年が明け、俺との関係が
本当に残り少ない期間へとやってきたある日。








「親父・・・それって、どういう・・・・・!?」







親父から思いがけない話が飛び込んできた。

まるで、それは俺との別れ。

そして―――――――本当の別れを暗示させるように。














「コレで、本当の別れになるんか」









親父の話を聞いた後、俺は部屋に戻って苦笑し深い溜息を零した。

突然の事だから考えろと言われたが俺は
別にいい、とだけ返した。



実際のところ、良くはない。



良くはないと、分かっているクセに
俺は両親の出した決断に乗っかったのだ。







「本当に、俺は卑怯じゃな」






俺は逃げ出そうとしているのだ。
の側から、本当の気持から何もかも。


自分の本当の心が気付かれてしまう前に・・・。



ふと、机の上に乗った携帯が目に映った。

自分の隠している心がバレる前にせめて・・・知っておきたいことがあった。



俺は携帯を取り、電話をかける。








------------------PRRRRRR・・・ガチャッ!






『仁王、どうしたんだいこんな時間に』


「夜分遅くにすまんのぅ幸村」








電話の相手は、幸村。
俺の突然の電話に驚いているようだったが
すぐさまアイツはいつもの穏やかな声に変わった。










『急に電話をかけてくるなんて。どうしたんだい?』


「あぁ、ちょっと聞きたい事があってのぅ」


『何だい?』


の事じゃ。随分と前に、アイツから聞いた・・・お前さんと、義兄妹って事をな」


『そうか。まぁ兄妹って言っても、義兄妹。血は繋がっちゃいないさ』










幸村は明るく答えた。

これを言い放った時のは、無表情だったが何処か寂しく怯えていたようにも思えた。
案の定は怯えておったんだがな。


数時間後くらいに掛かって来た電話に呼び出され
俺はの元へと足を急がせた。



名前も知らん女で欲を満たそうとしていた事を中断してまで。


俺には、それくらいが大事だったんだ。







例え、触れることの出来ない関係だったとしても。









「でも兄妹が居るのは良いことじゃ。楽しいからのぅ」


『そうだね。でも仁王・・・俺に電話してきたのは、それだけを聞くためじゃないだろ?』







まるで、見透かされたように俺に言葉を言い放つ幸村。

と違ってやはりコイツには隠し事などできんようだ。







「まぁの。ちょっと、聞きたいことがあってな・・・実は」



『ちょっと待って仁王』



「ん?何じゃ幸村」








俺が話を始めようとした瞬間、幸村に言葉を遮られ止められた。









『一つだけ、俺も聞いておきたいことがあるんだ。もし、それに答えてくれたら・・・君の質問にも答えるよ』










いきなりの幸村の質問に、俺は呼吸を1回して心を落ち着かせる。
そして、何とか落ち着かせた心の準備が整い・・・・・・。









「えぇじゃろ。話してみんしゃい」

『ありがとう。無理を言ってすまない』

「それで、何が聞きたいんじゃ?」









俺の承諾に、幸村は充分な間をおいて話し始めた。











『君は、のことが・・・好きなのかい?』


「何じゃの、いきなり。当たり前じゃろ、のことは好きに」


『ごめん、俺の言い方が悪かったみたいだね・・・・』


「どういうことじゃ幸村?」





問いかけられたから、普通に答えたまでだった。

じゃが、幸村は「言い方が悪かった」と言い放ち、言葉を改める。






『君は、ペテン師としての君じゃなくて・・本当の君としてが好きなのか俺は聞いてるんだよ」


「本当の・・・・俺?」


『疑うのはいけないことなんだけど。でもね、もし、これ以上
不安にさせたり悲しませたりするのならば俺は容赦なく君との間を裂くつもりだ』


「幸村、お前さん」


『答えてくれ仁王。本当に、好きなのかい・・・それとも』










幸村の言葉に俺は目を閉じて無言になる。


今言うべきか。


いや、もう言わなければいけない。





俺の本心を、見抜かれてしまう前に・・・この気持を、の知らない場所に吐き出そう。
そうすればきっと・・・俺の胸の奥にしまった気持ちは大切なアイツに知られることなく
別れを迎えることが出来る。






俺はゆっくりと、目を開き口から本当の事を告げる。












「好きじゃった。いや、正確的には・・・今でも好きじゃ」











を、心の底から愛している事を。








「始めはのぅ、ペテン師としてを騙すつもりでおった。
じゃが・・・と接していくうちに、自分の心の中である想いが・・・・蘇ってきたんじゃ」


『ある・・・・想い・・・・?』


「あぁ。”のことが好き“という・・・・忘れることの出来ない想いじゃ」








隠そうとした。


秘めようとした。


誰にも知られること無く、そして・・・忘れようとした。








『それはつまり、以前の話なんだね。どうして・・・・・?』











幸村の言葉に俺は電話口でフッと笑い、話を続けた。











「龍二がいた頃、をお互い好きでいたんじゃ。
だが、龍二がと付き合う聞いて・・・俺は自ら引いた。そして・・・見守ることを俺は選んだんじゃ」










龍二と同じやつを好きになった俺。


そして、アイツはの好きと告げ・・・あの2人は結ばれた。
だから俺は引いたのだ・・・奪うこともせず、ただ見守るだけに徹した。


奪うことも一時期は考えた。

じゃが、の幸せそうな顔を見ていると・・・それも出来なくなった。









『龍二!雅治!』










あの顔を、あの表情を・・・俺には壊すことはできんかった。









『だけど彼が亡くなってから・・・・君がの心を埋めようとした』


「あぁ。俺自身もを好きなことを押し殺してきたんじゃがアイツには、敵わん。
接すれば接するほどのことが好きという感情が蘇ってきたんじゃ」









自分から持ちかけた、期限付きの交際。

それが俺の大誤算だった。



押し殺していた感情が、想いが、何もかも・・・に向かって走りだそうとする。



だけど、俺が想いを告げたところで・・・―――――。







「じゃが、アイツの中にはまだ・・・龍二が残っておる。だから俺はが笑顔でいてくれたら・・・・それでいい」


『隣には』


「俺には立つ権利がない。の隣に立っていいのは・・・・龍二だけじゃ」


『そうか、ありがとう・・・・よく分かったよ』







俺の言葉で納得したのか、幸村は安心したような声で答えた。









「さぁて、俺は話した。次は・・・幸村の番じゃ」


『そうだね。君が話したんだ、俺も話さなきゃね・・・・で、何だい?』







俺は気を取り直し、本来の目的に戻ると
幸村もクスリと笑いを零し、俺の問いに答える準備を整えた。










「どうして、龍二のことを知ってる。いや正確にはから龍二のことどれくらい聞いたんじゃ?
お前さんは龍二とはクラスも違えば顔も知らん。名前も知らんはずなのに、どうして知っていたのかちょっと気になってのぅ」



『そうだったんだ。たくさん・・・・聞いた。がすごく楽しそうに、話してくれたよ・・・・。でもね、彼が亡くなってから
彼の思い出ばかりあの子は話すようになったよ。時々辛い顔したり、泣いたりね』






幸村の話を聞く限り、やはりの中にはまだ
龍二が眠っていることが分かった。

それだけアイツにとっては、龍二という存在は・・・光り輝いて見えていたに違いない。


その光を失いたくないがために、思い出話を幸村に話していたのだろう。








『怒らないであげてね、あの子も龍二くんのこと忘れたくないんだよ』


「分かっておる。・・・・あと、もう一つ、聞きたいことがあるんじゃが・・・えぇかのぅ?』


『意外だね・・・・君がこんなに聞いてくるなんて・・・・どうしたんだい?』











幸村の言葉に俺が黙り込む。


そうか。

こんな俺は・・・珍しいものなんだな、と思わず失笑。





俺のいきなりの沈黙に幸村も多少の戸惑いを感じ始めた。




『仁王・・・?どう、したの?』


「実はな、幸村」


「えっ?」






気持ちを吐き出した。

俺の想いは宙を舞い、解き放たれた。


ならば、もう思い残すことは何もない。



幸村にだけ、ある事を俺は告げるのだった。




外は少し強い風が吹いていた。

まるで俺の胸のざわめきと・・・不安、そしてへの想いを気付かれないように。























ガシャン!!










「いけない、お皿割っちゃった。もう雅治のやつ、いつまで電話してるのよ。明日何時に待ち合わせ場所に行けばいいの。
お皿だって買ったばっかりなのに・・・ったく、あの詐欺師。ワザとやってんならただじゃおかないんだから」










別れは刻一刻と近づいていた。

しかし、本当の別れはすぐそこまで来ていて
彼女はそれにまだ気付いていなかった。








別れからは決して逃げられない
(離れる前に、お前を知っておきたい。お前への気持ちを知らない所に放ちたい) inserted by FC2 system

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