「おはようございます」
「あぁ、千歳様。おはようございます」
「、居りますか?」
「あの、それが」
「?」
22日。
明日が全国大会決勝戦。
それが終わったらまたいつもどおりな日常に戻る。
大阪に戻って、卒業までの時間
金ちゃんや光・・・下級生に色んなものを教えていかなアカン。
そしてと拗(こじ)れてしまった仲のまま・・・俺は3年っちゅう季節を終えなアカンのか。
ホンマは、どうにかして戻りたい思てる。
せやけど・・・・・・一度出来てしまった溝は、どう塞げばいいのか分からん。
それに、俺から言い出した別れ。
今更戻りたいなんて・・・・・・都合が良すぎる。
アレだけに酷い事して、酷いこと言うてしもたのに
戻りたいなんて・・・話しが上手すぎるわ。
「ちょ、ちょ・・・金ちゃん落ち着けって」
「もうワイも我慢の限界や!!」
「金太郎さんっ!」
すると、ユウジと小春が怒った金ちゃんを落ち着かせとった。
せやけど金ちゃんは怒りを治めるどころか、そのオーラを纏ったまま俺のところに来た。
「何や、金ちゃん。明日帰るんやから、もう大阪帰る準備しとき」
「・・・白石、ねーちゃん泣かしたままでえぇんか?」
「!!」
「金ちゃん、それ今白石に言いなや!」
「金太郎さんっ!」
「何や、何の騒ぎや」
「遠山、何してんお前」
金ちゃんの騒ぎに、謙也や光までもこちらにやって来た。
俺は何とかこの騒ぎを収めるべく
冷静に対応していく。
せやけど、最初の1発目があまりにも効き過ぎて
正直心臓・・・めっちゃ早いスピードで鼓動してる。
「お前に関係ないやろ。部外者はすっこんどき」
「白石、ねーちゃんのこと大切にしてたんやないんか!!」
「やかましいわ!!お前に、お前に何が分かんねん!!俺の何が分かんねん!の何が分かるっちゅうねん!!
何も知らんお前が、分かったような口叩くな!」
冷静に、と思たはずやのに
思いっきり俺・・・取り乱してる。
でも何や、金ちゃんの言葉が俺の心に重くのしかかってきた。
重くのしかかってきた分・・・気持ち知られるんが怖くて、俺・・・取り乱してるわ。
「分からんわ!ワイは何も分からん!!せやけど・・・せやけど、ねーちゃん・・・ねーちゃん泣いてんねん!!
白石の分からんところで、ねーちゃん、ホンマはずっと泣いてんねん!!」
「・・・は?」
金ちゃんの言葉に、俺は驚く。
俺の分からんところで、が泣いてる?
「ど、どういう意味やそれ」
「ねーちゃんは・・・ねーちゃんは、ずっとずっと泣いてんねん。白石とずっと居ったときから
ねーちゃんは寂しくて、怖くて、泣いてんねん!!」
「金ちゃん・・・何やそれ?」
俺と居ったときからずっと?
は、寂しくて・・・怖くて・・・泣いてた?
嘘や・・・。
「嘘付くなや!は俺と居るときずっと笑ってた!!アイツはずっと笑ってたわ。
寂しくもないし、怖くもない・・・アイツは俺にそう、そう言うてくれてたんや」
「嘘やない!!ねーちゃん、ワイに言うた・・・聞かせてくれたんや、教えてくれたんや!!
ホンマは・・・ホンマはねーちゃん・・・ねーちゃんは・・・」
「金ちゃん、言ったらダメばい!!」
「千歳!?」
「ねーちゃんはおかあちゃんから捨てられた子なんや!!ねーちゃんはずっとずっと一人ぼっちだったんや!」
「す、捨てられた子って」
「ど、どういう意味やそれ」
金ちゃんの言葉に誰もが驚いた。
目の前の金ちゃんは涙を流しながら
俺にまだ言葉を放つ。
「ねーちゃん・・・・・・ねーちゃん、ほんまもんのおかあちゃんに赤ちゃんの頃、捨てられたんや。
めっちゃ寒い日に・・・知らんところに、置いてけぼりにされて・・・ねーちゃん・・・大きくなっても・・・
おかあちゃんが・・・迎えに来てくれるって・・・ずっと、ずっと待ってたけど・・・ねーちゃんのおかあちゃん
ねーちゃんのこと、迎えに、来てくれんで・・・毎日、毎日・・・ねーちゃん、寂しい思い・・・してたんやぁ」
「が・・・捨て子。待ってくれ、金ちゃん・・・せやったら、の今のお父ちゃんとお母ちゃんはっ」
「養子先の親御ってこったい」
「千歳」
すると、朝から出掛けとった千歳が俺と金ちゃんのところに来て
金ちゃんの隣に立ちながら、泣いとる金ちゃんの頭を撫でる。
「俺も2日前聞かされたけん、今でも信じられんとよ。やばってん、から全部聞いたことだけん
金ちゃんが言うとるこつは事実たい。まぁまさか、金ちゃんが気がついとったとは思わんかったね」
「ワイ・・・ワイ・・・ねーちゃんの話、聞くたびに・・・女の子の話・・・嘘やないかもしれんって思ってたんや」
「女の子の・・・・・・金ちゃんが、から聞かされてるっちゅうあの話か?」
そういえば、金ちゃんはから【ちっちゃい女の子の話】をしてもらってるって
前・・・そんなこと言うてたな。
「作り話と、ちゃうんか?」
「ちゃうねん!!ねーちゃんのちっちゃい頃の話や!!赤ちゃんの頃捨てられて、ねーちゃんと同じような子供が
居る場所で育って・・・ねーちゃんが、幼稚園に上がる前に・・・ねーちゃんのお母ちゃんとお父ちゃんが」
「もう、よかよ金ちゃん。此処まで言えば、白石・・・分かっど?は、本物のお嬢様じゃなかと・・・お嬢様のフリばしとったとよ」
「お嬢様の・・・フリ」
また、また・・・嘘かいな。
俺はため息を零して、顔を横に背けた。
「お前さんはまた嘘つかれたって思っとるかんしれんけど、はずっと怯えとったとよ。お前さんに知られるのが怖くて」
「え?」
千歳の言葉に、俺は背けていた顔を真正面に戻した。
「は俺にこう言いよったと」
『白石には・・・・あ、スマン』
『いいって。蔵には話してないよ』
『珍しいかね、が白石に喋らんって』
『何か・・・話したら、嫌われそうで。こんな私、好きになってくれなくなっちゃいそうで・・・話さなかった』
『んー・・・白石やったらそぎゃんこつなかとだけどなぁ』
『皆そう思ってるだけ。・・・現実、そうじゃないかもしれないし・・・お嬢様じゃないって知ったら蔵はきっと
私が嘘をついてたって分かっちゃうから。嫌いになって欲しくないの、私のこと。だから知られるのが怖かった。
まぁ今はもうそんなこと気にしなくていいんだけどね』
『蔵にはね、ずっと私のこと好きで居てほしかったの。だから、言わなかったの』
「・・・・・・」
「は、ずっと怯えとったとよ。いつ、自分の生い立ちがバレるかもしれんっていう恐怖に怯えとったと。
怯えながらも、・・・白石と居って幸せやったって顔ばしとった。前、俺言うたろ?・・・がおかしかこつば言いよったって」
「!!・・・アレ、か」
千歳の言葉に、俺は思い出した。
進路のことでが悩んで、千歳に相談したとき。
は帰り際に千歳にこう言うて
それを俺は千歳から聞いた。
『俺との関係がホンマは嘘で。・・・自分が本当は、お嬢様やない』
最初は、ただ、進路のことが不安で
千歳にそないな事言うたんやろうとばかり思てた。
せやけど、進路のことやない。
ホンマに、は不安やったんや。
前者のことは・・・その後、ちゃんと叶えられた。
せやけど、後者のことは・・・自身、ずっと怯えてた。
俺に、嫌われんために。
アイツは・・・アイツは―――。
「ねーちゃん・・・ねーちゃん、白石と居って・・・ホンマに、ホンマに嬉しそうやったんや」
「金ちゃん」
すると泣きながら金ちゃんが俺に言い放つ。
「ワイも・・・ワイも、ねーちゃんが幸せそうにしてる顔見んの・・・めっちゃ好きやった。
でも、でも・・・今のねーちゃん、毎日毎日泣いてんねん。毎日、会うたびにめっちゃ苦しそうな顔しながら笑ってんねん。
何で・・・何で白石・・・ねーちゃんのこと、嫌いになったん?何でねーちゃんに嫌いなんて、嫌いなんて言うたんやアホ!!」
「・・・・・・」
金ちゃんの言葉に、俺は何も言えんくなった。
俺は・・・・・一方的に、を傷つけてしもた。
アイツは、はずっと・・・自分の事知られるんが怖くて怯えてた。
それでも、俺が側に居っただけで・・・アイツは幸せそうに、笑ってくれた。
笑ってても、俺はアイツの本当の心まで知らんくて
ホンマは、ホンマはめちゃくちゃ怯えてて―――泣いてたんや。
「白石・・・もう少し冷静になって考えてくれ。それからでも、多分遅くはなか」
「千歳」
「俺じゃあ・・・の涙は、止めきらんけんが。・・・金ちゃん、もうよかよ・・・白石も分かったけんが」
「嫌や!!白石は分からず屋やねん!!ねーちゃんのこと嫌い言うたんや!!ワイが、ワイがねーちゃんのこと
守ったらなアカンねん!!白石はねーちゃんをめっちゃ傷つけたんや!ワイが・・・ワイが・・・ッ」
「遠山、行くで。先輩、コイツは俺がどうにかしますわ」
「財前」
すると、光が金ちゃんのシャツを掴んで
そのままズルズルと引きずっていく。
「財前、離せッ!!離せアホ!!」
「やかましいわ。人様の事情にガキのお前がツッコミ入れんなボケ」
「うるさいねんドアホ!!」
「お前目上の人に向かってドアホはないやろ。ぶっ飛ばしてしばき倒すど」
「やかましい!!離せ、財前離せッ!!」
「はいはい」
「俺も財前に付いていくけんが・・・白石、考えてくれな」
そう言うて、千歳も金ちゃんを連れた光の元へと急いだ。
緊張の糸が切れ、俺は思いっきり膝の力が抜けその場にへたれこんだ。
「蔵リン!?」
「おい、白石大丈夫か?」
「・・・俺、何も知らんかった。何も知らんで、のこと・・・めっちゃ傷つけた」
「白石」
ホンマにアイツ・・・俺のこと、好きで居てくれたんや。
嘘は確かについてた。
せやけど・・・が俺についてた、嘘は――――。
「ちゃん・・・優しい嘘、付いてたんやな」
「白石や俺らに嫌われんとして、ずっと一人で耐えてたんやな」
「毒舌も、自分の心知られるんが怖かったからの・・・防衛やったのかもしれんなぁ」
「・・・・・・・・・」
優しい嘘。
きっと、誰も傷つけん嘘。
ただ、その代わり・・・自分には怯えと恐怖でしかない嘘。
は、俺を傷つけたくなくて・・・そして、嫌われたくなくて。
俺に、嘘・・・付いてた。
でも――――。
『蔵・・・大好きだよ』
お前の言う”好き“はホンマモンやったんや。
お前の目にはちゃんと、俺、映ってたんやな。
それなのに、それなのに・・・俺――――。
「・・・・・・」
「白石っ!?」
「蔵リン!!」
ようやく見えたの”闇“があまりにも
今の俺には重すぎて、その場で俺は倒れてしもた。
でも、倒れる瞬間・・・俺の目に薄っすらと映ったの顔。
せやけど、その顔・・・笑顔やなかった。
の泣いてる顔やった。
、泣かんといて。
俺、俺が悪かったんや全部。
お前の本当の心知らんと、一方的に傷つけて
お前のこと『大嫌い』なんて言うて・・・ホンマは、ホンマは
めっちゃ好きや。誰よりも好きやねん。
大好きやねん。離れてほしくないんや。
なぁ、なぁ。
俺、もう一度・・・もう一度お前とやり直したい。
俺、お前のことちゃんと知った。
嫌いになったりせぇへんで・・・むしろ、めっちゃ愛しく思えた。
お前のこと、ちゃんと守ってやりたい。
お前のこと、めっちゃ救ってあげたい。
せやから、頼む―――。
もう一度、俺に、俺だけに笑ってくれ。
「・・・・・・」
愛してる。せやから、戻ってきてくれ。
Come Back
(嫌いなんて嘘だよ。だからお願い、戻ってきて)