「もう、雅治・・・遅っそい。料理冷めちゃうじゃない」
12月25日。
恋人には相応しい日、クリスマス。
そんなクリスマスの日、私は一人部屋で腕を組んで待っていた。
テーブルの上にはこの日のために頑張って作ったご馳走。
なのに、私は一人。
まぁちゃんとね、相手は来るんですけど。
約束の時間になっても中々来ない。
恋人・・・いや、期限付きの恋人をしている仁王雅治、私は彼を待っていた。
前日、クリスマスイブに私の部屋に置いてある
小さなクリスマスツリーを着飾っているときだった。
『お前さん、明日はどうするんじゃ?』
『どうするって・・・どういう意味よ?』
『じゃから。クリスマスパーティとかせんのか?もしくは行かんのか?』
雅治から意外な言葉が出てきた。
こういうのにまったく興味なさそうなのに、意外だ。
だが、私は驚く素振りも見せずツリーを着飾る。
『しないし、行く予定もないわよ』
『お、それは好都合じゃのぅ』
『どういう意味よ雅治』
目の前の、私と同じようにツリーを着飾る雅治に私は言い放った。
何を考えているのやら・・・まったくつかめない男だ。
『なら、俺と2人っきりでクリスマスパーティなんかどうじゃ?どうせ幸村からの誘い断ったんじゃろ?』
『精市さんから聞いたの?』
『幸村のヤツちょっとがっかりしとったのぅ。パーティ誘ったのに振られて』
『人様の事情に首突っ込まないで。行きたくても行けないわよ』
『分かっておる。じゃから、お前さんに聞いとるんじゃ・・・なぁどうじゃ?クリスマスパーティせんか?』
恋人なんだし・・・もう、彼とこうやって過ごすのも残り少ない。
だったら――――。
『仕方ないわね』
『よし!じゃあ明日また此処に俺は来るからのぅ、楽しみに待っときんしゃい』
『はいはい』
『ご馳走も楽しみにしてるぜよ』
『はいは・・・って私にクリスマス料理作れってか!?』
『俺はプレゼント用意するんじゃから、は料理を作って当然じゃろ?』
『・・・・・・わ、分かったわよ』
交渉成立。
雅治がプレゼントを、私が料理をってことで話は決まり
そして、本日25日。
私のほうは料理バッチリ、テーブルにもキチンと並べた。
大きくはないけれど、七面鳥に、ちょっと頑張ってケーキはブッシュ・ド・ノエル。
それからまぁ色々・・・飲み物は、まだ中学生だからシャンメリー。
自分では「上出来じゃない」と言えるほどの準備の良さだった。
これなら雅治をあっと驚かせる事が出来ると思って待っているのに、肝心の雅治が来ない。
「もう・・・遅い。電話でも掛けてやろうかしら」
握り締めた携帯を見る。
一度は掛けた。そしたら「あとちょっとしたら行くからのぅ」とか
相変わらず緊張感のない声で雅治は答えて通話を切断した。
アレから多分30分は余裕で越えてる。
また騙された?とか思ったけれど、いやいや、言い出したのは本人だし・・・とは言うものの疑わしい。
騙されたのならいいや、明日精市さんや雅治以外のテニス部メンバーにおすそ分けすればいいし。
アイツ、クリスマスのときまでペテンとかマジムード台無しよ。
「もう・・・雅治・・・知らない」
そう言って、私はソファーに横になった。
目がゆっくり、ゆっくりと閉じて行く。
料理に力を入れすぎて、どうやら疲れてきたみたいだ。
少し寝よう。
起きて、もし、雅治が来てたら絶対怒鳴ってやる・・・今度こそ・・・・・・――――。
「嫌いに・・・なって・・・・・・やる、ん・・・だから・・・」
そう言って、目を閉じた。
『』
誰?
『おい、』
誰なの?
『、此処で寝てると風邪引くぜ』
あれ?懐かしい声・・・聞いた事のある声だ。
『、起きろって』
聞き覚えのある懐かしい声に私はゆっくりと目を開ける。
「え?」
「やっと起きたかお前」
目を開けて驚いた。
私を起こしていたのは――――。
「龍二」
「お前何驚いた顔してんだよ」
去年、交通事故で亡くなった恋人の中西龍二だった。
彼は何食わぬ顔で私の目の前に居る。
私は思わず飛び起きる。
「龍二・・・なんっ」
「だって今日クリスマスなんだろ?サッカーの試合があってよ、どーしても観に行きたくてさ。
お前のこと、忘れてたごめんな」
そう言って龍二は申し訳なさそうに私の頭を撫でた。
え?何で?なんで龍二、此処に居るの?
だって龍二は去年・・・事故で・・・っ。
「、せっかく料理作って待ってたんだろ?ゴメンな、料理冷めちまったよな。あ、今からでも
温めてさ、2人で食べようぜ」
そう言って龍二は私が居るソファーから立ち上がってテーブルのほうへと行く。
だが、私は思わず龍二の服を掴んだ。
つか、める。
「ん?どうした?」
「え?あぁ・・・うぅん、何でも、ない」
服がすり抜けて行くと思ったが、服がしっかり掴めた。
ホンモノ?これ夢じゃないの?本当に、龍二・・・?
頭が混乱して、上手いこと言葉が出てこない。
「」
「龍二」
すると、龍二は私と目線を合わせるように座り
手を握った。あったかい・・・龍二の体温。
「ゴメンな、遅くなって。寂しかったろ?」
「うぅん。・・・龍二が来てくれたから、寂しくないよ」
「・・・そっか。あ、俺さ・・・お前にクリスマスプレゼントあるんだよ。って言っても
サッカーの帰り道、急いでこっち来る前に見つけたやつなんだけどさ」
「え?」
そう言うと龍二はポケットから
小さなかわいらしくラッピングされた袋を取り出し
私へと差し出した。
それを私はおそるおそる、受け取り袋を開ける。
振り落とすと、手のひらに――――。
「ネックレス」
手のひらに落ちて着たのは、ピンク色のリングがチェーンに通されたネックレス。
しかもリングには文字が刻んである。
「貸してみ。かけてやるから」
「う、うん」
龍二にそう言われ、私は彼にネックレスを渡した。
首に絡みついてくる、シルバーのチェーン・・・肌に触れるだけで思わず肩が小さく動く。
思わず私は、真ん中のリングの部分を見つめる・・・文字、何が書いてあるんだろ。
瞬間、後ろから抱きしめられた。
「りゅ、龍二?」
「文字、なんて書いてあるか気になるんだろ?」
「う、うん」
「それな―――」
「”あなたの笑顔をずっと隣で見ていたい“って意味なんだよ」
龍二の懐かしい声に耳元が熱くなる・・・目が、熱くなる。
涙が溢れそう。
「俺、ずっとお前の笑顔隣で見てるから。ずっと、ずっと」
「龍二・・・っ」
「」
『・・・・・・メリークリスマス・・・・・・』
「おい、おい・・・、起きんしゃい」
「んっ・・・雅、治?」
「どうしたんじゃ一体。こんなところで寝ておったら風邪を引くぜよ」
ふと、目が覚める。
あれ?雅治が居る・・・此処、私の、部屋?
そうだ!
「雅治っ!さっき、さっきね!!」
「どうしたんじゃ?」
「・・・えっ、あ・・・いや、何でもない。ゴメン」
「龍二がさっき来ていた」なんて言っても、雅治はきっと信じてくれない。
きっと、きっと夢だったのよね。
クリスマスだから、変な夢・・・見ちゃうのかな。
「謝りなさんな、すまんのぅ遅れて。テニス部のパーティ、どうしても抜け出せんくて・・・すまんかった」
「うぅん、いい。それより、ご馳走温めようか。あ、食べれる?」
「の作った料理じゃろ?食べるに決まっとる」
「じゃあすぐ温めるね」
そう言って私は、ソファーから立ち上がり料理を温めに行く。
お皿を持ち上げた瞬間――――。
「、どうしたんじゃ?」
「え?あぁ、うぅんなんでもない」
「そうか。ちょっとトイレ借りてもえぇかのぅ。向こうでジュース飲みすぎたみたいじゃ」
「うん、いいよ」
そう言って雅治はトイレへと向かう。
私は持ち上げた料理の皿をテーブルに置いて
泣いた。
お皿を持ち上げた瞬間、首から垂れてきた・・・ネックレス。
それは夢の中、龍二が私にくれたネックレスと同じ。
「龍二・・・っ、龍、二・・・っ」
私はネックレスを握り締めて泣いた。
夢じゃない、夢じゃなかった・・・でも、もう貴方はこの世に居ない。
好きだった貴方はこの世界の何処にも居ないのに。
聖なる夜、たった数分のホンモノのような幻。
貴方に逢えて・・・私、幸せだったよ。
『・・・っ・・・うっ・・・ひっく・・・ふぅ・・・』
トイレに行くフリをしたが・・・つらいのぅ。
クリスマスプレゼントで、龍二を演じてみたが・・・やるんじゃなかったなと
今更ながら自分自身後悔じゃ。
暗い廊下で俺はの嗚咽を聴く。
「すまんのぅ、龍二・・・お前さんを裏切ってしまった」
コートのポケットから、手のひらサイズの箱を取り出した。
本当はこれを渡すつもりだったはずじゃったのに・・・渡しきらんかった。
「俺からの最初で最後の、悪あがきじゃ・・・許せよ、龍二」
箱の中には、ピンク色のリングが入っておる。
それは本来龍二が生きていて、に渡すはずじゃったもの。
リングには英文字が刻まれており・・・それはこう意味している。
『”ずっとあなたを愛している“』
がつけているネックレスは俺が選んだもの。
そう、アレは俺の彼女へのクリスマスプレゼント。
龍二が死んでしばらくして、アイツの家族からこれを渡された。
の渡すはずだったリング・・・龍二の家族は「クリスマスにあの子がさんに渡すものだった」と
そういう風に俺が聞いたこと。
最初はこれを渡すつもりじゃった。
じゃけど・・・これを渡してしまえば、の心はきっと癒える事はない。
今、俺に出来るのは・・・アイツの傷ついた心を癒すこと。
じゃから・・・これをあえて渡さず・・・俺自身が選んだプレゼントを渡した。
「矛盾しとるなぁ・・・俺」
プレゼントは俺のもの、じゃけど、渡す姿はアイツの好いてた男。
俺の姿で渡せばよかった・・・でも、それは俺には出来ん。
俺には出来んのじゃ・・・に、俺の姿で渡す事なんて・・・出来んのじゃ。
俺はアイツにとって、傷を癒すだけの期限付きの恋人でしかない。
じゃからあえて・・・あの言葉の刻まれたネックレスを選んだ。
側で、の笑顔を見つめていたい・・・ただ、俺が望むのはそれだけ。
それだけで・・・十分じゃ。
許してくれ、我が友よ。
たった一度きり、聖なる夜に見せたかった幻と俺の想い。
裏腹でもいい、ただ、ただ伝えたかった。
それはお前も、この雪降る空で望んでいるだろう。
「・・・俺の側で・・・笑っていてくれ・・・ずっと、ずっとじゃ・・・」
神様。
嘘つきな俺を許したらいかんぜよ。
ただ、一度だけ許されるんなら
この幻に隠された想いだけを閉じ込めといてくれんか?
聖なる夜に舞い降りた
幻と嘘をずっとお前さんの胸に潜めておいてくれんか?
俺は、”真実“を知られることなく
残り少ない日々を、アイツの笑顔を、側で見つめていたいから。
(俺は嘘つきなサンタ。幻影に隠した本当の想いを君に届けよう)