「えーっとだっけ?君、今日から審神者ね。あ、それと妹のも審神者ね」
「は?」
「え?」
突然連れて来られた場所。昔風のお屋敷に自分と、双子の妹のが居た。
例えて言うならば明治時代。かの有名な鹿鳴館さながらの造りがされた館に居た。
日本史の教科書で見た程度だが、テレビとかで復元された感じのモノだと豪華だった事は覚えている。
つまり、そういう風な感じだ。アバウトに伝えるならば。
そして私達の目の前には顔を紙で隠した白装束集団。
尺棒で指され、いきなり「さにわ」なる職業らしきものを与えられた。
18歳にもなって、とんだ話だ。
「すいません。さにわって何?ハニワなら知ってるけど」
「ハニワは可愛いよね。一個くらい部屋に飾りたいっていつも思ってるんだ」
「いやアレ置くものじゃないって。ていうか、。ハニワ欲しがるとかどんだけなの?」
「ハニワじゃない!!審神者だ審神者!しんしんしゃ、って読みそうだけど審神者って読むからね!!」
「きゃっ?!ご、ごめんなさい」
「はいはい分かったから、説明して」
尺棒で私を指したヤツはため息を零し、話を始める。
顔を隠してる紙がペラペラと揺れているから目の前の人が「喋っている」という判断はつく。
「君達。歴史修正主義者って知ってる?」
「ああ。何か新聞で読んだ程度は」
「危ない人達なんですよね、確か」
歴史修正主義者は歴史改変を目論んでいる人たちのことを指している。
昨今の政府はそれに悩まされ、様々な政治を執り行っていた。
「新聞で読んでるなら分かるでしょ、審神者くらい」
「大分フレンドリーに言ってるけど、新聞はパラ見する程度だし。そもそも審神者っていう
役職がある事自体初めて知ったんですけど?」
「政府の政(まつりごと)に一般市民は関わり無いからね」
「審神者っていうのは、物に眠る想いや心を目覚めさせ力を引き出す能力者の事。
君たちはその資質があるから此処に居るの。はい、分かった?」
『はーい』
優しく説明されたが、ふと我に返る。
「ちょっと待て!私達が政府のお役職に付けって事!?」
「む、無理です!!そんな事出来ませんよ、大事なお仕事みたいですし」
自分達が此処に居る理由が先ほどの説明で合点がいった。
私とは『審神者』としての資質があると見定められ、お役人に連れて来られたのだ。
つまり今いる場所は政府中枢機関。目の前の白装束集団は政府内部の人達。
「あー、大丈夫大丈夫。誰も君達だけでやれなんて言ってないから」
「じゃあ誰とやれっていうのよ」
「刀剣男士。古来の刀剣より生み出された付喪神、謂わば妖怪の類を率いて修正主義者たちと戦ってもらいます」
「、帰ろう。場違いだ」
「そうだねお姉ちゃん」
の手を引いて部屋を出ようとした。
だが、扉の前はおろか完全に白装束集団に囲まれ、逃げ道が無くなった。
私はを背に隠し、庇うように立つ。
すると白装束集団の中から、先程から私達に話している奴が出てきた。
「ダメダメ。帰るなんて出来ないよ、君達は選ばれたんだから」
「妖怪の類率いて主義者と戦争なんて、罰当たりも良いとこだ」
「敵も人間じゃないからね。こうするしか方法なくってさぁ〜。で、やってくれる?審神者」
「・・・っ」
「お、お姉ちゃん」
正直脅迫一歩手前だった。
しかも一般人ではなくお国の役人から脅迫まがいな事をされている。
一般人相手なら何とか切り抜けられるが、相手はそういう相手じゃない。
下手をしたら此方が逆に犯罪者扱いをされてしまう。
ならば、もう道を選ぶしかあるまい。
普通の生活に二度と戻れないと分かってしまったのなら。
「やる。審神者、やればいいんでしょ」
「お姉ちゃん・・・っ」
「おぉ!流石は。で、妹のはどうする?審神者やる?」
私の背後に隠したが顔を半分覗かせながら役人を怯えた目で見る。
「あの、戦うんですよね?」
「まぁ君達はある意味戦陣の指揮を執ったり色々したりだけど。実際主義者達と戦うのは刀剣男士達だよ」
「私、そういうの怖いし・・・争い事とか、嫌いだから。む、無理です」
は周りの空気に耐え切れず遂に泣き出してしまった。
昔からは喧嘩事や争い事といったモノが大の苦手。俗にいう平和主義者だ。
いくら「審神者」としての資質があり、戦うのが自分じゃないにせよ
他の誰かが傷つく姿をこの子は見ていられないのだ。
おそらく私がそんな立場を選んでしまったばかりに、に余計恐怖心を植え付けてしまった。
「だけは家に帰してやって。審神者は私だけでいいから」
「お、お姉ちゃん!!やだ、やだ!!私一人で帰りたくない!!」
「駄々こねないで。出来ないんだったら大人しく家に帰りな。お願いです、だけでも」
「お姉ちゃんの側に居る!お家に1人で帰るなんてやだ!!帰るならお姉ちゃんと一緒に帰る!!」
私の腕を掴んで家に帰ることを拒むの姿。
普通なら振り払うところだが、ある意味半身であり、一番可愛がっている妹。
こんな時ほど「一卵性双生児」として生まれたことを怨みたいところだ。
「帰るのが嫌なら一緒に居ればいい」
途端、低い男の声が部屋中に響き渡った。
白装束集団の海が割れ、現れたのは初老の男。
服装は古来の軍人が身に纏っていた白の軍隊着だった。
「す、枢機卿・・・ッ」
「すうききょう?アレってカトリック教会の教皇に次ぐ聖職位じゃない?この国じゃ場違いなお役職じゃ」
「ほぉ。やはり私の見込んだ通りの子だな。”枢機卿“はある意味通名だ。政府上層部の最高顧問を請け負っている」
枢機卿と呼ばれた初老の男はやんわりと笑みを浮かべていた。
明らかにこちらの警戒心を解こうという魂胆なのだろう。
男はゆっくりと此方に近づいてきて、優しい表情でを見下ろす。
「帰りたくないのであれば、お姉さんと一緒に居ればいい」
「ぇ?」
「枢機卿!!審神者でもない子を一緒に居させるというのは少々勝手が過ぎます」
「良いじゃないか。は姉のから離れたくないと言っているんだ。
審神者でなくとも姉妹仲良く居させてあげるべきだろ」
「しかし・・・ッ」
「但し、条件がある。それを受け入れられないというのならば、無理矢理にでも家に帰すさ」
男は周りを鎮め、再びを見た。
「お姉さんがこれから構えるお城から一歩たりとも出ないこと。これが一緒に居ていい条件だ。
・・・これは出来るかい?」
男は笑いながら問いかけたが、言い換えれば足手まといになるから
城から出るなと言っているようなものだ。
城下にすらを下ろさせないつもりの発言。つまりは軟禁生活。
「お城から、出なければいいんですね?」
「ああ。約束できるかい?」
「お姉ちゃんの側に居ていいなら、約束します」
「、だけど」
「いいの。私最初から足手まといって分かってた。でも、お城に居ていいなら
お姉ちゃんのサポートは十分にできる。それだけで私はいいの」
泣いたカラスがもう笑った、なんて言葉があるが
は私が側にいれば十分という。
姉離れをしてほしいと思っていたが、此処で拒否しない私も妹離れが出来ていないダメな姉だ。
「では、審神者。えーっと、特別措置として補佐役。任地場所は追って通達する。
働きを期待している。ご武運を」
「存分に働いてやるわよ。アンタ達がビックリするくらいにね」
「頑張ります」
そして私とは手を繋ぎ、刀剣に眠る魂達を率いて未知なる戦いへと向かうのだった。
咲かせてみましょう、刀の命と恋の花
(コレはとある一国一地区に本陣を構える前の双子の姉妹のお話)