「(お!主様発見!!)」
本丸の廊下。
歩いていたら前方に主である様の姿。
戦装束を着ている辺り、双子の妹君でないことは明白。
明らかに私の主である主様。
気付かれないようゆっくりと近付き―――――。
「ぬ〜し、様っ!」
愛らしい背に抱きついた。
途端、腕を前にと引っ張られ体が宙に浮き廊下に体を叩きつけられた。
もちろん叩きつけた音は凄まじい物で、そこら中に響き渡る。
「おまっ・・・小狐丸、何すんの!驚くでしょうが!!」
「いや主様。驚いたのは私の方なんですが」
驚かせるつもりが、逆にこちらが驚かされた。
抱きついた途端背負投げ。
大の男を普通の女子(おなご)なら投げはしないが、主様なら有り得る話だ。
何せ此処に居る誰もが「主は(力も何もかもが)強い」と言うくらいなのだから。
「それで、何か用?」
主様は服を整える為、手で払いながら私に言う。
一方の私は腕を離され、倒れた体を起こし主様を見上げた。
「うぬ。主様の姿が見えたもので。あまりにも愛らしい背中だったので抱きついてみたんです」
正直背負投げされるとは思ってはいなかったが、良しとしている。
それを言うと、主様の顔が見る見ると真赤になっていく。
その顔を見るなり楽しくなってきたのかニタリと笑みを浮かべた。
「主様、顔が赤いですぞ」
指摘した途端、顔半分を隠すように腕で口元を多い私から離れた。
「お、お前っ、明日から一週間畑仕事!!」
「は!?えっ、ちょっ、主様それは・・・っ」
言葉を紡ごうとしたが、私の声すら耳に入れる事無く
主様は大きな足音を立てて此処を去って行かれた。
「からかいすぎた、か」
頬を掻き少し反省。
しかし、収穫はあった。
あの主様が顔を真赤にして照れる様はなんともまあ愛(う)いものかな。
初めて見たあの表情。
おそらく主様の(自称)守り刀である打刀のヤツはこの顔を知っておろう。
もしくは、知らぬかのどちらか。
知っておろうが、知らなかろうが、あの表情を見ているのなら狡いし勿体無い。
主様は血の通った人間で、女子(おなご)。
照れや恥じらいも一通りする、我々とは違う生き物。
ならば、する事は決まっている。
「明日もまた、抱きついてみるか」
何を言われたり、されたりするか分からないけれど
あのような主様の表情を見せられたら、他も見たくなる。
どんな表情を、あの御方は他に持っておられるのだろうか・・・と。
そう考えたら狐独特の悪戯な笑みが浮かんできた。
「さて、主様。明日はどのようなお顔を、この小狐めに見せてくれるのですか」
楽しみで胸が躍ってきました。
狐の微笑み
(しかしやり過ぎたら出陣させてくれなさそうだから程々にしよう)