「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ッ」






暗闇の中。
私は1人何処かへ走っていた。

隣を見ると川。

おそらく川の流れに沿って、走っている事が伺えた。


でも走っても走っても上流に辿り着くこと無く
延々と暗闇の中を走っている。


何分、何時間、その闇を走り続けているだなんて考えたくない。
でも足を止めてしまえば、闇の中に飲み込まれてしまいそうで怖かった。



息が切れそうだけど、私はそれでも走り続けた。


走っていると視界に赤い何かが見えてきた。
「赤い何か」は段々と鮮明に私の目に飛び込んでくる。








「(彼岸花・・・か)」







「赤い何か」の正体は彼岸花だった。


最初は1本2本と数が少なかったのに
進むに連れて段々と本数が増えていき、気づくと私は彼岸花の花畑に辿り着いていた。


目に映る痛いほどの赤色。


ふと、花畑の真ん中に誰か立っている事に気付く。

見覚えのある頭髪に、服装。


足を其処に向かわせようと、一歩一歩踏み出す。



私の目にクリアに映り始める人。








「歌仙、何してる?」







立っていたのは歌仙だった。


声をかけると彼は私の方へと向く。だが、彼を見た瞬間背筋が凍った。





生きていない目をして笑っている。


しかも服には大量の血飛沫(しぶき)。




遠目からでは分からなかった彼の表情や面持ちが、近くで見て初めて「歪んでいる」と理解した。







「ああ、主。良い所に来たね。丁度邪魔者を片付け終わったところだよ」




「邪魔者?」







ふと、彼の足元に目線を移すと青髪に赤い紐で結われたリボンの―――――。







「小夜!」







小夜左文字が居た。

すぐさま駆け寄って体を起こし声を掛け揺さぶるも
返事はおろか息もしていない。

そして肉塊が消え、手に落ちた刃毀(こぼれ)れした短刀。

その身が破壊され小夜は元の姿に戻った。







「歌仙・・・何をした」







敵兵で無いことは確かだった。

確実に原因は目の前の男にあると、自分自身で察知し問いかけた。









「邪魔者達を片付けたのさ。主、僕の名の由来・・・知っているだろ?」




「邪魔者、達?・・・・・・まさかっ」








歌仙の言葉で私はすぐさま辺りを見渡す。


花畑から突き出たように、地面に刺さっている刃毀れした刀達。






「前の主が36人の家臣を手打ちにした所から、僕の名前は付けられた。だからね、僕は消したんだ。主に仕える家臣を」




「っ・・・貴様ぁあ!」







私は刃毀れした小夜を歌仙へと向けた。
しかし打刀と短刀とでは尺が違いすぎる。つまり私の圧倒的不利は確実だった。

だが、見過ごすわけにはいかなかった。

大事な家臣−仲間−を壊されたのだから――――唯一、信頼していた刀−男−に。







「僕には主だけいればいい。他に何も望まない。主だけ、いればいいんだ。
だから他の奴らは皆邪魔なんだ。主と僕、2人だけで良かったんだ」




「歌仙・・・何で、何で・・・ッ」





頬を零れる涙。

拒む態度も、嫌がる素振りも、全部嘘。



本当は誰よりも頼りにしていたし、誰よりも信じていた。





『主』





微笑む顔が大好きで、優しく抱きしめてくれる体が大好きで。








『流石は僕の主だ。風流を分かっているね。だからかな、いつも主が愛おしく想えてしまうのは』









彼を―――不器用ながらも―――――――愛していたのに。






こんな最期を迎えたくはないし、受け入れたくもない。
涙がただ、溢れて止まらない。






「主」



「っ!?」






我に返り前を見ると、歌仙が血まみれの体でゆっくりと近づいてくる。
私は両手で短刀を構える。だが持つ手が震えて、すぐにでも弾かれてしまいそうだった。








「来ないで・・・来ないで歌仙」



「大丈夫だよ主。すぐ・・・ラクになるから」







そう言って歌仙は私の体を抱きしめた。
一瞬何が起こっているのだろう、と脳内が困惑していたが気付く。

小夜の刃が歌仙の体に刺さっている事に。







「歌仙、やめろ離せ・・・ッ」



「いい。これで、いいんだよ・・・主」







そう言いながら更に体を密着させてくる。
刃はゆっくりと、歌仙の体にと突き刺さっていく。

肉に刃がめり込んでいく音、生々しい肉の音が耳に聞こえてくる。









「僕で、36人目だ」



「っ!!」






歌仙がそう言い放ったと同時に、刀が深いところまで突き刺さった。

抱きしめられている熱が段々と奪われ冷たくなっていく。


歌仙の息遣いも荒くなり、言葉が途切れ途切れになり始める。







「これで・・・ラクに、なれる。主の中で、ずっと・・・生き続けることが出来るよ」





「歌、仙」





「主・・・いや、様。君を一人、想いながら・・・壊れるのは、僕にとって嬉しい限りだ。最高の誉を頂きたい、ところ、だ・・・ね」








言い残し消え行く歌仙の体。

そして、また一つ彼岸花の園に刀が一本突き刺さった。


辺りを見ても誰もいない。

そびえ立つ無数の刃毀れした刀達と、私だけ。






鮮明に蘇ってくる数々の記憶。


この記憶は何処に預けろと言うんだ?


何処の時代にこの記憶を置けと言うんだ?




何処にも預けれない。何処にも置けない。




私の中の、大切な記憶なのだから。









「歌仙・・・っ、皆・・・っ―――――いやぁぁああぁあああああ!!!!」








赤い花畑の真ん中。

私は叫び、泣き崩れ―――――――暗闇から抜けだした。





彼岸ノ園
(誰でもいい。コレが悪夢だと言わず、なんと言うんだ?) inserted by FC2 system

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