風邪だと悟られないようにしていたが
緑間のヤツが「バカは風邪を引かんはずだろう?」の一言で部内全員に
俺が風邪だと言うことがバレた。

おかげさまでしばらくはいい笑いものになりそうだ。


いい笑いもの扱いをされているが・・・特に苛立ちはなかった。
多分・・・あの子に会ったからだろう、と思う。



部活が終わった帰り、ふとこの前の病院に立ち寄った。



別に具合が悪いとか、じゃなくて・・・あの子にもう一度会ってみたくなった。
でも病室とか詳しいこと聞いてなかった俺は、適当に院内をふらつく。







「チッ・・・また来るか」








とりあえず、名前は「」ってだけ覚えていた。
ナースステーションにそれを伝えてもよかったけれど・・・クリンヒットする名前は多数に違いない。

あとは苗字だけ分かればなぁ・・・と思い頭を掻く。


一旦出直すか、と思い踵を返す。







「こんにちは」




「へ?・・・・・・あ」






踵を返し、帰ろうとした矢先・・・後ろから声を掛けられ振り返ると・・・あの子が居た。






「でも、時間帯はこんばんはですよね」



「いや、どっちでもいいけどさ。つか、アンタホントに目見えてないの?何で俺だって分かったんだよ」






ヒントは何もない。

この前とは格好も違う。私服じゃない、バスケ部のジャージだ。






「声、聞こえたんで」




「あ」





一番のヒントがあった・・・俺の声か。






「あと、ジャージですか?汗っぽい匂いがするんで。この前バスケしてるって言われてたから」



「正解。部活の帰り、ちょっと寄ってみた」



「風邪まだ治らないんですか?」



「え?あー・・・・」







あんたを探してた、なんてベタなセリフは無理だ。

むしろ興味が沸いてる相手にそういう言葉を言うと返って怪しまれそう。






「治ったんだけど、ちょっとな」






此処は無難に、理由を言わず逃げるのが一番だ。






「ウフフ・・・そうですか」





目の前の彼女は笑った。
多分、俺が嘘をついたのが分かったんだろう。


視界が見えていない分、本当にコイツは他の感覚で全てを補っている。






「あ、立ち話も何ですから病室でお話しませんか?」



「また抜けてきたのかよ」



「暇だったんで。じゃあ行きましょうか」



「あぁ・・・つか、何号室って言ってくれたら俺誘導するし」



「大丈夫ですよ。手すり掴んで歩きますから」







そう言って彼女は手すりを掴んで、歩き出した。


歩く姿は目が不自由な人間とは思えないほど、普通に歩いている。



すると、死角から人が出てきそうになっていた。
ぶつかる寸前で俺は彼女の手を掴んで後ろに引っ張る。








「え?」


「人、出てきてた。ここら辺死角多すぎるからよく人とぶつかるんじゃね?」


「あぁ、言われれば。でもよく、死角から人が出てくるって分かりましたね?」


「俺そういうの見えるから」






そういうと彼女は「羨ましいですね」とだけ笑った。


何か今一瞬、地雷踏んだように思えた。
自分にとっては当たり前すぎることだけど、彼女にとってはそれは羨ましいことだと思う。





目が見えすぎる俺と、目が見えない彼女。





言葉では簡単に思えど、実際目の当たりにすると・・・天と地の差。




何も考えずに言った自分に少しムカついた。







「此処です、私の病室」







気が付いたら、病室の前。
ネームプレートは1人分・・・つまり、個室。






・・・



「あ。自己紹介遅れてましたね・・・です」





名前を呟くと、彼女が笑顔で自己紹介をした。







「高尾・・・俺、高尾和成」



「高尾君ですね」



「つか、敬語やめろよ・・・タメ口で良いって。タメなんだし」



「はい。・・・・・・あの、何か怒ってます?」



「え?」






彼女の、の一言で俺は面食らった。





「何で、俺、怒ってるって・・・別に、んなんじゃ」



「でも、声が少し苛立ってま・・・苛立ってる。ごめんなさい、私が暇だから無理矢理連れて来て」



「違ぇよ・・・だから、そんなんじゃ・・・」







イライラしてたのは自分でも認める。

ただ、今コイツにそれを向けているワケじゃない。



隠しても、には分かるんだよな・・・目で捉えなくても、残りの感覚で人の気持ちが。







「ゴメン」



「高尾、君?どうして、高尾君が謝るの?連れてきたの、私・・・だよ?」



「いや、そういうのじゃなくて・・・俺、目が良過ぎるからああいう死角から
人が出てくるのとか分かるんだよ。でも、アンタにとってはさ・・・そういうの、分からないだろうし」







この「ホークアイ」がうぜぇな、って時はたまに出てくる。

見えなくてもいい視界まで見えてしまうから。




でも、コイツにはそれがない。


見えなくていい視界が、コイツにはない。


全てが真っ暗な世界しか・・・コイツの目には映っていない。







「だから、ゴメン」









自分から謝るのっていつもなら不服だ。


だけど、何だかに対してすごく申し訳ないことを言った自分が腹立たしかった。



俺には見えすぎた世界がある。


には見えていない世界がある。



違いは分かっている。









「それで、怒ってたの?」



「自分に対してな」



「そっか。でも、私は大丈夫だよ・・・見えていなくても、高尾君が目の前に居るって事は分かるから」







強いっつーか、たくましいっつーか。






「すげぇのな、アンタ」



「そうかな?そういう目を持ってる高尾君のほうが何十倍も凄いよ」



「ホークアイって言うんだぜ」



「カッコいいね」






胸のイライラが、スッと取れた。


アイツが・・・が、笑ったからだろう。






「でも、私困ってないよ・・・目が見えなくても」



「何で?」






いやいや、不便すぎるだろ実際。

視覚が塞がれている分人の行き来や、接触は免れない。



それなのに、何をコイツは?









「だって見なくていいものを、見ずにすんでいるから」




「は?」




「それだけでも、私は少しだけ幸せでいられるの」







そう言って、は病室の中に入っていった。







見なくていいものを、見ずにすんでいる?



目が見えなくて、幸せで居られる?




何を言っているのか、今の俺にはよく分からなかった。

むしろ、頭の中に響いて鳴り止まない。まるで鐘のようで。




ただ、俺の見えすぎた目には・・・・笑みを絶やさない、の姿だけが映っていた。



eyeS
(どうしてそれが、幸せだって言えるんだ?) inserted by FC2 system

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