「三日月さん、お茶です」


「おお、。気が利くな、ありがとう」





縁側でのんびりと座っている三日月さんを見つけ
私はお茶を持ってきて、渡した。


お茶の入った湯のみを目にすると、三日月さんは
ニコニコしながらそれを受け取り一口啜る。










「はい?」





突っ立っていると、三日月さんは柔和な表情を浮かべ自分の隣を叩く。
つまり「座ったらどうだ?」というサイン。

そのサインに気付いた私はいそいそと向かい
「失礼します」と小声で言い、三日月さんの隣に腰掛けた。


温かな陽気が体に降り注ぐ。

隣に座る三日月さんはそんな陽気を体に浴びながら
お茶を啜る。



お互い何も喋らず無言。



まるで熟年夫婦さながらの光景。




時々「何で私はこの人に惹かれたんだろう」と悩む時がある。

惹かれる部分があったからこそ
目で追う事をやめようとはしなかった。

自分なりに必死に近付く努力をしていた。



でも結局は――――――。








「(お姉ちゃんの言うとおりなのかも)」







お姉ちゃんの言うとおりなのかもしれない、と数日前のことが脳裏を過った。















「は?宗近が良い?」


「う、うん。お、男の人としてだよもちろん」




恋悩む気持ちを思い切ってお姉ちゃんに相談してみた。

だが、私の口から出てきた名前にお姉ちゃんは至極嫌そうな顔を浮かべ
ため息を零した。





「ダメです。お姉ちゃんは認めません」



「えー!何で?!」



「ああいうのは大概、腹黒いに決まってる」



「三日月さんはそんなんじゃないもん!」



「むしろ宗近見てると『コイツ絶対、策士だ』ってしか思わないわよ。
良いように手の上で踊らされる。アイツはそういう奴。飄々としておきながらも
腹の中は何考えていることやら」







お姉ちゃんはそう言いながら書類に目を通し、何かを書き始める。

確実に私の話を手早く切り上げたい模様。
しかし、私も食い下がる。







「み、三日月さんじゃなきゃやだ」



。お姉ちゃんの言うこと聞きなさい。アレはダメ。ていうか、全員ダメ」



「れ、恋愛は個人の自由だもん!私が誰好きになろうがいいもん!」



「個人の自由は尊重するけど、アンタと宗近の年齢考えなさい、どんだけ離れてると思ってんの?」



「え?」



「あんな成りしてるけど、実年齢900歳は超えてるんだからね、超高齢者なんだからね宗近は」



「あっ」








お姉ちゃんに現実的な年齢を突き付けられ、私は固まった。
そう。三日月さんは「おじいちゃん」という括りの人なのだ。

見た目はのんびりとした、青年のようにも思えるが
生まれは平安。軽く1000歳は超えようとする年齢に居る。









「だから、ダメです。お姉ちゃんはが宗近を好きになる事を反対します」



「お姉ちゃん」



「ダメよ。あんなジジイやめなさい。アンタが泣きを見るだけ。
お姉ちゃん嫌よ。が泣いてるのは見たくないから」






両親の元を離れて生活しているのだから
お姉ちゃんが私の保護者代わりになるのは当然だった。

だからこそ、反対もするだろうし
ましてや妹が従者を好きになったとなれば
此処に居る人達からすれば考えられない事だった。

昔の人は階級意識が強いゆえ、主の身内に手を出すなんて事はおそらく切腹にも等しい罰だろう。




そんな事を考えたら、やはり自分の恋は早々に諦めるべきなのだろうと
結論付けるしかないだろう。











「は・・・」







三日月さんに呼ばれ、我に返り返事をしようとした瞬間だった。

一気に視界が揺らぎ自分の体が縁側に倒されて
目に映った三日月さんの顔。


先ほどまではのんびりとしており、柔和な面持ちだったのに
今私を見ている表情はそれすらも感じさせないほど、凛々しく男の人の顔をしていた。


あまりに突然の事で脳内が困惑し始める。









「己が恋慕を抱く男の前で隙を見せるでないぞ」



「えっ・・・えっ!?」







彼の口から放たれた言葉に私は心臓が跳ねた。

いつ頃だろうか?

いつ頃、この人に私の気持ちはバレていたのだろうか?


いや、むしろとっくの昔にバレていたのだろう。
私のこの人-三日月宗近-への恋い慕う気持ちなんて。


頭の中は既にパンク状態。
何を言えば良いのか分からないでいると、三日月さんは
軽快に笑いながら私の頬に触れる。


しなやかな指が頬に触れ、それだけで気持ちが段々と落ち着く。



泳がせていた目を真っ直ぐに向けると、美しい微笑み。








「気をつけよ。歳が上の男に恋慕を抱くと痛い目を見る。
まぁ、。お前がそれでも良(よ)いと言うのなら、話は別だがな」



「み、三日月さん」



「だが、俺もどうやら加減の潮時だ」



「え?」







頬に触れていた手がゆっくりと滑り、唇に触れる。








「すまないな、。お前を焦らし待っていたが、どうやら俺の方が先に待てなかったようだ」




「三日月さん・・・あの、私・・・っ」




「もう言わずとも良い。言わずとも、俺は分かっているよ




「三日月さん・・・ズルいです」



「ハハハッ・・・ジジイはズルい生き物だ。だが、俺は一際ズルい生き物ぞ。覚えておけ。
いや、今から時間を掛けて教えてやるさお前にな」







そう言って顔がゆっくりと落ちてきて、柔らかな唇が触れた。





おそらく、私達はお互いの手のひらの上で踊っていたに違いない。
交わる日を待ちわびながら。




恋した相手を間違いと思うか否か
(その答えは無論、言わずとも分かっている) inserted by FC2 system

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