「・・・んっ」






東京の家に着く前に、私は目を覚ました。


というか、いつの間にか眠ってたんだ・・・私。




「おはようさん」


「・・・蔵」





目線を上げると、蔵が笑顔で私に挨拶をしてくれた。




「可愛えぇ寝顔やったで」


「み、見てたのっ」


「まぁ俺も今さっき起きた感じやし。えらいスッキリしたわ」


「えっ・・・寝てないの?」





そんなことを言う蔵に、私はもしかして
寝てないのではないのかと思い問いかけた。




の事、ずーっと考えとったら・・・何や、上手く眠れんくてな。せやけど、自分が俺の隣に居るっちゅうだけで
俺、多分ホッとしたんやろうな・・・めっちゃ安心して寝れたわ。やっぱり、俺の隣にはが居らんと無理やっちゅう話や」


「蔵」




思わず心臓が高鳴る。

私・・・こんなに、この人に必要とされてたんだ。
なんだかそれだけで・・・嬉しくて、泣きそうになる。




も、そやろ?」


「・・・ぅ、ぅん・・・」


「ホンマに?」


「ぅん。蔵が隣に居てくれるから、私も安心・・・しちゃった」


「そっかありがとう・・・俺、めっちゃ嬉しいわ」




いつの間にか握られていた手から伝わってくる、彼のぬくもり。


優しく囁かれると体中に響いてくる、彼の声。





私の空白だった隙間に、彼がどんどん埋まっていく。








「二人とも、着いた・・・アラ、起きてたの」


「すんません、何や寝てしもて」
「ごめんなさい、お母さん」




東京の家に着くと、助手席に乗っていたお母さんがこちらを覗く。




「いいのよ。さぁ、降りて・・・お父さんには連絡しておいたから。ちゃん、ちゃんとお父さんにも謝りなさい」


「・・・はい」




そうお母さんに言われて、私と蔵は後部座席から降りた。

車を降りると、門の前にお父さんが立っていた。
その表情は真剣で、いつもの優しさはない。

私はゆっくり近づくと、お父さんはこちらにやってくる。
が、私の横を通り過ぎ――――。




勢いよく蔵の顔を殴った。





「く、蔵っ!」


「アナタ、落ち着いてくださいっ!!」





私はすぐさま殴り、尻餅を着いた蔵の元に駆け寄った。
お母さんはというと、殴ったお父さんに冷静になるよう促す。






「蔵・・・蔵、大丈夫?」

「あ、あぁ・・・平気や」





「白石君・・・・・・娘と、と別れてくれ」




「!!」

「お父さん!」

「アナタ、何て事をっ」




お父さんの口から出てきた言葉に、私はおろかお母さんまでも
驚きを隠せずにいた。

せっかく、せっかく蔵と仲直りできた・・・ちゃんと心から分かり合うことが出来たのに。





「お父さん・・・何で、なんで・・・そんな事っ」



「白石君がどうであれ、を傷つけた。大切な一人娘を悲しませる君に・・・と付き合う資格はない。
と別れてくれ・・・白石君」



「俺は・・・」



「嫌!絶対に嫌っ!!」






ちゃん」




お父さんの言葉に、私は蔵を抱きしめながら抵抗する。




「蔵と・・・蔵と別れるなんて、私絶対に嫌。確かに、私・・・いっぱい傷ついた。でも、それをちゃんと
癒してくれたのは・・・蔵だもん。蔵は・・・蔵は、こんな私でも好きで居てくれるって言ってくれた。
私・・・ゃだ・・・蔵と、蔵と・・・別れるなんて・・・絶対に嫌!!」




傷ついても、傷つけられても・・・私にはこの人しか居ない。


この人じゃないと、私・・・わたし―――。





「蔵と別れろって言うくらいなら、私・・・家を出て行く。彼から離れるくらいなら、お家なんていらない!!
お家も、家族もいらない!!」




「・・・蔵っ」




私が彼を抱きしめていると、彼の手が私の腕に触れた。
少し距離を置き、目線を合わせる。




「そないなこと、言うたらアカン。せっかくちゃんとした家族になったんやから・・・言ったらアカンで」


「だって・・・だって、蔵・・・私・・・蔵と・・・別れたく、なぃ。離れたく、ないもん」


「分かってる。・・・・・・せやから」




そう言って彼は立ち上がり、お父さんと目線を合わせる。

私はそんな二人を見上げるしかなかった。






「今回の事は、俺に一番責任あるって分かってます。を傷つけて、悲しませて・・・こない行動起こさせて
お二人にもご迷惑かけたこと・・・俺自身、深く反省してます。でも、迎えに行ったんは傷つけた罪の意識とかやなくて
本気で・・・俺、本気での事好きやって・・・が居らんと、無理やって分かったんです」





彼の口から零れる言葉、一つ一つが
私の心に響いて、目から涙を溢れさせていく。




「お二人にとって、が大切な存在であるなら・・・俺にとってもは、大切でかけがえのない存在です。
せやから・・・お願いします。俺からを引き離さんといてください!俺には・・・俺にはが必要なんです。
俺許してもらえるまで何べんでも謝りに来ます、何べんでも足運んで謝ります。それで許してもらおうなんて
ムシが良すぎるかもしれませんが・・・今の俺には、こんな方法しか見つからんくて。せやから、あのどうか・・・っ」



「もういい」


「お父さん!」
「あの、でも・・・っ!」



「もういいんだよ、白石君。君の、に対する気持ちは、十分に私に伝わったよ」



「え?」


「ぉ、とう・・・さ」



するとお父さんはいつもの優しい表情で
蔵の肩を叩く。

そして、横目で地面にへたれこんでいる私に視線が来る。





はね、本当に不器用な子で・・・自分のことを私達にはあまり話さなかった。でも、は君と出逢って
笑うようにもなったし、私達にも少しずつ遠慮なく接するようになっていた。だけど、この子が
悲しんだり苦しんだりしている姿は、私達としてはもう見たくはないんだよ。が私達のところに来たときのように。
毎日窓を見て、毎日泣いて、その時のこの子を見ているようで、どうすることも出来なかった自分自身に
悔しさだけが募っていった」



「お父、さんっ」



「白石君、約束をしてくれ。もう二度と・・・を悲しませたり、苦しませたり、傷つけたりしないでくれ。
この子は私達にとって、本当の娘同然の子なんだ。娘が泣いてる姿だけは父親の私としてはもう見ていたくない。
約束・・・・・・できるかい?」



「はい。俺・・・絶対、の事大切にします」



「ありがとう。・・・・・・、よかったな」





























「いい人にめぐり逢えて」














お父さんはそう言いながら私ににっこりと微笑んだ。
その表情を目に入れた瞬間私は、泣いた。


お父さんは私をずっと大切にしてくれていた。
その気持ちを知ったとき、本当に嬉しかった。

蔵も、私のこと本当に大切にしてくれる。
彼の言葉が胸に響いて、涙を止めてくれない。



私・・・気づいた。


いろんな人に愛されて、大切にされてた。

それなのに、一人で塞ぎこんで
誰も愛してくれないとばかり思っていた。

だけど、違った。

本当は・・・本当は・・・私。







すごく幸せな子なんだ。




















「イッ・・・」

「あ、ゴメン。痛い、よね」

「いや、まぁ・・・平気といえば嘘やけど・・・・・・痛いなぁ。ホンマ男に殴られると
パワーある分重みもあるから痛いわ」




部屋に戻って、お父さんに殴られた蔵の頬に私は
シップを貼っていた。

ベッドに座った蔵にシップを貼りつける。
痛そうな声を上げる彼にちょっと見ていられない。




のお父ちゃん、昔なんかスポーツしてたん?えらい力入ってたし」


「うん。お母さんからはお父さんは野球してたって聞いた。ピッチャーだったって」


「あー・・・それやったら肩の鍛え方ちゃうねんなぁ。ホンマ俺此処最近殴られっぱなしやで」


「え?」



シップを貼り終えて、蔵の言葉に私は驚く。
も、もしかして・・・私も。



「ゴ、ゴメン・・・私があの時引っ叩いたのよね。あと、さっきも・・・ゴメン蔵」


「あ、いや・・・のは数に入れてへんよ。それに、当然の報いや・・・自分傷つけて、こんな騒動起こさせてしもたんやから」




そう言いながら、蔵は
私の手を引き寄せ、ゆっくりと抱きしめた。




「ゴメンな、。傷つけたりして」


「うぅん。私も・・・いっぱい蔵に嘘付いてたから」


「アレは自分が俺に嫌われんとしてた事や。俺が悪い・・・せやから自分責めたらアカン」


「蔵も、もう自分責めなくていいよ。・・・おあいこ、だから」







私はそう言うと、さらに強く抱きしめてくれた。
それに私も答えるように彼を抱き返した。





「あ、俺・・・もう一個、に謝らな」


「え?」


「コレ」




すると、蔵は私の体から離れ
自分のポケットから携帯を前に差し出した。

私はワケが分からず、首を少し傾げた。


蔵が少し申し訳なさそうな表情を浮かべ
口をゆっくり開く





「ミサンガ・・・・・・無くしてしもた」


「あ」





そういえば、蔵・・・携帯に
私が去年あげた、緑色で編みこまれたミサンガを
携帯のストラップ代わりに付けていた。

そのミサンガが、蔵の携帯から忽然と姿を消したのだ。




「いつから、ミサンガ無くなってたのか俺もよぉ分からん。
施設に迎えに行った時に・・・自分の幼馴染の子に言われて」


に?」



そういえば、あの海に抜けるには1本道しかない。
だから、蔵とが逢うことは確実だ。



「あの子に、自分のこと色々聞いて・・・砂浜向かおうとしとったら」



















『あ、君っ!』


『へ?』


『ポケットに糸くず付いてるよ。そんなもの付けて迎えに行くなんて、いい男台無しだよ』


『あぁ、おおき』


『どうしたの?』


『・・・いや、ほな、ありがとう!』

















「気づいたら、コレ1本しか・・・俺のポケットに付いてへんかった」





そう言って、蔵は右のポケットから
ミサンガの崩れた糸くず1本を手のひらに乗せ、私に見せた。



「あー!!もうホンマゴメンッ!!俺、俺ホンマ最低や・・・せっかく貰ったプレゼント
こないな形で失くしてしまうやなんて・・・俺ホンマ最低すぎる、マジで殴ってくれ」


「い、いや・・・流石にもう殴りはしないわよ。そ、それに・・・」




私は蔵の手のひらに乗ったミサンガの糸を取り上げ
しっかりと抱きしめた。





「ミサンガ・・・きっと、切れたのよ」


「え?そらアカン!!切れたら、俺・・・ミサンガ切れたらとずっと一緒に居れんやんか!」


「何言ってるの。ミサンガは切れてから願いが叶うんだよ」


「あ。・・・・・・せ、せやったぁ」


「く、蔵っ!?」





私の言葉に、蔵は首をうな垂れさせ
声のトーンも若干落ち気味で言う。



「俺・・・俺、ミサンガ切れたって思たら・・・と一緒に居れんって、もう関係が終わってまうって思て」


「それで、急いで来てくれたの?」


「別にミサンガのこと無くても、急いで行ってたわ。何でネックレス捨てるんやろうって・・・でも幼馴染さんが
アレは俺との思い出がぎょうさん詰まってるって教えてくれたんや。思い出が詰まったもん捨てるなんて、悲しすぎるで」


「蔵」


「ネックレスは?」


「あるよ」




蔵にそう言われ、私はポケットの中から
星のネックレスを出した。すると彼はそれを取りあげ―――。





「おいで。首にかけたる」


「え?・・・あぁ、ぅん」





私は蔵の目の前に後ろ向きで座る。

すると首元をそっと掛かり
ひんやりとした冷たさが肌に触れ、思わず肩が小さく動く。

付け終わると、そのまま後ろから蔵に抱きしめられた。




「く、蔵?」



「首に・・・俺が噛み付いた跡があった。痛かったやろ、あの時・・・苦しかったやろ、あの日。
俺がめいいっぱい、自分のこと傷つけて怖がらせて、怯えさせてしもた。
ホンマ・・・ホンマに、ゴメン




まるで小さな子供が謝るように彼は私を抱きしめ
首筋に顔を擦り寄らせる。






「もう一度」


「え?」


「もう一度、やり直させてくれ。ちゅうか今・・・・・・の事、めっちゃ感じたいねん。
俺の背中に作ったの爪痕・・・それ見つけた瞬間(とき)から、お前のことめっちゃ愛しく思えて。
仲直りして早々、こないな事言うんはめっちゃ最低かもしれんけど―――」



























が欲しい。欲しくて、欲しくて・・・の全部が欲しいねん。体だけやのぅて、心も、全部。
俺に全部見せて・・・傷ついたところも、俺が全部癒したる」



「蔵」




胸の鼓動が止まらない。

蔵の口から零れてきた言葉が私の体を熱くさせる。








「蔵」



















 愛 し て る 








そう低く、囁かれ
彼に腕を引かれ・・・ベッドへと深く、身を沈めるのだった。







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(誰にでも帰れる場所がある。私の居場所はもちろん此処と、彼の腕の中)

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