「・・・んっ・・・」



目に、朝日が当った。
その眩しさに、俺は目を覚ました。


カーテンも閉めんと寝てたんか・・・なんて、そう思た。



腕、重いわ・・・とか気だるく思てたら――――。







愛しい彼女が俺の隣で、正しい寝息立てながら眠っとる。







・・・いや、もうコイツは俺の奥さんや。
白石かぁ・・・えぇ響きやんなぁ。




そんな彼女と俺はいつもと変わらないように同じベッドに寝とった。
せやけど、場所・・・いやいや、ベッドっちゅうのは変わってへん。

場所が場所でも、今居る場所がちゃうねん。



いつもなら、の家・・・そして彼女の部屋っちゅのが当たり前の風景。
せやけど、此処は・・・・・・高級ホテルの一室。





「・・・・・・




そして、ベッドの上・・・俺とはシーツに身を包み
彼女の体を後ろから抱きしめながら俺は眠っとった。




夫婦として初めての夜、そう・・・・初夜を迎えた朝やった。





床に散らばった、純白のウェディングドレスとシルバーのジャケットとズボンをしたタキシード。


白いベッド、白いシーツの波に体を沈めた俺と



俺に背を向けるが愛しくて・・・思わず後ろから抱きしめた。






「(ぬくいわ)」






夫婦になる前も、こんなことしてた。

朝になったら俺はを抱きしめて寝てる事がほとんどやったから
同じことしてもおもろくないやろうなぁ〜とか思ってたんやけど





眩暈すらしそうや。





いつもしとることやった・・・せやけど、何や・・・えらい、今日は・・・あったかくて、優しくて
それでいて―――――。









愛おしい。











を抱きしめるだけで、服の上からでは感じられない
素肌やからこそ感じれるぬくもりがあった。

それもまた、いつもしとることやけど・・・何や、上手く言えへん。




ただ、抱きしめるだけで・・・素肌で感じるの、愛しい温度に
ベッドの上やけど眩暈が起こりそうやわ。



思わず、彼女の肩に顔を埋めた。






「んっ・・・」


「起きたん?」


「く、ら?」




篭った声がしたから、俺は顔を埋めていた首から離れ
を抱きしめながら言う。

すると彼女はまだ少々寝ぼけた感じで俺の名前を呼んだ。
あぁ可愛えぇ声で呼ばれる名前は格別やんなぁ〜とか思わずのろけや。






「あれ?・・・・私、いつの間に、寝てた?」


「気ぃついたら寝とったで自分」


「あ、そう」






そう言うては深いため息を零した。
俺は思わずそんなを抱きしめる。








「蔵・・・苦しい、離れてよ」


「えぇやん別に。俺らもう夫婦やねんで?」


「分かってるけど、苦しいの。離れなさい」


「いーやーや。もうちょっとこのまま・・・って」







気づいたら、が俺の腕をすり抜けてベッドから離れた。


そして床に脱ぎ散らかした下着を履き、白いロングのキャミソールを体の上から着る。
えぇなぁ〜・・・俺もの洋服になりたいわ・・・なんて言うたら、今すぐにでも
離婚届出されそうやからやめとこ。



もう少し、こう・・・ラブラブしたいやんか、新婚なんやし。


俺はベッドから起き上がり、を見る。





〜・・・何で離れるん?もうちょっとラブラブしようや」


「バカ言わないで。ドレスは返さなきゃいけないし、花束だってどうするのよ?
ベッドでのんびり寝てられないわ」







の言うとおり。

ドレスやタキシードはホテルからの借りもん。
結婚式に招いたお客さんから貰た大量の花や、式場で使うてた花を貰った。

ドレスの近くには、そういった花束がぎょうさん置かれとった。





でもな結婚式終わったのに、もうちょっと新婚夫婦らしい事したいやん。
相変わらず現実に引き戻すの上手いわ、俺の嫁さん。




俺は少々ふて腐れながら、ベッドの上であれこれと考えるを見る。

ふと、気づく。






「なぁ〜」


「何?」


「自分、髪の毛伸びたなぁ」


「え?・・・あぁ、そうね」





今、ふと気づいた。


の髪の毛、大分長ぉなってる。
昔は、肩まで行くか行かんかの真ん中っちゅう辺りやったけど
今は腰辺りまでの長い髪になってる。

あの髪の毛から香ってくるシャンプーの匂い、俺好きやねんなぁ〜。




「で、髪の毛伸びたからって何?」


「え?・・・あぁ、いや・・・別にな。髪の毛切らんの?」


「何?切ってほしいの?」


「え!?いや、あの・・・そういうのと・・・ちゃうねんけど」


「どっちよ。ヘンなの」






そう言うては、クスクスと笑いながら再び考え込み始めた。


笑われてもうたわ。あ〜何や、恥ずかしい。


これは完全に、ベッドの上以外俺主導権握れんような気ぃしてきたわ。
アカン・・・旦那としてのメンツが。


どうやって、ベッドの上以外、俺が主導権を握れるかっちゅうのを
まずは考えなアカンなぁ・・・どうやろ?出来るか?


ていうか、考えてまず無理やろ?
・・・昔からめっちゃ頭良いって誰もが知ってんねんから。
俺がどんなに脳内フル回転させても、の脳内回転率比べたら俺敵うわけないやん!





うわ、俺完全にに尻に敷かれる感じなん?




いや、それもえぇんか?



四六時中俺にべったりって考えたら・・・・・・・・・・。























「えぇな」


「何がよ」


「うわぁっ!?いきなり目の前くんなや、ビックリするやんか!!」





が俺の目の前に居った。


あまりにも突然すぎる事で、思わず動揺。
心臓がむっちゃドクドク言うとるわ。ちゅうかいつの間にのヤツ俺の目の前に!?
何て思てしもた。






「何度呼びかけても、あんた上の空だったから直接来たのよ」


「あ、さ、さいですか」






俺、この後のとの生活の事妄想しとったわ。

しかもの声も届かんとか・・・何してんねん、俺。

心を読まれんように
俺は左手で、頭を掻く。






「あ、蔵」


「ん?な、何や?」


「包帯・・・解けてるわよ」


「あ、ホンマや」





に声を掛けられ、一瞬ドキッとしたけど
左手に巻いてた包帯の存在に気ぃついた。


言われて俺も自分の左手を見ると、の言うとおり
綺麗に左手に巻かれてた包帯が緩まり、ほぼ解きかけていた。






「あぁ、あの重苦しいものしてないのね」


「そんなん結婚式でするかいな。でも包帯だけは巻くわ。包帯は俺のチャームポイントやからなぁ」


「何それ?跡部の泣きボクロのパクリ?」


「え!?ちゃうでそんなん!?」


「はいはい」


「目が明後日の方角向いてんぞー」





が明後日の方向に目線を逸らしてる。

何やねん、包帯は俺のチャームポイントや!こればっかりは譲らんで。



しかし、いつの間に解けたんかなぁって思た。

しかも大分破れかかってるし・・・アカン、コレ後で交換せな。
俺は包帯をとりあえず腕に巻きつける。

すると、が俺の左腕に手を乗せた。





「どないしたん、?」


「包帯、破れてるじゃない。新しいの巻きなさいよ」


「別にえぇってこれくらい。それに代え持ってきてるし」


「代え持ってきてるなら、交換しなさい」


「ほんなら、。新しいのと取り替えてくれる?」


「え?・・・きゃっ?!」






俺はそう言いながらを引っ張り、腕の中に収めた。



あぁ、抱きしめただけでも眩暈しそう。
の、優しい匂いが俺の鼻を刺激する。







「覚えてるか?」


「な、何がよっ」


「昨日の事」


「は?な、何?」


「俺の包帯、こないにめちゃくちゃにしたのやねんで?」


「なっ!?何で私が・・・っ!!」


が、昨日の晩・・・俺とこのベッドの上で・・ゴフッ!?」







瞬間、みぞおちにクリンヒット。
思わず蹲る俺。

上半身裸で、みぞおちに一撃は・・・痛すぎるわ。





・・・ひ、酷い」


「ヘンな事思い出させるんじゃないわよ!!大体、アンタが包帯緩く巻いてたのが悪いんでしょうが!」


「アホォ、包帯はいつもキッチリパーフェクトに巻いてるわ」


「し、知らないわよそんなの!緩んだの私のせいにしないで!」




は顔を真っ赤にして、俺に言い放つ。
あぁ完全図星やなぁコレ。


俺はクスクスと笑いながらを見る。





「笑うな!」


「はいはい。俺、シャワー浴びてくるわ・・・上がってきたら、俺の包帯巻いてな?」


「自分でやれ」


「奥さんとしての初仕事してぇーな。に包帯巻かれt」


「ぐるぐる巻きにしてやろうか?ミイラみたいに」


「ほな、お風呂行ってきますわ」






これ以上からこうたら、確実に俺グルグル巻きにされて
ミイラどころか・・・窒息して死んでまいそうやわ。

俺はそそくさと、シャワールームへと飛び込んだ。



脱衣所で履いてたズボンや下着、そして包帯を解きシャワールームに入る。



蛇口を捻って、生温かい水が程よい勢いで体へと当る。







「はぁ〜、生き返る〜」






シャワールームでそんな事を俺は1人呟いた。


壁に手を当てて、シャワーの水を体に浴びる。
ふと、包帯の解かれた左手に目線が行き・・・薬指で止まる。


そこで輝く、シルバーリング。

水が当るたび、キラキラと輝きを放っていた。






「結婚なぁ〜」





思わず壁に体を寄りかからせ、左手の薬指に嵌った指輪を眺める。



リングに彫られた、英文字。



そこで笑みが零れた。



「あぁようやく、俺コイツと夫婦になれたんやなぁ」とか
思っとったらそらぁ笑みくらい零れるわ。



長かったんやから、此処たどり着くまで。




いろいろあって、ようやっと・・・俺、とこうやって永遠に結ばれることできたんやなって
思うと、それだけで嬉しゅうてたまらんわ。





あの、優しくて・・・愛しい温度を、この腕に、離さんよう
抱きしめる事が出来ると思うと・・・それだけで、立ちくらみ・・・眩暈がしそうや、いやホンマ。





「まぁあんまりこう惚気とったら、旦那としてのメンツないわな」




せやせや。

もう、ずっと一緒に居れるんやから
惚気るなら毎日出来るし、今やなくてもいつでも出来る。

今日くらい、いや、少し落ち着くまで俺がビシッとしとかなアカンな。






「よっしゃ!やるで!!」





自分の頬を叩いて、気合を入れる。


俺が此処でカッコえぇとこ見せたらかてますます俺に惚れてくれるに違いないはずや。



でも・・・・・・・・・。






「今日くらい甘えてもえぇやんなぁ〜」





そう言いながら、俺はシャワールームから脱衣所に出た。

鼻歌交じりで、近くに置いてあったタオルで体を拭く。


今日くらいはに甘えてもえぇと思うし、かて俺に甘えてもえぇと思う。
やって、結婚式終わったばっかりやもん・・・それくらいはさせてほしいわ。
ちゅうかからもしてほしい。


持ってきた下着とズボンを履いて、上半身は裸。
髪の毛をバスタオルで拭きながら俺は再びベッドルームに向かう。



まずは、二人の愛をもっとこう濃密にするために――――。









ー。上がったで〜・・・包帯巻いてや〜」








に左手の包帯を巻いてもらう。
さっきは「自分で巻け」言うてたけど、恥ずかしがり屋さんやからなぁ俺のお嫁さんは。

あんなん言い方しても「仕方ないわね」とか
ブツブツ言いながら巻いてくれんねん!そこがもう可愛えぇとこや!!

俺はいまだ鼻歌を歌いながら、ベッドルームに居るを呼ぶ。




だが。





?」





応答なし。

おかしい、さっきまでちゃんと居ったやろ?



もう一度呼んでみる。






〜。蔵ノ介クン、お風呂から上がってきたでー」





やっぱり応答なし。


おいおい、もう行動開始か?早いやろ?
とか思いながら、俺はベッドルームに足を運ばせる。







ちゃ〜ん。ダーリン、風呂から上がったで・・・・・って」






シャワールームからベッドルームへと戻ってきた俺は呆気にとられた。




寝とるやんか、

しかも、ウェディングドレスの上で。

俺はため息を零しながら、ドレスの上で眠っとるの近くに行き、膝を曲げた。







〜?・・・おーい・・・お嬢様〜」







アカン、コイツ熟睡してるわ。


何やねん、せっかく人が包帯巻いてもらおうって意気揚々としながら
風呂上がってきたんに。酷いわ、・・・蔵ノ介クン、ちょっとショックやで?






「はぁ〜・・・しゃあないわ」




床で寝とっても風邪引くやろうし、とりあえずベッドで寝せるかと思い
俺は眠っているを起こさんように抱き上げる。

ふと、鼻をえぇ匂いが掠めた。







「えぇ匂いやな、





シャンプーの匂いなんか、お天道さんの匂いなんかよぉ分からんけど
とにかくえぇ匂いが、を抱き上げた瞬間俺の鼻を刺激した。

寝てる顔も可愛えぇから、思わず顔をすり寄せる。





「ん〜っ」




すり寄せると、もどかしいんか何なのか知らんけど
可愛えぇ声出して俺に「やめろ」って言うてんねんなぁ・・・はぁ・・・可愛えぇ。







「可愛えぇんやから、それはないやろ。ダーリンに失礼やで」







そう言いながらをベッドへと寝かせ、俺もその隣で
を抱きしめた状態で寝転ぶ。


寝てるから何かしてもえぇやろ?とか思う。
やましいことはせぇへんぞ、そないなことしたら離婚届モンやからな。



ゆっくりと、の左手を自分の目線の見える位置まで上げる。







俺の左手の薬指と同じように・・・の左手の薬指にも、シルバーリング。




太陽にかざしたら、眩しいくらいに光ったわ。


キラリと光った指輪に刻まれた英文字も見えた。




左手を寝かせ、俺はを抱きしめる。








「・・・・・・・・・・・・」









抱きしめた途端、彼女の愛しい温度が俺を包み
俺はその温度に目を開けただけで眩暈がする。



あぁ、俺はこれからもずっとこの愛しい温度に
眩暈を起こし続けるんやろうなぁ。





きっと君は気づかない。



俺は、キミの持っているその温度にいつも眩暈がすんねんで。



包まれるだけで、包み込むだけで

君に夢中と言わんばかりに、足元が覚束ないほど・・・眩暈を起こしそうや。








「早よ起きてや。起きんと蔵ノ介クン、寂しいやろ?せやから早よぉ目ぇ開けて、俺に甘えたってや」








そう言いながら、彼女の愛しい温度に包まれながら
俺も目を閉じるのだった。








僕らは安堵の眠りに就く。


互いの指輪に刻まれた文字を、互いの指に嵌った手を握り締めながら。





【I love every little thing about you】
<キミのすべてを愛してる>・・・・・そう眩暈すらしそうなその愛しい温度でさえも。






愛しい温度に眩暈すらした


(あぁ、その温度に包まれるだけで幸せという眩暈がするよ)


--------------私の彼は左利き企画2011 提出。
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