇわ、今回だけやぞ」


「ゴメン・・・ありがと」


「気ぃつけて帰りや」


「うん。・・・じゃあね。謙也によろしく」


「あぁ」





そう言うては、彼の前から走り去った。


目から涙が零れ、それが水玉のように弾け外に飛び散る。



俺はそんなを見つめ、一緒に来とった謙也と金ちゃんが
自分の親戚の所へと出て行く。

俺もそちらに向かう。





「おい、侑士!今の何や!?」

「ねーちゃん泣かすなや!!」



「何や、謙也居ったんか?・・・ん?珍しいな、白石も居んねんか」





俺らの登場に驚く素振りも見せず、彼は冷静に答える。




「俺の話聞け!・・・い、今のは何やって聞いてんねん!!」


「は?」


「”は?“やない!と跡部が婚約者ってどういうことや」



「どっから聞いてたんやお前ら」



「そ、それは・・・・・・っ」

「最初からや。と跡部クンが2人で話しとるところから」

「し、白石」




俺も何とか冷静に答える。
せやけど、心の中はかなり動揺しきってて、言葉を
冷静に選ぶ時間が欲しいくらいやった。

さっきは謙也が先に喋ってくれたおかげで何とかいけた。

せやけど、そう上手くはいかなさそうや。





「元婚約者や。跡部が自分から婚約破棄を申し出たんや・・・まぁ元々親同士の会社絡みでの政略結婚みたいなもんやったからな」



「せ、政略結婚って・・・あるんやな、マジで」



「でも、跡部クン・・・何で、自分から婚約破棄したんや?」




「見てたんなら分かるやろ?」と彼は俺らに言う。

あぁ見てた・・・全部見てたで。





「あの、跡部にえらい馴れ馴れしい子か?」


「アレがアイツが婚約破棄までしたきっかけや。跡部はの知らんトコで、あの子と関わって
あの子のこと本気で好きになりよった。まぁが知らんトコっちゅうのは俺の予測や。ホンマは知ってたと思うけどな。
黙ってたんやろうな・・・アイツのあの性格やし」


「好きになったら・・・相手のことには干渉せぇへんねやろ」


「白石よぉ見てるな」


「コイツ・・・と付き合うとんねん」


「は?・・・・・・・・・ふぅーん、そういうわけか」






謙也の言葉に、彼は何やら自分ひとりで納得し始めた。





「な、何や侑士」



「白石。自分・・・何かおかしいと思てたんやろ」



「・・・薄々は。せやけど、が話してくれるまで・・・待ってよう思てた。でも知らんかった。
の婚約者やったのが・・・跡部クンって」



「それだけか?」



「何が言いたいんや?」





俺が言うと、彼は「まだ言う事があるやろ?」と言わんばかりの言葉を放つ。

ない!もう・・・もうコレで充分やねん。

これ以上、深入りせんほうが――――。









「ホンマは・・・跡部の身代わりや思て付き合わされてただけなんとちゃうんか?」




「!!」


「侑士!何言うてんねん、お前っ!!」


「事実やろ?さっきの見てたんなら・・・分かるはずやで、白石」





刃が・・・更に深く、心の突き刺さる。

確かに・・・俺、身代わりやった。
せやけど、アイツの忘れたい気持ち晴らすための・・・そのための・・・・・・っ。




「ネックレスかて、未だ外されへんねん。どう考えても、の跡部に対する未練は晴れてない」


「ちゃう!アレは俺が外さんといてって言うたから、せやから・・・・・・」


「まぁ仮にそうだとしてもや。付き合うてるなら・・・お前のこと考えて、真っ先に捨てるはずやぞ・・・ちゃうか?」


「そ、それは・・・・・・っ」





最初は恋人ごっこしてたからや・・なんて大っぴらに言えるわけない。

今は関係恋人に収まっても・・・そういえば、アイツ・・・ネックレス外さんかった。
俺が気づくまで・・・あのお星さんのネックレスはの首にさがってた。


ホンマに・・・ホンマに、跡部クンへの未練が残ってるからできんのか?



嘘や!アイツは・・・俺にちゃんと言うた。





は俺にちゃんと言うた。忘れたい事忘れたって・・・笑いながらアイツは俺にそう言うたんや!!
今かてネックレスしてんのは、俺が外さんといてくれ言うたから・・・せやからは」



「白石、落ち着け」



は・・・・・・跡部クンのこと、忘れたんや」




俺は力なく、彼に向かってそう言う。


せや、もうの中の跡部クンは消えた。
そして俺が居んねん。





「まぁ、そう思いたいなら勝手にせぇ。・・・・・・・・・せやけどなぁ」







すると、彼は踵を返し何処かへと歩こうとする。

その前に振り返り俺らを見る。







「俺からしてみれば自分、所詮はにとって跡部の身代わりや。
これからもずーっとな・・・それだけは覚えといた方がえぇで。
まぁそれでもえぇ思てと付き合い続けるか、嫌や思て別れるかは・・・白石、自分次第やで」


「・・・っ」


「俺の言葉を信用するもせんも、勝手にしてくれ。俺はありのままを話しただけやからな。
俺は帰らせてもらうで・・・ほなな」






そう言うて、彼は俺らの前を去っていきよった。






「し、白石・・・侑士の言うことや。信用したらアカンで」

「せや!あんなメガネの言う事信じたらアカンねん白石!!」


「あ・・・あぁ、せやな。皆んトコ戻ろうか・・・あんま遅なると、アカンやろうし」


「おう」



そう言うて、俺は2人と元居た場所へと戻るため足を進めた。


が走っていた方向とは逆の方向に。




ふと、俺は振り返る。


今でも鮮明に残る・・・泣きながら走っていったの顔。



アイツの流してた涙は・・・誰のための涙や?



俺なんか?それとも、跡部クンなんか?












もし、跡部クンやったとしたら。






の目には始めから





俺なんて映ってなかったん?

俺・・・もしかして――――。









「重ね合わせられてた・・・だけ?」






ふと、自分の口から零れた言葉に・・・失笑して、胸が痛くなった。



あぁ、そうか。

結局、俺・・・あいつの忘れたい事忘れさせる事できんかったんや。

できんかったんやない・・・始めからは、忘れさせてくれる事に期待すらしてへんかった。


俺の姿に、跡部クンの影・・・重ねてただけなんやな。




全部・・・ぜんぶ・・・・・・。





「嘘、つかれてたんやな・・・俺」



の俺に見せる表情も、言葉もそして―――――。










『蔵、好きだよ』








その言葉でさえも、お前の目には俺やのぅて跡部クンとして映ってたんやな。






あまりにも酷すぎる裏切りに
俺の心は・・・もう、熱く鼓動する事はなかった。




Betrayal
(君の裏切り、僕の悲しみ。そう、君の目に僕は始めから映ってなかった)

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