「私は一期一振と申します。今まで弟達がお世話になりました」



「いえいえ。とんでもない」



「わーい!いち兄様だ!いち兄様だ!!」


「コーラ。秋、騒ぐんじゃねぇよ。いち兄も疲れてんだから騒がしくすんな。
燭台切の兄さんも部隊長なんだから言ってやってくれよ」


「いいんだ薬研。秋も私に会えて嬉しいんだよ」


「彼もそう言ってるから、いくら部隊長でも僕の言える立場じゃないからね」






眠っていた所に陽が差し、私は肉体を与えられた。

目を覚ました場所に立つと弟の薬研藤四郎と秋田藤四郎。
そして見慣れない顔の人達が私を出迎えてくれた。


刀の私は付喪神として目覚めたのだと、薬研や他の人達の説明を受け理解した。


そして、これらの者達を束ねているのが「審神者(さにわ)」であり
私の新たな主。そんな人の元に弟達に手を引かれながら戻っていた。





「いち兄。俺らの大将、すっげぇ良い人だぜ」


「そうなのか?」


「うん!主君はとても良い人なんですよ!僕達兄弟をとっても大事にしてくれる優しい人です」


「それに武将並に強いんだ主は。僕達も敵わないくらいね」


「え?」






同じ太刀である燭台切光忠殿の言葉に思わず声が漏れた。

優しくて良い人、というから女性を期待していたのだが
武将並に強いとなれば確実に男性という事になる。

私の元主も男性だった。


刀の使い手や持ち手が男性だけというのは、私達刀剣が生かされていた時代ではおかしな話じゃない。


おそらく、私が新たに生を受けたこの時代もまた
男が活躍している時代なのだろう、と少し淡い期待を抱いた私が馬鹿だった。




皆を束ねている本陣に辿り着き、私の弟達が嬉しそうに出迎えてくれた。

嬉しくもあり、一人一人に「元気だったか」や「寂しくはなかったか」と声を掛けた。





「あっ、新しい方ですか?」



「え?」







途端聞こえてきた女の子の声。

兄弟達に向けていた顔をあげると、長い髪を揺らしながらこちらにやってくる小袖の女の子。
朗らかな雰囲気を纏いながらこちらにと小走りしてくる。





「姫様!いち兄です!!」


「いち兄、さん?」


「おい!ちゃんと言わねぇと妹君も分かんねぇだろ!妹君、俺達の兄貴で一期一振だ」







少女の前に立った薬研が私を紹介する。
すると少女はニッコリと微笑み私を見た。







「ああ。ちゃんとお名前あるんですね。初めまして、です」


「・・・あっ、は、初めまして我が主。私は」


「いえ、私・・・主じゃないんです」


「あ、主ではないと?」






目の前の少女の口から出てきた「主ではない」という言葉。
では私がこれからお仕えする主は?と思っていたら――――――。







「ああ、お前か。粟田口の長兄、一期一振って言うのは」



「大将!」


「主君!!」






すると、本丸の中からやって来た裾の短い身軽な巫女装束に身を包んだ少女。

薬研や秋田の言葉遣いからして彼女が私の新たな主。
しかも先程私を出迎えた少女と背格好はおろか顔立ちが瓜二つ。







「お姉ちゃん。来るの遅いよ」


「悪い。書類の整理とか、明日の遠征とかの振り分けで手間取った」


「し、失礼ですが・・・主殿は」


「私だ。。此処に来た奴ら皆驚くんだが、私とは双子だ。瓜二つのな」


「ごめんなさい。来て早々驚かせてしまって」


「い、いえ・・・とんでもございません」







色々と失礼を重ねてしまい顔を伏せてしまったが、主が自分の想像していたモノとは別であり
またそれがたまらなく嬉しくもあり、心の中で拳を握り喜び、舞い上がってしまった。



















「来て早々、2人で話とか悪いな」


「いえ。こういう機会を頂けるのは私としても有難い限りです」




休む間もなく、私は主・殿の部屋に来て向かい合い話を始める。
こんな機会を与えて頂いたのだから、それはそれで有難い。






「この度は弟達がお世話になりました。長兄の私からもお礼を申し上げます」


「いやいや、それは私の方よ。弟達には手は焼くこともあるけど世話になりっぱなしだから」


「そう言って頂けるのは有難いです。言えば弟達もさぞ喜びます」






軽く今までの事をお互い感謝し、笑い合う。
すると主殿は少し心配そうな表情を浮かべた。






「主殿?」



「まぁ弟達の面倒は見てたんだが、2人ばっかし・・・記憶が無いってのが居るんだ」



「鯰尾と骨喰、ですね。アレ達と私は焼けてしまいましたし、2人は特に記憶が一部無いみたいでした」







弟達に出会えて嬉しかったが、鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎の2人の記憶が
一部分ではあるが欠けていることに気がついた。

おそらく焼けた時に記憶も一緒に失くなってしまったのだろう、と心を酷く痛めた。






「特に骨喰がな。鯰尾は中々の前向き精神なのはいいんだけど、骨喰が鯰尾と違って後ろ向きだから
結構気には掛けてる。お互い記憶が一部無いから、お前が来て少し戸惑うんじゃないかって心配してるんだ」




「主殿、そんなお心遣いまでして頂いてるとは」



「これでもお前達の主だからな。記憶が無いのはツラい。だか此処に居る限り少しくらいは楽しんで居てほしい。
鯰尾は笑って出迎えてくれただろうし、問題はないだろうけれど
おそらく骨喰はお前が来て戸惑っているだろうから、私も何とか支援はする。困った時があったらいつでも言ってくれ」



「お心遣い、有難き幸せでございます」






運命の巡り合わせというのは嬉しい限りだ。

こんな心遣いの出来る人の元にやってこれた自分は幸せ者と思うしか無い。
私はおろか弟達にまで気配りのできる人。

自分は本当に素敵な主に迎えていただいたのだと、感謝しなければならない。












「本丸の事で分からない事があれば、私じゃなく妹のに聞いてくれ。
殆ど此処の事はあの子に任せっきりなんでね。まぁそうでなくとも、弟達が手取り足取り教えてくれるか」



「いえ、弟達でも分からない事があるでしょうから。その際は殿にお尋ねします」







主殿の部屋で話を一通り終え、廊下を歩きながら会話を進める。








「主。武具の事で聞きたいことがあるんだが、いいかい?」




「歌仙」







すると、背後に雅やかな男が居た。
主殿を「主」と呼ぶ辺り、彼も私と同じなのだろうと推察できた。





「歌仙。こっちは一期一振。粟田口の長兄らしい」


「ああ、彼等の兄か。僕は歌仙兼定だ、よろしく」


「私は一期一振です。よろしくお願いいたします」


「歌仙は私が此処に着任した時から居るんだ。武具や他で分からない事はコイツにでも聞いてくれ」


「はい」


「じゃあ私は行くところがあるから、部屋に戻ってゆっくり体を休めてね」


「有難うございます」






そう言って主殿は歌仙殿と一緒に話しながら何処かへと歩いて行かれた。

此処には私や弟達だけではなく、数多くの刀剣が居る。
それを束ねているのだから主殿の仕事量というのは相当な物に違いない。

あの小さな体で頑張っておられるのだから、私も頑張らなければと意気込む。


ふと、両手に拳が出来ていた。


おそらく意気込むという気合をいれるつもりで無意識に出来たのだろう。









『ああ。ちゃんとお名前あるんですね。初めまして、です』




『ああ、お前か。粟田口の長兄、一期一振って言うのは』








瓜二つの顔。我が主と本丸を支える主の妹。

男だと思っていたら、自分より幾分も歳が下の少女達。


優しい笑顔と温かな心遣い。


出迎えてくれたのは、紛れも無く女の子。



嬉しさのあまり腕を小さく引こうとしたが、流石に廊下。
此処ではあまりにも人目につく。

私は物陰を探し、其処にとそそくさと身を隠した後―――――。






「・・・・・・よしっ」





小さく腕を引いて喜びを体中で味わった。







「何してんだいち兄、こんなトコで」



「わっ!?や、やややや、薬研ッ!?な、なななな、何でもない!!何でもないんだ!!」







物陰に隠れて一人嬉しさを味わっていた所。
薬研に声を掛けられ私は思いっきり動揺してしまう。

見られてはいないだろうかと内心思っていたが、目の前の薬研は慌てふためく私に
「変ないち兄」と言って笑って去って行った。どうやら先程の私の仕草は見られていない模様。

ホッと肩を撫で下ろし、物陰から体を出す。


しかし、次の日。
思いもよらない事態が私に降りかかった。













「みーたぞ!みたぞ!一期一振が何やら物陰で一人喜んでるのみーちゃった!こいつぁ驚きだ〜!!」


「つ、鶴丸殿おやめください!!」




私と同じ太刀である鶴丸国永殿が昨日の私の行いを
何処かしらで見ていたのか、彼は大声を上げ走り回っていた。

もちろん私は彼を止めるべく追いかけるも、鶴丸殿の老人とは思えない足の速さに
私は彼に追いつくどころか捕まえて言葉を止めることすら出来ないでいた。






「おっ!主はっけーん!!」


「えぇえっ!?」






鶴丸殿の前方。横から覗くと主殿のお姿。隣には妹の殿も居た。






「主に姫君、聞いてくれ!凄い驚きがあるんだ」



「驚き、ですか?」


「おい、朝から本丸中を走り回るなジジイ。元気なのは良いことだが走り回るな、やかましい」



「いいから聞いてくれ。実はな」



「つ、鶴丸殿!おやめくださいと何度申し上げれば良いのですか!!」



「あれ?イチ?」

「一期さん?」




やっと追いついたは良かったが、あれだけ走り回ったにも関わらず
鶴丸殿は息一つ切らしておらず主殿と殿に話しかける。私はというと昨日の今日で肉体を与えられた影響もあってか
体が精神に付いて行かず息を切らしていた。






「実はな一期一振。昨日物陰で何やら一人喜んでいたみたいなんだ。俺が推測するに
余程2人の元に来られたのが嬉しかったんだろう。言葉にするのも失礼だと思ったんだな。
だから物陰に隠れて腕を小さく引いて喜んでい」


「鶴丸殿!」


「オゴっ!?」






何とか呼吸を取り戻した私は急いで鶴丸殿の口を背後から手で塞いだ。

だが塞いだ所で時既に遅し。
私の浮足立った気持ちは露呈されたも同然。だが、これ以上の恥をかくのは真っ平御免被りたい。








「イチ、そうなのか?」



「あっ・・・えっと、その・・・っ」






主殿の声に私は目線を泳がせ戸惑う。
頬もおそらく、林檎の赤に負けないほど赤く染まっているだろう。

一期一振、一生の不覚。


完全に目の前にいる2人に情けない姿を晒してしまった、と思っていた。







「なんだ、そうだったのか」




「え?あ、主殿?」






すると、主殿が笑いながら言葉を放った。






「そう思ってくれているなら、私も嬉しいよイチ」


「此処に来てくださった事が嬉しいのなら、それでいいんですよ一期さん。
恥ずかしがる理由なんて何処にもありません」


「むしろ、そういう気持ち持っててくれてたんだって安心したよ」


「主殿、殿・・・っ」






自分の悲惨な最期を呪った事もあった。

もう二度と誰の手にも私は握ってもらえないと思っていた。

だけど――――主である、その妹の2人に出会えたことで私はまた生きていける。

そして2人のために新たな一生を捧げ、命を懸けて守り抜くことを決意を胸に抱いた。








「で。言いふらしてたジジイ」


「ングっ!?」


「アンタにはちょーっと私からお話あるからこっちに来ようか?イチ、手ぇ離せ」


「あ、は、はい」




口を塞いでいた手を離すと主殿は鶴丸殿の襟元を掴み
グイグイと彼を引っ張っていく。大の男を女の子とは思えない力で。




「なっ!?一期一振!!お前、俺を売る気か!?主が怒ったらどんなに末恐ろしいか知らないから売るのか!?」


「え?」


「黙ろうかジジイ。今日という今日は許さんからな覚悟しろ」


「ひぃいい!!助けてくれ妹君!!君の姉をどうにかしてくれ!!」


「えっ、いやぁ〜・・・お姉ちゃん怒らせたら怖いんで。鶴丸さんご愁傷様です」





鶴丸殿の断末魔の叫びが廊下中に響き渡りながら何処かへと言ってしまわれた。
其処に残ったのは私と妹の殿。




殿。主殿は」


お姉ちゃんだけは怒らせない方がいいですよ。一応此処に居る皆さんは暗黙の了解ですから。
何せ此処に居る皆さんよりお姉ちゃん強いんで」


「あ。かしこまりました」



どうやらとても賑やかな所に赴いたようだが、2人の主に仕えるのもおそらく
悪くはないだろう。そして其処で存分に振るう剣も昔より研ぎ澄まされ、活かされていくのだろう。




我が剣は双星の刃として
(この身捧げ、双星を守り抜く。吉光の名は伊達ではないぞ) inserted by FC2 system

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