「じゃあ、ちゃんは施設に?」
「って跡部クンが言うてました」
試合会場を後にした俺は真っ先にの家にと向かった。
千歳の言うたとおり、の家では大騒ぎ。
そんな中、俺は跡部クンから聞いたが育った施設
”さざなみ園“の事を話すと、二人は顔を見合わせた。
「アナタ・・・私、行ってきます。跡部さんにこれ以上ご迷惑はお掛けできません」
「そうだな。・・・場所が分かっているのなら、お前だけでも行ってきなさい。私は一旦会社に戻るとするよ」
「はい」
「あの・・・っ!」
のお母ちゃんがその場を離れようとした瞬間
俺はすぐさま声を出し、動きを止めた。
「俺も、行きます」
「え?」
「白石君。君まで巻き込むわけには」
「いえ、行かせてください。・・・・・・に、こんな行動起こさせたんは・・・俺に責任があります。
俺がちゃんと行って・・・・・謝らなアカンのです。・・・それに、メンバーと約束してきたんです」
「必ずは大阪に連れて帰るって」
俺が此処で引き下がったらアカン。
メンバーとも約束してきた。
は絶対俺が連れて帰ってくるって。
他の誰でもない、俺が・・・俺がを―――。
「せやから、俺も行かせてください。お願いします!」
俺は二人の前で頭を下げえた。
にこんな事させたんは全部俺のせいや。
俺があんな風に傷つけんかったら、きっとは
こんなことせぇへんかったやろうし、アイツの事もっとちゃんと知っとけば
は・・・悲しまず、苦しまずに済んだ。
俺が行かな・・・俺が行って・・・と向き合わな・・・アカンのや。
「分かった」
「アナタ」
「とにかく、白石君・・・君も一緒に行ってくれ。を無事に連れて帰って来てくれ」
「・・・はい!」
「じゃ、じゃあ白石君行きましょう」
「分かりました」
そう言ってのお母ちゃんと一緒に車に乗り込み
黒塗りのベンツは東京の街を走り抜ける。
車の中は無言で、のお母ちゃんは
手を震わせながら、窓の外を見つめる。
俺の視線にかの人は、すぐさま気づいた。
「あぁ、ごめんなさい。私、震えちゃって」
「いえ。・・・あの、に会う前で何ですけど」
「何、白石君?」
「俺、昨日と今日での事完全に理解したわけやないんです。ただ・・・跡部クンの話とか色々聞いて思ったことなんで。
間違ってるのかもしれへんのですけど・・・俺の話、その・・・聞いててもらってもえぇですか?」
「白石君。・・・・・・いいわ、聞きましょう」
「ありがとうございます」
そう言って、車の中・・・俺は思ったことを話した。
きっとこうすれば、も親御さん達と・・・本当の親子になれると思ってる。
お節介かもしれんけど・・・ちゃんと向き合えば
お金持ちかて・・・普通の人や。それにのお母ちゃんはちゃんと耳傾けてくれる。
言葉、足らんかもしれんけど
俺精一杯・・・に色んなことしてあげたいねん。
せやから・・・アイツは、親と向き合うのも必要なんや。
もう二度と、寂しい想いさせへんように。
「あら、幸村さん」
「お久しぶりです園長先生」
「幸村?・・・、そんな苗字だったの?」
電話で呼び出したを私が、園長先生が迎える。
園長先生が明るくの苗字を言う。
「うん。私を引き取ってくれた人が幸村っていう苗字の人なの。立海に同い年の義理のお兄ちゃんもいるの。
お兄ちゃんって言うより、何か友達って感じなんだけどね」
「へぇ〜。いいなぁ、・・・楽しそう」
「・・・どうした?」
私の言葉に、はすぐに異変を感じた。
ダメだ、此処で泣いたら私
園長先生にまで迷惑かけちゃう。
その気持ちを悟られないように、私は――――。
「、海行こう」
「へ?・・・あ、アンタ・・・私がいきなり来て早々、何言って」
「園長先生、と海行ってきます」
「あまり遅くならないようにしてくださいね。夏場の潮の満ち引きは激しいですから」
「はい。ホラ行こう」
「ちょっ、ちょっと引っ張らないでよ〜っ」
私は彼女の手を引いて、施設から徐々に離れ
近くの海へと足を進める。
「・・・、どうした・・・どうしたの急に」
「彼氏と別れた」
「えぇえ!?ちょっ、ちょっちょっと!!ど、どういうことよそれ!!」
彼女は私の手を振り解き、私の前にやって来る。
の顔が凄く驚いてる。
当たり前か・・・アレだけ喜んでくれてたのに、この有様だからね。
私は顔を伏せ、立ち止まる。
「別れたの。ていうか・・・・・・別れようって言われた」
「何があったの?」
「婚約者の事、黙ってて・・・それでバレた。でも昔の事だしって・・・言ったんだけど、何か・・・・・・怖かった。
彼の顔・・・凄く、怖かったし・・・私の声、届いてない感じだった」
「」
あの時の蔵の表情は今でも忘れられない。
絶望と悲観に満ち・・・その中に隠れた怒り。
私の好きだった蔵の表情じゃない。
まるで”別の誰か“を見ている感じで怖かった。
「ネックレスも、外せって言われた」
「でも、付けてるじゃない」
「抵抗したの。・・・無理矢理外されそうになって、引っ叩いたら―――」
「?・・・・・・・・・・・・いいや、言わないでいい。無理して言わなくていいから」
「ゴメン」
「無理矢理犯された」・・・なんて、言えなかった。
だけど、私の纏った空気で分かったのか
はその後の言葉を遮ってくれた。
私は顔を上げて、足を進める。
も同じように私と歩幅を合わせ海のほうへと向かう。
「そっか。・・・別れちゃったか」
「うん」
「でも、何で園に来たの?てか、親御さん知ってるの、此処に居る事?」
「知らない。散歩に行くって言ったきり」
「家飛び出してきたの!?」
「前も同じことしたし。多分、私が此処に居るなんて、分からないよきっと」
「いや、でも・・・いくら引き取っても親だよ。それくらい」
「前も同じことして、見つけたのは婚約者の家の人達だったの。ウチはね、誰一人私の居場所が分からなかったんだ」
「」
施設から離れ、しばらく歩くと海岸が見えてきた。
そう、私が施設に預けられて寂しいとき、悲しいとき、ずっとこの海を見て
涙を、傷を癒してもらった。
潮風が顔に辺り、髪を靡(なび)かせて遊ぶ。
「海が近くて、さざ波の音が聞こえるから・・・さざなみ園って名前付けたんだって。園長先生が言ってた」
「らしいね。・・・ねぇ、・・・帰ろう。私送っていくから」
「コレ、捨てたらね」
そう言って私は首から提げていた星のネックレスを
外し、手のひらに乗せた。
「、それ・・・大切にしてるんじゃ」
「こんなのがあるから全部いけなかったのよ。最初っから婚約破棄されたときから捨てておけばよかったの」
「で、でも・・・彼氏君との思い出が」
「もういいの!!」
の言葉を遮るように、私は大声をあげた。
「もう、もういいよ。・・・私、彼から嫌われちゃったんだから・・・こんなの、こんなのもうする必要ないよ。
付けたりしてるから・・・私・・・わたし、他の誰かに苦しい表情や、悲しい表情させたりしてるの。
苦しむのは私一人でいいの、悲しむのは私一人でいいの・・・・・・他の誰かに、そんな顔・・・してほしくないっ」
「」
そう、私はネックレスを捨てるために此処まで来た。
誰にも言わず、ただひっそりと此処に思い出を捨てに来た。
こんなのをいつまでもつけているから
蔵のことを余計思い出して、恋しく感じてしまう。
彼はもう、私のことなんか見向きもしてくれないのに。
見向きもしてくれない、嫌いになったのに
いつまでもネックレスをつけて・・・それを引きずってるなんて。
二度と振り向いてもらえないと分かっているのに。
「だから、誰にも言わなかった。誰にも言わず、思い出を捨てに来たの。
コレさえなくなれば・・・婚約者との思い出も彼との思い出も・・・全部ぜんぶ、なくなってくれる。
また新しく、ちゃんと、ちゃんと――――」
「お嬢様を演じ続けることが出来るから。そのためなら・・・」
誰かが苦しんで、悲しむくらいなら
私はいっそ居なくなった方がいい。
誰かが喜んで、笑ってくれるのなら
私はイイ子を演じ続ければいい。
それで誰かが幸せになって・・・・・・・・くれれば。
「思い出だって・・・捨ててやるわよ」
頬を一筋涙が零れ、私はに言う。
これで本当にぜんぶ・・・終わりにしよう。
そう決めて、私は此処に立っている。
蔵との思い出さえ消えれば、私はまたお父さんとお母さんが喜ぶ
お嬢様の娘を演じればいいだけのこと。
苦しい?
うぅん、もう苦しくない。
逆にその方が・・・私らしくていい。
笑顔も消して、また無表情な私に戻ればいい。
笑顔なんて、笑った顔なんて、私みたいなのがしちゃいけないのよ。
「分かった」
「?」
私の声に、がゆっくりと言葉を零す。
「それで私を呼んだってワケか」
「一人で捨てようとすると、どうしても躊躇っちゃうから。ゴメン、こんな事で呼び出して」
「いいよ。とりあえずさぁ、私ジュース買ってくる・・・それから、二人でそれ海に投げちゃおう。
それでがラクになるなら・・・私、付き合うから」
「ありがとう」
「何か飲む?」
「うぅん。、好きなの買ってきなよ・・・私此処に居るから」
「あいよ。じゃあちゃん、ジュース買って速攻で戻ってきちゃうんだから」
そう言っては海岸から離れ、来た道にあった自販機へと向かった。
海岸を降りて、砂地へと私は降りる。
潮風が顔に当って、目に染みる・・・痛いなぁ。
手には、思い出がたくさん詰まった星のネックレス。
「、ゴメンね」
やっぱり、誰か居ると・・・躊躇う。
居た方が良いと思ってを呼んだけど、やっぱり躊躇い始めた。
今のうちに・・・が戻ってくる前に。
「バイバイ、蔵。・・・・・・今まで、ありがとう」
そう言って、ネックレスを掴んで腕を上げた。
「園長先生っ!」
都内から少し、いや大分離れた場所にそれはあった。
俺とのお母ちゃんは急いで車を出て、中へと入る。
「あぁ、さん。お久しぶり」
「ちゃん、こちらに来てませんか!?」
「え?・・・さんなら、2日前から此処に居ますけど」
「よ、よかったぁ〜」
「奥様ッ」
「だ、大丈夫ですか!?」
園長先生の言葉に、のお母ちゃんは
安心したのか体の力が抜け、その場に座り込んだ。
運転手さんが何とかかの人の体を支え、俺もすぐに側に寄った。
やっぱり、アイツ・・・此処に居ったんやな。
ホンマ跡部クン恐るべしや。
しかし、肝心の彼女の姿が見えない。
俺は立ち上がり、園長先生に尋ねる。
「あの・・・ところで、は?」
「さんなら、お友達のさんを連れて・・・此処から少し離れた海に行きましたよ。
さんはあの海が大好きで、よくあの海辺に行っては一人で泣いたりして。あの海はさんを
癒してくれる場所なんですよ。だから嫌な事とかあったらあの海辺に行っては物を投げ捨ててた事もありましたね。
最初のうちは止めてたんですけどね・・・本人がその方がスッキリして全部忘れられるというから、もう止めなくなったんですよ」
「モノを?・・・・・・!!」
「白石君!?」
園長先生の言葉で俺はハッとし
のお母ちゃんの言葉も聞こえんほどの速さで
俺は部屋を飛び出し、施設の外に出た。
よぉ分からんところで、海はどっちや?と思っていると
風が吹いた。
それと一緒に鼻を掠める、潮の匂い。
「風さん、おおきにっ」
そう呟いて、潮の匂いを運んだ風の方向へ走った。
多分その先に・・・居るはずや。
アイツ、もしかして・・・ネックレスを―――。
「捨てれなんて、誰も言うてへんぞ・・・・・・っ」
さっきの話を聞いて、俺は思った。
のヤツ、ネックレス捨てるために此処に来たんとちゃうんかって?
2日も時間を要したのは、多分捨てる・・・心の準備をしてただけ。
確かに俺、外せっては言うた。
せやけど捨てれなんて言うてない!
何で、何で捨てる必要あんねん。
俺が無理矢理したせいか?
俺が外せって力強ぉ言うたからか?
それとも跡部クンとのこと引きずりたくないんか?
答えが・・・見つからん。
しばらく走っていると、自販機に立海の制服を着た女の子。
もしかして――――。
「あの、すんませんっ!」
「え?・・・な、何か?」
「此処に、自分と同い年くらいの、女の子・・・来てへん?」
「・・・・・・もしかして、君?・・・の彼氏君って」
「え?」
彼女の言葉に、俺は驚きの声をあげた。
「なら、早く行ってあげたほうがいいよ」
「え?・・・あのっ、どういう」
「、ネックレス・・・捨てるから。アレにはね――――」
彼女の話を少し聞いて、俺はすぐさま走り出した。
手が止まった。
「やだ・・・やだっ、投げなきゃ・・・が、戻ってくるまでに・・・っ」
腕を上げたまでは良かった。
だけど、動きが止まる。
がジュースを買って戻ってくるまでに投げて・・・スッキリした顔で、に逢わなきゃ。
動いて・・・動いて・・・!!
「動いて・・・動いてってば・・・何でっ、何で・・・捨てれないのよ。こんなの、こんなの・・・・・っ」
早く捨ててしまえばいいのに・・・・・・できない。
腕を上げたまま、私は涙を零す。
「捨てて・・・捨てなきゃ・・・っ。・・・蔵ッ・・・・・・蔵」
「泣くくらいやったら捨てんでえぇやんか」
「!!・・・っ、く、蔵!?」
後ろから勢いよく抱きしめられ、投げようとしていたネックレスの手も握られた。
「ハァ・・・ハァ・・・泣くほど、嫌やったら・・・・・・ハァ・・・・・捨てる必要、ないで」
「う、うるさい!離して、離しなさいよ!!アンタにはアンタにはもう関係のないことなんだから!!」
「関係ないことあらへん!!コレは・・・・こん中には、俺との思い出・・・ぎょうさん詰まってんねやろ?
そんなん、そんなん捨てんなや!」
「!!」
蔵の言葉に、私の体の力が緩み
砂浜に崩れ落ちる。
が、崩れ落ちるけど蔵が今度は真正面から力いっぱい抱きしめてくれた。
「捨てんといてくれ、。俺、まだ・・・お前ともっと思い出作りたいんや」
「ぅ、嘘・・・嘘付かないで!!私のこと嫌いって言ったくせに、大嫌いって言ったくせに都合が良すぎるのよ!
離して!!離してよ、何とも想ってないくせに抱きしめたりしないで!優しくしたりしないで!!」
私は彼の腕の中で暴れまわる。
せっかく、せっかく忘れようとしてるのに
こんなところで、こんなところで・・・乱されたら、また・・・また、私―――。
「っ」
「離してっ!」
すると、肌を叩く音が響いた
でも波の音がそれを周囲に悟られぬように掻き消していく。
私、また・・・蔵のこと、引っ叩いた。
思わずあの日に脳裏が戻っていく。
あの後の獣のような目をした蔵を思い出した私は思わず怯える。
彼の頬を引っ叩いた手が震えて、止まらない。
あの時の目が来るのかと思うと・・・・・・怖い。
「・・・すまんかった」
「え?」
だけど、私の想像とは裏腹に
蔵は顔を横に背け、視線を逸らした。
「俺・・・のこと、何も知らんかった。跡部クンの事に限らず・・・生い立ちの事とか、家の事とか。
そんなん知らんで・・・その・・・俺、自惚れてたんや。自分が、俺を一番に考えてくれてる、一番に想てくれてる。
そう思ただけで、俺幸せやった。せやけど・・・ホンマのの事、俺何も、何も知らんで。
俺は・・・俺は・・・俺自身が幸せに浸ってただけやったんや。はその影で・・・怯えてるって知らんで」
「く、ら」
「自分が言葉足らずって、俺分かってたんに。・・・自分の気持ち、上手く伝えきれんって分かってたはずやのに。
俺・・・一方的に、お前に幸せ注いで、幸せに浸ってた。の気持ち、考えんと・・・怯えてるって、泣いてるって
助けてって・・・、ずっと俺に、言うてたんに・・・俺、気づかんかったんや。気づいとったのかも知れんけど
気づかんフリして・・・お前の孤独から逃れようしとった。お前の闇から・・・逃げとったんや」
蔵は顔を横に背けながら言う。
その声は、震えて・・・今にも、泣きそうな声。
「お前は、は何も何も悪くないんや。俺が、自分を傷つけた俺が全部悪いんや。最初はホンマに裏切られたって思た。
せやけど色々考えたら・・・、一つも悪いことしてない。お前は俺に嫌われんと、嘘ついとっただけなんやって。
ホンマに、俺のこと好きで居てくれてたから・・・・・・嘘、ついてたんやって。跡部クンのこと、言えんかったんは・・・俺が
お前のこと・・・愛しすぎて、せやから・・・せやから」
「もういいよ」
「アカン。ちゃんと、ちゃんと俺言わな」
「もういいって!」
彼の震える声に私は耐え切れず、言葉を遮った。
「跡部の事言えなかったのは、私が悪いの。跡部の事、好きだった私が・・・蔵のこと本気で好きになって、この人に
もっともっと好きになって欲しい、愛して欲しいって思って・・・その反面、婚約していた事や跡部の事を知られたら
嫌われちゃうって・・・蔵が私のこと嫌いになるって思ったら・・・言えなかった」
もっと、もっと好きになって欲しかった。
もっと、もっと私を愛して欲しかった。
愛される事に飢えていた私は、過去の私を押し殺してまでそれを求めた。
過去の私は、気持ちを外に出し切れず苦しんでいたのに
愛されることを求めるが故に・・・本当の私を知られる、そして嫌われる恐怖に怯えて。
何も言えずにいた。
「蔵に、蔵に愛されて・・・私、わたし・・・本当に嬉しかった、幸せだった。だけど、嫌いって言われて
私・・・目の前が、真っ暗になって・・・忘れようとしたのに、忘れられなくて・・・。でも、きっと、きっともうこんな私のこと
見てくれない、見向きもしてくれないのに・・・忘れ、られなくて・・・っ」
「っ」
「蔵ッ!」
蔵は私の腕を引っ張り強く抱きしめた。
私は彼の背中に手を回し、抱きつく。
あったかい・・・あったかいよ。
「ゴメン・・・・ゴメンな。大嫌いなんて嘘や、大嘘や。ホンマは、ホンマはめっちゃ好きや、大好きやねん。
あの時のことは、多分・・・俺許されん事しとったって分かってるし、お前から嫌いや言われても当然の事やと思う。
でも俺、俺やっぱり・・・お前のこと好きや。お前から離れたくないねん、お前のこともっともっと好きで、愛していたいねん」
「蔵・・・っ」
「俺、またお前のこと、こない風に傷つけるかもしれん。せやけど、今度は絶対に傷つけたりせぇへん。俺ちゃんと
の事見てる、側に居る、せやからもう・・・何処にも行かんといて。お前が俺の目の前から居なくなっただけで、俺の世界から
色が消えたようになるわ・・・寂しなんねん。せやから俺の側から、離れんといて」
「ずっと、愛し続けるから」
「っ・・・く、らっ・・・蔵っ・・・ゎたし・・・ごめんなさい!・・・ごめんなさいっ!」
彼の言葉に、私は謝った。
どのことで謝っていいのか分からないほど、謝った。
すると、体が離れ私の頬を彼の両手が包む。
それを感じるだけで涙が止まらない。
「帰ろう、。俺、そのために自分迎えに来たんや」
「く、らっ。私・・・帰って、いいの?・・・皆、私のこと」
「心配してるに決まってるやろ。俺だけやないで、自分のお父ちゃんにお母ちゃん。
それだけやないで、千歳に、謙也に金ちゃんに、ユウジに、小春に光に、銀に健二郎に・・・みーんな、自分のこと
心配して待ってんねん。・・・まぁあんまり名前挙げたくないんやけど、跡部クンもな」
「跡部、が?」
蔵の口から跡部の名前が出てきて、少し驚く。
「此処の場所かて、跡部クンが教えてくれたんや。せやからってあんな男惚れ直したらアカンぞ。
自分にはちゃあんと目の前にあんな男よりもえぇ男がおんねんから」
「・・・ッフ・・・ばぁか」
彼の言葉に、思わず涙と一緒に笑顔がこぼれた。
何かやっと普通に笑えたような気がする。
「帰ろう、。もう、一人にはさせへんから」
「蔵。・・・・・・ぅん」
そう言って彼が立ち上がり、彼の差し伸べられた手を私は握って立ち上がった。
立ち上がって、見つめあって―――――。
「好きや、」
「私も、好きよ蔵」
優しく、甘い口付けを交わすのだった。
蔵と一緒に園に戻ると
黒塗りベンツの扉の前に魁さんと・・・お母さんが居た。
「おかあ、さん」
「ちゃん」
私が声を出すと、お母さんは泣きながら私のところに近づき―――。
肌を引っ叩く甲高い音が響き渡る。
私はおろか、その場に居た誰もが驚く。
「!?」
「さんっ」
「お、奥様っ」
「えっ、あ、あの・・・のお母ちゃんっ」
「どうして皆さんに迷惑をかけたりしたの!」
「おかあさ」
私は叩かれた頬を押さえながらお母さんを見る。
お母さんは泣きながら引っ叩いた手を収めず、私に言い放つ。
「何で急に居なくなったりしたの!お母さん、ちゃんのことが心配で眠れなかったのよ!
お母さんだけじゃないわ、お父さんだって貴女の事どれほど心配したのか分かってるの?!」
「・・・あ、・・・・ゎ、わたし」
「確かに、ちゃんは私達の本当の子供じゃないわ。血の繋がりなんてまったくない。
だけど、だけどね・・・無理して、イイ子で居なくていいの。無理して、私達に気を遣わなくていいのよ。
もっともっと私達に甘えてちょうだい。本当の子供じゃなくても・・・貴女は」
「もう、私達の子供なんだから。私と貴女は親子なんだから、ちゃんと言って・・・ね、ちゃん」
「お母さん・・・お、かぁさ」
初めて、怒ってもらえた。
初めて、初めて―――この人たちに、愛されてるって分かった。
「ごめんなさい・・・ごめん、なさいっお母さん・・・お母さんっ」
「引っ叩いたりしてお母さんもゴメンね。でも、ちゃんのことすっごく愛してるから引っ叩いたり怒ったからね。
お家に帰りましょう・・・お父さんも心配してるから」
「、帰ろうか」
お母さんの優しい顔と
大好きな蔵の優しい顔に
私―――。
「うん」
生まれてきて、よかったんだ。
この人たちに愛されるために、私・・・生まれてきたんだよね、きっと。
「しかし、お嬢様が無事見つかってよかったですね」
「えぇ。・・・・・・あらあら」
「奥様いかがなさい・・・・・・おやおや」
「フフフ・・・二人とも疲れちゃったのね、手なんか握って寝ちゃって」
「お嬢様も白石様もお幸せそうに眠っておられますね」
「東京の自宅に戻るまでこのままにしておきましょう。ちゃん、白石君・・・ゆっくりお休みなさい」
Sweet
(隙間を埋める甘い時間。もうこの手は未来まで絶対に離さないから)