「マ、マツバさん」
「ん?」
「あのー・・・何か怒ってます?」
「全っ然」
「(完璧に怒ってる)」
その日の夜。
私はマツバさんのお家に来た。
だが、来て早々
なにやらマツバさんの機嫌が悪い。
というか、私の顔も見てくれない感じだった。
今現在も
私に背を向け、本棚の古い資料たちと睨めっこ。
私はと言うとソファーに腰掛けていた。
するとマツバさんのゲンガーが
私のほうにやってきて
抱っこして欲しそうに、両手を広げアピールをしていた。
「ゲンガー・・・重いから抱っこできないの」
「ゲーン!ゲーン!」
「重いからダーメ」
「ゲーン!ゲーン!ゲーン!」
抱っこして欲しいのか、諦めが悪い。
小さなヤミラミならまだしも、ゲンガー1匹の重さ40kg。
私が私を持ち上げるのと同じようなものだ。
「ゲーン、ゲーン・・・ゲ〜〜ン」
「あー、もう泣かないでよ」
してもらえないのか仕舞いには泣き出した。
私のバクフーンにシャドーボールを喰らわせてる時の顔とは大違いだ。
私はため息を零して―――。
「ホラ、おいで」
「ゲーン?」
私が膝を叩いて、”乗っていいよ“と誘うと
ゲンガーは泣くのをやめ、いそいそとソファーに登り
私の膝の上に乗った。
お、重い。
40kgが私の膝にのしかかってきた。
明日、筋肉痛になりそう。
でも、ゲンガーは嬉しそうに私に擦り寄ってきたので
そんな表情を見るとついつい許してしまう。
「コラ、ゲンガー。膝から降りろ」
「ゲン?」
すると、マツバさんがいつの間にか
私の目の前に現れ、上からゲンガーを見下ろしていた。
「降りろ」
「ゲーン!ゲーン!!」
マツバさんの声にゲンガーは私に抱きついてきた。
小さな子供みたいに、胸にすり寄ってくる。
ど、どうしよ・・・可愛い。
なんて思ってる場合じゃない。
「降りなさい」
「ゲーン!」
「ゲンガー・・・ボールに戻るんだ」
「・・・・・・ゲーン」
マツバさんが部屋から出て行って
モンスターボールの中に戻れと指示すると
ゲンガーは渋々私の膝の上から降りて
トボトボと部屋を出て行く。
「まったく」
「あの・・・あんな風に言わなくても」
「・・・・・・」
私がマツバさんを見上げると
マツバさんは横目で私を見て、ため息を零した。
「確かに」
「え?」
「確かに怒ってるよ。何で怒ってるか、分かる?」
「・・・・・・ゲンガー、を膝の上に乗せたから」
マツバさんの問いに私は素直に答えた。
だが、答えた途端マツバさんは肩を思いっきり落とした。
「・・・さぁ、もうちょっと考えよう。君が来て早々僕が怒ってるって分かってたんだろ」
「・・・は、はぃ」
あぁ、そっちのことか。
私はてっきりゲンガーを膝の上に乗せて
甘やかしていたのを怒っているのかと思った。
「ご隠居さんから聞いたんだ」
「え?ヤナギさん?」
するとマツバさんの口から
チョウジタウンジムリーダー・ヤナギさんの名前が出てきた。
ジョウトジムリーダーの中ではご隠居さんと呼ばれている。
「シンオウ地方に行くんだって?」
「・・・・・・はい」
「いくら親代わりをしてもらっているウツギ博士の頼みとはいえ
何で君が行かなきゃいけないんだ?ヒビキやコトネだっているだろう?どうして君なんだ?」
「二人ともまだ、カントーのジムを倒してない理由で・・・行けないって」
「それが嘘だったらどうするんだ?・・・そんな遠いところ面倒で行きたくないだけなんじゃないのか?」
「ひ、酷いですマツバさん!ヒビキ君やコトネちゃんはそんなこと言う子じゃないです!!それは私が一番知ってます!」
心にもないことを言われ、私は言葉で噛み付いた。
二人が嘘をつくはずない。
私が一番分かってる。
一緒に遊んだり、一緒に旅をして、同じチャンピオンって言う椅子に座っているから。
「マツバさん、酷いです。そんな事言うなんて・・・っ」
「えっ・・・あっ、いや・・・、ご、ゴメンッ。ゴメンね・・・ゴメン」
私は二人に対してそんな事を言われ
涙がポロポロと零れてきた。
私の突然の涙に
マツバさんは慌てて謝ってきた。
でも涙は止まらず
ついには私は自分の思いをぶつけた。
「私は・・・行きたいんです。シンオウに行って・・・たくさんの人に逢ったり、ポケモンに逢ったりして
もっと・・・もっと世界を広めたいんです。それなのに・・・マツバさん、酷いです」
「・・・・・・ゴメン」
そう言いながらマツバさんは
私の隣に腰掛け、優しく抱きしめてくれた。
「謝らないでください・・・謝るなら、ヒビキ君やコトネちゃんに謝ってくださぃ」
「うん、今度謝っておくから。頼む、もう泣かないでくれ・・・僕が悪かったから」
マツバさんは私に謝りながら
流れる涙にキスをして、そのまま唇がまぶたに触れた。
「ゴメン・・・正直に言うよ」
「え?」
すると、私を抱きしめるマツバさんの口から不思議な言葉が放たれた。
正直って・・・何が?
「正直・・・・・・離れたくない。から離れたくないんだ。
カントーならさリニア使ったり、ポケモン使ったりして帰ってこれるけど
シンオウって・・・・思いっきり距離、離れすぎてるだろ?・・・行かせたくないよ、そんなところ。
君が、離れていくのがどうしてもイヤなんだ。側に居て欲しいんだ・・・コレが僕の本当の気持ち」
「マツバさん」
「でも、君が行きたいっていう意思・・・すごく伝わってきたよ。
ヒビキやコトネのことを言えば、少しは考え直してくれると思ったんだけど無駄だったみたい。
僕の負けかな。ホント、には負けっぱなしだ・・・ポケモン勝負でも、恋愛でも」
マツバさんの言葉に、私は彼の服を握った。
「?」
「ホントは・・・私も、離れたくありません。でも、マツバさんが此処に居てくれる限り・・・私、ちゃんと帰ってきます」
「」
「大丈夫ですよ。きっと、絶対・・・帰ってきます。それまで、待っててくれますか?」
私だって、始めマツバさんと離れるということに抵抗があった。
けれど、イブキさんの「離れてても繋がっている」という言葉に自信を付けられた。
だから、行くことを決めた。
誰の指示でもない、自分の意思で・・・シンオウ地方に足を踏み入れることを決めた。
「待つよ。でも・・・向こうで男なんか作ったら僕はただじゃおかないからね」
「そ、そんなことしません!マツバさんだって、私の居ない間・・・浮気、しないでください」
「以上の人なんてこの世に存在しないよ。僕はが居れば良いの、それでいいの」
「マツバさん。・・・って、ちょっ・・・きゃっ!?」
すると、突然ソファーの上に倒された。
「マ、マツバさん!?」
「だから今のうちに、シルシ付けておかなきゃ。君は僕のモノだっていう」
「えっ・・・あっ、だ、めぇ・・・マツバ、さ」
ゆっくりと太腿を撫でられ
スカートの中にマツバさんの手が入ってくる。
私は何とかそれを振り払おうと試みるも
力の差は歴然。
こういうことに関したら、私は絶対マツバさんには負けてしまう。
「あ、明日・・・お弟子さんに、指導が・・・あるんじゃ」
「うん、あるよ。・・・大丈夫。ちょっと時間を遅らせればいい話だし」
「で、でもぉ」
「大丈夫。・・・僕の手にかかれば上手くいくから」
根拠がないです!!!
でも、ゆっくり触れられるマツバさんの手が
体中を痺れさせ、脳へとその刺激を送り
”抵抗“の二文字を掻き消す。
ダメだ。
息が、熱が上がっていく。
「・・・顔真っ赤。すごく可愛い」
「マ、マツバさ」
「今日は離さない。うぅん、寝かせない・・・覚悟するんだよ、」
「あっ・・・あぁ」
耳元で低く囁かれ、体が跳ね上がる。
もう、それだけで溶けちゃいそう。
「マツバ〜この本のことなんだけ・・・・・・うわぁお、僕お邪魔だった?」
「ミ、ミナキさん!?!?」
突如、爽やかな声が聞こえてきた。
現れたのはマツバさんのお友達のミナキさん。
手に本を持って現れたミナキさんは
私とマツバさんの光景を見て、笑っていた。
「ミナキ・・・お前っ」
すると、マツバさんは私の上から退き
ズカズカとミナキさんの元へと
すごい速さで向かった。
一方の私はというと、ソファーから起き上がり服を整える。
ヤバイ・・・絶対、変な声聞かれた。
「こういうことするなら、鍵ぐらい閉めろよマツバ」
「寝る前にしか鍵は閉めない主義でね。ていうか、お前何しに来た・・・住居不法侵入で訴えるぞ」
「別に二人のラブラブを邪魔しに来たわけじゃないって。借りてた本で破れてた所があったから、この僕が夜な夜な君の家に来たんじゃないか」
「そうか、ようするに邪魔しに来たんだな」
「まぁ、簡潔に言えば・・・そうだね」
「今すぐ出て行けこのストーカー」
「心外だなぁ〜。僕はストーカーじゃないよ、スイクンハンターっていう通り名があるんだ」
「自称が前につくだろ。それにを付け回してるそうじゃないか。
それは彼女がスイクンを持ってるからだろう・・・マジで警察突き出すぞ」
「お前友人を犯罪者呼ばわりか!?」
「だったらに近づくな。犯罪者呼ばわりされたくなかったら、の周りをうろつくな!
お前の行動は大体読めてるんだよ!このスイクン馬鹿が」
「無二の親友に酷いなぁ〜マツバ」
「僕は今すぐにでもお前と友人の縁を切りたいよ」
「ヒドッ!」
「とにかく帰れ!じゃないと警察マジで呼ぶぞ」
「わーかった、分かりました。お時間取らせてどうもすいませんでしたー」
ミナキさんはそう言いながらマツバさんに謝る。
すると、彼の視線が私に当たった。
「じゃあね、愛しの花嫁。何かあったらいつでもこの僕を呼んでくれよ」
「え?は、花嫁?」
「ミナキ!」
「じゃあな〜」
ミナキさんは意味深な言葉を私に投げかけその場を
そそくさと去っていった。
は、花嫁って・・・なに?
「ったく、あのヤロウ。今度来たら絶対警察に突き出してやる」
「(可哀想にミナキさん)あの・・・私、花嫁って・・・何ですか?」
気になってマツバさんに尋ねると
マツバさんは私の隣に腰掛け、思いっきり(それはもう嫌そうな)ため息を零した。
「君がスイクンを所持しているだろ?」
「はい」
「それでアイツ”スイクンは手に入らなかった。ならいっそを僕の花嫁に迎えようと思うんだ!“とか平然と僕の目の前で言ったから」
「言ったから?」
「ありったけのシャドーボールをアイツに食らわせた。
ゲンガー2匹分、ありったけのをね」
「アハハハ・・・」
ご愁傷様です、ミナキさん。
明日マツバさんに再びシャドーボールをミナキさんは食らうのだろうと思った。
「さて」
「はい。・・・え?・・・きゃわっ!?」
ふと、再び視界がぐらつきソファーにダイブ。
上にはもちろん、マツバさん。
「続き、しようか」
「え?」
「さっきのでムード台無しになったけど、もう邪魔は入らないよ。鍵も閉めさせたから」
いつの間に!?という感じで事がどんどん進んでいく。
ジッと見つめられる視線が外せない。
「もう、止まらないから」
「マツバさん」
体がゆっくり倒れてくる。
柔らかいお香の匂いが部屋を包み
優しい感触と心地よい波。
低く囁かれる声に甘い言葉。
『、愛してる』
私も、愛してます。
だから、どうか・・・私が行くまで、その愛を止めないで。
一夜、アナタの側で
(この地を離れるまで、どうか私を愛してて)