「話があるなら家に居なさいよ。まったく」





大学4年のある日。


蔵に話があるといわれ、彼の家までやってきたのだが
出てきたのは彼のお母さんで「蔵ノ介ならテニス行ってまだ帰ってきてないねん」と
言われたので、家で待たしてもらうのも申し訳なかった私は
「じゃあまた後出来ます」と言って彼の家を後にした。


昨日のこと「大事な話があんねん、明日ウチに来て欲しいんやけど」と
お願いされて、別にサークルとかに所属してるわけでもない私は
彼の話を承諾した。

しかし、次の日。
家に足を運んでみたら当の本人が居ないとはどういう了見だ?







「恋人やめてやろうかしら」





蔵の家を離れ歩きながらそう呟いた。

まぁ別れる事なんか私にはそんな度胸もないんだが。







「大事な話とか、何よ一体」






本人が「大事な話」っていうから来たのに
どうしてこうもあの男は肝心なときに限って居ないのかがよく分からない。

まぁ忙しいのは分かるけどさ・・・メールするなり電話するなり、何か連絡手段くらいあるでしょ?
本当にこういうところは抜けている。








「蔵から連絡あるまでブラブラしよう」







考えてもキリがない。

とりあえず蔵から連絡があるまで私は彼の家の近所をブラつくことにした。
ちょうどいい事に小さな公園を見つけた。

「久しぶりにブランコに揺られてみようかしら」とかそんな子供じみた事を思いながら
公園の中に入っていく。



公園の中に入ると、懐かしい遊具ばかり。





でも、それだけではない懐かしさを私は感じた。


見覚えがあって、何も変わらない風景。












「そういえば、昔・・・私この近所に住んでたんだった。よく遊んだ、この公園」









そう。私が一時期大阪に住んでいた時だ。

この公園はよく私が遊んでいた公園だ。
誰も居ない時間帯を狙い、お手伝いさんたちに見守られながら遊んだ公園。


道理で懐かしいわけだ。







「そういえば・・・この公園・・・どっかにあれを隠したんだよね。蔵と」






ふと、公園を見渡し思い出した。



大阪を離れることを知らない少し前。
蔵と・・・当時は、クーちゃんと親しんで呼んでいたあの頃だ。

どこかに・・・隠した――――――。










「そう、タイムカプセルだわ。彼とそれをこの公園のどっかに埋めたんだ」








小さい頃なら誰でもするタイムカプセル。

離れる少し前、想い出を残そうというので
蔵と・・・タイムカプセルを埋めた事を思い出した。














『なぁ、タイムカプセルって知ってる?』


『うん』


『せやったらウチらもしようやタイムカプセル!』


『え?で、でも忘れたりしないかな?』


『大丈夫やって!俺絶対覚えてるし!なぁしようや。大きなった自分に手紙書いたりしよう!』


『う・・・うん!』









そう言って、大切なものを持ち寄って
大きくなった自分達に手紙を書いて・・・箱の中に入れた。










「そういえば、蔵のヤツ・・・箱に入れるとき、手紙と一緒に何か入れてたような・・・」
















『クーちゃん、なんて書いたの?』



『ん〜?内緒や!大きくなって開けたときにびっくりするもんやからな!それまで内緒』



『えー・・・気になる。教えてよ〜』



『アーカーン。大きくなったら開けよ。せやからそれまで我慢してや』













幼い頃の蔵の笑顔。

あの笑顔に負けて、結局タイムカプセルを掘り返すことなく
時間だけが過ぎて・・・今に至った。


私は公園内をキョロキョロと見渡す。



あの頃と、何も変わっていない風景。

つまり、タイムカプセルを埋めた場所もあのままのはず。








「どこに埋めたかなぁ」








記憶だけを頼りに、埋めた場所を思い出す。





穴を掘って、箱を入れて、土を被せて。













『目印とかなくて大丈夫かな?』


『大丈夫や。この公園でめっちゃデカイ桜の木に埋めたんやからすぐ分かるで』











「大きな、桜の木の下だわ」






ふと、思い出した。

公園で一番大きな桜の木の下にタイムカプセルを埋めた。

あの頃はまだ桜が咲いていて、目立っていたが
今はもう桜は散り落ち、若葉が青々として風に揺れていた。


公園で一番大きな桜の木。
私はすぐさま其処に向かい、木を見上げた。

思い出した・・・埋めた後、蔵と二人で桜の木を見上げた。












『大きなったら、此処来て二人で開けような・・・タイムカプセル』








ふと、足元の違和感に気づく。
土がそこだけ、小さく盛り上がっていた。

この下にまさか。と思いながら私は手で其処を掘り始める。
ちょっと土が固くて、でもそんなことも気にせず私は掘った。


しばらく掘っていると、アルミの箱が見えてきた。
必死で手で土を掻き分けて掘り出す。




土から出てきたのは、あの日・・・あの時に埋めた、タイムカプセル。


私はゆっくりと蓋を開ける。







中に入っていたのは、おもちゃや、ちいさな袋に入った種(多分毒草の種ねこれ)。
後は・・・2通の手紙。

多分1通は、私の書いたもの。

そしてもう1通は―――――。

















『大きくなった、ちゃんへ』



「わ、私宛て?」








手紙を見ると、私の名前・・・裏返すと「くらのすけより」とひらがなで書いてあった。


シールもなにもされていない封を開けて、少し泥が付いた手で
中に入った手紙を取り出した・・・手紙は1枚だけ。


私はそれを開き、目で追う。











『大きくなったちゃんへ。大きくなったウチと仲良ぉしとるかな?ケンカとかしてへん?
ウチ、言うことキツイってねーちゃんからよぉ言われてるから、ちゃん泣かしてないか心配や』






「子供なのに、何心配してるんだか」






『手紙書いたんは、手紙やから言える事で、手紙やから言わなアカンことやねん。大きくなったちゃんにちゃんと
言いたい事やったから』







「言いたい事?」




少し行間が空いて、其処に書かれていた文字に胸が熱くなった。
































『大きくなったら、ウチのお嫁さんになってくれへん?でももしかしたら、離ればなれになるかもしれん。
せやけど、ウチ・・・ちゃんが何処居っても、何処行っても、分かるし気づく。せやから、大きくなってから』



























「俺と結婚、せぇへんか?」







「・・・蔵・・・」






聞き慣れた声に振り返ると、蔵が包帯が巻かれた左手に手のひらサイズの
箱を持って笑みを浮かべて立っていた。

頬を涙が一筋、伝ったのが手に取るように自分で分かった。







「何や先に掘り返してしもたん?一緒に開けよう約束したやろ昔」



「ご、ごめんなさいっ。あの・・・わ、私・・・っ」





思わず慌てて訂正の言葉を捜すけれど、手紙の言葉と蔵が言い放った言葉が
同時に脳内を埋め尽くし、処理速度を低下させていた。






「涙でお嬢様の綺麗なお顔、台無しやな」



「うっ、うるさいっ!も、元はといえばアンタがこんな手紙、タイムカプセルに入れるからっ」



「どやった?ちっちゃいくらのすけクンのプロポーズは?」



「ど、どうとか・・・そ、そんなの・・・っ」






蔵に手紙の内容を問われ、私は焦る。


正直、幼い彼がこんなのを残していたのが驚いたくらいだ。
しかもそれをタイムカプセルの中に入れておくとは・・・驚いて心臓が止まりそうだ。






「ま。ちっちゃい頃やからなぁ・・・ちょっと手紙貸してみ」





蔵にそう言われ、私は便箋と封筒を蔵に渡した。
彼はそれを受け取るなり手紙を見て・・・封筒の中身を見た。

すると、封筒の中身を見て笑みを浮かべ中に手を入れた。






「く、蔵?」



「やっぱりなぁ。あの後お母ちゃんに怒られたんがよぉ分かったわ」



「え?」



「こないなもん、入れてたんやから」








そう言いながら蔵は封筒の中からあるものを取り出し、私の目の前で見せた。









「蔵、こ、これ」



「せやで」





























「指輪。大きなった自分にあげよう思て、入れておいたんや」






輝くシルバーリング。

紛れもなく、私に贈ろうと幼い彼が準備しておいたモノ。







「まぁ、勝手に持ち出したからな・・・あの後お母ちゃんにこっぴどく怒られてしもたわ。
でも、こっちはお母ちゃんに返すからえぇとして・・・にはこっちや」





シルバーリングをポケットの中に入れ、手に持っていた箱を開けて私に見せる。
中に入っていたのは・・・小さな宝石が埋め込まれた、シルバーリング。







「受け取って欲しいんや。俺と、結婚してくれ」



「蔵」



「ずっと探してた、ずっと待ってた。タイムカプセル、先に開けられたんは失敗やったけど、結果オーライや。
それに手紙読んだんやからもう、分かるやろ?俺、ずっと昔から離れてからも好きやったんやから」



「蔵・・・っ」



「改めて言うわ・・・・・・俺のお嫁さんになって、なぁ
































「ずっと、愛し続ける。この指輪に誓って、この言葉に誓って」






優しく抱きしめられ、甘く囁かれ

私はただ、ただ嬉しくて――――――。








「幸せに・・・」




「え?」




「幸せにしないと・・・承知しないんだからっ!出来なかったらすぐ、別れてやるんだから!」




「当たり前やろ・・・・分かってるわ」









素直な言葉が、うまく出なかったけど・・・嬉しくて、涙が溢れ出た。

そんな私を蔵は優しく抱きしめてくれた。






幼い頃に、埋めた言葉達は
長いときを越えて、私の元に優しく届いた。





一世紀前に落としてきた言葉
(幼い日に埋めたタイムカプセルに隠された愛の言葉(プロポーズ))


--------------------------(4season春タイトル提出【一世紀前に落としてきた言葉】より)
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