『―――――――』
何かの鳴き声が聞こえ、目を覚ました私。
外に誰か居る気配を感じ、布団から出て障子を開けると―――――。
「よぉ。俺が居て驚いたか?」
「鶴丸」
縁側に鶴丸が座っていた。
「どうしたのこんな時間に。起きるにはまだ早いんじゃないんですか、鶴丸おじいちゃん」
「おいおい、三日月と一緒にするんじゃ・・・って、ジジイは否定出来んし早起きも否定できんな」
「だからアンタもジジイなのよ」
「こう見えても若作りしたつもりなんだぞ。だが生活面はやはり年齢が出るな」
「はいはい」
鶴丸のペースに若干巻き込まれつつも、私は彼の隣に腰掛けた。
「それで?」
「何だ?」
「何でこんな時間に、しかも私の部屋の前に居るの?2回も同じこと言わせるな」
「ハハッ、そうだったな」
私の問いかけがようやく通じたのか、鶴丸は笑う。
本来ならこんな時間に起きてくるわけもなく今時間はまだ夜中だ。
起きてくる、というにはまだ早く、むしろ起きていたと言い方的には正しいだろう。
特に鶴丸や宗近は外見若いが、年齢は私の遥か上を行く老人。
夜も寝るのが早ければ、朝も起きるのが早い。
昨日も宗近が床に向かった20分後に彼が床に向かったのを覚えている。
おそらく夜の8時頃だったと推測する。
普段ならまだ寝ている時間。
それなのに、何故鶴丸が私の部屋の前に居るのかが分からなかった。
「そうだなぁ。敢えて言うなら」
「うん」
「君に会いたくなった」
「え?」
少し儚げに微笑みながら言われた言葉に驚きつつも、思考回路は働き続けていた。
「バカも休み休み言え。朝には嫌でも顔合わせるだろ。今じゃなくても十分じゃない」
「そうなんだがなぁ。俺もそう思ったんだが・・・よく分からん」
「鶴丸」
ゆっくりと、鶴丸が私の肩に頭を乗せ顔を隠した。
白髪が月明かりで眩しく目に映る。
拒もうと思ったが、振り払ってしまえば何だが申し訳なくなりそうだから
動かずただ、肩に乗った鶴丸の頭を見ていた。
「そういえばさっき・・・鶴の啼き声が聞こえたの。それで目を覚ましたんだけどね」
「そうか。鶴の啼き声、か」
「変かな?」
「いいや。鶴は好きな女が恋しくて啼くことがあるのさ。
おそらく君の夢の中に出てきた鶴は、君が恋しくて啼いていたんだろうな」
「じゃあ鶴は誰?まさか鶴丸?」
冗談半分で言ってみた。
鶴丸が人恋しくなるなんて有り得ない話だ。
何せ本丸では「サプライズじじい」なんていうあだ名まで広まってしまう程。
彼に人恋しいなんて無縁な話だったのに。
「・・・・かもな。それで俺は多分、此処に来たんだろうな・・・きっと」
返ってきた言葉に、時々寂しさを紛らわすために
行っていたのかもしれない「驚き」を理解した。
寝静まった夜。
おそらく人恋しくなってしまうのだろう。
縁側に置かれた白い手を握り―――――。
「寂しくないから。私、ちゃんと此処に居るから」
「・・・そう、だな」
少し満足そうに答えた言葉も、本当に彼が言って欲しかった言葉には
程遠いモノだと私は知る由もなかった。
人恋しやと鶴の啼く声
(君恋しやと、鶴は啼く。俺の側に居ると、鶴は望んでいた)