「大丈夫でしょうか、あの2人」



「さぁな」



「部隊から外すっていう選択肢が君にはないのかい、主」






清光と安定から離れ
陰からこちらの様子を伺っていた長谷部と歌仙に合流し、問われた。







「正直、それも考えたけど・・・行かせた方が無難だろ。道はあいつ等の方が詳しいし」



「ですが主。ある意味危険です、加州清光や大和守安定にあの時代は」



「下手したら寝返られる可能性もあるんだよ。分かってるのかい?」



「分かってるつもりではいる。でも信じてるから、私」








あれだけの言葉でどれだけ2人を繋ぎ止めておけるかは
自分でも分からない事は理解している。

行きたくないと拒む清光や安定の言葉をねじ伏せて、敢えて行かせるのは
大博打も良いところだ。「あの時代の京都」だと修正主義者側に寝返られる可能性だってあるのだから。




それでも「僕がちゃんと連れて帰ってくるから」と泣きながら私に言い放った安定の言葉を信じたい。


それでも「迷わないよ。平気。俺、もう主の刀なんだから」と笑った清光の言葉を信じたい。





根拠は薄くとも、希望を持つことは無駄にはならないはずだから。









「長谷部。青江と厚には明日の事は報せたか?」



「はい。一応の事は」



「確認のためにもう一度報せてこい」



「畏(かしこ)まりました」







長谷部に通達を頼み、一息付く。









「本当に大丈夫なのかい、あの2人」



「アレだけ派手に私に言い放ったんだ、信じていい」






長谷部が居なくなり歌仙が側にと寄ってきた。








「以前も、似たような事をイチに問われたことがある」



「一期一振にかい?」







清光と話している最中。ふと、同じような光景が頭に浮かんだ。

一期一振にも似たような事を問われた事を。








「前、イチと鯰尾を入れた部隊をあいつ等が燃えた場所に向かわせた事があってな。
その時鯰尾が自分達が燃えた記憶を無くそうとしていたらしい。だが、何とかイチが制止させたんだ。
でも、その後戻ってきてイチに言われたんだ」






私の部屋で向い合って、真剣な眼差しで私を見る一期一振。








『あの場所で私達兄弟は焼けました。だから歴史を変えれば焼けることも記憶を失うこともなかった事に出来ます。
それの何がいけないのでしょうか?私達は何故歴史を変えてはいけないのでしょうか?』







「彼にしては珍しい発言だね」


「弟に影響されたんだろう。ああ見えて、結構兄弟バカだからなイチ」






側で聞く歌仙は苦笑いをし、同じように私も苦笑していた。

一期一振という人物は「勤勉実直」というか「バカ真面目」というか。
とにかく礼儀正しく規律を乱すものは許さない、という人柄に思える。

だからこそ、あのような言葉を彼から聞いた時私自身驚いたのだった。








「それで、主はなんて答えたんだい?」








傍で笑う歌仙に、私はぼんやりと夜空を見上げ口を開いた。









「これはおそらくイチだけじゃなく、皆に言えることだけど。
確かに歴史を修正すれば、イチや鯰尾、骨喰みたいに焼けて記憶が無くなることも
清光みたいに折れてなくなってしまうこともなかったかもしれない。
小夜だって、歌仙お前だって金策のために何処かに売られてしまうこともなかったかもしれないだろ。
悲しい記憶だし、悲しい歴史だと思う。だけど、おかげで私はお前達皆に出会えた」




「主」







皆にとって、己の芯にある想いは根深く残っており
誰もが「この場所を変えれば、自分の未来が変わる」と信じてやまない。

だが、そんな事をしてしまえば私は彼等に出会っていなかったのかもしれないと思った。






「イチにも言った。今の歴史があるから、お前達にも出会えたって。もし歴史を修正したら、出会えてなかったんだって」



「それで、一期一振の反応は?」



「思いっきり土下座。一時の間ながらも歴史修正に揺らいだ心を恥ずべきですって。もう凄い勢いで謝られたわ。
宥めるのに1時間かかったわよ」



「彼らしい謝罪だね」








爽快に笑う歌仙の横顔を見る。

すると私の視線を感じたのか、彼は笑うのを止め私を見た。






「僕も自分の歴史は酷いものだと感じる時がある。だが、今さっきの主の言葉を聞いて悪くないとも思えた。
主、君に出会えたからだと思う」



「そっか。ならいい。とにかく、明日任せたぞ」



「了解した」






歌仙の側から離れ自分の部屋にと足を進める。だが、少し歩いて止まった。






「歌仙」



「何だい主?」



「清光と安定。もしもの事があれば、躊躇うなよ。お前の『歌仙』の名はそう言った意味でもあるんだからな」






あまり口にしたくはない言葉だけれど、もしもの事を考えてを歌仙に放った。








「分かっているよ主。おそらく、長谷部は躊躇わずにやるだろうけどね。いざとなったら彼が動く前に僕が動く。
家臣を斬りつけるには僕が一番似合いだからね」



「それを聞いて安心した。期待してるぞ、部隊長殿」






振り返り歌仙に言うと、彼は少し驚いた表情を浮かべた。







「何、その顔」



「いや、主からそういう言葉を聞いたのが珍しくてね。つい驚いてしまったよ」







歌仙は笑いながらゆっくりと近づいてくる。






「お前の働きは最初から優秀だし、今回ばかりは敵も地形も厄介なんだ。期待もする」




「じゃあ僕はその期待に応えないとね。主の近侍としても、様を守る一人の男としてもね」






言いながら歌仙の唇が優しく触れてすぐさま離れ、防御の構えを見せた。








「あ、あれ?今日は殴ったりしないんだ」


「きょ、今日は・・・特別だ」








普段なら「調子に乗るな」と言って殴るところだが
今日ばかりは色々と情に流されたみたいか、気分がそんな気分ではなかった。

すると手を握られ、腰を引き寄せられた。



形が整った顔が近い。






「ふーん。じゃあこれから主の部屋に僕が行っていいのも特別?」


「・・・・・・早めに部屋に戻れよ。明日、早いんだから」


「ああ。なるべく早目に部屋には戻るさ」






途端体が浮き上がり、歌仙に姫抱きをされた。






様、君を寝かしつけた後にでもね」


「主と呼べ、バカ歌仙」


「はいはい分かりましたよ様」


「降ろせ。今すぐ降ろせ。部屋に戻ってさっさと寝ろ」






恐悦至極
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