「笠松先輩」
「何だ?」
「俺の悩み、聞いてくれますぅ?」
「はぁ?」
切実に、誰かにアドバイスが欲しかったのが事実だ。
俺の悩み・・・今現在付き合っている、年上彼女の事。
「お前・・・先輩と上手くいってねぇのか?」
「いや、そういう訳じゃ・・・ないんスけど。ただ、っちの愛が」
「ああ」
「愛が痛すぎて」
「は?」
愛が痛い、なんて第3者からすれば「なんのこっちゃ」って話だ。
だがしかし・・・当の本人からしてみれば、彼女の愛情というものは
心もそうだが、体だけでも痛くてたまらない。
痛い愛情表現(いや、只の後輩指導なだけ)のプロ。
笠松先輩なら何かいいアドバイスをくれるかと思い、俺は相談を持ちかけた。
「そらぁ、もうアレだよアレ」
「何っスか?」
「お前が・・・・・・・」
「っちー!今日部活早く終わったから遊びに」
「来るくらいだったら家帰って勉強しろクソガキ。私は忙しいんだから」
笠松先輩からの助言を頂き、俺は早速っちの住んでいるアパートへと足を運んだ。
運んだまではいいけれど
彼女は俺に目線を合わせること無く、目の前のパソコンと睨めっこ。
口から飛んできたのは安定の言葉の刺だった。
いつもの俺なら「そんな事言わないで欲しいっスよ〜」なんてグズる。
しかし!今回の俺はいつもの俺とは違う!
何を隠そう笠松先輩からの助言も頂いている。
後ろには心強い味方が居ることを忘れてはいけない。
っちの言葉の刺が飛んできても、俺は笑みを絶やさず
彼女の後ろ姿をじっと見つめる。
すると、俺の視線に気づいたのかっちが振り返る。
「何?」
「ちっちゃくて可愛い後ろ姿だなぁ〜って思ってたんスよ」
「はぁ?アンタがデカイだけでしょ?ていうか、チビの私にケンカ売ってんの?」
「え?・・・あ、いや、そ、そういう意味じゃないっスよ」
すると、っちは椅子から立ち上がり俺にジリジリと詰め寄る。
だが此処で俺が怯えた顔色を見せてしまえば
確実に向こうの手の上でいいように転がされてしまうのがオチ。
あくまで、笑みを絶やさず・・・そう、好意的に。
「黄瀬くーん・・・君、よくも私にケンカ吹っかけたね?」
「ち、違うっスよっち。可愛いってちゃんと付けたじゃないっスか。
小さくて可愛い物は愛でる対象として重宝されるんスよ!」
我ながらいい言葉で切り返した。
小さくて可愛い物は、誰だって目に留まる。
目の前に居る彼女だって俺にとっては目に留まる存在でもあるし
愛でるどころか、一生側においておきたいくらいの人物だ。
「愛でる対象・・・ふぅーん」
「そ、そうっスよ。っちはそういう分類の人っス」
いい感じに丸め込めた雰囲気だ。
今日はやはりアドバイスを貰ったから調子がいい。
笑顔さえ絶やさなければ、相手は決して好戦的な態度は取らないはず。
いつもは俺がヘタレたり、彼女の言動で怯えたりするものだから
っちが痛い愛情の刃を俺の心や体に突き刺し続けるのだ。
だが、今回は俺の勝ち・・・と、心の中で優越感に浸っていた。
「じゃあ、黄瀬くんは私を目に入れても痛くない・・・そう言いたいと?」
「そ、そうっス!もちろんそうっスよ!!もう目に入れても痛くないくらい」
「じゃあ、目に一発食らわせても痛くないのよね?」
「え?」
指の関節を折る音が聞こえてきた。
俺の背筋が凍る。
目の前の彼女は至極・・・笑顔。
その笑顔はまさに・・・悪魔とも言える、サディスティックな表情。
「ちっちゃくて可愛い子が、はたして可愛いと言えるモノかしら?
そういうモノ程・・・獰猛な一面も持ってること・・・黄瀬くんは知りたくなーい?」
「へ・・・あっ、あ・・・あのぉ」
「いつまでもヘラヘラ笑ってんじゃねぇよクソガキ」
「ヒッ!?」
「も、もう・・・俺、っちの前で笑うのやめるっス。耐えろってのが無理」
「その悲惨な姿見たらそうだろうな」
次の日、俺は
泣きながら助言をくれた笠松先輩の元で泣きじゃくったのは言うまでもない。
ちなみに彼女は殴る蹴るなどといった暴力行為は一切しない。
そう、俺が打ちのめされるのは大体心のほうで・・・相変わらず、精神的にズタボロにやられたのだった。
何をされても笑顔で耐えなさい
(うん、俺には無理な話だった)