「精市さん、ごめんね。雅治に喋っちゃった」
『薄々俺との関係に不信感は抱いてたからね仁王は。喋るのはの自由だから
俺はとやかくは言わないよ』
「うん」
部屋に着くと、私は真っ先に落ち着いた声で精市さんに電話を掛けた。
精市さんは私の声と同様の声で返してきた。
帰り道、私は雅治に精市さんとの関係を問われた。
別に隠すつもりはなかった私は
あっさりと精市さんとの関係・・・つまり血の繋がりがない義兄妹というのを明かした。
『仁王、どうだった?他に何か言わなかった?』
「他に何か聞いてくるって思ってたんだけど」
『ぎ、義兄妹・・・か』
『うん。血の繋がりは一切ないから、顔も似てない』
『そうじゃったんか』
『うん』
『・・・・・・・・・』
『他に何か聞きたい事ある?』
『・・・いや、今回はこの辺にしとくぜよ。あんまりまとめて聞き過ぎると脳みそがパンクしてしまうからのぅ』
『そう。聞きたくなったらいつでも言って、喋るから』
『そうじゃな』
雅治は精市さんとの関係が義兄妹という事実だけを聞いただけで
他に何も聞いてこなかった。
普通なら、もっと突っ込んで聞いてくるかなぁって思ってたのに
何で聞いてこないのかな・・・って、胸の奥が少し・・・物寂しい感じがした。
もっと聞いてよ、もっと尋ねてよ、もっと・・・もっと・・・―――――。
私 の 事 を 知 っ て よ 。
「雅治は義兄妹ってこと聞いた後は何にも聞いてこなかったよ。アイツ、肝心なときに限って
突っ込みもしなければ、問いかけにすら来ないのかって思っちゃった」
『』
「仕方ないよね。突然私と精市さんが義兄妹ってのを知ったら・・・誰だって脳内での処理速度遅くなっちゃうよね。
何でもかんでも問いかけてくるのは無理な話か」
電話元の精市さんに向かって私は明るく言う。
でも、本当はもっと聞いて欲しかった。
私のこと、もっと知って欲しかった。
何処で生まれたの?とか、どうやって精市さんと家族になったの?とか
色々・・・雅治に問いかけて欲しかったのに・・・・・・。
「まぁでもこれで隠す事なくなったよね。雅治が不信感に思ってた事が解決できたんだし」
『そうだけど・・・俺は少し心配だ』
「精市さん?」
電話元の精市さんの声が少し不安げな声を出してきた。
『もう君たち2人がこんな関係を続けるのは、本当に限られてきた。もし、この事実を言って
君たちの関係に亀裂が生じたりしたらどうしようとか・・・考えてしまった』
「精市さん」
『ゴメンな、』
精市さんは私に謝ってきた。
でも、精市さんは悪くない・・・それだけは私自身はっきりしている。
「精市さん、謝らないで。私、大丈夫だから」
『』
「平気よ。大丈夫・・・雅治がもし、この期限を今すぐ絶ちたいっていうなら、私は彼の意思を尊重するわ。
彼から言い出したことだけど・・・それに乗じたのは、私だから」
心に空いた隙間に、入って来た雅治。
心に空いた隙間を、埋めてくれた雅治。
彼の勝手な行動なんて、いつものこと・・・私がそれに振り回されるのだって、いつものこと。
だから、今更・・・事実を知って、関係を・・・絶ちたいというなら・・・仕方のないこと。
これ以上、私個人の苦しみで彼を縛り付けて、傷つけたくない。
彼 を 失 い た く な い 。
誰かを、大切な人を失うなんて・・・・・・二度と、したくない。
「だから、大丈夫だよ精市さん」
『。・・・君がそういうなら、分かった。でも、無理はしないでくれ・・・君は俺の大事な家族だから』
「うん、ありがとう精市さん」
そう言って、私は電話を切った。
電話を切った瞬間・・・妙な焦りに襲われる。
明日、なんて言って雅治と会話をすればいい?
明日、なんて顔して雅治と逢えばいい?
明日、明日、あした・・・―――――。
私は雅治から嫌われてたりしてないだろうか?
精市さんと義兄妹っていう事実を知って、彼は動揺を隠しきれてないはず。
だからこそ・・・怖い。
雅治を「好き」だと自覚した、あの時、あの瞬間から・・・急激に、怖くなってきた。
表情では隠しきれていただろうか、私の焦りと恐怖。
平然と言ってやったけど・・・・本音は怖い。嫌われるんじゃないかとばかり思ってしまう。
「だって、雅治の事・・・好きだから・・・・・・・嫌われたりしたら・・・・・怖いに、決まってるじゃない」
怖いからこそ・・・あの時、抱きしめて欲しかった。
体中が恐怖のあまりすごく震えていたのだから。
怖いよ・・・怖いよ・・・・・・雅治。
気づいたら、携帯を掴んで・・・リダイヤルから取り出した、雅治の番号。
震える手でボタンを押して、耳に当てる。
呼び出し音が延々と鳴る・・・私の心臓が、張り裂けんばかりに鼓動する。
雅治・・・ねぇ、雅治・・・お願いだから、電話に出て。
声が聴きたい・・・声を聴かせて。
もし、別れてしまうのなら・・・その前に、もう一度・・・・・・。
アナタの言葉で
『・・・好きじゃ』
私に、そう言って。
声を聴かせて
(最後かもしれない、だから、アナタの声が聴きたい)