このまま・・・どっかへ行きたいなんて思ってしまう私。

あいつの側に居たくないだけがそれだけが、理由だった。











「精市さん、退院・・・おめでとう」

「ありがとう、。きてくれて・・・嬉しいよ」

「本来なら、皆で来るはずだったんだけど練習で忙しいって」

「皆で練習忙しいって言って、仁王だけが此処に居るんだ」

「ほっときんしゃい。細かいこと、気にしなさんな」







7月終わり頃。今日は精市さんの退院の日。

皆は本当に練習で居ないんだけど、雅治だけ理由をつけて
私に付き合ってもらった。

1人ではやっぱり寂しいからね・・・真田でも良かったんだが
真田は関東大会での事があって「俺は幸村に会わせる顔がない」だのなんだのと
若干へこんでる感じだったので、雅治に付いて来てもらった。








「でも、よかった無事に手術も成功して。コレでお母さんたちも一安心だね」


「そうだね」


「関東大会は準優勝だったけど。全国大会は頑張ってね精市さん」


「うん、ありがとう・・・。よかったら、どうだい・・・仁王と


「何がじゃ?」

「ん?」



「父さんと母さんが迎えに来るんだ。それで家で俺の退院祝いをするんだけど・・・」

「おぉ、それはえぇのぅ」








精市さんは私のほうを見てにっこりと笑う。


今から、精市さんのお父さんとお母さんが迎えに来る。
そして、精市さんが私を家に迎えようとしている。


私は思わず、ぎゅっと雅治の服の袖を掴んだ。







、どうしたんじゃ?」

「せ、精市さん・・・ごめん、私・・・行かない」

「・・・・まだ、無理なのかい?」

「ご、ごめんね・・・精市さん」

「あ、おい!?何処行くんじゃ!?」










私は雅治の声も振り切り、走り出した。

辺りが真っ暗になって・・・何を考えればいいのか分からなくなっていた。


だから、がむしゃらに走っていた。

精市さんはせっかく、私に・・・チャンスをくれたのに、どうして・・・・・・?




















何が怖いの・・・?















!」


「・・ッ!?・・・・ま、雅治」


「どうしたんじゃ、急に走り出して・・・びっくりしたぜよ」






急に腕をつかまれたので、私は我に返った。
そして、後ろを振り返ると・・・・雅治が私の腕を掴んで静止させた。

息遣いが荒い。すぐさま走ってきてくれた証拠だった。
私が止まり、雅治は私の腕をゆっくりと離した。









「せっかく、幸村が誘ったんじゃ・・・行かんのか?」

「・・・・・・・ヤダ」

「何か、怖いのか?」

「・・・・・・」








雅治には・・・・喋りたくない。


いや、正直体中が震え上がって・・・・何を話せばいいのかわからない。

頭の整理がつかない。


知って欲しい、分かって欲しい、気づいて欲しい。


そう、思うのだけれど・・・・・・口から言葉が出てこない。



すると、雅治が優しく私を抱きしめてくれた。
とても・・・温かくて、落ち着く。









「無理せんでもえぇ。行きたくなかったら・・・えぇんじゃよ」


「ぅん」

「幸村には俺から言っとく。心配せんでも幸村は分かってくれる。
それはお前さんが一番分かっとることじゃろ?」


「・・・・ぅん」








思わず、涙が零れそうになった。
龍二が死んだ時も・・・こんな風に、雅治に抱きしめてもらったけ?

泣き止むまで・・・ずっと、ずっと・・・それでも、私は泣き止まなくて
でも、それでも雅治は側にいてくれた。

この人の行動が・・・・私の気持ちをさらに不安にしていた。

分からないの・・・・本当は、本当は・・・・・・・・・。



















雅 治 の こ と が 好 き な ん じ ゃ な い の か ?

















優しくされれば、されるほど・・・・私の心から龍二の存在が薄れていく。


そして・・・雅治の存在が大きくなっていく・・・・。


気持ちがわからない・・・・雅治の、気持ちが・・・・このまま・・・消えてしまいたい。








私自身、何かを押し殺しているのが・・・・・・苦しくなってきていた。
























あれから数日が経った。


私は携帯を見ながら、信号の色が変わるのを待っていた。
精市さんからメールが来て、それをずっと見ていた。


ようするに、返信する内容に困っていた。














『 母さんたちが心配してる。一度は帰ってこれないかな? 』













私はずっとそのメールを見て考え込んでいた。


別に嫌いってワケじゃない。
ただ、帰るのが不安なだけ・・・・また、あんなことが起こるんじゃないかと思うと・・・・。






私が、あの家族から離れなければならなかった・・・あの日と同じ事が。








『あ・・・さん・・・・して・・・・!!』





「痛ッ・・・・」





『1人・・・め、しな・・・いでッ・・・・!!』






「さ、最悪・・・・なんで、こんな時に・・・・」











頭がズキズキと痛みを伴い始めた。




脳裏に浮かぶ、あの日の光景。

涙を流して、私を責める声。



血が繋がっているわけじゃない。赤の他人。

でも、仲良くしたい・・・仲良くなりたい・・・家族として・・・・。




ただ、それを望んだだけなのに。


ただ、それを私は願っていたはずなのに。




全てが、私の望んだこととまったく別の事が
起こってしまいあのときから私自身戸惑いを隠せなくなっていた。





家族に・・・恐怖を感じてしまった。



唯一、心から受け入れられたのが・・・・・・精市さん、だけだった。








「だめだな。こんなんだから、精市さん困らせてばっかりなんだよね私」







頭を抱えながら、私自身に失笑した。


ふと顔をあげると信号機の色が変わっていた。

私はため息を零し横断歩道を、渡ろうとした・・・・・。











「危ない!!」





「えっ?」









すると、誰かの声で我に返り横を見ると車がこちらに向かってくる。

もちろん、車の信号は赤。それなのに・・・間に合うと思い突っ込んでくる。

足が動かない・・・走るにも走れない。体中が震え上がる。



しかし、頭の片隅で・・・・・。


















こ の ま ま 死 ん で も い い ん じ ゃ な い の ?













そうよ。

アイツに、雅治に気持ちを振り回されるくらいなら

いっそこのまま車に轢かれて死んじゃえばいいんだ。





そうしたら・・・きっと龍二のところにも逝ける。

龍二、きっと私のこと優しい顔で迎えてくれる。






誰にも迷惑かからない。

誰も困らせたりしない。

誰も・・・・好きにならなくて、いい。



天国に居る、龍二だけを見つめていれる。






それでいい、それでいいんだよね。














「バイバイ・・・・雅治」

















そう呟いて、目を閉じた。

























キィイイイイイイイイ-----!!!
















タイヤの擦れる音がした。


フッと、視界をシャットダウンした私の頭の中真っ白な世界が浮かぶ。




「あぁ、私死んだんだ」って思った。












「・・・・・ったく、お前さんは何を考えとるんじゃ」








ふと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


閉じていた目を開けると―――――。









「・・・・ま、雅治」










私は死んだのかと思ったら・・・・雅治の腕の中にいた。


しっかりと抱きしめられて、身動きが取れない。言葉が出てこない。










「ったく、俺が通りかかったからよかったが・・・あのままじゃったら、お陀仏ぜよ」


「・・・・・・」


・・・・?」





私は雅治の顔を凝視して、動けない。


胸の奥底からこみ上げてくる・・・・・・・想い。


熱くて、口ではきっと言い表せない・・・この想いは――。








「すいません!あの、大丈夫ですか!?」








すると、車の中から運転手の若い男が出てきた。

私はゆっくりと運転手の男の人を見上げた。






「アホたれ、気ぃつけんしゃい!もうすぐでアンタ、人轢くところやったんじゃよ。信号が赤なら止まるんが常識じゃろ!」


「すいません・・・・あの、君・・・大丈夫、かい?」


「えっ?」







若い男の声で私は我に返り・・・目線を落とす。

すると・・・・涙が、溢れて・・・ポタポタと零れ落ちた。








「っ・・・ふっ・・・ひっ・・・く・・・うぅ・・・・」







涙腺が緩み、緊張の糸が切れ私は泣いてしまった。











「あ・・・あの、本当にごめんね。俺がもっとちゃんと前を見てれば・・・・!急いでいたもんだから、本当にゴメンね」


「あーもう、えぇ・・・大丈夫じゃ。・・・・・・もう、泣き止みんしゃい、大丈夫じゃよ」













雅治は私の頭を優しく撫でた。

温かくて、とても優しい雅治の手、死ねるワケないよ・・・もう、私・・・知ってしまったんだから・・・・。






思いっきり、腕を引っ張って自分の腕のナカに収めて

震える体から伝わる熱・・・ごめん、ごめんね、ごめんなさい。









「ッ・・ひっく・・・うっ・・・ふっ・・・・」

「もう大丈夫じゃから・・・、俺がついとるから・・・泣き止みんしゃい」















確信してしまった・・・・――――わたし。














雅治の ことが 
好き なんだって。











ウソで塗り固めてた気持ちが外へと出てきた


隠しきれない・・・隠すことなんてできないよ。





私は私にウソをついていた。
「雅治のこと好き」って本当は分かっていた。

それなのに、私は自分にウソをついて気持ちをごまかしていた。


でも、出来なかった。


彼に振り回されてもいい・・・それでもいい、側に居たいと望んだ。





だけど、してはいけない恋を・・・恋心を抱いてしまった。







気づいてしまった想いは重くのしかかり、私をさらに不安にさせた。

これからどうしていいのか分からない。


知られてしまったら・・・私は嫌われてしまう。
こんな私を雅治が好きになってくれるはずない・・・こんな、こんな私なんか。





ねぇ、龍二

こんな私、赦してくれる?

貴方を好きであった私を・・・そして、身代わりとして

私の前に現れた雅治のことを好きになった私を。








天国で見守る貴方は・・・・・・・赦してくれる?






Fakeの中に隠したReal
(ウソに隠した「彼が好き」という真実。でもそれは私には赦されない恋)

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