廊下を歩いていたら、庭先に主・様の姿。
庭に下りてみると彼女が何かの花を愛でていた。
「主、その花はなんだい?」
「ん?・・・ああ、歌仙か。コレはなチューリップだよ」
「ちゅーりっぷ?」
「ゴメン。分かりづらかったな。確か牡丹百合、だったかな和名は」
「ほぉ」
主が愛でていたのは紫色した牡丹百合なる花だった。
『牡丹百合』という名前なのに、おかしな事にどちらとも思えない形をしている。
「牡丹とも百合とも、形からして違うように思えるんだけど」
「そう呼ばれてるだけであって、種類は全く別なんだよ」
「成る程」
「何だお前。花が好きなのか?」
すると主が首だけを此方にと向け、僕を見上げていた。
花が好きか、と問われ一瞬考えるも答えは自ずと出てきた。
「花は特別好きという種類があるわけではないよ。僕が胸につけてる芍薬の飾り花だって
元主の息子が領地の人達に素養として育てさせてたワケだし。
だけどどの花も魅力的だ。見ているだけで心持ち穏やかなるね・・・それに」
「何?」
僕は一旦言葉を止めて目を少し薄めながら、主を見つめる。
「僕の目の前に咲いている、威厳と聡明さを持ち合わせ、凛と立っている
葡萄(えび)色した牡丹百合が今は特に好きかな。それこそ永久(とわ)に愛でていたくなるね」
「なっ!?」
僕の言葉に主は顔を真赤にした。
どうやら意味は通じた模様。
庭に咲いている牡丹百合を見ていて僕自身そう感じた。
あの花はまるで主のように思えるのだと。
「目に入れても痛くない」なんて言葉があるが全くその通り。
それは僕が主を好いているからこそ。
「だからね主、僕は」
「お前はまた面倒くさい言い回しを!」
「えっ、ちょっ!?あ、主・・・ッ、顔を掴むのだけはやめてくれよ!!」
「うるさい黙れ、この雅被れ!!」
恥ずかしさのあまりか、主は立ち上がりいつもの様に僕の顔を掴んだ。
女子(おなご)とは思えない力で、剥がそうにも剥がせない。
むしろ痛い。
「主、痛いから・・・っ」
「うるさい。このままお前をへし折ってやる」
「君に手折られるのは本望だが、こんな形で折られるのは格好がつかないよ!
せめて綺麗に折ってくれ。僕の雅さが台無しに」
「何が雅さだ。黙って私に折られろ」
「(僕だけの扱いでコレさえなければ、本当に良いんだけどな)」
本丸の庭先には春の訪れを迎えるかのように
葡萄色の牡丹百合が主への不滅の情愛を示す意味も込め、風に揺られながら咲いていた。
眼前に咲き誇る葡萄色の牡丹百合
(それは僕が主への不滅の情愛を表していた)