「落城?」
『そうなんだ、女傑』
政府から突然通話が入った。
しかも電話の相手が下っ端政務官ではなく、政府最高顧問通称枢機卿という
初老の男からの電話だった。
私は彼に至極気に入られており、が同行する事も彼の計らいによって叶えられている。
下っ端なら出ないつもりでいたが、最高顧問となれば出ない訳にはいかない。
私は部屋から重い腰を上げ、電話の所にやって来て話を始めた。
『此処最近、歴史修正主義者達の動きが活発化しているようでな。闇討ちに遭っている城が増え
下手をしたら落城しているところも見受けられるようなんだよ』
「成る程、それで落城か」
『私の調べによると、女傑の近くの審神者が取り仕切っていた城もつい先日落ちたそうだ。
幸い審神者は無事ではあったが、刀剣は皆破壊されたと報告が入った』
「そう。それは残念な事だわ」
仲間が襲われ、刀剣が破壊というのはやはり同じ審神者としても
心が痛いし、耳にも入れたくはない現実だ。
『それで電話したのだ女傑』
「何?私が心配でお電話してくださったの?・・・・・・余計なお世話よクソジジイ。
こっちは毎日アンタ達が送ってくる書類に目を通すのでも面倒なのに、任務に遠征、内番振り分けに手合わせに手入れに鍛刀。
あんたらね、どんだけ審神者に激務与えてると思ってるの?審神者はいい中間管理職じゃないんだからね。
このブラック政府め」
これでもかと言うくらいに日頃の激務の鬱憤を最高顧問に吐き出した。
正直少しでもいいから送ってくる書類を減らすなどしてほしいところだ。
むしろ、これらだけでも大変だというのに刀剣達を諌めるのだけでも骨が入る。
肉体を与えられさぞ嬉しいだろうけれど、頭を悩ますレベルに動き回られるのは困りモノだ。
「私に心配の電話を一本入れるくらいなら、書類を減らせ。送る書類を減らせ」
『相変わらずだな女傑。流石は私が見込んだ審神者だ』
「それ初めて会った時もアンタ言ったでしょ。買い被りすぎないで」
『買い被ってはおらぬが、一応心配はしている。敵の動きが活発化しているからな。
政府とて審神者をそう容易く準備出来るわけでもない。国にとっては大きな人員だ。
一人減るたびに新たな審神者を選定せねばならん。それだけでも時間が掛かる。
戦力を減らされたら戦えるものも戦えんだろ、違うか?』
ごもっともすぎる意見だ。
私もも、選定された上で審神者としての資質が認められた「人員」。
一人欠けるごとに、また新たに選定してを繰り返せば正直時間がいくらあっても足りない程。
欠けた分を補い、育て上げるにはそれなりの時間を有するだろう。
「注意はしておくわ。ありがとう」
『ああ。だがな――――死ぬなよ女傑』
「分かってる。もう切るわ、仕事残ってるから」
『すまないな時間を割いて。くれぐれも用心するように』
そう言って枢機卿は通話を切断し、私は受話器を置き部屋に戻る。
部屋に戻る廊下を歩きもうすぐという所。
其処に3人の刀剣男士が立っている姿を見つけた。
「国広、鯰尾、薬研。何してるんだお前たち」
「あ、主さん」
「やっと帰ってきた」
「ちょっと大将に報告したいことがあって来たんだよ俺達」
部屋の前に居たのは、堀川国広、鯰尾藤四郎、薬研藤四郎だった。
しかも面持ちが何だか深刻そうで、仲良く話という感じではないことがすぐに分かった。
「入れ」と促し、先に私が部屋に入り3人が続くように入ってきた。
私が自分の場所に腰を下ろすと、机を挟んで3人が畳に腰を下ろした。
「で。報告って何?」
「ちょっと気になって偵察に出たんです。最近此処付近の山々が騒がしいと思って」
「それで何か分かったの?」
「どうやら、居るみたいなんだよね」
「思いっきり大将の首を狙ってる部外者が」
「歴史修正主義者共か」
枢機卿の忠告が来たかと思えば、偵察に出た3人からの報告で頭が痛くなった。
近場の城を落としてきて調子に乗っているのか
奴らの魔の手がどうやら私の領地にまで伸び始めているのを指していた。
「最近、近くのお城も落ちたみたいだしさ。こっちにまで勢力を上げてきてるみたいなんだ」
「気にしない方がいいって思ったんだが、やたら数がここんトコ増えてるみたいだしよ。
何とか地味に片付けてはいるんだが減った気がしねぇ」
「今も偵察の部隊で何とか片付けてはいます。主さん、勝手に動いて申し訳ございません」
「でも大将には安心してて欲しんだぜ。勝手に動いたのは俺達だ。俺達が悪いんだからいくらでもお咎めは受けてやるさ」
「他の皆も、そう言ってたから。俺達は代表して主の所に来たんだ。ホント、ごめんなさい」
道理で本丸に居る人数がやたら少ないと此処数日思ってはいたが
私の身を案じてくれている行動だと分かったのなら、それ以上言うことはない。
ただ、言う事は―――――――。
「国広、鯰尾、薬研。他の偵察人員にも伝えろ。山一個削ってでもいい、殲滅してこいとの主命が出たと」
「主さん」
「主」
「大将」
山一つ無くなる勢いで敵を殲滅しろと命を下した。
私の言葉に3人は驚いた表情を見せており、私はというと笑みを浮かべた。
「お前達は私を心配して動いてくれているんだ。別に咎めはしないさ。ただ、主命であっても自分たちの命は大事にしろ。
破壊されて戻ってくる姿なんて、私は見たくないからな」
『はい!』
3人は威勢のよい返事をして、すぐさま偵察へと戻った。
一方の私はというと、先ほどの枢機卿の電話と偵察組のとで少し城下の方が気になっていた。
歴史修正主義者達が異形の形で山を闊歩しているのだから、おそらく物資供給がままなっていないだろう。
一般人にとってあいつ等は無害とは言えない存在なのだから。
私は立ち上がり、すぐさま身軽な戦装束に着替え
腰に打刀を差し暗器を入れた袋を持ち、薄手の生地の羽織りを身に纏い、部屋を出る。
すると前方から妹のがやって来る。
「あ。お姉ちゃん何処か行くの?」
「城下にちょっと様子見がてら買い物」
「じゃあ歌仙さん呼んでこようか?」
「いい。一人で行きたい気分だから」
軽くにそう言い残し、私は足を城下へと向かわせた。
「刀持ってお買い物行くのかな?いつもは持ち歩かないのに。・・・変なお姉ちゃん」
「なかなか困っているんだよ、お城にお届け出来ないから」
「やっぱりか」
城下に下りて、街に着いた。
一匹くらい敵に遭遇するかと思ったが、おそらく私が通ってきた道は
国広達が片付けた後だったのかもしれないと考えが辿り着いた。
そしてひと通り、お世話になっている店に挨拶がてら最近の状況を聞いていた。
今はよくお茶菓子を持ってきてくれる老舗団子屋のおじさんに
休憩がてら話を聞いていたところだった。
「最近、近くのお城も落ちたって聞いて。ちゃんのところじゃないかって、皆で心配してたんだ」
「そうでしたか。でもウチはそう簡単に落とさせはしないですよ」
「鍛え方が違うってヤツかい?」
「まぁ、そうなりますね」
そう言いながらおじさんは奥に引込み、すぐさま出てきた。
私はというと出された団子を頬張っている。
「ちゃん。これ、よろしければちゃんや皆さんで食べて」
「?」
長椅子に置かれた風呂敷。開けるとたくさんのお饅頭やら大福が入っていた。
「こんなにたくさん」
「今は届けに行けないけど、いずれ落ち着いた時にはもっと良いモノを持って行くよ」
「妹も皆も喜びます。大事に食べますね」
「ああ。気をつけて帰るんだよ」
「ええ」
お饅頭や大福の入った風呂敷を手に私は立ち上がり、城へと戻る道を歩き始めた。
「たくさん貰い過ぎたように思えるけど、皆頑張ってるしたまにはいいご褒美にもなるわよね」
おやつの入った風呂敷片手に私は元来た道を戻っていた。
任務も頑張っているし、偵察組も頑張っているようだから
たまには全員に誉らしい誉を与えてやらなきゃな、と思いながら歩いていた。
だが、私は歩む足を止めた。
風が木々を揺らす音に混ざって聞こえてくる、蠢く雑音。
途端茂みの中から「人ならざる物体−歴史修正主義者−」が襲いかかってくる。
ソレと目を合わせた瞬間―――――、一撃。
声にならない声でソレは消滅。消えたのを皮切りに、身を潜めていた奴らの仲間が
出てきて私にと襲い掛かってくる。
だが、敵は私に触れること無く次々と消えていく。
消える前に走る一閃。
しかしその一閃も一つではなく、無数。それぞれが違った型で一閃を放ち、敵を消していく。
一旦互いの動きが止む。
そして私の背後に集まった従者−刀剣男士−達。
前方には群がる人ならざる物体。
「土足で私の陣地に入り込むなんていい度胸してるじゃない、アンタ達。
此処に足を踏み込んだ事がどれ程命知らずか教えてあげる」
そう告げて、私は自分の腰に差していた刀を抜いた。
「最近、山に雑草が増えたから刈りたいって思ってた所なのよ。他の奴らにも言ってるの。
確か山一つくらいは掃除出来たんじゃないかな。まぁこの際だし、こっちも山掃除をしようかしら、ねぇ・・・」
「岩融」
「おうよ」
「石切丸」
「はい」
「鶴丸国永」
「ああ」
「燭台切光忠」
「うん」
「歌仙兼定」
「お呼びかな」
「へし切長谷部」
「はっ」
「さぁ掃除の時間よ。一本残らず殲滅し-狩り取り-なさい。怠慢は許さないわ。
誉が欲しいなら、山が無くなるまで殲滅しろ-狩り尽くせ-。いい事、これは―――主命よ」
『主命とあらば!』
名を呼んだ刀達、そして私は人ならざる物体との戦いを始めるのだった。
タタカイノ火蓋
(コレが全ての始まりだった)