とは一卵性双生児の双子である。
性格は違えど、顔や髪型、背格好は誰が見ても間違えるほど似ている。
見分けが付くように、姉のは身軽な洋服に薄い素材の羽織りを着て髪を結っている。
一方のは可愛らしい柄物の小袖を身に纏い、髪を下ろしている。
大概これだけでどちらが「姉」で「妹」か、本丸中の刀剣達は区別が出来ている。
しかし、2人が「同じ格好」をしたら・・・・・周囲はどのような反応をするのだろうか。
「主、準備は出来たか?」
『あと少し待て』
とある日の本丸。の部屋の前に三日月宗近は立ち
何かを待っていた。
「三日月のじいさん。何してんの、こんなトコで?」
そんな廊下で待ちぼうけをしていた三日月に声を掛けたのは
粟田口の短刀、薬研藤四郎だった。
「薬研か。何、身支度を待っておるのだ」
「身支度?大将の?」
「すぐに分かろう」
薬研の言葉にクスクスと笑いながら三日月は答える。
そんな彼の笑みに首を傾げていたら、閉じていたの部屋の襖が開いた。
「お待たせしました」
部屋から出てきたのは軽い服を着こなした普段のの姿。
その隣にはもちろんのこと、が髪を下ろして立っていた。
「おお。来たか」
「何だ結局大将待ってたんじゃ」
「アンタの大将こっちだけど」
「へ!?た、大将!?」
薬研の言葉にすかさずツッコミを入れたのは、髪を下ろしていると思われていた人間。
つまり、髪を下ろしているのが審神者であり刀剣男士達の主であるだった。
「って、事は・・・大将の格好してるのって、妹君!?」
「そうだよ。ビックリした?」
そしてかと思われていた人間が実は本丸の姫と呼ばれているの方だった。
言葉遣いからで薬研はようやく理解したが、あまりの事で彼の開いた口が塞がっていない。
「うむ。薬研が見間違う程だ。コレならばバレまい」
「じゃあ行ってくるねお姉ちゃん」
「あんまり遅くなるなよ。それから宗近、に手ぇ出したらお前殺す」
「ハハハッ、肝に銘じておこう。ならば、行くとするか」
「はい三日月さん」
そう言って三日月とは他愛もない話をしながら、何処かへと歩いて行った。
2人を見送るとは背伸びをして部屋に入る。
そんなの気配に、今まで呆然としていた薬研が我に返りを追いかけ
部屋の中に入る。
「ビックリしたぜ。ホント、大将と妹君瓜二つだな」
「まぁそっくり双子だからね。服入れ替えたり、髪型一緒にしたりすれば誰でも間違えるさ」
は床に座して、机の上に小さく積まれた書類に手を伸ばし目を通し始めた。
また薬研も畳に腰を下ろし、足を伸ばしてくつろぎ始める。
「ていうか、2人共何処行ったんだよ?」
「城下」
「おいおい。お国の言いつけ破る気かよ大将。妹君、本丸から出しちゃいけねぇ約束あんだろ?」
「最初はね、私も言いつけがあるから反対してたんだけど。がどうしても行きたいって言って聞かないし。
困ってたら宗近が『主の格好をさせれば国も騙せよう。瓜二つの顔と背格好、入れ替えれば誰も気付けまい』って言って。
だから私の服を貸して、髪も私がいつも通りに結んでる感じにしたの。ちょっと心配してたんだけど
薬研が間違えるくらいだったから問題なくなったわ」
「いや、俺じゃなくても誰がどう見てもアレが妹君だなんて気づかねぇって」
薬研のツッコミには軽く笑いながら、書類に何かを書き始める。
「ていうか、髪下ろした大将見るのもなんか新鮮な気がする」
「え?そう?」
「だって普段髪の毛結んでるだろ?寝る時は下ろしてるだろうけど。
殆ど妹君と区別付けるためにしてるようなもんだからさ。そうやって、髪の毛下ろしてる大将もなんかいいなぁ〜って思った」
「お、煽てても何も出ないわよ、薬研」
薬研の言葉にはあまり言われ慣れていないのか
顔が赤くなり、思わず下ろしている髪で必死に赤ら顔を隠していた。
そんな必死な態度に薬研はニヤニヤと笑みを浮かべ、を更におちょくる。
「あ。大将顔赤くなってる?照れちゃってる?」
「う、うるさい!早く出て仕事に」
「主、聞きたいことが。アレ?今日は珍しく髪の毛下ろしてるんだ。そういう主の姿も可愛いな。
うん。可愛いよ主。今日一日その姿でいるのかい?」
「あ、歌仙の兄さん」
すると其処にやって来た歌仙兼定。
のちょっとした変化にも気付いたのか、ふんわりとした笑みを浮かべ
恥ずかしい言葉を惜しげも無く吐き出した。
「お前から一番言われたくないから出て行け!!」
「兄さん!地雷踏むなって!!せっかく良いとこだったのによぉ」
「だと思ったよ。ていうか、良いとこってどういうことだい?後で詳しく聞かせてもらおうか薬研」
の恥ずかしさが頂点に達したのか、部屋のありとあらゆるモノを歌仙目掛けて放り投げる。
彼女の怒りを買ったのか薬研と歌仙は慌てて部屋から離れた。
2人が居なくなりの部屋の周辺は静まり返る。
は何とか心を落ち着かせるように深呼吸をして、再び机に向かう。
政府から送られてきた書類に目を通すと自然と落ち着きを取り戻し集中し始める。
頬杖をついて考えていたら、たらり、と垂れてきた長い髪の毛。
はそれをゆっくりと持ち上げた。
『そうやって、髪の毛下ろしてる大将もなんかいいなぁ〜って思った』
『今日は珍しく髪の毛下ろしてるんだ。そういう主の姿も可愛いな』
「〜・・・早くかえってこーい・・・・お姉ちゃん、この姿で居るの耐えれねぇよぉ」
先ほどの薬研と歌仙の言葉を思い出しては机に突っ伏し
出かけたが戻ってくるのを心待ちにしていた。
早くこの恥ずかしさから逃れたいだけに。
「おお!これは驚いた。主、今日は髪の毛を下ろしているんだな。可愛いぞ」
「主。お茶を持ってきたよ、一息ついたら。アレ?髪の毛下ろしてるんだ、僕そっちの髪でいる主も好きだな」
「主、髪の毛下ろしてるって聞いて来たんだけど・・・へぇ可愛いじゃん。あ、今度俺が髪の毛結ってあげようか?」
「主様可愛いですぞ。主様の毛並みも美しいですね」
鶴丸国永、燭台切光忠、加州清光、小狐丸。その他大勢。
ひっきりなしにの部屋にやってくる刀剣男士達。
恥ずかしさと怒りの入り混じった感情には持っていた筆を思いっきり折った。
主が怒っていると悟ったのか誰もが怯え始める。
何せ「本丸では主に敵う刀剣男士は居らず」とまで言われているくらい、の実力は
戦略も然ることながら戦闘能力も折り紙つきだった。
「私が髪を下ろしてるって誰に聞いた・・・薬研か、それとも歌仙か?」
『三日月』
「(あんのくそじじい!!!やっぱ殺(こわ)す)」
居ないことを良い事に、三日月の策略にまんまと嵌められたは
と戻ってきた三日月宗近を恐ろしい形相で追いかけまわしたのは言うまでもなかった。
それがまずキッカケ。
(コレがこの後本丸で巻き起こる悪戯に繋がる)