「おっちゃん、持ってきたで!」


「おー、クーちゃんやんか。どれ?・・・ん〜」


「出来そう?」


「まぁ・・・頑張ってみるわ」


「1日で頼むわ」


「1日!?えろぉ、無理言うなクーちゃん」


「向こうにも明日には返す言うてんねん。な、頼むわおっちゃん」


「・・・しゃあないわ」


「おおきに、おっちゃん」










明日、お前の喜ぶ顔が・・・俺の目に浮かんでくるわ、























「あらん?ちゃん、首にネックレスしてないな」

「あ、ホンマや」



「小春ちゃん、ユウジ」




家に戻って数時間後、家に引き篭もるのも暇なので学校の図書館で本を借りて
暇つぶしがてら、テニスコートにやってくると
真っ先に小春ちゃんとユウジが
私の首にさがっていたネックレスがない事に気づいた。





「失くしたん?」


「違う。何か、よく分かんない」


「どういうこっちゃ?」


「蔵がさっき、私に1日だけネックレス預けてほしいって言うから」


「蔵リンに渡したん?」


「うん」





さっきの出来事を、私は素直に二人に話した。



本当に唐突だった。

いきなり「1日だけネックレスを俺に預けてくれ」っていうから
最初はちょっと私本人も躊躇った。














「な、何すんの?も、燃やすとかしない?」

「せぇへん。ちょっと俺に預けてほしいだけなんやって」

「す、捨てるとかしないわよね?」

「せやから、せぇへん言うてるやろ。捨てもせんし、燃やしたりもせぇへん」

「絶対?」

「おぉ、ビリケンさんに誓って」

「ビ、ビリ?・・・・・・其処まで言うなら。ホント明日には返してよ」

「ちゃんとお嬢様に返します。それは絶対守るわ」











そう言って、私は蔵に星のネックレスを渡した。


それを受け取るなり、蔵は「ほな、預かるでー」とか言って
本当に要件だけを済ませて、私の家を出て行った。


今まで首にネックレスを下げていたから、逆にないとこっちが不安でたまらない。


それに何にネックレスを使うのか、本気で気になる。
本人は「捨てない、燃やさない」とは言っていたが、正直なところどうだろうか?


だってアレは、私が跡部から貰ったものでもあり
蔵にとっては、見てるだけでも苦々しいものに違いないはず。







「うー・・・やっぱり返してもらおうかなぁ」

「不安やったらそうしたほうがえぇで、ちゃん」

「大切なもんやったら尚更やろ?白石のヤツ、お前の事になったら他が目に入らんし」

「自分があげたもんやない、他人から貰たモンやったら・・・蔵リン、容赦しなさそうやしなぁ」

「燃やしてもおかしくないで」

「大阪湾に沈めてもおかしくないなぁ〜」

「う〜〜〜」






小春ちゃんやユウジの言葉に、ますます悪い方向にネックレスの行方が・・・っ。









「お前ら・・・えらい、楽しそうやなぁ」



「げっ!?」

「ぁ・・・蔵、リン」





すると、私たちの背後に
笑顔で腕組みをしている蔵が現れた。

蔵の出現で、小春ちゃんとユウジは一歩一歩と後退する。







「で、何話してたん?」


「えーっと、何やったけ小春?」

「あーん、次のネタ合わせ?」



「俺の巻き込んでか?」


「そ、それはやなぁ」

「ん〜・・・えぇ、助言が貰える思て・・・」




「嘘こくとしばき倒すでお前らっ!」


「アカン、白石キレるっ!逃げるで、小春っ!」

「合点やユウくん!!」





蔵の怒りの一声に、小春ちゃんとユウジはそそくさとその場から退散。

そして残ったのは、私と蔵。
邪魔者?が居なくなり、蔵はため息を零し私を見る。
私は思わず彼から視線を逸らした。







「何話してたん?あのアホたちと」


「・・・何でも、ない」


「何でもないわけないやろ?正直に言い、怒ったりせぇへんから」


「・・・・・・」








蔵の声に私は―――――。








「ネックレス・・・捨ててないよね」


「は?」


「わ、私のネックレス!!捨ててないよね?も、燃やしてないよね?」


「おう。今は持ってへんけど、俺のカバンの中に入ってるで。今ぴっかぴかに磨いてる最中や」






私の焦る声に、蔵はあっさりと切り返してきた。
それを聞いて私は思わず、ホッとした。







「何や?そないに心配か?」


「あ、当たり前でしょ!だって・・・だって、あれは・・・っ!」








跡部から貰ったものだけど・・・蔵との思い出がたくさん詰まった、大切な宝物なんだから。







という言葉が出てくるわけもなく
言えない私は、ただ顔を真っ赤にするしかなかった。






「心配せんでもえぇで、


「く、蔵」





私の反応に、蔵は私の頭を優しく叩きながら言う。






「1日。ほしたら、ちゃんとネックレス返す・・・せやから明日まで我慢してくれ、な?」


「1日して、”なくしたー“とか”捨てたー“とか”燃やしたー“とか言ったら・・・もう絶対別れてやるんだから」


「俺、どんだけ自分に信用されてないん?恋人やろ、信用してくれや


「してるよ・・・してるけど、ネックレス・・・ないと、不安だよ」






今まで身に付けていたものだし、あれには
蔵との思い出が、たくさんたくさん・・・入っている。

それだというのに、いざ、自分の手元から大切なものが離れていくと――――。








「・・・うっ・・・ぅ・・・」


「あっ、っ!?此処、泣くとこやないぞっ」


「だって・・・だっ、て・・・っ」





あまりに、ネックレスがない事に耐え切れなくなり私は思わず蔵の前で
泣き出してしまった。


私が突然泣き出すものだから、蔵は慌てるしかない。


蔵に迷惑をかけまいと一生懸命、涙を拭うにも
堪えていた気持ちが爆発してしまい、涙が思うように止まらない。








・・・、ゴメン・・・ゴメンな」





蔵は慌てながらも、泣いてる私を抱きしめた。






「分かってる。あのネックレスがどんだけお前にとって大切なモンか、俺ちゃんと分かってるで」


「だったら、だったら・・・なん、なんで・・・っ」


「それは、まだ言えん。せやけど、あと1日・・・あと1日だけ、我慢して欲しいねん。な、頼むわ


「・・・く、蔵ぁ」


「泣かんといて。後1日だけや、寂しいんやったら俺が今日はずっと側に居るから、な。・・・、泣かんといて」







そう言いながら蔵が私の頭を優しく撫でる。



そんな優しい声で言わないでよ。

また、どんどん蔵の事・・・好きになっちゃうじゃない。













「はーい、お二人さん。イチャイチャすんのはえぇけど、此処何処か、よぉーく考えてからしぃや」





「ぁ」

「オ、オサムちゃんっ!?いつの間に来たん!?」





すると、渡邉監督の声で此処が何処かという現実に戻ってきた。
そ・・・そうだった、此処・・・テニスコートだった。


皆・・・・・・見てる。
私と蔵はすぐさま離れた。







「少年少女・・・恋することはえぇこっちゃ。せやけど、場所考えや?」


「「は、はぃ」」



流石にギャラリーが、他人じゃなくて見知った人間ばかりだと
大変申し訳ないし、何より蔵は部長と言う立場の人間だ。渡邉監督は
笑いながらそれを言っていたけれど、この人・・・怒らせたら絶対怖い。





「ほぉーれ、白石。練習するで、例のアレは明後日なんやから。今日中に仕上げなアカンやろ?」


「はいはい。ほな、


「ぅ、ぅん」






そう言って、蔵は練習に戻って行った。



後、1日・・・1日、待てばちゃんとネックレスは返ってくる。


信じて・・・信じて、いいんだよね?・・・蔵。
























「え?足りんの?!」

「んー・・・ちょっと足りん。追加料金払ってくれたら、こっちサイズなら出来るんやけど
クーちゃんがして欲しいサイズまでは、無理やな」

「其処を何とか・・・っ」

「無理なモンは無理なんやって。これに余計他のモン混ぜたら、色なくなるで?
これの色残したいんやったら・・・こっちのサイズにしとかな、もう無理や」

「・・・うっ」

「どないすんの、クーちゃん?このサイズやなくても、こっちのサイズでもえぇんとちゃう?
大きさとかそんなんやなくて、あげて喜んでもらえるかとちゃうんか?」

「・・・・・・・・・」

「おっちゃんはそう思うで」

「分かった。ほんなら、おっちゃんの言うとおりにする。こっちのサイズで頼むわ・・・明日までに間に合う?」

「任せとき!明日の朝一で取りに来ぃや」

「おん、頼むわおっちゃん!」






























蔵にネックレスを渡して、次の日。
屋上に私は呼び出された・・・が、肝心の蔵が居ない。

メールで『屋上に行ってくれ』って言うから
私はネックレス返してもらえるというので、急いで向かったが
屋上には蔵の姿すらなかった。


まぁ彼はテニス部の練習で来るのが遅くなるのは仕方ないが・・・・・・遅い。

すると、屋上のドアが開いた。



「何よ、人呼び出しといて」


「お、が早かったん?」


「蔵・・・呼び出しておいて遅いわよアンタ」


「ハハハ・・・堪忍堪忍」





すると、少し遅れて蔵が制服姿でやってきた。

風が少し吹いて、私は手で髪を押さえながら彼を見る。
蔵はゆっくりと私のほうへと近づいてくる。








「ネックレス、持ってきたんでしょうね?」


「当たり前やん」


「なら、返して」





目の前に立った蔵に、私は手を差し出し
ネックレスを返すように言う――――が。






「ほな、・・・その前に、目ぇ閉じてくれへん?」


「は?」





私に目を閉じて欲しいと蔵が言う。




「ネックレス返しなさいよ、早く」


「返すから。せやけど、目ぇ閉じててほしいねん・・・ホラ、早よぉ閉じて。そやないと俺、ネックレス返したなくなるわ」


「・・・も、もぅ。これで良い?」





私はふて腐れながらも、蔵の言うとおりに
目を閉じた。これでキスしてきたら、開けて思いっきりあの美顔殴ってやると思ったし
「ホンマは捨てましたー」とか言ったら泣いて、絶対別れてやる。

とか、色々考えた。


すると、何か右手を握られて・・・指に、何か・・・嵌められた?







「目、開けてもえぇで」






蔵の声に私は目を開ける。

首まわりを見るも、ネックレスはない。
でも、指に何か違和感を感じる・・・右手を上げて、全ての指を見てみると小指に――――。







「ピンキー・・・リング?」







銀色と、少し金色の混ざったピンキーリングが
私の右の小指に嵌っていた。

すると、右手を蔵が包帯の巻かれた自分の左手で持ち上げた。







「すまんなぁ、このサイズしか出来んくて」


「は?・・・え?・・・ネ、ネックレスは?」


「自分の小指に嵌ってるやろ?」


「は?・・・はぁああ!?」





え?ちょっ・・・?!







「何してんのよ!!」


「何って・・・ピンキーリングにしただけや」


「私の許可なしに何してんのよアンタ!!聞いてないわよ!!」


「そらなぁ。俺、自分に言うてへんもん」


「開き直るな!!」






蔵の態度に私は思わず、彼に罵声を浴びせる。


もしかして、これにするために私のネックレスを・・・っ。






「ヤダ!戻して!!元のネックレスに戻してよ!!」


「そら無理やわ。もう溶かして此処までしてしもた以上、元に戻す事は不可能やで」


「だったらいらない!こんなのいらないわよ!!ネックレス!ネックレス返して!!」


「ネックレスはもうえぇやろ!」


「ぇ?」





私の声を遮るように、蔵が大声をあげ私の声を止めた。
あまりに突然すぎて・・・そして、彼の真剣すぎる声に言葉が出なくなった。




「黙って、こないな形にしたことは謝る。せやけど、ネックレスはもう過去の形やんか。
あれは自分が跡部クンから貰た時からの形や。俺らの思い出ぎょうさん詰まってるの分かるけど・・・形がアカンねん」


「蔵」


「このリングは・・・新しい・・・俺と、の形や。ネックレスやと、跡部クンがふっ付いてて
何か、俺としては・・・・そのな・・・イヤやねん。せっかく、自分と心から分かり合える恋人同士になったんに
なんちゅうか・・・ネックレス、下げられてると・・・気持ちが、複雑になんねん。まだ、一人・・・俺らの間に誰か居るような気ぃして。
せやから・・・せやから!こない風にしたんや。・・・黙って、こないな形にして、すまんかった」





蔵は・・・蔵なりに、考えてた。



恋人ごっこをしていた時は、ネックレスを下げているだけで
繋がっていれるような気がしていた。


だけど、今は違う。


私と彼は、本物の恋人同士。
心からちゃんと分かり合えてる、恋人なんだって。





彼は・・・新しい、私たちの<形>が欲しかったんだ。





「ホンマはな、普通のリングにしてもらう予定やったんや。せやけど、あのネックレス自体が小さいから
普通のリングのサイズには出来んくて・・・出来たら、色は自分やったら残しておきたいやろ思たら・・・サイズが小指サイズに。
ホンマ・・・あー・・・もう、何や色々と完璧(パーフェクト)やないわ!もう、アカン!!
色々と不手際すぎて・・・もう俺・・・俺、アカンやんか・・・っ」



「そんなこと、ない」



「え?」



「そんなことないよ、蔵」







私は蔵の手を握り返して、彼に言う。





「ごめんなさい・・・私、ワガママ言ってた。蔵は・・・蔵は、私と新しい形を作って、もっとたくさん思い出作ろうって
そうしたかったんだよね!なのに、なのに・・・ごめんなさい。私、ネックレスばっかりにこだわってて・・・そんなこと気づきもしないで」


「えぇよ別に、が謝る事ないで。リングには俺が勝手にしてしもたことやし・・・。でも、と新しい形作って
ぎょうさんの思い出できたらえぇなぁって考えてたわ。それに、リングは俺・・・絶対渡したかったもんやし」


「え?」





渡したかった?


私に?






すると、蔵が私の手を握りおでこをつけてきた。








「ずっと俺のモンっちゅう、シルシ。これでようやっと、ちゃんとした証残すこと出来たわ」


「蔵・・・っ」







嬉しすぎて、涙が溢れ出てきた。






昔の私は、こんなに泣き虫じゃなかった。

昔の私は、笑うことも、怒ることも、泣くことも、しなかった。


ただ、表情を隠して・・・ただ、少しだけ笑っていれば
それだけで・・・よかった。




だけど、彼に出逢って・・・全てが、オモテに曝け出された。




苦しいときもあった、辛いときもあった、だけどその分・・・彼は優しくて、温かくて。















・・・笑ってくれへん?俺、の笑った顔めっちゃ好きやねん」












彼の前でなら、私素直になれる。

何にも覆われることなく、自分を隠すことなく
自分を偽ることなく、自分の表情を殺すことなく


私は、素直になれる。



フッと、笑みが零れた。

と同時に、頬を涙が伝った。







「蔵」


「ん?」


「大好き」


「俺も、大好きやで








そして、優しい彼の唇が私の唇と重なった。





苦味や渋みしかない、紅茶に甘く優しい砂糖を落としてくれる。



無糖な私に、彼は甘く優しい愛情の砂糖を与えてくれるだろう。





これからも、そう、ずっと・・・・・・。







Sugerless
(甘く切ない僕らの物語。かき混ぜて、少しずつ甘くしていこう)

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