何度、あの肩を抱きたいと願っていたか。




何度、あの髪に触れたいと思っていたか。





何度、何度、なんど―――――。













あの唇と、あの体に触れたいと、望んでいるんじゃろうか?








数えるのも酷過ぎて、俺はもう覚えてはおらん。

















を家まで送り、その後の事じゃ。

衝撃的な事実を知ってしまい・・・俺は町をフラついとった。





と幸村が義兄妹?


血の繋がりのない兄妹?




あまりにも、少々キツすぎる現実に俺は思わず目を伏せたくなった。

でも、少しホッとした部分はあった。






2人の間に、恋愛感情というものが一切生まれておらんことじゃった。





が前々から心を許しとった相手、それが幸村じゃった。
幸村も、他には厳しい・・・じゃがその反面、には何かと優しかった。





俺が一番心配にしとったのは、そこじゃった。

2人の間に、何かしら特別な・・・・・・しぃて言うなら恋愛感情のようなものじゃ。
それが生まれておるのかが心配じゃった。




しかし、が「自分と幸村は義兄妹」と言う発言をきっぱりと言い切った。
その反応を見て俺は「2人の間には恋愛感情がない」とやっと悟った。









やはり・・・が、唯一恋愛感情を持っておったのは・・・・・・亡くなった、龍二だけ。







は、アイツの前だけは・・・1人の女の子として
むしろ大人の女に近づいておるんじゃないかと思うくらい龍二にだけは、恋愛感情を持っておった。






じゃから、俺は今でもこれだけは・・・守っておることがある。



















『 には、決して・・・キスを、体を、求めたりしない 』












期限付きの恋人を始めてから、俺はそう心に決めた。

俺はただ、のぽっかり空いた穴を埋めるだけで
体の関係に持ち込もうなんてこれっぽっちも思っちゃおらん。



むしろ、唯一龍二にだけ許したあの純粋なまでな心と、無垢なまでな表情。

そして、真っ白な体と薄桃色の唇。



アレは全部、龍二だけのモノじゃ。


俺のような、やましくて、嘘つきなヤツには・・・の全ては穢せない。





じゃから俺は・・・・・・他の女を求めた。






年上だろうが、年下だろうが、同い年だろうが・・・告白されたら、手当たり次第・・・――――抱いた。





そのたびに自分自身虚しく思えとった。

いや、今でもそれは時々続いとる。・・・・・・の知らんところで。


でも前よりかは数は減ったほうじゃぞ。
前は本当に手当たり次第じゃった。











まるで、と龍二が仲良くしているのを忘れるかのように。










自分から引いた恋じゃが・・・女々しい事は重々承知。


忘れるには・・・他の女を、抱くのが・・・よかった。
けど・・・・・・忘れるどころか、想う事は・・・・・・の事ばかり。







今じゃって・・・・・・・・・・・・。













「坊や・・・可愛いわね。名前は?」


「仁王雅治じゃ」


「雅治くんね・・・素敵な名前・・・ウフフフ」






町で知らん年上の女に引っかかり、そのまま普通のホテルに連れて行かれた。
部屋に通され、ベッドに腰掛けたら
女はおもむろに着ていた服を少しずつ脱ぎはじめる。

自分のを脱ぎつつ、俺の制服も少しずつ脱がしていく。



女の肌が、露になっていく・・・・・大人の、白い、肌。




この体に触れて、唇を貪るように吸えば、何か変わるんか?









「・・・・・フッ」



「あら?どうしたの急に。そんな鼻で笑っちゃって」



「何でもないきに。気にしなさんな」









何も変わらん。




ただ、目の前の女にを重ねる・・・前から同じ事の繰り返しかせん。

の唇に、体に触れられんから・・・・・・歯がゆくて、他を求めてしまうんじゃな俺は。









「さぁ、始めましょう。夜は長いんだから」






そう言って女が・・・・俺の唇に、キスをしようとしてくる。
嗅覚が、香水の匂いで刺激される。

は香水、つけちゃおらんかった・・・は・・・は―――――。





















『 雅治 』





















瞬間、携帯がバイブレーションで着信を伝える。

俺はハッとしてすかさず、携帯を見た。
ディスプレイに文字として映ってたのは・・・・・・・・・『』。


俺は携帯を握り、半ば脱がされた制服を慌てて整え
ベッドから降りカバンを担いだ。





「ちょっと、何処行くのよ!?」



「すまんのぅ。元々先約がおったんじゃ」





俺がそう言いながら部屋を出ると「何よもう!」と女の怒る声がしとった。
そんな声もすぐさま掻き消し、俺は着信に出る。













「もしもし、か?」



『雅、治』









着信に出ると、の震える声が聞こえてきた。

震えるというか・・・若干泣いてる声に近いほうじゃな。







「お前さん、何泣きそうな声出しとるんじゃ?」




『ゴメン・・・さっきは、ゴメン・・・』







「さっき」・・・・つまり、あの幸村と義兄妹の話のことじゃろうなぁと俺は思った。







「何で、お前さんが謝るんじゃ?意味分からんじゃろ?」



『何か・・・なんか・・・・・・ゴメン』



「謝る必要ないじゃろ?別に悪いことしとったわけじゃないじゃろ?」








むしろ、謝るのは俺のほうじゃ。
今さっきまで・・・俺は女をまた、抱くところじゃった。


唇が重なっとったら・・・確実に、あの女を貪るように求めておったのかもしれん。




それ考えたら・・・謝るのは俺のほうじゃわ。







『でも・・・雅治、他に・・・何も、聞いてこなかったから・・・・・・その・・・・・・』



「当たり前じゃろ。いきなりあれ言われて、他に何を質問せぇ言うんじゃ?頭真っ白になって・・・何も考えつかんかった」



『雅治』



「むしろ、俺は安心したほうじゃ」



『え?』





俺がそう言うと、は驚きの声を上げる。






「一応お前さんの恋人役しとるのは俺なんじゃから、他の男に見向きされたりしとったら腹立つに
決まっとるじゃろ?幸村との関係が、元カレカノとかじゃのぅてホッとしとるきに」




『雅治・・・ヤキモチ、妬いてたの?』



「はっきり言いたくはないが・・・否定はせん。、お前の今の恋人は俺じゃ・・・彼女が他の男と
喋っとるの見て良い気分にはならんと思うぜよ。お前さんはどうなんじゃ?」



『わ、私は・・・・・』










言ってくれ


たとえ触れられない関係であっても・・・抱きしめる事しか許されん関係であっても。




今のお前には俺が必要じゃって・・・・・・言ってくれ。




そうすれば、この体も髪も・・・唇でさえも、二度とお前以外に絶対に委ねたりせん。
たとえ結ばれんことにある関係に戻ったとしても。











・・・どうなんじゃ?」




『私は・・・・・・嫌。雅治が、他の女の子と一緒にいるの・・・嫌』




「ほれ、同じじゃったな」




『・・・ぅん・・・』








その返事が、嘘かもしれんって・・・俺には分からん。
騙される事を俺は知らんからな・・・そんなの、俺には分析する事も解析する事も出来ん。


しかし、この返事で・・・俺は、決めたんじゃ。








「お前さんの寂しそうな声聞いたら、抱きしめたくなってきたのぅ。今からそっちに言ってもえぇかの?」



『え?今から、来るの?』



「いかんのか?俺はお前さんの恋人じゃぞ?寂しい恋人を慰めるのも俺の使命じゃ」



『・・・・・・じゃあ、来て』



「来るだけでえぇんかのぅ?」



『来て・・・抱きしめてなさいよ・・・バカ雅治』



「それでえぇんじゃよ






適当な時間を見繕って行くから、と告げるとは「分かった」とだけ答え電話を切った。


俺は先ほど、少し乱れた制服を調えなおす。
あんまり崩れとったらバレそうじゃからな・・・香水の匂い、付いとるが・・・まぁ上手くごまかすか。




が俺を必要としてくれる期間は・・・恋人として、の側に居よう。


期限を、延長・・・してくれたって、俺は一向に構わん。







その代わり、俺はお前に触れる事を一切しない。

俺はもう決めたんじゃ・・・。




お前が俺を必要としてくれる日が来るまで、お前には触れん。
一生その日がこなくてもいいと思ってる覚悟も、もう出来た。




お前のためなら、この体も髪も、唇でさえも・・・・・・誰にも渡したりせん。



期限が切れても、お前が俺を必要としてくれる日が来るまでは。






決して、お前以外の誰にも見向きはしないつもりじゃ。



・・・・お前が必要としてくれる日まで。
たとえそれが・・・果てしなく、遠い日だとしても。







禁忌を犯さない詐欺師
(嘘という罪は犯しても、触れるという罪は犯さない)
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