『新大阪〜・・・新大阪〜・・・お降りの際はお忘れ物に十分にお気をつけ下さい』





次の日、私は蔵と一緒に新幹線に乗って大阪へと戻ってきた。
お父さんとお母さんは仕事があるからと行って、東京に残ったから
彼に私を任せて、二人で戻ってきた。


新幹線から降り、ホームへと来た。



そして、外に向けて足を進める・・・だが、私は立ち止まった。





、どないしたん?」





突然立ち止まった私に、蔵は心配そうに駆け寄ってきた。





「新幹線乗って、気分でも悪なったか?」


「違う。・・・何か、不安なの」


「不安?・・・何でやねん。俺、ちゃんと自分の側に居るやん」


「そうじゃない。・・・そう、じゃ・・・ないの」


「だったら、何?」





私は顔を少し伏せ、口を開く。





「どうせ・・・こんな私だから、皆・・・やっぱり心配してるわけないよ。
昨日、蔵は大丈夫って行ってくれたけど・・・私、やっぱり・・・・・・っ」







昨日、確かに蔵は『皆、の事心配してるんやで』って言ってくれたけど
内心”やっぱり・・・“と自分の中でマイナスイメージをしてしまう。


今だって心臓は張り裂けんばかりに鼓動し、手も震え、足も動かない。







「行ってみんと、分からんやろ」


「えっ?・・・あっ、ちょっ・・・ちょっと!?」





すると、突然蔵が私の手を握り、ホームへと歩き外へと引っ張っていく。





「く・・・蔵っ・・・蔵、や、やっぱり・・・っ」


「行かんと分からんやろ。皆に聞いてみんと・・・分からんやんか。
最初っからそない事、自分で決め付けんなや・・・このドアホ」


「・・・・・・」




彼の言葉に、私の反論の言葉が消えた。




皆に聞いてみないと・・・・・・。




その言葉が頭の中で反響していく。


改札口を抜け、出入り口へ出ると・・・見慣れた姿。
テニス部の皆が其処に立っていた。
引っ張られた手を離され、皆の前に立つ私。



緊張と恐怖で、手が震える。

言葉が出てこない。



どうすれば・・・私・・・こんなとき・・・どうすれば・・・っ。









「・・・く、ら」





すると、蔵が私の背中をそっと叩いて、私を見る。


その表情は優しく、声を出さなくても”大丈夫や“という声が
聞こえてきそうだった。そして、彼はゆっくり私の背中を押し、皆の前へ。


心臓は凄く早く動いて・・・私は唇を一旦噛み締め・・・ゆっくりと口を開いた。










「皆・・・ごめん、ごめんなさい。心配かけて・・・ごめんなさい。あと・・・その・・・あの・・・・・・・・・」





































「ただいま」













本当は沢山、言わなきゃいけないことがあるはずなのに
頭の中が混乱して・・・・・でも、一番に言わなきゃいけないような気がした。


きっと非難の声が来るに違いないだろうと私は思っていた。――――だが。









「ねーちゃぁあああん!!」



「え?」




金ちゃんが泣きながら私に抱き付いてきた。そして、そのものの数秒後に。







『おかえりー!』






「えっ・・・うわっ、み、皆・・・っ」





皆が私を取り囲み、抱擁をしてきた。





「もう、ちゃん・・・ホンマに心配したんやでぇ」


「お嬢様無茶しすぎやって」


「俺らの寿命縮ます気か、アホ」


「でも、はんが無事でよかったやないですか」


先輩、やりすぎっすわ」


「ねーちゃんや!ねーーちゃん!!」



本当に・・・皆・・・私のこと・・・。




「皆・・・みんな、ただいま。ごめんね、心配かけて・・・ごめんね」




何か・・・嬉しい。







「蔵」



メンバーと和気あいあいとやっていると、蔵が私の元へと近づき
頭を撫でる。




「な、言うたやろ。皆、ホンマに自分のこと心配してたって。心配してたから
皆、此処に居って自分の迎えに来てくれたんやで」


「蔵」


「もう一人とちゃうねんから・・・強がらんでもえぇで。キツイときは俺がちゃぁんと受け止めたる・・・な」


「・・・ぅん」





蔵の言葉に私は涙を流した。


私が泣くと蔵も、そして皆も私を優しく宥めてくれた。


私・・・こんなに、たくさんの人に大切にされてたんだと思うのだった。














「・・・ち、千歳」






すると、其処に千歳がゆっくりやってきた。
だけどその表情は少し申し訳なさそうな表情だった。








「すまんかった!」






突然の千歳の謝罪に誰もが驚く。

だが、私は彼が何のことで謝ってきたのかすぐに分かった。




「俺が・・・俺が、あぎゃんことば・・・言わんかったら・・・っ」


「うぅん。千歳は、私を・・・傷ついた私を守ってくれた。それだけで嬉しかったよ。
千歳の気持ちは受け取れないけど嬉しかった・・・・・ありがとう」







私はそっと、千歳の前に手を差し出す。





「これからも、よろしくね」




微笑むと、千歳もようやく笑って私の手を握ってくれた。





「千歳」


「白石」



すると、蔵が千歳に声をかける。
握っていた手を離し、彼を見る、次の瞬間―――鈍い音が響く。



蔵が思いっきり千歳を殴ったのだ。







「ちょっ・・・蔵、何してんの!?」




あまりのことで私は驚いた。


蔵が千歳を殴るなんて、余程の事がないと殴ったりしない。
駆け寄ろうとすると――――。




「けっ、謙也っ」


「えぇから見とけ。お前が心配する事ちゃうねんから」


「で、でもっ」


「えぇから。大丈夫や」



謙也の腕に阻まれ、2人のところに行けなくなったが私は
ジッと2人の様子を見る。





「あの日のお返しや」


「お前なら、してくると思とったよ・・・白石」


「えぇ1発やったで」


「お前さんのこん1発もよかパンチたい」



そう言いながら、蔵は尻餅を付いた千歳の手を握り
引っ張り上げ、立ち上がらせた。






「2人とも・・・何かあったの?」





疑問に思い、私は謙也に尋ねる。





「お前が知らんでえぇ話や」


「あっ・・・そう」




何故か言葉を上手く濁されてしまい、何があったのか聞けなかった。





「せやけど・・・千歳の気持ちって・・・何のこっちゃ、?」


「へっ?!あっ・・・ぃや・・・その・・・ねぇ」




しまった。



謙也が余計な事に気づいてしまい、思わずドキッとしてしまう。
言えるはずない。千歳に告白され、挙句キスされそうになった事も。






ちーーとーーせぇーー



「げっ!?」




「あ、・・・お前見んな」
「は?けっ・・・謙也!?」





すると、謙也が突然私の目を塞いだ。
視界がこれじゃあまったく見えない。






「さっきの1発じゃ・・・足りん見たいやな、お前」


「まっ・・・待たんね、白石。此処は冷静に・・・っ」


やかましいわ、ボケェ!!






慌しく、そして賑やか声が響き渡る。



私はようやく・・・大阪に戻ってこれたのを実感したのだった。






















自宅に戻り、少し体を休めていると・・・ふと、視界に携帯の姿が飛び込んできた。
私はそれを握り、電話を掛ける。






――――PRRRRR・・・ガチャッ!




『俺だ』


「お節介してくれてどうもありがとう」


か』





相手はもちろん・・・――――跡部だ。




『何だ?』



「よく私が施設に居る事が分かったわね」



『お前が大体行きそうなのは其処しか思いつかなかったんだ。
まぁどうやらそこで当たりだったみたいだな』


「最後の最後で、アンタにお節介やかれるなんて・・・私も恥ずかしいわ」






元婚約者に此処までお節介をやかれるとは
蔵が私を迎えに来て、彼の口から跡部の言葉が出て来た時は
驚いたと同時に、笑いがこみ上げてきた。


その笑いはもちろん・・・ある種の失態から出たものだろう。





『白石のヤツ・・・お前に相当惚れ込んでるから教えてやったんだ。冷静なアイツのあんな顔、見たことねぇよ』


「そう」





アレだけ、私のことで必死になってくれた人なんて・・・きっと蔵ぐらい。




『この前のときとはえらい声に差があるな・・・どうした?』




跡部の声に私は目を細め・・・笑みを浮かべた。





「そうね・・・しぃて言えば、吹っ切れたわ」



『・・・・・・すまなかった』



「何でアンタが謝るのよ?てか、謝らないで・・・雪でも降ったらどうすんのよ」



『チッ。相変わらず可愛げがねぇな。白石も物好きなヤツだぜ』



「そうね。そんなヤツと婚約してたアンタも十分物好きよ。それに心配して蔵に
ご丁寧に私の居場所まで教えてやったんだから」



私がそう言うと跡部は鼻で笑う。
いかにも「うるせぇ」とか、そんなところだろう。





「ねぇ、跡部」


『何だ?』




























「好きだった・・・アンタの事。婚約破棄してもしばらくは・・・アンタの事、忘れられなかった」













今なら、ちゃんと言える。


過去の私の気持ち・・・気持ちが全部吹っ切れた今なら。




私は優しく語り掛けるように電話元の跡部に言う。






「ありがとう・・・跡部」



『何で礼を言う?お前を振った男だぞ』



「さぁ・・・私も何で言ったのか分かんない。あの子・・・幸せにしてあげなさいよ。
私と同じようにしたら承知しないんだから」



『分かってる。・・・何かあったら、いつでも言え。それなりの助けはしてやる。
だが、白石とケンカして愚痴の吐き場所にだけはするなよ』



「しないわよバーカ。・・・じゃあね、跡部」



『あぁ、じゃあな』




そう言って、通話を切断して机の上に私は携帯を置く。



もう、不安は何処にもない。
跡部にようやく、自分の気持ちを言えただけで・・・ホッとした。









――――コンコン!






すると、ドアを叩く音。私が返事をすると――――。






『俺や、俺』


「蔵」



やって着たのは蔵だった。
私はすぐさまドアへと向かい、開ける。




「どうしたの?」



「いや・・・ちょっとな。さっき言うの忘れててん・・・いっぺん家に帰ってから来た」





そう言って、私は蔵を部屋の中へと招き入れる。
蔵は私の部屋に入るなり、自分の特等席であるベッドに腰掛けて私を見る。






「何?」



「いや・・・その・・・別に、そういうつもりとちゃうねんけど・・・・・・」



「何よ、はっきり言って」



私がそう言うと蔵は髪を掻き乱し、すぐさま整え私を見る。
















「あっ・・・跡部クンと何話してたん!?」




「え?聞いてたの?」



「いや・・・聞いてたっちゅうか・・・最後のところしか聞こえんかったんやけど・・・っ」





ボソボソと言いながら蔵が私から視線を逸らす。

そんな彼の姿を見て思わず笑ってしまう。









「なっ・・・何がおかしいねん!・・・ひっ、人がせっかく心配してんのにっ・・・」


「別に心配しなくても良いことよ。もう、アンタが心配するほどの仲じゃないから」


「ホンマか?」


「当たり前よ」


「な・・・なら、えぇわ。、こっち来て・・・抱きしめたい」





安心したのか、それともまだ不安なのか私を抱きしめたいと蔵は言ってきた。


私はため息を一つ零し、彼に近づく。
私が近づいたのが分かるとゆっくりと腕を引っ張り抱きしめた。







「で?・・・何しに来たの?・・・何か言い忘れてる事があるからきたんじゃないの?」



「あ、せやった。何や、抱きしめてたら忘れてたわ」



「おい」







まったく、こういうところは少しマイペース過ぎる。


私が思い出させると蔵は体を離し、私を見上げる。






に・・・お願いがあんねん」




「何?」



「1日だけ・・・ネックレス、俺に預けてくれへん?」



「は?」







何故、彼がそれを言ったのか分からなかったけど
真っ直ぐな蔵の眼差しに私は不安の一つもなく、とりあえず彼にネックレスを預けるのだった。



何をするのかも、何に使うのかも、教えられないまま。





Settlement and....
(全ての後始末・・・そして、残すは一体何?)
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